Japanese Journal of Public Health Nursing
Online ISSN : 2189-7018
Print ISSN : 2187-7122
ISSN-L : 2187-7122
Research Article
“Strength of Community” Enhanced by Public Health Nursing
—Conceptualization based on Literature Analysis—
Reiko OkamotoKeiko KoideSaori IwamotoKayoko GodaMasako KageyamaMisa ShiomiEmiko KusanoMai TokimasaMiho Tanaka
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2019 Volume 8 Issue 1 Pages 12-22

Details
Abstract

目的:本研究の目的は,公衆衛生看護が関わる地域の強み,即ち,地域の最良の健康というアウトカムに向けてポジティブヘルスを推進する地域の潜在力を概念化することである.

方法:研究方法は,関連24文献から抽出した主題に関する記述内容の分析である.

結果:【地域の強み】である[先行する住民の状態]として《歴史・風土への愛着》《文化継承・地域創造の信念》《全員大事の価値観》,[住民の状態]としては,《連帯・助け合い力》《パートナーシップ形成力》《資源発掘・活用力》《折り合い・統制力》《キャパシティ発展力》《意思決定・組織的推進力》が,[住民の周辺状況]としては《地区組織》《支援体制》《ネットワーク》が抽出された.地域の最良の健康に向けた過程には【気づき】,【結集】が抽出された.

考察:結果から,公衆衛生看護が関わる地域の強みとして多様な概念が抽出された.今後,これらを高めるための効果的な支援方法を明確にしていく必要がある.

I. 緒言

1. 地域の強みを高める公衆衛生看護の必要性

公衆衛生看護は,社会的公正を活動の規範とし,あらゆる個人と家族,コミュニティ(集団,組織,地域)を対象に,対象の能力の向上と対象を取り巻く環境の改善に向けて展開される(日本公衆衛生看護学会,2014).その活動は,人々の生命の延伸と社会の安寧,つまり地域の最良の健康を目指すものである.英国のCowley et al.(2006)は,公衆衛生看護実践を支える7つの信念を定義しており,それらにはポジティブヘルス(地域の健康づくりに効果的な社会的・私的資源を最大化すること),エンパワメント(健康に向かう気づきと主体的参加,意思決定を促進すること),地域のパートナーシップと参加(地域・関係職種の協働による能力拡大の機会とアクセスを最大限化すること)が含まれている.岡本ら(2007)が明らかにした「今特に強化が必要な行政保健師の5つの専門能力」のひとつにも「住民の力量を高める専門能力」が抽出されている.これらより公衆衛生看護の実践においては,よりポジティブヘルスの方向に,地域に働きかけ,その能力や資源,すなわち地域の強みを高めていく技術が欠かせないと考えられる.

2. 公衆衛生看護が関わる地域の強みとは

そもそも公衆衛生看護が関わる地域の強みとは何を指すのであろうか.

ポジティブヘルスに向かう個の強み,ヘルスアセッツに着目した看護研究,Rotegard et al.(2010)の概念分析において,個の強みは「ポジティブヘルス行動および最良の健康/ウェルネスというアウトカムに向けて結集する個人が持つ様々な潜在力」という定義が導き出されている.それは,個人が先天的あるいは後天的に所有する内的・外的な資質であるという.この研究の背景には,対象者中心のケア推進においては問題解決型の看護だけでは不十分という反省から,潜在する個の強みであるヘルスアセッツを構成する概念を明確にし,ポジティブヘルス行動を導こうという意図がある.

一方,地域におけるアセットについて,尾島(2011)は,地域保健活動を活性化するために重要と述べている.しかし,地域住民中心の活動推進においても,問題解決型だけでは不十分という反省があるにもかかわらず,地域の強みを構成する概念は未だ明らかにされていない.

これらをもとに検討し,本稿では,「公衆衛生看護が関わる地域の強み」を「地域の最良の健康というアウトカムに向けてポジティブヘルスを推進する地域の潜在力」と定義した.ポジティブヘルスとは,負の状態(Negative)の解消,つまり病気をなくすという疾病予防の向きではなく,正の状態(Positive)への増進,即ち人々がよりよく生きる・生きがいを増大するという向きを示している(Downie et al., 1990).

3. 地域の強みに着目する難しさ

世界保健機構(以下WHO)の健康の定義(1946)においても,健康とは,「単に病気や虚弱でないだけでなく」という負の状態から脱する向きと,「身体的・精神的・社会的に良好な状態」という,より正の状態を増進する向きが示されている.しかしながら,一方で,看護の初学者が陥りやすいアセスメントの課題として「問題探し中心」になりやすい(中西,2010)ことが指摘されており,これは,現行の教育において,ポジティブヘルスのアセスメントが確立されていないことを示唆している.この背景には,疾病構造が単純であった頃の保健医療が,問題や欠陥に焦点をあてたアプローチ(problem-focused/deficiency-based approach)を主流としており,まずネガティブな点に着目する文化が現在も根強く定着している点があげられる(Sharpe et al., 2000).しかし負の状態に着眼した活動は,正の状態への変化を抑制する可能性があり,ヘルスプロモーション対策を展開するうえでの批判を免れない.地域で主体的に生活する住民あるいは職場で働き社会を支えている人々を対象とする公衆衛生看護においては,まずその正の状態を理解し,活かす視点を持つことが重要である.つまり,地域の強みを活かした公衆衛生看護を展開するためには,まず,公衆衛生看護によって高めるべき地域の強みとは何かを明確にし,適切にアセスメントできるようにすることが求められる.

4. 目的

そこで本研究の目的は,公衆衛生看護が関わる地域の強み,即ち地域の最良の健康というアウトカムに向けて「ポジティブヘルスを推進する地域の潜在力(以下,地域の強みと略)」とは何かを文献から読み取ることとし,考察ではその概念の定義を試みる.本研究の意義は,地域の強みを概念化することが,公衆衛生看護が対象とする地域の人々への理解を深め,アセスメントから支援展開に至る技術を開発する一助となることであり,ひいては住民主体のポジティブヘルス推進に寄与することである.

なお,公衆衛生看護活動は,国の文化や風土,法制度などの影響を受けることから,本研究では日本の公衆衛生看護に限定することとした.本稿において,住民とは地域を構成する人々,地域とは公衆衛生看護の活動単位となるコミュニティ(集団・組織・地域)と定義する.本稿ではコミュニティの大小や特定の場を想定していない.

II. 方法

1. 研究方法

本研究は文献の記述内容をデータとする文献研究である.文献を用いる理由は,WHOがオタワ憲章(1986)を提唱して以降,各国でヘルスプロモーション戦略が展開され,日本においても2000年に健康日本21が始まって以降相当の年月が経過し,関連する公衆衛生看護の実践報告,研究報告が一定数集積されていることから,本研究テーマに関する内容の抽出が可能と考えたからである.

2. データ収集方法

文献は2015年10月に収集した.医中誌Webを用い2015年10月から過去10年間の文献を,会議録を除いて,強み/エンパワ/ポジティブヘルスAND住民/人/保健師にて,タイトル検索したところ,重複を省き112文献が該当した.このうち強みが地域に関する内容ではないものを除くと35文献であった.さらにこれらの本文中に,何を地域の強みと捉えているかに関する記述のないものを除くと24文献(研究論文・事例分析13,解説6,実践事例5)であり,該当する記述内容をデータとした.

3. 分析方法

1文献につき3名以上の研究者で文献を精読し,地域の最良の健康というアウトカムに向けた地域の強みに該当すると読み取れた内容を抽出し,1つにつきエクセルの1セルに転記し,各々についてその意味内容を損なわないよう簡潔に整えコード化した.この際,それぞれの地域の強みの主語が「地域を構成する人々」または「地域」であること,内容がその状態像を表していること,異なる意味内容を含む文は分けて抽出することを確認しながら行った.

次に,類似する内容に同番号を振り,ソートしたあと,同番号の内容を比較検討して生成されたまとまりをサブカテゴリに統合し,さらにそれらの類似性・共通性を読み取り,生成されたまとまりをカテゴリに統合した.その後カテゴリの構成を,時間軸と内容の特徴,およびその関係性に基づいて分類したあと,それらの構造を各々の概念の相互作用や位置関係を検討し視覚的に組み立てた.一連の分析過程では著者らが意見交換を重ねることによって信用性の確保に努めた.全員が公衆衛生看護学研究の実施者で,かつ質的研究の実技研修に2回以上の参加経験があり,うち8名は質的研究の原著論文筆頭著者および保健師の経験,7名は博士号を持つメンバーであった.

4. 倫理的配慮

本研究は文献の記述内容をデータとしており,人を対象とした倫理指針に基づく倫理的配慮を要する研究には該当しない.

III. 結果

地域の強みに関する内容は,24文献より115のコードが抽出され,それらは32のサブカテゴリ,さらに16のカテゴリに統合された(表1).16のカテゴリの構成は,地域の強みである先行する住民の状態(3)・住民の状態(6)・住民の周辺状況(3),および気づき(2)・結集(2)に分けられた(括弧内はカテゴリ数).前3者は,地域の強みそのものに該当する内容であり,後2者はその地域の最良の健康というアウトカムに向けた過程(以下,アウトカムに向けた過程と略)に該当する内容であった.以降,構成を【 】と[ ],カテゴリを《 》,サブカテゴリを〈 〉で示した.

表1  公衆衛生看護が関わる地域の強み(=地域の最良の健康というアウトカムに向けてポジティブヘルスを推進する地域の潜在力)
カテゴリ サブカテゴリ コードa) 文献
地域の強み(ポジティブヘルスを推進する地域の潜在力) 先行する住民の状態 1 歴史・風土への愛着 地域の歴史・文化・自然への慈しみ 地域の資源である歴史・文化・自然の良さに気づいている 高木,2006
安心して暮らせる地域文化がある 中山,2006
地域への愛着 地域への愛着を持っている 高木,2006
2 文化継承・地域創造の信念 主体的に地域をより魅力的に創造する信念 自分たちが主体となって地域をよくしたいという思いや考えがある 福本ら,2014
地域をより魅力化しようとしている 杉澤ら,2006
地域活動を継続し自信とともに若い世代に継承する信念 自分たちが主体となって若い世代につなげたいという思いや考えがある 福本,2014
互いの気持ちの相乗効果により地域活動を継続している 西山ら,2007
活動を通して自信を獲得している 高木,2006
3 全員大事の価値観 すべての住民への信頼と尊重 住民全員を尊重し、その潜在能力を信じている 中山,2006
構成員各々の気持ちや意見を尊重している 中山,2007
平等で公正に関わる価値観 平等で公正な価値観を持っている 中山,2006
自らの権利を弁護・擁護する力を持っている 大木,2010b
住民全員の健康を目指す意識 住民全員の健康づくりをめざす意識を持っている 大池ら,2006
住民の状態 1 連帯・助け合い力 連帯感に基づく助け合い・協力 住民の問題は自分の問題でもあると思っている 渡辺,2012
困っている住民を無視しない 渡辺,2012
地域で生じた問題について,同じようなことを起こしてはならないという強い気持ちがある 景山ら,2008
共通の動機、目的を持って協力することを目指している 成木,2008
協働・連帯意識がある 大池ら,2006
やりがい・喜びを共有する参加と交流 多くの顔見知りを持っている 高木,2006
多くの知り合い・友人を持ち交流している 福本,2014
住民同士の交流を持っている 杉澤ら,2006
地域に参加している 中山,2006
住民の地域活動への参加を促している 中山ら,2006
参加する活動へのやりがい・喜びを共有している 中山,2007
助け合いへの参加意識の進展 住民支援活動への参加意識がある 渡辺,2012
(リーダー・コアメンバーとして)組織の自立性を引き出している 大木,2010b
構成員間の相互支援を促進している 大木,2010b
双方的な支援を試みている 中山,2006
住民支援への参加者を増やしている 渡辺,2012
他者との相互作用において「対話と気づき」を持っている 尾形ら,2006
相互作用による成長と相互扶助を醸成している 中山ら,2006
2 パートナーシップ形成力 目標達成に向けた多様なパートナーシップ形成 参加する組織の各構成員が柔軟に協力し合える関係にある 中山,2007
仲間と協働して成し遂げる気持ちがある 山田ら,2007
他者と協働して目標を達成しようとしている 山田ら,2007
地域の課題解決を語り合う専門家とのパートナー関係がある 大木,2010a
参加する組織において、関係者・機関と協働のパートナーを担っている 大木,2010d
パートナーの判断とパートナーシップの形成 参加する組織において行政・専門家とのパートナーシップを形成している 中山,2007
他の住民組織等とのパートナーシップを形成している 中山,2007
関係者・機関とパートナーシップを形成している 中山ら,2006
リーダー・コアメンバーが組織構成員間の相互作用を高めている 大木,2010b
交流の行動範囲を広めている 福本ら,2014
参加する組織においてほかの組織へのつながりをつけている 野呂,2006
3 資源発掘・活用力 ヘルスリテラシー(健康を保つ力) 健康に関する認識(情報・専門家・サービス活用)を持っている 中山ら,2006
支援的な環境や情報に接近している 中山,2006
プラス思考で様々なものを再発見しようと意識している 高木,2006
情報収集・活用 住民に役立つ情報にアンテナを張っている 渡辺,2012
住民に役立つ情報提供をしている 渡辺,2012
情報支援を充実しようとしている 杉澤ら,2006
地域への情報発信機能を高めている 大木,2010b
人的資源発掘・活用 地域を構成する住民1人ひとりの良さに気づいている 高木,2006
地域に役立つ自分を認識している 渡辺,2012
住民の困りごとの代弁(役場などへ)をしている 渡辺,2012
地域で支え合う人材を育成しようとしている 杉澤ら,2006
スタッフとの交渉をしている 中山,2006
資源動員・活用 資源に接近している 中山,2006
資源を動員し活用している 高野,2011
4 折り合い・統制力 決定要因の統制力 自らの健康を決定する要因をコントロールしている 中山,2006
自分の生活を決定する要因をコントロールしている 山田ら,2007
課題への折り合い力 解決できない課題については折り合いをつけようとしている 藤内,2006
自分の生活について意思決定し制御できていると感じている 中山,2006
5 キャパシティ発展力 主体的な健康づくり志向の醸成 健康に関する興味・関心が湧いている 福本ら,2014
健康課題解決への志向性がある 久乗ら,2013
地域の健康課題解決に志向性がある 福本ら,2014
健康づくりへの主体性がある 大池ら,2006
健康づくりへの主体的意欲がある 山田ら,2007
信頼関係のもと自分にできることをやろうとしている 高橋,2006
自己洞察力を獲得している 大池ら,2006
主体的な健康づくりに向けた目標の意識化 地域の構成員で協働できるテーマに気づく 大木,2010c
自分を客体視し問題を意識化している 中山,2006
無理なく健康づくり活動を継続する意思がある 渡部,2006
一貫性を持って自分の潜在能力を発揮しようとしている 中山,2006
健康な選択に向けた機会の拡充 選択肢を増やしている 中山,2006
健康な選択をするための機会を持っている 中山,2006
健康な選択に向けた技術の獲得 健康づくりを推進する人材として成長している 久乗ら,2013
自らの生活上の問題を主体的に解決する力を獲得している 景山ら,2008
課題を自ら発信できている 大木,2010b
健康な選択をするための生活技術を獲得している 中山,2006
6 意思決定・組織的推進力 地域の健康課題解決に向けて組織的に動く可能性 地域の問題に意見を言っている 渡辺,2012
仲間と課題を共有して活動している 野呂,2006
学習を通して共通の健康課題を明確化し共有している 中山,2007
集団として置かれた状況を批判的に分析し共通の課題に気づく可能性がある 中山,2006
自らその不平等とその真の要因(社会的要因)に気づく可能性がある 中山,2006
共通の課題を解決しようとする可能性がある 景山ら,2008
社会のありようを変えるための行動を組織的に起こせる可能性がある 中山,2006
地域全体の気運が高まる可能性がある 大木,2010c
健康づくりへの意思決定力 健康づくりに向けた活動目的を明確にしている 中山,2007
新たな取り組みに向けて地域にキーパーソンがいる 大木,2010c
コミュニティにリーダーシップをとる人材がいる 成木,2008
住民にリーダーシップがある 中山ら,2006
民主的に合意形成している 中山,2007
住民の周辺状況 1 地区組織 社会資源となる地区組織 住民組織が得意分野を持つメンバーで構成されている 西山ら,2007
地域に住民組織の取り組みがある 大木,2010c
地域の社会資源として住民組織の活動がある 福本ら,2014
住民自治を推進する地区組織 リーダーシップをとるメンバーと軌道修正をするメンバー、郷土愛を熱く語るメンバーがいる 西山ら,2007
地域に住民自治を支える各種住民自治組織がある 藤内,2006
2 支援体制 地域の多様な支援体制 地域に相互支援体制がある 杉澤ら,2006
地域の支援システムがある 中山ら,2006
安心・安全を支える地域システムがある 杉澤ら,2006
3 ネットワーク 地域の多様なネットワーク 地域の支援ネットワークがある 中山ら,2006
社会的ネットワークが強化されている 中山,2006
地域にキーパーソンや地区組織との経路がある 大木,2010a
アウトカムに向けた過程b) 気づき 1 地域の強みの認識 (同左) 地域住民の内なる生きる力に気づいている 高野,2011
住民の力を健康づくりに生かそうとしている 渡部,2006
2 地域の強みのアピール (同左) 活動や成果を確認しアピールしている 中山,2007
結 集 1 ポジティブヘルス推進活動の継続 (同左) 健康な生活に向けて主体的に取組んでいる 杉澤ら,2006
力を結集し,必要に応じて,専門家や行政の力を借りながら,地域の課題を解決している 藤内,2006
地域全体の健康課題解決のために役割を担っている 中山,2007
持っている力を地域の目標達成のために発揮している 山田ら,2007
地域で協働して活動している 大木,2010a
自己決定している 萱間,2007
活動の成果を認識し肯定的に評価している 高野,2011
活動に参加し相互扶助の醸成や社会資源の改善に貢献している 中山,2006
2 保健計画立案への参画継続 (同左) 保健計画等の立案・推進過程に参加している 中山,2007
コミュニティレベルでの決定や資源の再配分に貢献している 中山,2006
計画策定に参加し、健康づくり・場づくり・ネットワークの拡大に貢献している 西山ら,2007

a)主語は「住民(地域を構成する人々)」または「地域(公衆衛生看護の活動単位となるコミュニティ[集団・組織・地域])」である.

b)地域の最良の健康というアウトカムに向けた過程(アウトカムに向けた過程)は,住民(地域を構成する人々)や関係者との連携・協働の中で進むため,「住民の状況」「住民の周辺状況」などに特定できない.

1. 地域の強み

1) 先行する住民の状態

【地域の強み】である[先行する住民の状態]には,《歴史・風土への愛着》があり,〈地域の歴史・文化・自然への慈しみ〉の気持ちと,〈地域への愛着〉を持つという状態が含まれていた.《文化継承・地域創造の信念》には〈主体的に地域をより魅力的に創造する信念〉と〈地域活動を継続し自信とともに若い世代に継承する信念〉,《全員大事の価値観》には〈すべての住民への信頼と尊重〉と〈平等で公正に関わる価値観〉,〈住民全員の健康を目指す意識〉という状態が含まれていた.

2) 住民の状態

【地域の強み】である[住民の状態]には,《連帯・助け合い力》があり,〈連帯感に基づく助け合い・協力〉と〈やりがい・喜びを共有する参加と交流〉,〈助け合いへの参加意識の進展〉のある状態が含まれていた.《パートナーシップ形成力》には〈目標達成に向けた多様なパートナーシップ形成〉と〈パートナーの判断とパートナーシップの形成〉,《資源発掘・活用力》には〈ヘルスリテラシー(健康を保つ力)〉と〈情報収集・活用〉,〈人的資源発掘・活用〉,〈資源動員・活用〉,《折り合い・統制力》には〈決定要因の統制力〉と〈課題への折り合い力〉がある状態が含まれていた.《キャパシティ発展力》には〈主体的な健康づくり志向の醸成〉と〈主体的な健康づくりに向けた目標の意識化〉,〈健康な選択に向けた機会の拡充〉,〈健康な選択に向けた技術の獲得〉,《意思決定・組織的推進力》には〈地域の健康課題解決に向けて組織的に動く可能性〉と〈健康づくりへの意思決定力〉がある状態が含まれていた.

3) 住民の周辺状況

【地域の強み】である[住民の周辺状況]は,《地区組織》として〈社会資源となる地区組織〉と〈住民自治を推進する地区組織〉,《支援体制》として〈地域の多様な支援体制〉,《ネットワーク》として〈地域の多様なネットワーク〉が存在するという状況があった.

2. 地域の最良の健康というアウトカムに向けた過程

1) 気づき

アウトカムに向けた過程における【地域の強み】の【気づき】には,《地域の強みの認識》,《地域の強みのアピール》が含まれていた.

2) 結集

アウトカムに向けた過程における【地域の強み】の【結集】には,《ポジティブヘルス推進活動の継続》,《保健計画立案への参画継続》が含まれていた.

3. 公衆衛生看護が関わる地域の強みの構造

次に,カテゴリ化した各々の概念の構造を検討した結果を示す(図1).公衆衛生看護は,【地域の強み】を【結集】して地域の最良の健康という【アウトカム】を目指す.この際,住民の自発的な参画を確実にするために,住民自らの【地域の強み】への【気づき】を促す.このことから,最上位に【アウトカム】を置き,【地域の強み】を下にまとめ,アウトカムへの過程を示す【気づき】と【結集】をその上に配置し,矢印を付した.【地域の強み】である[先行する住民の状態]については,土台となる住民の状態であるので下に置き,[住民の状態]と[住民の周辺状況]をその上に配置した.それぞれが相互に関連して【地域の強み】となっていることから双方向の矢印を付した.

図1 

公衆衛生看護が関わる地域の強み(地域の最良の健康というアウトカムに向けてポジティブヘルスを推進する地域の潜在力)の構造

IV. 考察

1. 公衆衛生看護が関わる地域の強みの特徴

カテゴリ化された各々の概念について,サブカテゴリとコードの読み取りから定義を検討し表2にまとめた.ここでは.住民(地域を構成する人々)や地域の状態を表す主な概念として,コミュニティ・エンパワメント,ソーシャルキャピタル,ストレングスを取り上げ,本稿でカテゴリ化された公衆衛生看護が関わる地域の強み,即ち地域の最良の健康というアウトカムに向けてポジティブヘルスを推進する潜在力とこれらの概念を比較し特徴を検討した.

表2  公衆衛生看護が関わる地域の強み(=地域の最良の健康というアウトカムに向けてポジティブヘルスを推進する地域の潜在力)a)の概念
概 念 定 義
地域の強み(ポジティブヘルスを推進する地域の潜在力) 先行する住民の状態 歴史・風土への愛着 地域の歴史や自然を慈しみ,ここで安心して暮らし続けたいと願う気持ちが住民にある状態
文化継承・地域創造の信念 若い世代に地域の文化を継承し,より魅力的な地域を創造していこうという能動的な気持ちが住民にある状態
全員大事の価値観 相互に信じ尊重して,平等かつ公正にみんなの思いや健康が大切という気持ちが住民にある状態
住民の状態 連帯・助け合い力 相互に交流し,連帯感のもと,参加し,助け合い,協力することにやりがいを感じ,喜びを共有し合える力が住民にある状態
パートナーシップ形成力 目標達成に向け求められる多様な人・組織・機関と垣根なく交流・対話し,柔軟に協働関係を形成していく力が住民にある状態
資源発掘・活用力 役立つあらゆる情報にアンテナを張り,必要に応じどんな資源でも探り,掘り出し,臨機に活用していく力が住民にある状態
折り合い・統制力 解決が難しい課題や困難な状況があっても,折り合いをつけながら前向きにコントロールしていく力が住民にある状態
キャパシティ発展力 健康づくり推進の力量を拡げるために相互に意識を醸成し,より健康な選択や技術獲得の機会を持ち続ける力が住民にある状態
意思決定・組織的推進力 地域の健康課題を共有し,よりよい方向への目的・目標を意思決定し,合意形成のもと組織的に活動する力が住民にある状態
住民の周辺状況 地区組織 地域の最良の健康に向けて,地域の強みに気づき,それらが発揮されることに貢献する多様な地区組織がある状態
支援体制 地域の最良の健康に向けて,地域の強みに気づき,それらが発揮されることに貢献する多様な支援体制がある状態
ネットワーク 地域の最良の健康に向けて,地域の強みに気づき,それらが発揮されることに貢献する多様なネットワークがある状態
アウトカムに向けた過程b) 気づき 地域の強みの認識 地域の最良の健康に向けて,地域の強みに気づいている状態
地域の強みのアピール 地域の最良の健康に向けて,地域の強みを確認しアピールしている状態
結集 ポジティブヘルス推進活動の継続 地域の最良の健康に向けて,主体的にポジティブヘルスを推進する多様な活動が継続している状態
保健計画立案への参画継続 地域の最良の健康に向けて,多様な人材が保健計画立案への参画を継続している状態

a)地域の強みには先天的に存在していたものと,後天的に育まれたものが含まれる

b)地域の最良の健康というアウトカムに向けた過程(アウトカムに向けた過程)は,住民(地域を構成する人々)や関係者との連携・協働の中で進むため,「住民の状況」「住民の周辺状況」などに特定できない

WHOのオタワ憲章(1986)では,地域のエンパワメントが健康増進の中心であり,人々や組織,コミュニティが自分たちの生活への制御を獲得する過程がエンパワメントと定義されている.本稿における《折り合い・統制力》を,地域の最良の健康というアウトカムに向けて探り,育みながら《住民主体のポジティブヘルスの推進継続》をしていく過程は,このエンパワメントに相当する内容と考えられた.またコミュニティ・エンパワメントの定義には,「誰もが安心して暮らせる健康な地域を目指して,組織や地域の人々が,対等な立場で互いに話し合い,合意の形成を行う中で,緩やかな絆でつながり,支え合う関係を形成し,共通の課題解決に向かうプロセス(野田ら,2017)」,「社会の健康と生活の質を向上させる地域の構成員による地域行動と組織の過程(Laverack et al., 2001)」などがある.本稿における《パートナーシップ形成力》と《連帯・助け合い力》,《意思決定・組織的推進力》を引き出し,育成・結集して,地域の最良の健康というアウトカムに向けて《保健計画立案への参画継続》をしていく過程は,これらのコミュニティ・エンパワメントに相応する内容と考えられた.

一方,地域の健康と関連するというエビデンスが多数あるソーシャルキャピタル(Murayama et al., 2012)は,「人々の信頼,規範,ネットワークなどの社会組織の特徴で,互いの利益のために調整や協力を促進するもの(Putnam, 1993)」と定義されている.また,個人や家族,コミュニティに内在する強みであるストレングスは,エンパワメントの燃料・エネルギー源と言われ(Cowger, 1994),資源の側面があることが述べられている(Saleebey, 2009Rapp et al., 2006狭間,2001).本稿における《歴史・風土への愛着》,《文化継承・地域創造の信念》はソーシャルキャピタルの信頼と規範に,《地区組織》,《支援体制》,《ネットワーク》はソーシャルキャピタルのネットワークとストレングスの資源に通じる概念である.それらは,地域の強みである住民の状態に影響し,類似する概念がポジティブな方向を目指しているのと同様に,地域の最良の健康というアウトカムに向かう動力となるのではないかと考えられた.

以上のように,本稿でカテゴリ化された公衆衛生看護が関わる地域の強みは,住民や地域の状態を表す主要な概念が表す内容を幅広く含んでいた.また,その構造もそれぞれの強みが育まれ認識されつつ,互いに作用しながら地域の最良のアウトカムという方向に向かうことが示唆された.

今回抽出されたもののうち上記に挙がらなかったカテゴリは,《全員大事の価値観》,《資源発掘・活用力》,《キャパシティ発展力》,およびアウトカムに向けた過程における気づき,即ち《地域の強みの認識》,《地域の強みのアピール》であった.これらは,地域の住民主体という文脈において,今まであまり強調されてこなかった概念ではないかと考えられた.

《全員大事の価値観》に似た概念である「すべての人に健康をHealth for All」は,プライマリヘルスヘア(WHO, 1978)においては,サービス提供者側の活動指針として提唱されていた.また,必要時にタイムリーに資源を利用したり,研修等で自分たちの健康づくり推進の力量を高めることは,従来は専門職に委ねる部分が多かったと考える.ヘルスプロモーション(WHO, 1986)では,専門職から素人へと活動の方向を転換することが提唱されており,今回地域の強みとして《全員大事の価値観》,《資源発掘・活用力》,《キャパシティ発展力》が抽出されたことは,住民主体の健康づくり活動推進において新たな指針を示すことに貢献すると考える.さらに,潜在している《地域の強みの認識》,《地域の強みのアピール》から,地域の最良の健康というアウトカムに向かう過程は,常に自らの健康を自覚し保持増進に努めるように国民の義務を定めた我が国の健康増進法(平成十四年法律第百三号,第二条)と介護保険法(平成九年法律第百二十三号,第四条)の履行を支持するものであると考える.

本研究で概念化された公衆衛生看護が関わる地域の強みは,地域の最良の健康というアウトカムに向かう構造を持ち,住民や地域の状態を表す主要な概念に相応する幅広い内容を含み,ヘルスプロモーションや日本の健康関連法が示す方向性を支持する内容で構成されていた.このような現代への適合性と内容の包括性が本研究結果のオリジナリティと考える.

2. 公衆衛生看護実践への示唆

ここでは.本研究において公衆衛生看護が関わる地域の強み,即ち地域の最良の健康というアウトカムに向けてポジティブヘルスを推進する潜在力を概念化したことを,公衆衛生看護実践にどのように活かすかについて,地域診断・アセスメントおよび公衆衛生看護技術開発への活用という視点から検討した.

まず,地域診断・アセスメントへの活用についてである.緒言において,看護における問題探し中心になりやすいアセスメントの課題や,保健医療におけるネガティブ面に着目するアプローチの弊害を述べたが,今回概念化した地域の強みを地域診断・アセスメントの枠組みに取り入れることによって,地域の最良の健康というアウトカムに向けて,負の状態ではなく正の状態への変化を促進する要因の情報収集と分析が推進される可能性がある.コミュニティ・アズ・パートナーモデルにおいても,人々の健康に影響を及ぼす因子を肯定的・否定的双方の情報を収集し見極める必要性が述べられており(Anderson et al., 2000),問題のみでなく多様な側面から強みの情報を収集できる枠組みを持つことは,地域のエンパワメントに向けた支援の方向性を見定めることに役立つと考える.ただしそれらの潜在力を高めるには,可視的でないそれらの力を探索し,力量を見極めるアセスメントの方法を確立する必要がある.

次に,公衆衛生看護技術開発への活用についてである.今回,公衆衛生看護が関わる地域の強みの概念が幅広く整理されたことにより,今後,その各々を高めることを目標にして,個人や家族,集団・組織・地域といったコミュニティにどのように働きかければよいか,効果的な技術を検討することができる.例えば,健康の社会的決定要因である社会的排除(WHO, 2003)が当該地域に生じているといった場合に,本枠組みを用いて,どのような対象のどのような強みをどのように高めることが有効かについての技術開発ができる可能性がある.ただし,状況依存性の高い地域で,もともと可視的でない潜在力にアプローチするわけであるから,当該地域との対話や,先駆事例や先行研究のエビデンスの転用可能性の検討から探り,実際に地域と関わるなかで有効な方法を見出す必要があると考える.

3. 研究の限界と今後の展望

文献の分析より公衆衛生看護が関わる地域の強み,即ち地域の最良の健康というアウトカムに向けてポジティブヘルスを推進する地域の潜在力の概念化を試み上記の結果を得た.本研究の限界は,結果が今回用いた文献の記述内容の読み取りの範囲であること,これらの概念と構造を実際の事例で確認できていないことであり,それらは今後の課題である.ただし,今回,【地域の強み】である多様な[先行する住民の状態],[住民の状態],[住民の周辺状況]が,別々の概念として抽出されたことは,従来のアセスメント枠組みではとらえきれなかった地域の最良の状態の理解,およびそれらを活かす視点を持つ地域アセスメントの推進に寄与すると考える.また,より健康にという正の方向に向かう文脈で地域に潜在している強みの概念が整理されたことで,これらの強みを重視した公衆衛生看護活動の推進が期待される.今後,どのような指標でこれらの強みをアセスメントおよび評価するのか,それぞれの強みを活かす効果的な支援方法とはどのようなものかについて,さらに検討していく必要がある.

謝辞等

本研究は,JSPS科研費JP15H05103の助成を受けたものです.本研究に関連し,開示すべきCOI関係にある企業・組織および団体等はありません.

文献
 
© 2019 Japan Academy of Public Health Nursing
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