Japanese Journal of Public Health Nursing
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ISSN-L : 2187-7122
Research Article
The Meanings of Participation in the Community Activity for Elderly People
—Ethnography of the Elderly People Living in a Rural Community of an Isolated Island
Chie Kawasaki
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2018 Volume 7 Issue 3 Pages 110-118

Details
Abstract

目的:高齢者にとっての地域活動への参加の意味を記述し,ソーシャル・キャピタルを醸成する地域活動の背景にある,社会的文脈を探究することとした.

方法:エスノグラフィーを用いて,A村B地域の高齢者12人への半構造化インタビュー,参加観察,地区踏査,インフォーマルインタビューによりデータを収集し分析した.

結果:B地域の高齢者にとっての地域活動への参加は〖日常が変わり,これまでと違う自分になる〗ことであり,〖地域の人とのつながりを取り戻す〗ことであった.そして,そのことにより〖安らぎのなかで生きる力が湧いてくる〗ことであった.

考察:地域活動への参加の意味には社会的文脈が関連しており,高齢者は「結い」を追憶し,失われたものを再生する共同行為により信頼や互酬性を取り戻し,安寧や生きる力を得られるものと考えられた.また,共同経験を通して社会的性格が変えられ,高齢者に変化がもたらされたと考えられた.

I. 緒言

急速な高齢者人口の増加を背景に,地域の人びとの互助を活用し介護予防を図る政策への転換(平成26年介護保険法改正),地域のソーシャル・キャピタルを活用した住民による自助及び共助への支援の推進(平成24年「地域保健対策の推進に関する基本的な指針」一部改正)(厚生労働省,2012)が図られた.その結果,地域住民による高齢者のためのグループ活動やサロン活動などの地域活動を地域に増やし,ソーシャル・キャピタルを醸成・活用することによる介護予防や健康増進,健康寿命の延伸を目指す取組みが,全国で行われている.

先行研究によると,地域で行われている活動への継続的な参加は,60歳以上の高齢者の抑うつの抑制,良好な主観的健康観,孤独感の抑制,認知機能の低下の抑制と関連する(古川ら,2004Kim et al., 2011Norstrand et al., 2012Ota et al., 2013)ことや,地域の人に対する信頼や地域におけるネットワークが,高齢者の良好な主観的健康観や抑うつの抑制と関連すること(Aida et al., 2011Aida et al., 2013Iwase et al., 2010近藤,2011)などが報告されている.そのため地域活動を増やすことで,他者や地域に対する信頼などの認知的ソーシャル・キャピタルや,地域活動への参加,地域参加の程度,地域におけるネットワークなどの構造的ソーシャル・キャピタルが醸成され,健康に良好な影響をもたらすことが期待される.一方,ソーシャル・キャピタルの健康との関連については,地域の社会的文脈により異なる可能性があること(稲葉,2008湯浅ら,2006),ソーシャル・キャピタルの醸成は,地域の環境や文化など様々な社会的な要素により規定されるため,地域の社会的文脈を意識する必要があること(埴淵ら,2008)が指摘されている.したがって地域活動を増やして高齢者の参加を促し,ソーシャル・キャピタルの醸成や健康増進を目指すうえで,地域の社会的文脈に着目することが重要である.しかし,地域の社会的文脈に焦点をあてた研究はほとんどみられず,ソーシャル・キャピタルの醸成にどのような社会的文脈が関連しているか,十分明らかにされていない.実際の取組みにおいても,それぞれの地域の社会的文脈が十分着目されずに行われている場合もしばしばみられる.そこで本研究は,高齢者にとっての地域活動への参加の意味を記述することで,地域活動への参加によるソーシャル・キャピタルの醸成の背景にある社会的文脈を探究することを目的とした.そのことにより,実際に取組むうえで社会的文脈に着目する際の参考になると考える.本研究では稲葉(2008)長曽我部ら(2015)の社会的文脈についての記述を参考に,社会的文脈を「ある特定の集団や地域社会の人間関係の中で構築された歴史,文化(慣習,規範,行動様式等),制度,集団や地域社会の構成員の認識」とした.また,地域活動を「地域住民により地域で行われており,高齢者や住民が誰でも参加できる活動」と定義した.

II. 研究方法

研究方法は,特定集団の文化の文脈における経験を記述する研究手法である,エスノグラフィーを用いた.本研究は,地域活動に継続的に参加している高齢者にとっての活動に参加することの意味を,社会的文脈に焦点を当てて帰納的に記述するものである.本研究の行程は,Spradleyの提唱するアプローチを参考にし,文化の定義は,「人びとが経験を解釈し,行動を起こすために使う習得された知識」という,Spradleyの定義を用いた(Spradley, 1980, p. 3).研究期間は平成26年12月から平成28年3月であった.研究参加者は,平成23年度からA村B地域で行われている,高齢者の閉じこもり予防や見守り,交わりを目的とした地域活動に継続して参加している高齢者とした.地域活動は週1回開催されており,活動内容は世話役の住民が用意した菓子や惣菜,コーヒー等を飲食しながら話などをして過ごすサロンの開催であった.研究への参加の承諾を得られた研究参加者は,地域活動に継続的に参加している66歳から85歳の高齢者12名(男性2名,女性10名,平均年齢77.6±9歳,年齢中央値79歳)であった.

データ収集は,週1回午後に開催される活動日に合わせて定期的に地域に足を運び,計7回各4~9日(平均1回6.1日)滞在して行った.初期の段階には地区踏査,既存資料による情報収集と知識の習得,地域の文化や歴史・A村の各地域で行われている地域活動や祭事の視察,A村の各地域をよく知る住民や役場職員などへのインフォーマル・インタビュー等を行い,A村に顔見知りが増えた段階で,各地域の祭事等への参加観察を行い,得られた情報をフィールドノートに書き留めていった.そして活動に参加する高齢者,活動の世話役の住民(キーインフォーマント)等と場を共有し話に耳を傾け,信頼関係を築きながら,記述的観察から焦点化観察(Spradley, 1980, p. 47)へ進めた.

活動に参加する高齢者にとって研究者が見知らぬ人ではなくなってきた段階で,研究参加者への半構造化インタビューを一人1~2回行った.B地域の区長や活動の世話役の住民の紹介により候補者を選定し,文書および口頭による説明後,承諾を得られた高齢者を研究参加者とした.インタビューは,地域活動が行われている場や研究参加者の自宅にて行い,インタビューの内容は参加者の了承を得てICレコーダーで録音した.インタビューガイドに沿って「参加しているときの気持ち」「参加するようになってからの自分の変化」について質問し,自由に語ってもらった.高齢者の人生や地域への思いなど,高齢者が研究者に伝えたいことを尊重し自由に語ってもらい,高齢者との信頼関係や親密な関係の構築を試みた.

データ分析は,高齢者へのインタビューで得られたデータを逐語録に起こし,高齢者にとって地域活動に参加するとはどのようなことかについて語られた文脈に沿って,理解可能な最小単位の文節で取り出し,意味内容の関係するものをサブカテゴリ化した.サブカテゴリ化するうえで,A村の地域住民や役場職員等へのインフォーマル・インタビューで得られたデータ,フィールドノートに書き留めたデータ,既存資料すべてを高齢者へのインタビューで得られたデータの裏付けとして分析に用いた.サブカテゴリ内の文脈の意味内容やサブカテゴリ間の類似点・相違点について検討を重ね,カテゴリを構成した.さらにカテゴリの再構成や融合を繰り返し統合していった.人びとの文化や歴史に根差した考えや経験にイーミック(人びとの内部的な見解)な焦点を当て(Leininger, 1995),理解を深めながら,この分析のプロセスを繰り返した.分析の過程では社会的文脈を適切に理解するために,A村の各地域の区長やB地域で地域活動のお世話役の住民,役場職員,公民館館長から助言を受けた.また,看護学の質的研究の研究者からスーパーバイズを受けた.分析結果は,キーインフォーマントであった地域活動の世話役の住民,村誌の編纂を担当しA村の各地域に精通する役場職員等のチェックを受け妥当性を確認した.

調査地域は,特有の文化や歴史,地理的環境のある離島のA村の社会的文脈の異なる2つの地域を対象とした.A村では,地域住民のつながりや支え合いを目的とした住民による地域活動が,複数の地域で同時期に開始された.その中で,他の地域に比べ地域活動への参加により高齢者の認知的・構造的ソーシャル・キャピタルが醸成され,高齢者に変化がみられたと自治体職員や地域住民が認識していた,2つの地域を選定した.本報告では,そのうちB地域での調査結果を報告する.

 調査地域の概要

A村は海沿いに位置し,各地域が四方を山と海に囲まれており,全人口は1,565人,世帯数860世帯,高齢化率38.6%の村である.B地域は,村の中心から幹線道路を通り車で30分(約13 km),大型の商業施設や医療機関などのある隣市の中心部から車で約1時間(約35 km)に位置し,四方を険しい山と海に囲まれた集落で,明治時代以前は1つの村であった.人口213人,世帯数116世帯が,住居が密集した平坦地に暮らしている(平成28年6月30日時点).男性の平均寿命が女性に比べて短く,単身高齢女性が多い.村を縦断する幹線道路が開通する昭和45年までは,隣の集落に行くために険しい山岳地帯を山坂越えするか,1日1往復の小型の定期船で海路を行き来して暮らしていた.現在の主な交通手段は,島の巡回バス(1日8本程度)と自家用車である.山間にあるB地域は1970年代に開始された国の減反政策開始前から,他地域に比べ耕地面積が少なく,現在は一部,荒廃した土地も広がっている.

B地域の人々は,戦前から村外の企業の参入による鉱山の採掘や鰹漁業(加工業),林業,地場産業に従事して生計を立ててきた.戦時中から昭和29年頃までは,自給自足中心の厳しい生活を送ったが,国の復興事業(昭和29年~昭和38年)開始後,戦前から続く地場産業や復興事業に従事し,地域の中で生計を立て暮らしていた.研究参加者はこの時期,青年期を過ごして家庭を持ち,男女ともこれらの事業や産業に従事しながら,近隣で手助けし合い,地域の共同体のなかで暮らしてきた.しかし,昭和40年から昭和50年代にかけて,復興事業が終わり地場産業が衰退したことで,村や島の外に出稼ぎに行く男性が増え,経済活動が変化したことで,共同体も失われていった.語らい歌い,踊り明かした浜は,昭和50年以降の過疎・辺地事業による整備に伴い埋め立てられ姿を消した.テレビや自家用車の普及により生活様式も変化し,地域活動が始まった頃には,地域の人と日常的に顔を合わせて話をする機会が乏しくなっていた.

III. 倫理的配慮

本研究は,国立保健医療科学院倫理審査委員会の承認を受け実施した(NIPH-IBRA#12096).研究参加候補者に,研究目的,方法,拒否する権利や研究参加の取り消しの権利があること,匿名性の保持,データの厳重な保管や研究終了後のデータの廃棄,学会誌等での公表について文書と口頭で説明し,文書で参加の承諾を得た.

IV. 結果

結果は,テーマを〖 〗,カテゴリを【 】,参加者の語りを「 」,その他の地域住民の語りを「 」で表し,参加者は匿名化(ID1~12)した.

地域の人と日常的に顔を合わせて話をする機会が乏しくなっているなか,B地域の高齢者にとっての地域活動への参加は,〖日常が変わり,これまでと違う自分になる〗ことであり,〖地域の人とのつながりを取り戻す〗ことであった.また,そのことによって〖安らぎのなかで生きる力が湧いてくる〗ことであった(表1).

表1  A村B地域の高齢者にとって地域活動に参加するということ
テーマ カテゴリ サブカテゴリ ID
〖日常が変わり,これまでと違う自分になる〗 【閉ざされていた生活が開かれ,これまでの日常が変わる】 今までと日々の過ごし方が変わる 1,2,3,4,5,7,8,9,10
単調な生活に張りがもたらされる 2,3,4,5,6,7,8,9,10,12
生活に欠かせないものができる 1,2,3,4,5,6,7,8,9,10
【今までと違う自分へと変えられる】 自分の殻を破り,一歩踏み出す 1,2,5,8,9,10
人から学び自分に取り入れる 2,5,6,9,11
自分を変えられ,目の前に新しい景色が広がる 2,4,5,8,9,12
〖地域の人とのつながりを取り戻す〗 【地域の人とのつきあいを取り戻す】 皆と集い,会って話す機会をもてる 1,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12
関わりをなくしていた人とのつきあいが戻る 1,4,5,7,8,9,10
【皆と時間を共有し,喜びを分かち合う】 気持ちを解放して皆で楽しめる 1,3,4,5,6,9,10,11,12
同じ時間を過ごし,皆と喜びを共有できる 1,2,3,4,5,6,8,9,10,11
【仲間意識を育み,互いを思いやるようになる】 皆と気持ちが1つになる 1,2,5,6,7,8,9,10,11,12
互いのことを想い,気にかける 1,2,3,4,5,6,9,10,11
〖安らぎのなかで生きる力が湧いてくる〗 【こころを軽くして安らぎを得る】 気分を晴らすことができる 2,5,6,9,11,12
寂しさから抜け出すことができる 6,9,10,11
安らぎを得ることができる 1,2,3,5,8,9,10,11,12
【つながりを得て力づけられる】 自分を気にかけてもらっていると感じられる 3,6,8,9,10,11
昔の自分を重ね,気持ちが若返る 1,2,3,4,5,9
何かしたいという気持ちが湧いてくる 1,6,8,9,11

1. 〖日常が変わり,これまでと違う自分になる〗

高齢者には出かける場所がなく,昔から続いている2つの個人商店が,そのような高齢者のニーズに対応しており,買い物がてら店主と世間話をして帰る日常を繰り返していた.地域活動が始まる前の高齢者の生活は,限られた範囲で淡々と営まれていた.居住地から離れた山間の畑や他の集落,商業施設のある隣市の中心部まで車を運転して行くことができる一部の高齢者を除き,家に籠りテレビを見て過ごす生活を送っており,日常的に誰かに会って話す機会がなくなっていた.

「昔はテレビもなかったし.ちょっと外に出たら誰かに会うんだけど,今は籠りがちだし,外に出る人も少なくなった.道端で誰かに会うこともほとんどなくなった」(ID3:80代男性)

そのため,B地域の高齢者にとって地域活動への参加は,【閉ざされていた生活が開かれ,これまでの日常が変わる】ことを意味していた.地域活動に参加することで,これまでのテレビを見て過ごす日々の過ごし方が変わり,今までの単調な生活に張りがもたらされ,「雨だからと行かずに家にいてもそわそわする」(ID8:60代女性)のように,今では自分の生活に欠かせないものとなっていた.

「来週の活動日までに,これせんばと思ったりして,この日を中心に回るようになった.もう,行かずにはおれんと思うもの」(ID10:80代女性)

「歳とっても身なりは綺麗にしないとと思うようになった」(ID3:80代男性)

「週1回の楽しみができ,刺激になっている」(ID7:80代女性)

また,B地域の高齢者にとって地域活動への参加は,地域活動の場や他の参加者によって,【今までと違う自分へと変えられる】ことだった.B地域の高齢者は,A村で遠慮がち,人見知りが強い,引っ込み思案,内気で声が小さい,と言われており,高齢者も自分たちのこととして認識していた.このようなB地域の高齢者の特性は,幹線道路が開通する昭和40年代までB地域が地理的に他の地域と分断され,村や島の中心部から遠いことにより,外部との交流が少なかったことや,山際に集落が広がっていることなどに関連していると考えられてきた.そのため,地域活動の世話役の住民は高齢者が参加するか心配していた.しかし,参加者数や参加回数は増え続け,「様子を窺いながらやって来て,皆最初は今のようにはしゃべらなかった.参加するうちに高齢者がすごく変わった.B地域の高齢者って,こんなに笑ったっけ? 明るかったっけ?と思う」(地域活動の世話役の住民)のような変化が生じた.

出かける場所がなく外界と隔てられ,引っ込み思案で自分から集落の人と話すことができず,内に籠って毎日を送っていた高齢者にとって,地域活動への参加は,自分の殻を破り一歩踏み出す挑戦でもあった.「一人では今も行けん.不安はあるし緊張する.でも一人で家におってもね.だから,最初は抵抗もあって自分から進んでいかなかったけど,今は思い切って自分から進んで行く」(ID8:60代女性)のように,『内気で引っ込み思案』な自分の殻を破り,勇気を出して参加することで自分が変えられていくことであり,これまでと異なる新しい世界が目の前に広がっていくことであった.

「若い頃から大勢のいるところに出ていくのも話すのも苦手だった.最初は来るのが億劫だったけど,今は人に会うのも話をするのも本当に好き」(ID9:70代女性)

「しゃべるのも苦手だった.来るうちに自分もしゃべりだして,自分の人生まで変わった.目に映る景色が変わった」(ID5:70代女性)

「ここに来て人と話して,自分の気持ちがすごく変わり,毎日が変わった」(ID2:80代女性)

また地域活動への参加は,「参加すると学べることが沢山あるね.料理でも自分の悪いとこでも気づかされて勉強になる.自分にかえってくる」(ID10:80代女性)のように,様々な人との交わりからの学びを自分に取り入れることであり,そのことで自分が変わっていくことでもあった.

2. 〖地域の人とのつながりを取り戻す〗

B地域では,段階的に経済活動や生活様式が大きく変化した.鰹漁業や地場産業などが盛んだった頃まで,地域には互いを気にかけ助け合う「結い」の文化が息づいていた.しかし,経済活動や生活様式の変化とともに「結い」が失われていったと高齢者は感じていた.B地域の高齢者にとって「結い」とは,お互い様の気持ちで手助けし合い,労力を交換する互酬性の関係であるだけでなく,互いを気にかけ,日常生活のさまざまな体験,喜びやその時々の思いを共有することも含んでいた.地域活動に参加し始めた頃には,近隣はおろか親族間で助け合うこともほとんどなくなり,日常的に親しい人以外との関わりがなくなっていた.そのような状況で,B地域の高齢者にとって地域活動への参加は,【地域の人とのつきあいを取り戻す】ことであった.高齢者は活動に参加することで様々な人と集い,会って話す機会が増え,つきあいを失くしてしまっていた人や,閉じこもりがちで人づきあいのない高齢者とも関わりができると感じていた.

「皆家に籠っているから,道端でも会わない.この活動が始まり参加するようになって,皆と集い会って話す機会が増えた」(ID7:80代女性)

「顔見知り程度でほとんど関わりのなかった人とも,普段行き来するようになった」(ID5:70代女性)

高齢者にとって地域活動への参加は,【皆と時間を共有し,喜びを分かち合う】ことでもあった.B地域の高齢者は,老人会を行政が関与するフォーマルな集まりと認識しており,「参加しても落ち着けないし,あまり言わんとこうと思う」(ID9:70代女性)「個人的な話はしない.する場所ではない」(ID6:70代女性)が,地域活動では,決まり事や“こうしなければならない”という規範から解放され,「ここは家族みたいなところだから,何でも話せる.羽目を外し心の底から笑える」(ID9:70代女性)「バカな事でも何でも言える」(ID10:80代女性)のであった.また,個人的に話をすると事実と異なる話が一人歩きし地域に広まる場合もあるが,大勢で会話を共有する地域活動の場では,「何を言っても皆が見て聞いているからそんなことはない.この場限りになるからいいやと思える」(ID9:70代女性)ことから,高齢者にとって地域活動への参加は,自分を解放して皆で自由に話して過ごすことであり,自分が楽しいだけでなく,皆と楽しい時間を過ごし共に喜びを感じることでもあった.そして地域活動に参加しながら,「昔はこんな風に皆で和気あいあいと.喜びも何もかも分け合って,皆で楽しかったね」(ID10:80代女性)と,かつて経験した「結い」をともに懐かしみ,昔の自分たちの姿を重ねていた.

「皆が笑っていきいきしているのがいい.皆が楽しく過ごせる.それが参加することで得られる喜び」(ID4:80代男性)

「参加しながら,結いのあった頃のことを思い出す.昔は近隣の人とお互いにいつも助け合って,何かあると一緒に喜んで祝った.その時のことを思い出す」(ID2:80代女性)

また,高齢者にとって地域活動への参加は,【仲間意識を育み,互いを思いやるようになる】ことでもあった.B地域には継承された祭事が多く,その時には地域住民が団結してきた.しかし,産業の衰退とともに共同作業が減り集落の共同体が失われ,互いを気にかけることも減っていった.祭事に参加しない人もみられるようになり,歌や踊りを年上の人から習う風習も薄れた.しかし,地域活動に参加して同じ目的で定期的に集い,皆で一緒に時間を過ごし経験を共有する中で,自分が地域の人びとのつながりの輪に入り,皆と気持ちが一つになると感じていた.

「仲間意識っていうか,そんなのが生まれているように思う」(ID11:70代女性)

「皆で一緒に同じことをするという連帯感があります.自分がその輪の中に入ったというか.皆きょうだいみたいな」(ID10:80代女性)

そして高齢者にとって地域活動への参加は,「結い」が息づいていた頃のように互いを想い気にかけ合い,時には助け合う互酬性を取り戻すことであった.

「仲がいい人じゃなくても来てなかったら,会いたいな,どうしたんだろうと思うようになった」(ID3:80代男性)

「誰が来てない,どうしたんだろうと気になり,訪ねるようになった」(ID4:80代男性)

「他の人の座る場所がなければ,皆が楽しめるように早く帰ろうと思う」(ID9:70代女性)

3. 〖安らぎのなかで生きる力が湧いてくる〗

B地域の高齢者にとって地域活動への参加は,【こころを軽くして安らぎを得る】ことであった.B地域は,海と山に囲まれる静寂な地域である.他の地域に比べ子どもの出生数も多く小・中学校もあるが,子どもが集落内を駆け回っていたかつての風景はみられない.世帯は密集し家々は隣り合っているが日常的な交わりはなく,用事がない限り出歩くこともない.『引っ込み思案』などと言われるように,親しい付き合いのない人や大勢の人と交わることが苦手で,自ら新たに人との関わりを求めることのなかったB地域の高齢者だったが,一歩踏み出して地域活動に参加してみると,自分の気分を晴らすことができるものとなり,自分の気持ちの変化に驚いていた.

「こっちに来ておしゃべりして帰ったら,すっきりしています.人と話す,笑うって,こんなに気が晴れるんだと思いました」(ID5:70代女性)

「最初は不安だったけど,今はここに来るだけで気持ちがすっとする」(ID2:80代女性)

「こんな気持ちになるとは思わなかった.ここに来ると賑やかだから,気が晴れる」(ID6:70代女性)

また,B地域には夫に先立たれた高齢女性が多く,地域活動へ参加することは寂しさから抜け出すことであった.

「一人でいると寂しい.雨だと余計に.ここにはなんもない.何の音もせんからね.だから雨でも行くよ」(ID10:80代女性)

「雨の日一人で家におっても寂しいもんね.テレビができてから皆家におるようになって.だから,自分だけでなく,一人で寂しいって言う人がいるよ.これができて,よかったって」(ID11:70代女性)

そして他の人の元気な顔を見て昔を一緒に懐かしみ,思い出や自分の思いを共有できるため,「来るだけでホッとする.皆も気持ちよさそう」(ID1:70代女性)のように,気持ちが和み安らぎを得られることでもあった.

また,B地域の高齢者にとって地域活動への参加は,【つながりを得て力づけられる】ことであった.それは,自分を気にかけてもらっていると感じられることであり,相互の信頼や自分の居場所感を得られることであった.そして,皆と笑いこの瞬間を喜ぶ自分や他の人の姿を見て,気持ちが元気になることであった.

「時間になっても自分が来ないと,皆が来ないねって話してくれてるから嬉しいですよ.皆に気にかけてもらってると思います」(ID3:80代男性)

「参加する人で互いに『具合は?』なんて聞いて,励まし合っている」(ID6:70代女性)

「自分が行かんかったら,どうしたん?って心配してくれて,電話がかかってくる」(ID9:70代女性)

「冗談でも言って皆で交われたら,自分も若いって思う.若返る気がする.元気になる」(ID4:80代男性)

また地域活動に参加することは,「ここでこんなに楽しいから他も楽しいかも.ここに行ってみようか,と思うようになった」(ID2:80代女性)「お茶してしゃべるだけでなくて,何か自分にもできたらなあと思う」(ID8:60代女性)のように,参加するまで閉じこもりがちだった高齢者に,できることを何かしたいという前向きな気持ちが湧いてくることでもあった.このような高齢者の変化は,他のB地域の住民らに「出不精で全然出歩かなかったのに,自分からあちこち出歩くようになったよ」,「人とこんなに話さなかったけど,色々話をするようになったよ」などと捉えられていた.

V. 考察

1. 高齢者にとって地域活動に参加するということ

1) 「結い」を追憶し昔の自分の姿を重ねる

かつてB地域には,地場産業などに従事することによる共同体が形成されており,近隣縁者と労働力や物の提供を行う互助行為が行われ,たびたび集い,手助けし合っていた生活の歴史があった.そして高齢者は,日常における喜びやさまざまな思いを共有することを含めて,「結い」の文化として記憶していた.「結い(結/ユイ)」は人と人が結び付き,一定の目的を達成する時に使われた言葉で,互酬的な関係を表し,労力交換としての経済結合だけでなく,ヒトとヒトの関係をつくる社会的な意味が含まれる(奥田,2006).B地域の高齢者にとっても「結い」は,労力を互いに提供する互酬的な関係だけでなく,日常生活における関係や情緒的な交流関係を含んでいた.しかし,地域の共同体を維持する機能を果たした地場産業が衰退し,寄合処の機能を果たした労働の場が閉鎖され,テレビの普及を始めとする都市型の生活様式の浸透したことで「結い」は消えていき,B地域の人びとの関係は希薄化していった.高齢者が地域活動に参加した背景には,このような地域社会の変化があり,外出の機会や外出先が乏しい環境において,日常的に地域の人と会って話す機会が減り,望むかどうかに関わらず行動がウチに向き,家に籠るようになっていった生活の歴史があった.四方を険しい山と海に囲まれた地理的特性上,他の地域に出かけられる機会は限られていた.高齢者は地域活動に参加しながら,日常的に助け合いさまざまな体験やその時々の思いを共有していた頃を振り返り,「結い」として追憶していた.このことから,B地域の高齢者にとって地域活動への参加は,「結い」を追憶して昔の自分たちの姿を重ねることであったと考えられた.

2) 失われたものを再生する

B地域の高齢者にとっての地域活動への参加を表した〖地域の人とのつながりを取り戻す〗や〖安らぎのなかで生きる力が湧いてくる〗に示された内容は,互酬性,ネットワーク,情緒的・道具的サポートなどのソーシャル・キャピタルの要素を表していた.B地域の高齢者にとって地域活動への参加は,かつてB地域の人びとの生活の中にあったが,環境や経済活動,生活様式の変化に伴い失われたものを取り戻すことであったと考えられた.B地域の高齢者の記憶に残る「結い」は,喜びや楽しさなどの肯定的な感情を伴うもので,記憶の中の「結い」には否定的な感情やソーシャル・キャピタルの負の側面とされる排除,過度の要求,個人の自由の制限等(Oksanen, 2013)を伴わなかった.高齢者が共有する,肯定的な感情を想起する「結い」の記憶が,地域活動への参加を促し,活動の継続・発展に関連した可能性が考えられた.また,地域活動に参加したB地域の高齢者には,地域活動に参加することで,互いを気にかけ助け合う強い仲間意識が生まれていた.ソーシャル・キャピタルは,あるグループメンバーであることから生まれるとされる(稲葉,2008).B地域の高齢者が「結い」を共に追憶し,失われたものを再生するという共同行為を通して共同意識が芽生え,互いを仲間として強く意識するようになったと考えられた.そしてこのことが,ソーシャル・キャピタルの醸成につながったと考えられた.

3) 既存の文化を変え,新しい文化を生み出す

B地域は,四方を険しい山と海に囲まれ,山が迫った地域で,A村の中でも島や村の中心部から遠い地域にある.そのため,幹線道路が開通する昭和40年代以前は交流人口が少なかった.そのような社会的文脈が『引っ込み思案』『人見知りが強い』などのB地域の高齢者の特性に関連していると考えられており,B地域の高齢者も自分たちのパーソナリティについて,そのように認識していた.しかし,地域活動に参加して様々な人との交流経験を重ねたことで,B地域の高齢者に変化がもたらされた.パーソナリティについては,「ある社会的集団に共同の基本的経験と生活様式の結果,集団の大部分の成員の性格構造に共通する社会的性格が形成される」(Fromm, 1941),「社会的相互行為の過程を通じて形成される」(Parsons, 1966)とされる.B地域の高齢者は,B地域に特有の環境,経済活動,生活様式を基盤とする共同経験の影響を受け,「引っ込み思案」などのB地域の高齢者に特有の「社会的性格」が形成され,それが住民特性として浸透していたと考えられた.しかし,「人は環境や文化に規定され,人はある特定の環境の中で生活し,成長するために「順応」する能力が備わっている」(Scileppi, 2000)とされるように,B地域の高齢者は「結い」を追憶し,失われたものを再生する社会的相互行為の場(地域活動)に参加することで,そこに生まれる新しい環境に順応しながら,【今までと違う自分へと変えられる】のカテゴリに表されたように,もっていた「社会的性格」を変えられた可能性が考えられた.

また,このことから住民特性は,「特定の集団の思考や意志決定やパターン化された行為様式を支配する,学習され共有され伝承された価値観,信念,規範,生活様式」(Leininger, 1995)とされる「文化」と強く結びついていると考えられた.地域活動に参加して得られた共同経験を通して,B地域の高齢者が共有していた「結い」の文化を取り戻したことで,B地域の高齢者の「社会的性格」が変えられ,B地域の高齢者という集団に変化がもたらされたと考えられた.

2. ソーシャル・キャピタルの醸成への示唆

B地域の高齢者にとっての地域活動への参加には,社会的文脈が深く関連していることが示唆された.人の行動は社会や文化の影響を受けるため,健康上望ましい行動をとるためには,人びとの背景にある社会的文脈のほか,その行動の優先性や競合するその他の生活行動を考慮しなければならないとされており(宗像,1996),身近な場所に人と交流し経験を共有する場所や機会がない環境,地域活動への参加より優先する趣味活動など,他の生活動機がないことが,活動への参加の促進に有効に働いたと考えられた.また,高齢者が過去に「結い」の文化を経験しており,その記憶を共有できることが〖地域の人とのつながりを取り戻す〗や〖安らぎのなかで,生きる力が湧いてくる〗に表された,他者との相互の信頼,互いを思いやり助け合う互酬性の規範などのソーシャル・キャピタルの醸成に,有効に働いたと考えられた.しかし逆説的には,地理的特性や潜在化した地域の生活の歴史などの社会的文脈が,地域活動への参加やソーシャル・キャピタルの醸成を阻害する可能性もある.ソーシャル・キャピタルを規定する要素として,地域固有の歴史,社会関係,慣習などの文脈的要素があるとされ(稲葉,2008),本研究結果でも,歴史や環境と関連した社会関係,慣習などの社会的文脈が,深く関連していると考えられた.そのため,高齢者の地域活動への参加を促し,ソーシャル・キャピタルの醸成を図るためには,社会的文脈を理解することが重要であると考えられた.その地域の環境や歴史,文化などを学び社会的文脈をよく理解し,高齢者にとっての地域活動への参加がどのような意味を持つかについて,考えることが重要であろう.

研究者に伝えたいことを自由に語ってもらった中で,70歳以上の参加者が「昔を知る人が少なくなり,自分が知っていることや,集落の文化を語り,継承したい」といった思いを語った.高齢化,人口減少などの課題に直面している現状や地域に対する思いも,地域活動への継続的な参加やソーシャル・キャピタルの醸成に寄与している可能性が考えられた.B地域でも,若い世代を中心に交流や行動の範囲が拡大し,地域の人との生活経験の共有や共同行為の機会を得ることが,難しくなっている.そのため,地域に対する思いにも個人差が広がっている.次世代に渡り,ソーシャル・キャピタルを醸成する方策を考えることが,今後の課題と考えられる.

VI. 結語

本研究は,地域活動に継続的に参加している高齢者にとっての活動に参加することの意味を社会的文脈に焦点を当てて記述することで,ソーシャル・キャピタルを醸成する地域活動の背景にある,社会的文脈を探究することを目的とした.その結果,B地域の高齢者にとって地域活動への参加は,〖日常が変わり,これまでと違う自分になる〗ことであり,〖地域の人とのつながりを取り戻す〗ことであった.またそのことによって,〖安らぎのなかで生きる力が湧いてくる〗ことであった.B地域の高齢者にとって地域活動への参加は,過去に経験した「結い」の文化を共に追憶し,失われたものを再生する共同行為により,信頼や互酬性,仲間意識などを伴う人とのつながりを取り戻し,安寧や生きる力を得られるものと考えられた.また共同経験を通して,B地域の高齢者が共有していた文化を取り戻したことで,B地域の高齢者の社会的性格が変えられ,変化がもたらされたと考えられた.本研究の結果から,社会的文脈を理解することが,地域活動によるソーシャル・キャピタルの醸成において重要であることが示唆された.

本研究は,JSPS科研費JP26671050を受けて行った.開示すべきCOI状態はない.本研究に協力するとともに私をあたたかく迎え入れ,親交を深めてくださったA村ならびにB地域の皆様に,心より感謝申し上げます.

文献
 
© 2018 Japan Academy of Public Health Nursing
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