日本公衆衛生看護学会誌
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研究
父親の親役割に対する母親の満足感と関連する要因
―未就学児をもつ親に着目して―
池田 雄二郎佐伯 和子
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2018 年 7 巻 3 号 p. 119-126

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Abstract

目的:父親の親役割に対する母親の満足感の関連要因を明らかにすることを目的とした.

方法:対象者は3~6歳の未就学児をもち,配偶者のいる母親とした.調査票は無記名自記式質問紙を用いて郵送法で回収した.調査項目は,基本属性,夫からのサポート,父親の育児参加頻度,父親の親役割に対する母親の満足感とした.分析はt検定および重回帰分析を行った.

結果:調査票は398部配付して183部回収し,うち有効回答は179部(45.0%)であった.父親の親役割に対する母親の満足感の平均得点は34.5±10.0点(10–50点満点)であり,父親の育児参加頻度(β=0.20),夫からのサポート(β=0.68)と関連していた.

考察:父親の親役割に対して母親が満足するには,父親の育児参加や夫からのサポートが重要であった.特に夫からのサポートは,育児の負担が集中している母親にとって精神的な支えとなり,安定して育児をするために重要と考えられる.

I. 緒言

日本では育児の中心は母親であり,責任や負担が集中している現状がある.6歳未満児のいる両親の1週間の平均育児時間は男性で39分,女性で3時間22分(総務省,2011)となっており,育児時間から見ても母親が主となって育児を行っている.日本では「男性は仕事,女性は家事・育児」という性別役割分業観の考えが浸透しており,2016年(平成28年)現在,この考えに賛成している者は40.6%であり(内閣府,2016),未だに4割以上の者が育児は母親の役割だと認識している.父親の生活時間に着目すると,日本では15–64歳男性の有償労働時間は471分/日とOECD諸国中で最も長く(OECD,2014),子育て世代の男性における生活時間の多くは労働時間が占めている.父親の育児参加ができない理由として「仕事で育児をする時間が取れないこと」が最多である(一般社団法人中央調査社,2012)ことから,長時間労働で育児のための時間を確保することが困難な状況である.また,女性の1日の平均家事・育児時間は子育て家庭で522.2分,非子育て家庭で292.2分であり(二方,2014),子育て世代の女性にとって育児は生活時間の多くを占めている.

こうした現状の中,育児への意識や感情の研究は育児不安や育児負担感といった否定的な側面が注目されてきた.しかし,親の多くは育児で喜びや満足感をもっており(佐藤ら,1994),親としての役割を果たしていく中で肯定的な感情も得られている.Guidubaldi et al.(1985)は親役割満足感を「親役割に関する様々な領域からなる満足感を測定するもの」と定義しており,「配偶者のサポート満足」「親としての態度満足」「親子関係満足」「家族への規律満足」「全般的満足」に分類した.親にとって子どもを育てることは人間性を豊かにする意味深い行為であるが,生涯続けていくものであり困難なこともある.そうした中でやりがいをもちながら育児をしていくために,親役割満足感に着目する必要がある.

Guidubaldi et al.(1985)の概念の中で「配偶者のサポート満足」とは配偶者の親役割に対する満足である.母親が父親からの育児支援行動を肯定的に認識することで,母親の親役割達成感を高める(中村ら,2016)ことからも,母親が自分の親役割に満足するには配偶者の親役割に対して満足することが重要である.

母親が父親の親役割に対して満足するには,父親の育児の関わり方や夫婦関係が影響する.父親の育児に対して満足している母親は,父親の「積極的な育児参加」に満足しており(藤岡ら,2013),父親ができるだけ育児に関わることを母親は求めている.しかし,父親の育児参加に対して父親と母親の評価に齟齬があり(住田ら,1999),そうした両親の意識の違いによって,母親は父親の親役割に対して満足できない可能性がある.また,母親は父親に対して親としての役割と同時に夫としての役割を期待しており,育児のこと以外にも自身の体調や人間関係など幅広く相談している(佐々木ら,2014).そのため母親は配偶者に対して,父親として育児に関わることに限らず,夫として支えてくれることも期待している.

以上のことから,母親が父親の親役割に対して満足するためには,父親の積極的な育児参加だけではなく夫としての支えも重要であると考えられるが,これらの関連を量的に捉えた研究はない.これらの関連を量的に実証することで,育児の負担が集中している母親にとって父親のどのような関わりが支えとなるか検討し,父親と母親で協働して育児をしていくための示唆を得ることができる.そこで本研究は,父親の親役割に対する母親の満足感とその関連要因を明らかにすることを目的とする.

II. 研究方法

1. 研究デザイン

本研究のデザインは,量的記述的横断研究とした.リサーチクエスチョンは1)父親の親役割に対する母親の満足感の実態を明らかにすること,2)父親の親役割に対する母親の満足感と父親の育児参加の関連を明らかにすること,3)父親の親役割に対する母親の満足感と夫からのサポートの関連を明らかにすることである.

2. 対象

対象者は3~6歳の未就学児をもつ母親であり,成人しており配偶者がいるという条件を満たす者とした.子どもの成長過程において幼児期は特に社会的発達が著しい時期であり,特に3歳児以降はコミュニケーションの幅が広がり,父親の育児の関わり方は幼児期の子どもの社会的発達に影響を与える(加藤ら,2002).そのため,両親で協働して育児をすることが子どもの成長にとって重要な時期となると考えられ,3–6歳の子どもをもつ母親を対象とした.

3. データ収集方法

1) 調査依頼

対象施設はA県内の私立幼稚園,保育園または認定こども園であり,口頭と文書で研究概要と調査の説明を行った上で,承諾を得られた4施設とした.なお,これらの施設の所在地は大都市,ベッドタウン,地方都市であった.

調査票は無記名自記式質問紙を用いて,2016年6月から8月の期間に各施設の職員が該当者へ配付し,郵送にて個別に回収した.

2) 調査項目

調査項目は,母親の基本属性,父親の基本属性,夫からのサポート,父親の育児参加,父親の親役割に対する母親の満足感から構成した.

母親の基本属性は,母親の年齢,母親の就業状況,子どもの数,同居家族,結婚年数を尋ねた.父親の基本属性は,父親の年齢,父親の就業状況,1日の労働時間を尋ねた.

父親の育児参加については,父親の育児参加測定尺度(朴ら,2011)で測定した.尺度を構成する10項目に対して「0点:やらない」から「4点:毎日・毎回している」の5段階で回答を得た.尺度得点は最低0点,最高40点である.なお,本尺度の使用許可を作成者から得た.

夫からのサポートについては,ソーシャルサポート尺度(堤ら,2000)で測定した.この尺度は,配偶者から受けるサポートを回答者がどの程度認知しているか測るものである.尺度を構成する8項目に対して「1点:まったくそうは思わない」から「4点:非常にそう思う」の4段階で回答を得た.尺度得点は最低8点,最高32点である.本研究では本尺度の作成者の許可を得て,サポートをする主語を「夫」に置き換えた.

父親の親役割に対する母親の満足感については,親役割満足感尺度(Guidubaldi et al., 1985)の下位尺度である配偶者のサポート尺度を用いた.ただし本尺度は英語であったため,日本語の翻訳と尺度の命名においては小坂(2004)の研究を参考に測定した.親役割満足感尺度は配偶者サポート,親子関係,親としての遂行,家族の規律と指揮,全体的な満足感の5つの下位尺度から構成され,親役割に対する様々な領域からなる満足感を測定する.この尺度を用いて小坂(2004)は因子分析を行い,夫の子育てへのかかわり満足,親としての態度満足,子どもとの関係満足の3因子を抽出した.尺度を構成する10項目に対して「1点:全くそう思わない」から「5点:とてもそう思う」の5段階で回答を得た.そのうち「夫は子どもの世話を十分にしていない場合が多い」「夫に親としての役割をもっと果たしてほしい」「夫がもっと積極的に子どもとの行動を共にしてくれるといいと思う」の3項目は,逆転項目として計算した.尺度得点は最低10点,最高50点である.なお,本尺度は先行研究(小坂,2004)で日本語に翻訳した尺度の妥当性について確認されていたが,著者へ問い合わせることができなかったため掲載誌の編集委員会から使用許可を得た.

4. 分析方法

父親の親役割に対する母親の満足感の関連要因における検定には,t検定と重回帰分析を行った.図1から,父親の親役割に対する母親の満足感尺度得点におけるヒストグラムは正規分布ではなかったが,尺度得点において誤差の正規性の仮定に関して頑健であったためt検定および重回帰分析を用いた(Rao, 1986).ただし,父親の親役割に対する母親の満足感尺度項目に欠損があるサンプルは分析から除外した.

図1 

父親の育児に対する母親の満足感尺度得点のヒストグラム

母親の基本属性および父親の基本属性,父親の育児参加,夫からのサポートの各変数は二群に分け,関連要因として検討した.なお,母親の年齢,父親の年齢の順序変数は中央値を基準に,子どもの数,結婚年数,父親の労働時間,父親の育児参加測定尺度,ソーシャルサポート尺度の連続変数は平均値を基準に分けた.t検定で関連が認められた変数を独立変数として強制投入法で重回帰分析を行い,関連要因を検討した.解析ソフトはSPSS ver. 22 for windowsを使用した.

5. 倫理的配慮

本研究は北海道大学大学院保健科学研究院倫理審査委員会の承認を受け(承認番号16-18,2016年6月7日)実施した.配付において配偶者のいない者に不快感を与えないようにするため,各施設と相談して対象条件を満たさない者に質問紙を渡さないようにした.本調査の結果は本研究以外に使用しないこと,匿名性を保証すること,回収した調査票は施錠可能な保管庫で管理をすること等を文書や口頭で対象者および調査施設に説明し,質問紙の回答と返送をもって調査協力への同意を得た.

III. 研究結果

調査票は398部配付し,回収数は183部(回収率46.0%),有効回答数179部(有効回答率45.0%)であった.

1. 対象者の概要

1に母親の基本属性および父親の基本属性の結果を示した.母親の年齢は20~30代が127人(71.0%),40代以上が52人(29.0%),母親の就業状況は就業している者が77人(43.0%),同居家族は核家族が146人(81.6%),三世代が27人(15.1%),その他が6人(3.3%)であった.

表1  母親の基本属性(N=179)
n (%)
M±SD
母親の年齢
20歳~24歳 2​ (1.1)
25歳~29歳 10​ (5.6)
30歳~34歳 40​ (22.4)
35歳~39歳 75​ (41.9)
40歳~44歳 43​ (24.0)
45歳以上 9​ (5.0)
母親の就業状況
就業している 77​ (43.0)
就業していない 102​ (57.0)
同居家族
核家族(配偶者と子ども) 146​ (81.6)
三世代(配偶者と子どもと祖父母) 27​ (15.1)
その他 6​ (3.3)
結婚年数
0年~5年 27​ (15.1)
6年~10年 109​ (60.9)
11年~15年 32​ (17.9)
16年以上 11​ (6.1)
平均結婚年数 8.8±2.6年
子どもの数a
1人 49​ (27.5)
2人 99​ (55.6)
3人 22​ (12.4)
4人以上 8​ (4.5)
平均人数 1.9±0.5人
父親の年齢
~24歳 0 (0.0)
25歳~29歳 6 (3.4)
30歳~34歳 34 (19.0)
35歳~39歳 65 (36.3)
40歳~44歳 44 (24.6)
45歳以上 30 (16.7)
父親の労働時間b
~8時間 34 (19.7)
9時間~10時間 72 (41.6)
11時間~12時間 49 (28.3)
13時間以上 18 (10.4)
平均労働時間 10.8±2.2点

a N=178

b N=173

父親の年齢は20~30代が105人(58.7%),40代以上が74人(41.3%),労働時間は平均10.4±2.3時間/日であった.

2. 父親の育児参加

父親の育児参加測定尺度の平均点は,16.1±8.2点であった.最低点は0点,最高点は40点であった.

3. 夫からのサポート

ソーシャルサポート尺度の平均点は,25.3±5.2点であった.最低点は8点,最高点は32点であった.なお,本尺度の信頼性はα=0.888であった.

4. 父親の親役割に対する母親の満足感

尺度の有効回答の中で,合計得点のヒストグラムを図1に示し,各項目の回答の内訳を表2に示した.平均点は34.5±10.0点であった.なお,本尺度の信頼性はα=0.934であった.

表2  父親の親役割に対する母親の満足感(N=179)
とてもそう思う ややそう思う どちらでもない あまりそう思わない 全くそう思わない
n (%) n (%) n (%) n (%) n (%)
夫が子どもとの間に築いている関係を好ましいと思う 69 (38.5) 62 (34.6) 24 (13.4) 16 (8.9) 8 (4.5)
夫の子どもに対する関心度には満足している 65 (36.3) 56 (31.3) 20 (11.2) 24 (13.4) 14 (7.8)
夫は子育てに十分に責任を感じている 71 (39.7) 58 (32.4) 20 (11.2) 18 (10.1) 12 (6.7)
夫の子育て能力に対して満足しているa 50 (27.9) 65 (36.3) 21 (11.7) 23 (12.8) 18 (10.1)
夫が子どもに対して費やしている時間の長さに満足している 34 (19.0) 48 (26.8) 27 (15.1) 46 (25.7) 24 (13.4)
夫は子どもの世話を十分にしていない場合が多いb 19 (10.6) 35 (19.6) 25 (14.0) 59 (33.0) 41 (22.9)
夫は親であることが人生において重要であり,価値があると思っている 56 (31.3) 55 (30.7) 27 (15.1) 28 (15.6) 13 (7.3)
夫は子どもの成長について十分な知識をもっているため,親として安心感をもっているようである 23 (12.8) 53 (29.6) 55 (30.7) 38 (21.2) 10 (5.6)
夫に親としての役割をもっと果たしてほしいb 19 (10.6) 38 (21.2) 39 (21.8) 47 (26.3) 36 (20.1)
夫がもっと積極的に子どもとの行動を共にしてくれるといいと思うb 38 (21.2) 49 (27.4) 30 (16.8) 40 (22.3) 22 (12.3)

a N=177

b 逆転項目

「とてもそう思う」から「ややそう思う」(逆転項目は「あまりそう思わない」から「全くそう思わない」)の回答を合わせて60%以上の項目は,「夫が子どもとの間に築いている関係を好ましいと思う」(73.1%),「夫の子どもに対する関心度には満足している」(67.6%),「夫は子育てに十分に責任を感じている」(72.1%),「夫の子育て能力に対して満足している」(64.2%),「夫は親であることが人生において重要であり,価値があると思っている」(62.0%)であった.

5. 父親の親役割に対する母親の満足感との関連要因

父親の親役割に対する母親の満足感尺度との関連要因を表34に示した.t検定において母親の基本属性,父親の基本属性は,父親の親役割に対する母親の満足感と有意に関連していなかったが,父親の育児参加測定尺度得点(P<0.001),夫からのサポート得点(P<0.001)は父親の親役割に対する母親の満足感と有意に関連していた.

表3  父親の親役割に対する母親の満足感の関連要因(N=179)
n 尺度得点
M±SD
P
母親の基本属性
母親の年齢 20~30代 127 34.3±9.9 0.194
40代以上 52 35.1±10.4
母親の就業状況 就業している 77 34.1±10.6 0.585
就業していない 102 34.9±9.5
同居家族a 核家族 146 35.0±9.9 0.587
三世代 27 33.8±11.0
結婚年数 0~8年 96 33.9±10.4 0.342
9年以上 83 35.3±9.5
平均年数 8.8±3.4年
子どもの数b 1人 49 35.4±9.3 0.459
2人以上 129 34.1±10.2
平均人数 2.0±0.8人
父親の基本属性
父親の年齢 20~30代 105 34.9±10.0 0.621
40代以上 74 34.1±10.0
父親の労働時間a 10時間以下 106 35.4±9.8 0.090
11時間以上 67 32.8±10.3
平均得点 10.4±2.3点
父親の育児参加測定尺度得点c 16点以下 87 29.9±9.8 <0.001
17点以上 88 38.7±8.1
平均得点 16.1±8.3点
相関係数 0.560 <0.001
夫からのサポート尺度得点b 25点以下 92 28.4±9.0 <0.001
26点以上 86 41.1±6.2
平均得点 25.3±5.2点
相関係数 0.769 <0.001

a N=173 b N=178 c N=175      t検定

                  Spearmanの相関分析

表4  父親の親役割に対する母親の満足感の関連要因(N=175)
非標準化係数 標準化係数 P
B SE B β
(定数) –2.46 2.27
父親の育児参加頻度 0.24 0.07 0.20 <0.001
夫からのサポート 1.30 0.10 0.68 <0.001
調整済みR2 0.649(P<0.001)

注)重回帰分析

また,重回帰分析においてはt検定で関連が見られた父親の育児参加頻度得点と夫からのサポート得点を変数に投入した.モデルの適合度はR2=0.645(P<0.001)であり,父親の育児参加頻度得点と夫からのサポート得点は父親の親役割に対する母親の満足感得点の64.5%を説明していることを示していた.

IV. 考察

1. 対象者の特性

本研究の対象者は,3~6歳の未就学児をもつ母親であった.母親と父親の年齢は30代でそれぞれ64.5%,54.1%,40代以上でそれぞれ28.9%,42.0%を占めていた.日本の第1子の平均出生年齢は平成27年で夫32.7歳,妻30.7歳(厚生労働省,2017)であることから,3~6歳の未就学児をもつ母親とその配偶者としては平均的な年齢層であったと考えられる.また,調査依頼先は私立の幼稚園,保育園および認定こども園であった.これらの保育料の平均は約3.1万円で,A県B市のホームページによると市立幼稚園の平均が1.5万円であることから,一般的な集団と比較して安定した経済基盤の集団を対象としていた可能性がある.

父親の育児参加測定尺度得点の平均は16.1点であり,保育園児の父親を対象にした先行研究(朴ら,2011)における平均点(18.9点)と比べて低い値を示していた.父親の育児参加に対して父親と母親の評価に齟齬がある(住田ら,1999)という先行研究の知見を踏まえると,この結果は朴らの父親を対象とした研究と比較し,回答者が母親であったことで得点にそれぞれ特徴が見られたと考えられる.

ソーシャルサポート尺度得点の平均は25.3点であり,34~72歳の男女が配偶者について回答した先行研究における平均点(23.4点)と同程度の得点であった.

2. 父親の親役割に対する母親の満足感の実態

父親の親役割に対する母親の満足感尺度得点の平均点は34.5±10.0点であった.この結果は6週間~38歳の子どもをもつ両親を対象にした先行研究(Guidubaldi et al., 1985)における平均点(32.4±6.0)と同等の値を示していた.

父親の親役割に対する母親の満足感尺度における項目のうち肯定的な回答が多かった項目は,「夫が子どもとの間に築いている関係を好ましいと思う」「夫の子どもに対する関心度には満足している」「夫は子育てに十分に責任を感じている」「夫の子育て能力に対して満足している」「夫は親であることが人生において重要であり,価値があると思っている」であった.この結果から,父親の親としての態度や責任感といった面では母親は肯定的に評価していたといえる.

また,肯定的な回答が50%以下であった項目は,「夫がもっと積極的に子どもとの行動を共にしてくれるといいと思う」「夫が子どもに対して費やしている時間の長さに満足している」「夫は子どもの成長について十分な知識をもっているため,安心感をもっているようである」「夫に親としての役割をもっと果たしてほしい」であった.父親の親役割を果たす時間など量的な参加については,母親の満足度が低い傾向にあった.このことは,母親が父親に対して積極的に育児に関わることに期待感をもっていることを示唆している.しかし,父親の労働環境により育児の時間を確保するのが困難な状況であるため,母親が期待する父親の育児に関わる時間と実際の父親の参加状況に齟齬が生まれやすいと考えられる.

3. 父親の親役割に対する母親の満足感の関連要因

母親の基本属性及び父親の基本属性は父親の親役割に対する母親の満足感とは有意に関連していなかった.母親が就業していれば父親はより育児に参加しており(本保ら,2003深川ら,2016),父親が長時間労働により育児参加ができない(中央調査社,2012)と言われている.そのため,母親の就業状況や父親の労働時間は父親に対する母親の満足感と関連すると考えられたが,本研究とは異なる結果であった.父親や母親が育児をする環境によらず,その中で父親がどのように親役割を果たしているかが母親の満足感においては重要であったと考えられる.

重回帰分析では,夫からのサポートと父親の育児参加頻度いずれも父親の親役割に対する母親の満足感と有意に関連していたが,特に夫からのサポートは強く関連していた.子育てをしている母親の悩みは,「子育てで出費がかさむ」「子どもが言うことを聞かない」「気持ちに余裕をもって子どもに接することができない」「自分の自由な時間が持てない」(工藤,2016)など,子育てそのものに関する悩みだけではなく母親自身の生活についての悩みも大きい.夫として母親のために相談に乗ったり時間をつくったりすることで母親の精神的な支えとなり,父親としての評価も高くなったと考えられる.育児における最大の相談者であり協力者は夫であり(河野ら,2014),夫からのサポートのあるものは育児不安が低いという報告があり(寺田ら,2013),本研究においても夫婦関係における夫のサポートが母親の満足感を高めていた.夫婦関係の調和が幼児期の母子愛着関係を安定させており(数井ら,1996),夫婦で協働して育児ができることは子どもの発達においても重要である.協働して育児をするには互いの親役割に対して満足できることが重要であるが,本研究で父親の育児参加頻度の高さよりも,夫婦として夫に支えてもらえていることが重要であることが明らかとなった.

以上より母親が父親の親役割に対して満足するには,父親の育児参加や夫からのサポートが重要であることが量的に検証された.母親に育児の負担が集中する現状の中,両親で協働して育児をするためには父親に積極的な育児を勧めるばかりではなく,夫婦として支え合うことが重要であることが示唆された.

4. 提言

上記の結果と考察から,以下のことを提言する.

父親の積極的な育児参加は母親にとって期待感が高く,育児に対する態度には満足できていたため,父親は育児の時間が限られていてもその中で積極的な姿勢で関わっていくことが重要である.また,積極的に育児に関わることが困難な状況であっても,母親の立場を理解して夫として支えることによって,母親は精神的に安定して育児ができる.そのようにして夫婦の関係を築いていくことは,お互いの育児における負担を分かち合うことが期待でき,両親で協働して育児をするために重要である.

母親は,父親が積極的に育児に参加できていなくても,父親の親としての意識や役割の果たし方,夫から得られているサポートといった肯定的な面に着目することが重要である.そうすることで母親の父親に対する満足感を高め,父親の育児の関わりにおける認識に対して両親で齟齬を少なくできる可能性がある.お互いの齟齬を少なくすることで精神的に安定して育児をすることができ,夫婦で協働して育児ができることが期待される.

専門職は母親が精神的に安定した状態で育児ができるよう支援するために,父親の育児の関わり方とそれを母親がどのように認識しているか着目することが重要である.母親が育児に負担を感じている場合や父親に対する不満が大きい場合には,父親の育児参加状況だけではなく,夫としての支えを得られているか確認し,それぞれの夫婦に合った協働した育児ができるよう支援することが必要である.

5. 研究の限界

本研究の調査対象者は母親であったため,父親の視点から育児参加頻度や妻へのサポートについて検討しておらず,母親の立場からの評価である.今後父親の視点から育児に対する考えや参加量,母親の育児に対する満足感について明らかにすることで,父親と母親が協働して育児するためにはどのようなことが重要であるのか更に検討する必要がある.さらには,ワーク・ライフ・バランスの観点からも育児支援について検討していきたい.

V. 結語

1.母親は父親の親役割に対して育児への態度の面で満足度が高く,参加頻度の面で満足度が低い傾向にあった.

2.母親の基本属性及び父親の基本属性は,父親の親役割に対する母親の満足感と有意に関連していなかった.

3.父親の育児参加頻度と夫からのサポートは,父親の親役割に対する母親の満足感と関連しており,特に夫からのサポートとの関連が強かった.

謝辞

業務でお忙しい中,本研究にご協力してくださった幼稚園長,保育所長をはじめとする職員の皆様,調査票に回答してくださった保護者の皆様,フィールドワークにて意見を下さったA市子育て支援センターの職員や来所者の方々に心より感謝いたします.

なお,本研究は北海道大学大学院保健科学院に提出した修士論文の一部を加筆修正したものであり,第5回日本公衆衛生看護学会学術集会で発表した.なお,本研究における開示すべき利益相反状態はない.

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