Japanese Journal of Public Health Nursing
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Research Article
The Early Detections, Support Activities and the Associated Difficulties Faced by Public Health Nurses in Treating Foreign Children with Developmental Disorders in Japan: the Comparison of Parents’ Nationalities
Yoshimi SuzukiMasumi MoriyamaMami GomiEri Mochida
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2018 Volume 7 Issue 2 Pages 72-79

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Abstract

目的:本研究の目的は,発達障害を有する外国人小児への保健師による早期発見と支援や,その活動上の困難を,親の国籍による違いも踏まえて明らかにすることである.

方法:外国人人口の多い上位100市区町村保健センター241ヵ所へ,無記名自記式質問紙を郵送した.

結果:48ヵ所から回答を得た.健診での外国語版質問紙や公的通訳の活用は,外国人人口の多い本調査の対象自治体でも6割程度であった.発達障害を有する外国人小児への保健師活動の困難は,言葉や文化の違いを背景に,情報収集や判断という支援の初期段階からすでに生じていた.また南米よりもアジア系外国人が多い自治体の方が,保健師が活動上の困難を感じる割合が高い項目が多かった.

考察:今後,発達障害を有する外国人小児の早期発見と切れ目ない支援のためには,さらなる言語的支援体制の整備や,保健師と外国人双方の理解の促進とそのための情報源の体系化などが求められる.

I. 緒言

我が国の外国人は,2014年までの20年間で6割増加し(財団法人入管協会,2008法務省,2015aより算出),2006年より200万人(財団法人入管協会,2008)を超え,この間の外国人女性の年間出生数は22,340~27,903人(厚生労働省,2015)で推移している.5歳児健診における軽度発達障害児の割合が8.2~9.3%(厚生労働省,2007)であることから,外国人の母を有する小児(以下,外国人小児)は各年齢で2,000人前後の軽度発達障害児がいると推測される.

発達障害者支援法では,国及び地方公共団体は,発達障害者の心理機能の適正な発達及び円滑な社会生活の促進のために発達障害の症状の発現後できるだけ早期に発達支援を行うことが特に重要であると示されている.しかし岩木ら(2010)は,外国人対象のクリニックでの相談業務の経験から,子どもの発達問題に関しては,子どもが抱える問題が文化差のみに帰属させられ,発達障害そのものが見逃されるという事態が生じやすいことを指摘している.また,発達障害の一つである自閉症児に関する米国の研究では,ラテン系移民の自閉症児は白人と比べ発達障害の診断の遅れ(Magaña et al., 2013Mandell et al., 2002)や,診断時に白人よりも重度である(Liptak et al., 2008)ことが報告されている.

保健センター所属の保健師は,乳幼児健康診査や母子の健康相談の運営や実施,その後の支援に関わり,発達障害児の早期発見と支援に重要な役割を果たしている.外国人母子を受け持つ保健師への調査では,保健師の半数以上が処遇困難事例を経験し,その内容では児の精神発達の問題が多く,十分な対応が出来なかった者は言葉の壁や文化の違いを感じていた(奥野ら,2012)と報告されている.また,特別な保健医療ニーズをもつ在日外国人母子の保健福祉サービス活用における保健師の支援プロセスに関する研究(青山ら,2014)はあるものの,発達障害に特化したものではなかった.五味ら(2016)による保健師へのインタビューの結果から,外国人小児の発達の遅れが発達障害なのか,日本語と外国語両言語習得段階の問題なのかの適切な判断を行うことなどに困難を抱えていることが明らかになった.

以上のことから,発達の遅れや発達障害(以下,発達障害)を有する外国人小児を早期に発見し,支援につなげることは非常に難しく,そのような小児に適切な支援が行き届いているとは言い難い状況であると考えられる.しかし発達障害を有する外国人小児への保健師活動に焦点を当てた量的研究は見当たらない.

そこで本研究では,発達障害を有する外国人小児への保健師による早期発見・支援と,その活動上の困難に関する全国調査の一環として,外国人人口の多い自治体の保健師に焦点を当てた調査を実施した.外国人人口の多い自治体に焦点を当てた理由は,市区町村の外国人登録者数は0人~37,039人(法務省,2015b)と差が大きく,一定以上の外国人登録者数を有する自治体の方が,発達障害を有する外国人小児への支援経験のある保健師が多いと考えたためである.

さらに本研究では,親の国籍による違いにも注目した.この理由として,人口動態統計特殊報告(厚生労働省,2015)によると,ブラジル,ペルー出身の南米系外国人母は父親も同国出身者の割合が高く,他方でフィリピンや韓国など出身のアジア系外国人母は父親が日本人の割合が高いことが挙げられる.加えて南米系外国人は,工場の多い地域に集住し,機械相手の流れ作業につくと,日本語を学習する必要に迫られることがない(中萩,2009)という報告があり,言語的支援がより必要なのではないかと考えたためである.

以上のことから,本研究の目的を,発達障害を有する外国人小児への保健師による早期発見・支援と,その活動上の困難を,親の国籍による違いも踏まえて明らかにすることとした.この研究によって,困難が予測される発達障害を有する外国人小児への保健師活動や課題を把握でき,現状を踏まえた早期発見・支援向上の方策を検討できると考えられる.

II. 研究方法

1. 調査対象

全国の市区町村のうち,外国人人口が多い上位100市区町村の保健センター241 ヵ所において,発達障害を有する外国人小児への支援に従事する保健師各1名を対象とした.

2. 方法

前述した100市区町村の保健センター241ヵ所へ,2015年10月に無記名自記式質問紙を郵送し,担当保健師から回答を得た.

3. 調査内容

質問紙の内容は,1)自治体の属性,2)発達障害を有する外国人小児への早期発見・支援として,(1)乳幼児健診における早期発見のための言語的支援,(2)早期発見・支援のための工夫,3)発達障害を有する外国人小児への活動上の困難などである.1)自治体の属性では,自治体の人口,外国人割合,保健所を設置している市区かどうか,外国人登録者数が上位3位までの国籍を質問した.2)発達障害を有する外国人小児への早期発見・支援のうち,(1)乳幼児健診における早期発見のための言語的支援では,外国語版質問紙と公的通訳活用の有無を問い,活用「あり」の場合は,活用している言語について質問した.(2)早期発見・支援のための工夫は自由記載にて回答を求めた.3)発達障害を有する外国人小児への活動上の困難では,「環境要因によるものか子どもの発達の遅れや障害によるものかの判断の難しさ」など7項目の困難の有無について複数回答形式で質問した.

これらの質問の内容は,発達障害を有する外国人小児への保健師による支援に関するインタビューの結果(五味ら,2016森山ら,2016)をもとに,外国人への支援経験のある保健師や,公衆衛生看護学・国際看護学の研究者による検討を経て作成した.

4. 分析方法

分析は単純集計を行った.さらに国籍(南米系・アジア系)と人口,外国人割合との各関連は対応のないt検定を実施した.国籍と保健所設置市区かどうか,乳幼児健診での言語的支援の有無,発達障害を有する外国人小児への活動上の困難の有無との各関連はFisherの正確確率検定を実施した.統計的検定の有意水準は5%とした.なお,統計の分析には統計ソフトSPSS ver. 22 for windowsを用いた.また,発達障害を有する外国人小児への早期発見・支援の工夫は自由記載を質的に分析し,意味のまとまりごとにコード化,カテゴリー化した.

5. 倫理的配慮

倫理的配慮として,依頼文には調査の趣旨,プライバシーの保護,回答の任意性などを含んでおり,調査は無記名自記式で返信用封筒により回答を依頼し,調査の匿名性,任意性を確保した.本研究は2015年9月に日本赤十字九州国際看護大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号15-011).

III. 研究結果

48保健センターから回答があり(回収率19.9%),欠損値の多い1件を除外し,有効回答は47件であった.

1. 回答の得られた自治体の属性と国籍との関連(表1
表1  自治体の属性と国籍との関連(N=45)
全体 国籍 P
南米 アジア
人口 平均値(万人) 41.6 31.9 46.3 0.027a
SD 20.6 19.0 20.4
外国人割合 平均値(%) 4.0% 5.0% 3.4% 0.043a
SD 2.5 3.2 1.8
保健所設置市区 はい n 32 9 23 0.048b
% 71.1% 52.9% 82.1%
いいえ n 13 8 5
% 28.9% 47.1% 17.9%

未回答は除いて算出

a 対応のないt検定による

b Fisherの正確確率検定による

回答の得られた自治体の属性として,人口は平均41.6万人(SD=20.6),外国人割合は平均4.0%(SD=2.5)で最大値は16.0%であった.保健所設置市区(特別区含む)は「はい」が32ヵ所(71.1%)と多かった.各自治体において外国人登録者数が最も多い国籍は,中国20ヵ所(44.4%),ブラジル11ヵ所(24.4%),ペルー6ヵ所(13.3%),韓国6ヵ所(13.3%),フィリピン2ヵ所(4.4%)であった.

自治体の属性と国籍との関連について,人口は,南米系外国人が多い自治体では31.9万人(SD=19.0)に対し,アジア系は平均46.3万人(SD=20.4)であり,南米系の方が有意に少なかった(P=0.027).外国人割合は,南米系は5.0%(SD=3.2)に対し,アジア系は3.4%(SD=1.8)であり,南米系の方が有意に高かった(P=0.043).保健所設置市区に関しては「はい」が,南米系は9ヵ所(52.9%)に対し,アジア系は23ヵ所(82.1%)と,南米系の方が有意に割合が低かった(P=0.048).

2. 発達障害を有する外国人小児への早期発見・支援

1) 乳幼児健診における早期発見のための言語的支援(表2
表2  乳幼児健診における早期発見のための言語的支援(N=45)
全体 国籍 Pa
南米 アジア
外国語版質問紙の活用(n=45) あり n 29 14 15 0.062
% 64.4% 82.4% 53.6%
なし n 16 3 13
% 35.6% 17.6% 46.4%
 うち,南米の言語の質問紙(n=28) あり n 15 12 3 <0.001
% 53.6% 92.3% 20.0%
なし n 13 1 12
% 46.4% 7.7% 80.0%
公的通訳の活用(常時・必要時)(n=41) あり n 28 14 14 0.045
% 68.3% 87.5% 56.0%
なし n 13 2 11
% 31.7% 12.5% 44.0%
 うち,南米の言語の公的通訳(n=28) あり n 13 8 5 0.449
% 46.4% 57.1% 35.7%
なし n 15 6 9
% 53.6% 42.9% 64.3%

未回答は除いて算出

a Fisherの正確確率検定による

乳幼児健診において外国語版質問紙の活用「あり」は29ヵ所(64.4%),公的通訳(常時・必要時)の活用「あり」は28ヵ所(68.3%)であった.公的通訳の活用に関して,常時・必要時以外の「その他」の自由記載ではボランティアや家族による通訳が挙げられていた.

また,言語的支援と国籍との関連に関しては,外国人質問紙の活用「あり」は,南米系外国人が多い自治体では14ヵ所(82.4%)であるのに対し,アジア系では15ヵ所(53.6%)であり,両者の間に有意傾向(P=0.062)があった.外国語版質問紙「あり」のうち,南米の言語の質問紙「あり」の自治体は,南米系は12ヵ所(92.3%)に対し,アジア系3ヵ所(20.0%)と,南米系の方が有意に割合が高かった(P<0.001).公的通訳の活用「あり」は,南米系14ヵ所(87.5%)に対し,アジア系14ヵ所(56.0%)で,南米系の方が有意に割合が高かった(P=0.045).公的通訳のうち,南米系の言語の公的通訳に関しては,国籍による差はなかった.

2) 早期発見・支援のための工夫(表3
表3  早期発見・支援のための工夫
カテゴリー サブカテゴリー
外国語版資料の活用 ・外国語版健診票作成
・外国語パンフレットの活用
・外国語版手紙の作成
通訳の活用 ・通訳の依頼
・通訳との連携強化
両親の言語・文化の確認 ・両親の言語を確認
・母国の育児の考え方を確認
関係機関との連携 ・心理職との連携
・地域の関係機関との連携
・外国人関連団体を通じた支援
日本人と同様の方法

早期発見・支援のための工夫に関する自由記載に12ヵ所から回答が得られた.それらを質的に分析した結果,カテゴリーとして乳幼児健診票の作成などの「外国語版資料の活用」や,「通訳の活用」,「両親の言語・文化の確認」,「関係機関との連携」が抽出された.他方で外国人であっても「日本人と同様の方法」で支援するというカテゴリーも抽出された.

3. 発達障害を有する外国人小児への活動上の困難(表4
表4  発達障害を有する外国人小児への保健師による支援における活動上の困難(N=45)
困難の内訳(複数回答) 困難であると回答した件数と割合 Pa
全体 国籍
南米(n=17) アジア(n=28)
n % n % n %
環境要因によるものか子どもの発達の遅れや障害によるものか判断の難しさ 40 88.9% 13 76.5% 27 96.4% 0.140
子どもの発達の状況についての情報収集の難しさ 39 86.7% 12 70.6% 27 96.4% 0.023
外国人家族との日本と出身国の生活・文化・考え方の違い 38 84.4% 14 82.4% 24 85.7% 1.000
家族が子どもの問題とサービスを理解して意思決定することを支援する難しさ 37 82.2% 12 70.6% 25 89.3% 0.226
家族についての情報収集の困難 33 73.3% 12 70.6% 21 75.0% 1.000
対象のサービス利用・継続の困難 32 71.1% 13 76.5% 19 67.9% 0.737
対応できるサービスが少ない 20 44.4% 6 35.3% 14 50.0% 0.372

a Fisherの正確確率検定による

活動上の困難があると回答した割合が高かった項目は,「環境要因によるものか子どもの発達の遅れや障害によるものかの判断の難しさ」40ヵ所(88.9%),「子どもの発達状況についての情報収集の難しさ」39ヵ所(86.7%),「外国人家族との日本と出身国の生活・文化・考え方の違い」38ヵ所(84.4%),「家族が子どもの問題とサービスを理解して意思決定することの難しさ」37ヵ所(82.2%)であった.

困難の有無と国籍との関連で有意差があった項目は,「子どもの発達の状況についての情報収集の難しさ」であり,困難ありと回答したのは,南米系外国人が多い自治体では12ヵ所(70.6%)であるのに対し,アジア系外国人が多い自治体は27ヵ所(96.4%)であり,アジア系の方が有意に困難を感じる保健師の割合が高かった(P=0.023).それ以外の6項目に関しても,「対象のサービス利用・継続の困難」を除く5項目は,有意差はないものの,南米系外国人が多い自治体よりもアジア系外国人が多い自治体の方が困難を感じる保健師の割合が高かった.

IV. 考察

1. 調査自治体の特徴

日本における外国人人口の割合は2015年で1.7%であるが(政府統計の総合窓口(e-Stat),2016,「在留外国人統計」より算出),本調査で回答の得られた自治体は平均4.0%であり,これは外国人人口の多い自治体を対象にした調査であることが影響していると考えられる.また2015年現在,全国には1,724ヵ所の市区町村があり(政府統計の総合窓口(e-Stat)),そのうち保健所設置自治体は142ヵ所(8.2%)(全国保健所長会,2017)であるものの,今回の調査は7割近くが保健所設置市であり,都市部の自治体が多かった.自治体の属性と国籍との関連から,南米系外国人が多い自治体は,アジア系外国人が多い自治体に比べて人口が少なく,外国人割合が高く,保健所設置市が少ない傾向であった.これは南米系外国人の多くは,静岡県や群馬県などの製造工場が多くある地域に集住する傾向がある(中萩,2013)ためであると考えられる.

2. 言語的支援体制整備の必要性

早期発見・支援のための工夫の自由記載を質的に分析した結果では,「外国語版資料の活用」や「通訳の活用」,「両親の言語・文化の確認」といったカテゴリーが抽出され,言語的な支援・配慮の重要性が改めて示唆された.

乳幼児健診での外国語版質問紙や公的通訳の活用に関する調査結果では,これらの活用状況は外国人人口の多い調査自治体でも6割台であった.奥野ら(2012)が長野県全域の市町村保健師を対象に行った調査では各市町村における多言語問診票の活用状況は41.6%であった.奥野らの調査結果に比べ本調査の方が活用状況の割合は高いものの,外国人人口の多い本調査の対象自治体であっても必ずしも言語的支援が普及している状況ではないと言える.Zuckermanら(2014)が米国におけるラテン系の自閉症児の親を対象とした調査によると,英語能力の制限がヘルスケアへのアクセスの低下の一因であると指摘されていた.親の言語能力の制限は発達障害を有する外国人小児のサービス受給に影響を与えると考えられる.また,伊藤ら(2004)によると,南米系外国人の多い自治体において乳幼児健診に通訳を配置したところ受診者数が飛躍的に増加した例が報告されている.これらのことから,外国語の質問紙や公的通訳の活用,さらには外国語版の発達障害に関するパンフレットなど,より一層の言語的支援の体制整備が求められる.

南米系外国人の場合,家庭では母国語を使用し,親は職場でも機械相手の流れ作業などで日本語を学習する機会が少ないという現状(中萩,2013)が影響し,両親とも日本語の会話や読み書きができない人もおり,外国語版質問紙の使用へのニーズが高いと考えられる.さらに,公的通訳のうち南米の言葉に関する通訳の有無は,国籍による有意差はなかった.これは公的通訳の活用に関する自由記載ではボランティアや家族のサポートを得ることも多いと書かれており,インフォーマルな通訳の存在も影響していると考えられる.ただし,永田ら(2010)は込み入った問題をはらんでいる場合は医療用語の理解や個人情報の観点から,訓練された通訳者を必要としていると指摘しており,今後は医療等専門分野に精通した公的通訳をどのように確保するかが一つの課題である.奥野ら(2012)は,在日外国人と保健師が同席し,インターネット回線を活用したテレビ電話で通訳者と会話するのが有用かと考えると述べている.自治体によって予算規模や外国人の国籍も異なり,一様に公的通訳を常設することは難しいと考えられるため,IT機器などの活用も含めた言語的支援の体制整備が求められる.

3. 支援の初期段階から生じる困難とその対応

発達障害を有する外国人小児への保健師による活動上の困難があると回答した割合が高かった項目は,「環境要因によるものか子どもの発達の遅れや障害によるものかの判断の難しさ」40ヵ所(88.9%),「子どもの発達状況についての情報収集の難しさ」39ヵ所(86.7%)「外国人家族との日本と出身国の生活・文化・考え方の違い」38ヵ所(84.4%)であった.このことから,発達障害を有する外国人小児への保健師による対応では,言葉や文化の違いが背景にあり,発達障害の情報収集や判断という介入の初期の段階ですでに困難が生じていると考えられる.

他方で,上原ら(2012)が保健師を対象とし,発達が気になる子への保健指導で困ることについて聞いた調査の中で多かった回答は,親への伝え方などの「親の対応」であった.上原らの調査は主に日本人を対象とした保健指導を想定した質問であり,保健師が親子から情報を得て発達の見立てが可能となった上で親への対応に苦慮していると予想される.この日本人への支援を主とした調査と比べ,外国人への支援に焦点を当てた本調査の場合,介入の初期段階から困難が生じていることに特徴があると考えられる.奥野ら(2012)が市町村の保健師を対象にした外国人母子支援に関する調査でも,十分な対応ができない場合,言葉の壁や文化の違いを感じ介入の初期段階でつまずいていたことを指摘している.中萩(2009)は,外国人小児の場合,家では母国語で話し,保育所では日本語のみとなると,両言語を使い分けできず,発達障害なのか,両言語獲得の問題なのかの診断がつきにくい場合があることを指摘している.米国での小児科医を対象とした調査(Zuckerman et al., 2013)でも,小児科医は,白人の子どもよりもスペイン語が第一言語であるラテン系の子どもの自閉症の可能性をアセスメントする方が難しいと感じていることが明らかになっている.

さらに,支援の方向性が決定したとしても,「家族が子どもの問題とサービスを理解して意思決定することの難しさ」37ヵ所(82.2%)が,困難の一つとして挙げられていた.障害や疾患の存在,あるいはその疑いを保護者に理解してもらい,適切な対応につなげることは,日本人の場合ですら容易ではないことが指摘されており(平岩,2009厚生労働省,2007),外国人小児の場合は,言語や文化的な障壁があるために,さらに困難が積み重なると推測される.

このように発達障害を有する外国人小児とその家族への支援は,初期段階から困難が生じやすい傾向にある.そこで,発達障害者支援法でも提唱されている発達障害の症状発現後早期の発達支援や,切れ目のない支援を,外国人小児が適切に受けられるような配慮や体制づくりが必要である.そのためには,前述した言語的支援の体制整備に加えて,保健師側,外国人側双方の理解の促進や情報源の体系化が必要であろう.保健師が判断に迷いやすい外国人の発達や文化への理解を促進できること,外国人の親が子どもの発達障害やサービスの理解を促進できることが必要であると考えられる.これらの理解の促進のためには,情報源となる各国の小児の発達の捉え方や制度についての情報の体系化も求められるであろう.

4. 国籍による対応の違い

本研究では,同国出身者の両親の割合が高い南米系外国人母の方が,父親が日本人の割合が高いアジア系外国人母よりも言語的な支援などがより多く必要であり,保健師も活動上の困難を感じやすいのではないかと予測していた.しかし,発達障害を有する外国人小児への活動上の困難の有無と国籍との関連では,「子どもの発達の状況についての情報収集の難しさ」は,南米系外国人が多い自治体よりもアジア系外国人が多い自治体の方が有意に活動上の困難を感じる保健師の割合が高かった.さらに有意差はないものの他の6項目中5項目も,南米系外国人が多い自治体よりもアジア系外国人が多い自治体の方が困難を感じる保健師の割合が高かった.青山ら(2014)によると,特別なニーズを持つ在日外国人母子の支援において,保健師の外国人対応における経験の蓄積がないことが対象把握やニーズ把握に影響を与えていることが指摘されていた.米国での小児科医を対象とした調査(Zuckerman et al., 2013)では,スペイン語が話せたりラテン系の患者の割合が多い場合などは,困難さの認識が低減していた.このことから,日頃から南米系外国人へ対応している回答者の方が特定の国籍の人と関わる頻度が多く,対応への知識や経験を積み重ねる中で主観的な困難感が低減されているのではないかと推測した.保健師活動の困難を要する場合が多い発達障害を有する外国人小児への支援において,ロールプレイなどを含めた演習などを通じて対応への知識や考える経験を増加させることは,よりよい支援への方策となるであろう.

5. 本研究の限界

本研究の限界として,回収率が19.9%と低いため,一般化に限界があることが挙げられる.しかし,発達障害を有する外国人小児への保健師活動に焦点を当てた量的な研究はこれまでに見当たらず,本研究は,発達障害を有する外国人小児への支援向上に貢献できると考えられる.

V. 結語

本研究では,これまでほとんど明らかになっていなかった発達障害を有する外国人小児への保健師による早期発見・支援と,その活動上の困難を,親の国籍による違いも含めて調査した.外国人人口の多い上位100市区町村保健センター241ヵ所へ無記名自記式質問紙を郵送し,48保健センターの保健師から回答を得た.乳幼児健診における早期発見のための言語的支援として,外国語版質問紙や公的通訳の活用は,本調査の対象自治体でも6割程度であり,必ずしも言語的支援が普及している訳ではなく,さらなる言語的支援体制の整備が求められる.発達障害を有する外国人小児への保健師による活動上の困難は,発達障害の情報収集や判断という支援の初期段階からすでに生じているところに特徴があった.また南米よりもアジア系外国人が多い自治体の方が,保健師が活動上の困難を感じる割合が高い項目が多く,これは特定の国籍の人と関わる頻度の少ないことが関連していると推測される.今後,発達障害の早期発見と切れ目ない支援のためには,保健師側,外国人側双方の理解の促進や情報源の体系化が必要であろう.

謝辞

本調査にご協力いただきました全国の保健師の皆様に心より御礼申し上げます.本研究はJSPS科研費JP26671049の助成を受けたものです.

本研究に開示すべきCOI状態はない.

文献
 
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