Japanese Journal of Public Health Nursing
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ISSN-L : 2187-7122
Research Article
How Patients with Intractable Diseases Living under Home Care Build Their Own Customized Lifestyles
Etsuko Matsumoto
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2019 Volume 8 Issue 2 Pages 104-112

Details
Abstract

目的:在宅療養生活を続ける難病患者が,喪失体験の連続が生じる中で,自分仕様の生活を再構築するプロセスを明らかにする.

方法:在宅療養を続ける難病患者8名に半構成的面接を行い,病状の進行に伴い変化する状態や気持ちに関するデータを収集し,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ法で分析を行った.

結果:在宅療養生活を続ける難病患者が自分仕様の生活を再構築するプロセスは,[日常生活からの逸脱]から始まる.告知により[見込みの立たない将来への不安]を抱く中,【しょうがない】という気持ちの置き所を作る.この間に,主体的に[自己管理を頑張る]ことと[必要な支援を得る]ことのバランスを取り,長期療養生活に対応できる修正可能な自分仕様の生活スタイルを再構築することで[社会の中に役割や居場所を見いだす]に至るプロセスが明らかになった.

考察:プロセスの展開には,気持ちを【しょうがない】に置くことが重要であった.

Translated Abstract

Objective: To identify how patients with intractable diseases living under home care build their own customized lifestyles while they face a series of experiences of loss.

Methods: We conducted semi-structured interviews of eight patients with intractable diseases living under home care. We collected data about their feelings and conditions, which change with disease progression. We conducted an analysis using the revised version of the grounded theory approach.

Results: The process of building customized lifestyles begins with a deviation from daily life. Following their diagnosis of an intractable disease, patients feel anxious about their unforeseeable future and to shelve their emotions as [nothing can be done]. During this time, patients must create a balance between making independent efforts to care for themselves and obtaining the required support. By building a modifiable and customized lifestyle, which can be adapted to long-term care, they found their way to a stage where they defined their role and felt that they belonged to society.

Discussion: To develop the process, it was important for patients to shelve their emotions as [nothing can be done].

I. 緒言

我が国の難病対策は,2015年に「難病の患者に対する医療等に関する法律(以下,難病法)」が施行され難病対策の改正が行われたことで大きな転機を迎えている.難病対策の基本理念として,難病の治療研究を進め,疾病の克服を目指すとともに,難病患者の社会参加を支援し,難病にかかっても地域で尊厳を持って生きられる共生社会の実現を目指すこととされている(難病法第2条).

近年の在宅療養が推し進められる医療状況の中,難病患者の地域移行が急速に進んでいる.しかし,現状では難病患者に対して,地域の受け入れ側の混乱が生じている.この要因として,「発病の機構が明らかでなく,かつ治療方法が確立していない希少な疾病であって,長期の療養を必要とする(難病法第1条)」難病特性が考えられる.

在宅療養生活を続ける難病患者は,身体的な苦痛のみならず,病気や障害の受容など心理的な苦痛や全人的苦痛に直面していることが予測される.中島(2016)は,難病において,身体機能や人生の喪失から再生に向かう人の心理過程を科学的に理解できておらず,肯定的な心理支援の方法が医療スタッフには分からないと述べている.難病患者では,身体機能の喪失には身体障害(平野ら,2013)があり,人生の喪失には家族役割や社会役割の喪失(隅田ら,2014)がある.難病患者の療養生活について先行研究では,難病患者は病体験の中で喪失体験を繰り返し,揺れ動く(牛久保,2005)心理過程をたどりながら,こころの再構築(谷垣ら,2003)を図っていくことが見いだせた.また,難病発症後複数の苦悩により病とともに生きる人生や生活が崩壊するが,人的・物的・社会的環境との遭遇や対処経験を経ながら人生・生活の再構築(平野ら,2013)を図ることが示されていた.しかし,難病患者の療養過程において,病状の進行に伴う喪失体験の繰り返しの中で,どのようにして個別性に応じた自分仕様の生活を再構築していくのか,その行動や認識の変化のプロセスは解明されていない.現状では,このプロセスを詳細に示し,実務に携わる専門職や支援者が実践の中で活用し発展させることが難病分野には必要である.

したがって,本研究は,在宅療養生活を続ける難病患者が,喪失体験の連続が生じる中で,自分仕様の生活を再構築するプロセスを明らかにすることを目的とした.

II. 研究方法

1. 用語の操作的定義

「在宅療養生活を続ける」:一時的な入院または介護者のレスパイト目的の入院はあったとしても,主に在宅に基盤を置き療養生活を続けていることと定義する.

「自分仕様」:「仕様」とは,仕方や方法を意味する(広辞苑,2008).本研究における自分仕様とは,自分なりの仕方や方法と定義する.

2. 研究デザイン

修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(以下,M-GTA)を用いた質的帰納的研究とした.M-GTA(木下,2016)を用いた理由は,本研究が難病患者を対象としたヒューマン・サービス領域にあり,社会的相互作用やプロセス性を有していること,研究結果が解決や改善に向けた実践的な活用が期待されるというM-GTAの適正条件を満たすと判断したことによる.また,特定の人間の行為や認識にポイントを置く本手法は,難病患者の内的世界を表現し,動態を説明するために有効であると判断した.在宅で生活する難病患者の行動や認識の具体的なプロセスを提示することは,療養生活のプロセスの説明や予測を可能にする.これにより,難病患者の行動や認識への周囲からの理解が図られ関わりが取りやすくなることが期待される.

3. 研究対象者

対象は,研究に同意の得られた認知機能障害がなく,口頭にて自身を語ることのできる,コミュニケーション可能な在宅療養生活をしている難病患者とした.また,難病法が施行されたことを受け難病の範囲が拡大し多様な疾患への対応が求められている現状を考え,対象疾患は広く設定した.研究協力依頼先は,ALS協会A県支部やA県難病高齢者生活支援ネットワークで活動をする専門職の所属する訪問看護ステーションや居宅介護支援事業所,難病患者会とし,電話及び文書にて研究の趣旨を説明し難病患者の紹介を依頼した.本人の了解を得た上で紹介された患者に,研究者から電話及び文書で連絡を取り,研究参加を依頼した.

4. データ収集方法

インタビューガイドを用いた半構成的面接調査を,2015年12月~2016年5月に実施した.データの収集場所として,面接は対象者の自宅または,プライバシーを守ることができる場所で実施した.インタビュー内容は,対象者の同意を得たうえでICレコーダーに録音し,逐語録を作成した.面接時間は35~124分で,平均65分であった.面接の質問項目は,症状出現から現在までの療養経過の中で,病気の経過に伴い気持ちがどのように変化したか等である.インタビューの際の患者の負担を最小限にする工夫として,対象者が求める場合には,病気の経過や状況をよく知る家族等が同席し説明補足した.

5. データ分析方法

本研究はM-GTAを用いて分析をした.M-GTAの分析は,分析テーマと分析焦点者の2点に絞ってデータをみていく.分析テーマとは,明らかにしようとしている問いにあたる.分析手順は以下の通りである.インタビューデータから作成した逐語録から分析テーマ「在宅療養生活を続ける難病患者が自分仕様の生活を再構築するプロセス」と分析焦点者「在宅療養生活を続ける難病患者」に照らしてデータの関連箇所に着目し,それを1つの具体例(ヴァリエーション)とし,かつ他の類似具体例をも説明できる概念を生成した.概念生成時には概念ごとに分析ワークシートを作成し,概念名,定義,ヴァリエーション,理論的メモを記入した.解釈が恣意的になる危険を防ぐため,対極例と類似例の両方向で比較し,データに基づいた継続的比較分析を行った.以降,同時並行の多重作業として分析ワークシートの作成を進めながら概念間の個別的相互関係を検討し,複数の概念を包含するカテゴリーを生成した.概念の中でプロセスの動きに大きな影響を与える中心的なカテゴリーをコアカテゴリーとした.またカテゴリー間の関係を検討し,分析結果をまとめたものをプロセスを説明する結果図(図1)とし,それを文章化したストーリーラインを作成した.

図1 

在宅療養生活を続ける難病患者が自分仕様の生活を再構築するプロセス

6. データの信頼性と妥当性

データの信頼性と妥当性を高めるために,データに基づいた分析を第一原則とするM-GTAを選択し,研究会に参加し分析方法などを学んだ.対象者の選定や調査内容の検討,分析過程において指導教員のスーパービジョンを受けるとともに,M-GTA研究会で発表し,M-GTAに精通したスーパーバイザーよりスーパーバイズを受けた.

7. 倫理的配慮

研究協力施設および研究参加者へは口頭および文書で,研究の目的および方法,研究参加の任意性と参加撤回・辞退の自由,個人情報の保護(匿名化の方法),得られたデータの利用範囲および研究成果の公表,研究に参加することで得られる利益と不利益,研究の科学的価値や当該領域・社会に対する貢献等の説明を行い同意書を交わした.本研究は,山口県立大学生命倫理委員会の承認を得た(整理番号:27-51,承認2015年10月9日).

III. 研究結果

1. 対象者の概要

本研究では8名の難病患者から同意が得られ,インタビューを実施した.対象者の疾患は筋萎縮性側索硬化症,後縦靭帯骨化症,混合性結合組織病,難治性血管奇形,慢性炎症性脱髄性多発神経炎,多発性硬化症/視神経脊髄炎,性別は男性5名,女性3名,年令は30歳代~60歳代,罹病期間は3~19年で平均7.3年,日常生活動作自立は3名,要介助は4名,就業有は5名,無は3名,患者会に参加有は4名,無は4名,世帯構成は同居が5名,独居は3名,面接時同席者有は3名,無は5名であった.

表1  対象者の概要
対象 疾患名 性別 罹病期間(年) 日常生活動作 患者会参加 面接時同席者
1 筋萎縮性側索硬化症 4​ 要介助
2 後縦靭帯骨化症 8​ 要介助 担当理学療法士
3 筋萎縮性側索硬化症 6​ 要介助 家族
4 混合性結合組織病 19​ 自立
5 後縦靭帯骨化症 3​ 自立
6 難治性血管奇形 12​ 自立
7 慢性炎症性脱髄性多発性神経炎 4​ 要介助
8 多発性硬化症/視神経脊髄炎 3​ 要介助 家族

2. 分析結果

分析の結果,35概念が抽出され,6カテゴリー[日常生活からの逸脱][見込みの立たない将来への不安]【しょうがない】[自己管理を頑張る][必要な支援を得る][社会の中で役割や居場所を見いだす]が生成された.各カテゴリーには一定の順次性が認められ,プロセスの展開には周りとの相互作用が影響を及ぼしていた.以下に,分析結果を文章化したストーリーラインと,プロセスを説明する結果図を示す(図1).以下,カテゴリーは[ ],コア・カテゴリーは【 】,概念は〈 〉で表す.

1) ストーリーライン

在宅療養生活を続ける難病患者が自分仕様の生活を再構築するプロセスは,難病症状の出現による[日常生活からの逸脱]から始まる.告知により[見込みの立たない将来への不安]を抱くが,【しょうがない】という気持ちの置き所を作り,時間をかけて自分の置かれた状況を認知する.この間に難病患者は,主体的に[自己管理を頑張る]ことと[必要な支援を得る]ことのバランスを取り,長期療養生活に対応できる修正可能な自分仕様の生活スタイルを再構築していく.この生活スタイルの再構築ができることで安定化が図られ,[社会の中で役割や居場所を見いだす]に至る.

3. コア・カテゴリーの説明

コア・カテゴリーは,カテゴリーの中でもプロセスの動きの中心となる.プロセスが【しょうがない】を中心に展開していることから【しょうがない】をコア・カテゴリーとした.

4. 各カテゴリーの説明

以下に,今回明らかになったプロセスをより具体的に表すために,各カテゴリーを[ ],コア・カテゴリーを【 】,概念を〈 〉,研究対象者の語りは「 」,対象者IDは(A)~(H)を用い順に説明する.

1) [日常生活からの逸脱]

[日常生活からの逸脱]は,〈異様な症状出現による違和感〉〈普通の病気ではない確信〉〈医師や看護師への不信感〉の3概念からなる.

患者は難病による症状が出はじめ,これまでに経験したことのない身体の〈異様な症状出現による違和感〉を,おかしいと不可思議に感じはじめる.これは徐々にまたは急激に症状の異常な悪化へと変化していき,日常生活に支障をきたすようになり〈普通の病気ではない確信〉につながる.

「右手でお箸を持つと違和感が出てきて変だなあと思って……それで温泉に行ったときに,ええと頭を洗おうと思っていたらやたら手が重たい,上にあげれない,これはおかしい,て……,(C)」「時が短い期間でありながらも,それが1週間2週間後どうなるだろうと思ったら,どんどん悪くなるんですね,保持力がだんだんなくなってくるというんですかね,これはただ事じゃないなというのは思いましたね.(A)」

診断未確定期には原因を明らかにしようと病院を受診するがなかなか診断がつかず多くの検査を受け,異なる病名での治療を受けたケースもある.しかし症状は悪化の一途をたどり治療への不信や,訴える自覚症状を医療従事者が理解してくれない等の経験から〈医師や看護師への不信感〉を抱くようになる.このように診断未確定期には,入院や休職等それまでの日常生活,仕事や家庭,社会の中での役割や人との関係性の変化が生じ[日常生活からの逸脱]をしていく.

「訴えても訴えてもわかってもらえない,信じてもらえない,というのがあるわけですよね,そんな状態でだんだんだんだん,医師に対する不信感というものが……看護師についても……(F)」「生活費が足りなくなって,女房も働きに出る,2年近く入院して……,私がこういう状態でパッと帰るとやっぱりうまくいかない(G)」

2) [見込みの立たない将来への不安]

[見込みの立たない将来への不安]は,〈衝撃の告知〉〈医師にもわからない治せない病気〉の2概念からなる.

患者は〈衝撃の告知〉を受け自分が難病であることを知り,精神的ショックを受ける.原因不明で治療法がない難病〈医師にもわからない治せない病気〉のため,他の病気であれば,病気の見込みや予後などの情報提供が医師から得られるが,医師から患者の満足のいく答えが得られず,先の見込みも終わりも見えない難病との生活の中で[見込みの立たない将来への不安]を抱く.

「最初はなんかこの世の終わりみたいな感じで,治るかどうかもわからないし,(G)」「この病気って,先生と会って,まあ会うことも必要なんだけど,経過見てもらうということも必要なんだけど,特効薬はないし(C)」

次のカテゴリーに移行する際に影響を与える概念として,〈医療従事者の役割理解〉がある.患者は入院等により病院での医療従事者の職務役割を理解するようになっていく.忙しい大変な仕事との受けとめをし,医療従事者の行為を,専門的知識を持つ職業上の役割と理解し肯定的に受けいれるようになる.

「本当に医療従事者の方も大変だなと思いますよ.その人その人にあった話し方があるでしょうからね.(A)」

3) 【しょうがない】

【しょうがない】は,〈人生の予定変更〉〈他の患者との比較〉〈中途障害者としての差別偏見〉〈生きる意味を自問する〉〈しょうがないと納得する〉〈納得いかない〉の6概念からなる.

患者は難病になったことで〈人生の予定変更〉をせざるを得なくなる.病院や施設で,自分の身体状況や症状の程度と〈他の患者との比較〉をし,差別されることと同時に,自身の中にある障害者を差別的にみる〈中途障害者としての差別偏見〉に苦悩し〈生きる意味を自問する〉.〈納得いかない〉が〈しょうがないと納得する〉しかない揺れる思いの中,難病だから【しょうがない】という気持ちの置き所を作り,時をかけて自分の置かれた状況を認知していく.

「頭の中ではね,なんでなったんやろうっていうことがずっと頭の中で回っているような感じ(H)」「なったものは仕方がないという,結構変な意味で割り切りが早いんですよね.だからもうなったものは仕方がないというね,それから先ね,そういうふうに時間を経過する上でどういう目的もって,まあ,どういうんですかね,人生というんですかね,それを過ごしていくかということをもう考えるしかなかったですもんね.(A)」「本当この病気なるのはもう仕方がない.いつだれがなるかもわからないですもんね.(F)」「障害者ていうのは1から10までおる.いろんなとこおるっていうのがこんなになって初めてわかるっていうかね.……私は重症なんだけどそこに行けば1番軽傷になる.(H)」

このカテゴリーへ影響を与える概念として,〈家族の受けとめ〉があり,患者の病気や状況の受けとめへ大きな影響を与える.〈家族の受けとめ〉が良い場合は患者の状況認知に良い影響を与え,難病になったことをしょうがないと受けとめる方向に導くが,悪い場合は患者の状況認知を悪くさせ難病になった自分を否定的に受けとめる方向に向かわせる.

「今まで人生の中でやっぱり何らかの罰が当たったとか……振り返った時に反省する事があるんじゃないかと言われたこともありますし……申し訳ないなと(A)」「すんなりと受け入れてくれたからそれはすごく助かった.(H)」

4) [自己管理を頑張る]

[自己管理を頑張る]は,〈難病は自分の問題と受けとめる〉〈生活のしづらさへの工夫〉〈困難な症状と付き合い生活する〉〈経験的見立て〉〈感覚的な自分軸での身体管理〉〈症状の進行に伴う機能低下〉〈出来なくなる葛藤と恐怖〉〈出来ない現実を思い知る体験〉の8概念からなる.

患者は原因不明で治療法のない難病を持ちながらも自分がどう生きるのか自らが主体となり〈難病は自分の問題と受けとめる〉.進行に伴い新たに加わった症状による生活のしづらさが生じるが,自分で生活面での調整をすることで試行錯誤しながら〈生活のしづらさへの工夫〉をし自分なりの生活術や症状との付き合い方を体得し身につけることで解消していく.このたゆまぬ努力と自己コントロールにより症状が常にある中で〈困難な症状と付き合い生活する〉ことを可能にしている.

「結局自分のことやからね,どうしようもないいね.人の責任じゃないしね.自分がなったことやからね.(B)」「どうにか自分で工夫をして工夫をしながらやっぱりこなすみたいなことをしないとね,難しいとは思いますね(F)」「今も痛いですよ.痺れてますけど.気にしないようにしてるつもり(E)」

患者は長期にわたる病気との付き合いの中で自分の病気や症状の感覚的な予測〈経験的見立て〉が出来るようになり,自分の主観的感覚や経験に基づいた身体状況の管理方法である〈感覚的な自分軸での身体管理〉をするようになる.しかし,一旦症状の自己管理法を獲得しても,〈病状の進行に伴う機能低下〉が繰り返し生じ〈出来なくなる葛藤と恐怖〉を持ちながら,再度自己管理法を生活の中で繰り返し模索することになる.この中で,きっかけとなる〈出来ない現実を思い知る体験〉をすることを機に,[自己管理を頑張る]から,[必要な支援を得る]に進む.

「自分の病気からくるものっていうのは言われたんで安定してても徐々にいろんな所が悪くなったり(D)」「ベッドのリモコンなんか寝るときこの股の所において操作するんですけど……手が落ちるような形になって……丁度その時家族がいなかったんですよ……仰向けになったまんま数時間おったんですよ.その時がね,トイレがしたくっても出来ない……本当パニック症状に(A)」「こうして欲しいとかそりゃあないよ.自分でもこれ以上,治らんかゆうたら治らんやろう思うからね……しょうがない.(B)」

5) [必要な支援を得る]

[必要な支援を得る]は,〈自ら行動し必要な資源を得る〉〈制度活用による生活の安定〉〈人の手を借りて生きる〉〈医療による継続的な身体管理〉〈医療連携によるサポート体制の充実化〉〈医療従事者への信頼〉〈家族の支えへの感謝〉〈介護負担をかける家族への申し訳なさ〉の8概念からなる.

患者は生活維持のために必要な支援を得る中で,受動的に支援を得るだけではなく,生活し生きるために必要な利用可能な制度や社会資源の情報・医療・サービスを〈自ら行動し必要な資源を得る〉.

「自分がアンテナはって,あの動かないと.自分が思い通りにするためには,できないんだなと.(C)」

さらに制度を活用しサービスや社会資源を利用することで,自分では出来ない部分や経済面での負担を補い,それによって在宅での長期療養生活を続けることが可能になり,〈制度活用による生活の安定〉が得られる.

「家にいると……1番気が安らぐ……この制度があって私どもは助かっています.(H)」

患者は〈人の手を借りて生きる〉ことを余儀なくされる.家族に対しては,〈家族の支えへの感謝〉と同時に〈介護負担をかける家族への申し訳なさ〉を併せ持つ.

「いろいろ介護とかいうことはしてもらってますけど,本当に親不孝者でございまして,病気にはなるわ,手のかかるようなことになってしもうてから,ねえ.(A)」

療養生活を続ける為には〈医療による継続的な身体管理〉により医療や医療従事者からの適切な医療上の専門技術の提供を確保し,身体を可能な限り安楽で症状緩和された状態を得ることが重要となる.また医療従事者間での連携が取れていることは多職種多機関との関わりが必要な患者に〈医療連携によるサポート体制の充実化〉のメリットや安心感をもたらし,〈医療従事者への信頼〉関係が構築される.

「医療には医療で.する仕事というかね.助けてもらう仕事ちゅうのがあるので(E)」「ちゃんと言って教えてもらったからっていう感じ,そんな感じ,だから私たちはすごい信頼して(D)」

〈医療従事者への信頼〉関係構築に影響を及ぼす概念として,〈医療従事者への言いづらさ〉〈本音が言える医療スタッフとの出会い〉〈医療従事者に伝える必要性を認識する〉があった.難病患者は,医療従事者に遠慮して言いづらい気持ちや,主観的な自覚症状を説明しづらい〈医療従事者への言いづらさ〉を持つ.しかし,〈本音が言える医療スタッフとの出会い〉をきっかけに,自分の思いや自分の身体情報を医療従事者に伝えるようになる.これは,自分の症状にあった薬の選択や身体管理や療養環境にプラスに作用する経験となり,〈医療従事者に伝える必要性を認識する〉ようになる.医療従事者に伝わり受けとめてもらえ,対応があるということから〈医療従事者への信頼〉関係が構築されていく.

「なかなか自分のことを説明できないよねっていうのが患者側としてはあるけど……分ってもらえなかったけど仕方ないか,もうちょっと考えてちゃんと先生に分かるように説明すればいいかなって(D)」「看護師さんと病院だったら話することは無いけど……話の幅が全然違う.病院に居るてゆうたら個人の患者で何分って多分割り当てがあってだろうけど,そん時は話ってゆうんは無い,この方が家庭的なっていうか私語も多くなるから精神的にも楽だわね.気を使わなくていい.看護師さんに(H)」

6) [社会の中で役割や居場所を見いだす]

[社会の中で役割や居場所を見いだす]は,〈まだ自分で出来ることに気づく〉〈あきらめない〉〈前向きに捉える思考を持つ〉の3概念からなる.

難病患者は,療養生活を続ける中で,残った身体機能に目が向き,自分のことを自分で決めること,自分のもつ役割を果たすことなど,〈まだ自分で出来ることに気づく〉ようになる.

「足が動かない私だけど,ただそれだけ.私はまだ目が見える口が利ける腕が動く,だから1人でご飯が食べれる.(H)」

療養生活の中で病気や,生きること等を〈あきらめない〉気持ちで物事を捉え対処するなかで,難病を持ちながらも自分の人生を〈前向きに捉える思考を持つ〉.このような中から,日常の社会や家庭の中に新たに又は再び[社会の中で役割や居場所を見いだす]に至る.

「実は難病患者についても何とか病気だからこれは出来ない,自分から諦めるような事があってはならないと思うんですよ(F)」「病気とはいっても,自立する事が一番の,精神的にもですね.(D)」

IV. 考察

本研究では,在宅療養生活を続ける難病患者が自分仕様の生活を再構築するプロセスを明らかにした.このプロセスは,難病罹患により失った生活の再構築と社会の中で役割や居場所を見いだす取り組みであった.以下に,在宅療養生活を続ける難病患者が自分仕様の生活を再構築するプロセスと,本プロセスのコア(中核)となるカテゴリー【しょうがない】について考察する.

1. 在宅療養生活を続ける難病患者が自分仕様の生活を再構築するプロセス

中島(2016)は,難病において,身体機能や人生の喪失から再生に向かう人の心理過程を科学的に理解できておらず,肯定的な心理支援の方法が医療スタッフにはわからないと述べている.本研究で明らかになったプロセスは,在宅療養生活を続ける難病患者が病状の進行に伴う喪失を繰り返す中で,生活を再構築するプロセスであるとともに,身体機能や人生の喪失から再生へ向かう心理プロセスと捉えることができる.本研究プロセスの展開を踏まえた支援は,難病患者に対する肯定的な心理支援になり得ると考える.

1) 診断未確定期は,日常生活からの逸脱が生じ,告知により見込みの立たない将来への不安を抱く

患者は,難病症状出現から診断確定・告知の時期において,難病特性である発病機構の未解明・治療方法未確立・希少性に起因する難病ならではの困難を体験していた.南澤ら(2010)は,診断確定に至るまでに患者は様々な病院を受診し,誤診により不必要な手術を行われるケースもあったこと,診断未確定期の難病患者の訴えとして,個人差という言葉や,専門用語に隠されて自身の病気の実態がみえないことを報告している.本研究でも同様の体験が語られた.難病罹患により生じた,日常生活からの逸脱後の生活の再構築が,難病患者にとっていかに困難なことであるかが推測された.

患者は,難病という衝撃の告知を受け,見込みの立たない将来の不安を抱く中で【しょうがない】と受けとめるしか仕方がない状況に追いやられる.この中で,【しょうがない】は,危機的状況を乗り越え前に進む際の気持ちの置き所となっていた.これは,難病罹患により全人的苦痛が生じる状況において,心的外傷等の自己の崩壊を防ぐ為の自己防衛的対処方法とも考えられる.

2) 在宅療養生活を続ける難病患者は,長期療養生活に対応できる修正可能な自分仕様の生活の再構築ができることで,社会の中で役割や居場所を見いだすに至る

在宅療養生活を続ける難病患者は,難病に伴い生じる喪失の繰り返し時に,【しょうがない】に気持ちを置くことでプロセスの[自己管理を頑張る][必要な支援を得る]を動かし,自分仕様の生活の再構築を促進させていた.これは,在宅療養生活を続ける難病患者の行動特性であり,生活の再構築への対処行動を優先的に実施していると考えられた.秋山ら(2003)は,地域生活を送る脊髄小脳変性症患者の,ぎりぎりまで「自宅で頑張り生活する」生き方は病気への対処行動であり,その意味は,他人の援助を受け入れ,人生を楽しみながら頑張ることと報告している.本研究対象者も,在宅療養生活を[自己管理を頑張る]ことと[必要な支援を得る]ことのバランスを取り,生活の仕方を模索する中で,長期療養生活に対応できる修正可能な自分仕様の療養生活スタイルを再構築していた.難病患者は,この生活の再構築を通して,再び[社会の中で役割や居場所を見いだす]に至ると考えられる.

村岡(1999)は,ALS患者の様々な喪失が,必ずしも意味の喪失にはならないこと,その意味を獲得するプロセスに主体的努力があることを報告している.本研究では,この主体的努力が,プロセスの中に概念・カテゴリーとして詳細に示された.この主体的努力の結果として,難病患者はプロセスの終点で生きる意味を獲得していたと考える.近藤(2012)は,PTG(Posttraumatic Growth:心的外傷後成長)の概念として,大きな受難や喪失といったトラウマとの遭遇が,個人の大きなポジティブな変化を導くと述べている.本研究で難病患者の内的世界に見られた変化として,プロセスの終点ではPTGに至っていることが推測される.つまり,難病患者は,病状の進行に伴う喪失体験の繰り返しの中で,喪失をポジティブ変化させる術を身に着けていたと考えられる.これは,難病患者が「自分の健康を専門家任せではなく,自らが進んで獲得していこうとする動き,すなわちヘルスプロモーションという健康思想」(大西ら,2007)を持ち,身体機能や人生の喪失から再生へと至る発展的な変化を遂げていると考えることができる.

2. 難病における【しょうがない】の意味

難病患者が用いる特徴的な言葉,【しょうがない】が本研究で抽出された.広辞苑(2008)によると,「しょうがない」は,「仕様がない」と表記し,施すべき手がない,始末に負えないとの意である.これまでの難病研究の中に,「しょうがない」は散在しているが特に取り上げられてはいない.これらは,「【しょうがない】【あきらめた】という思い」(牛久保,2005),「しょうがないと思った」(南澤ら,2010)等,諦めというマイナスイメージで捉えられてきた.

飯牟礼(2011)は,PTG発生までのプロセスの一部を説明するものについて,「諦観」という認知的対処方略の重要性を指摘している.鈴木ら(2008)は「諦観」を,「物事や現状のあるがままの姿を冷静に見極めることを通して,その後の発達変化を決定づける発達制御のスタイル」と定義した.つまり,本研究で明らかになった難病患者の【しょうがない】は諦観であり,難病罹患や症状の進行に伴う喪失体験の連続の中で,自分の置かれた状況を時間をかけて受けとめながら心理的発達変化に至るまでの認知的対処であったと考えられる.これにより,難病患者が語る【しょうがない】は,プロセスの段階により意味が異なることが示唆された.プロセスの初期の告知後の段階では自分の置かれた状況を受けとめてはおらず状況の見極めを行っていると考えられる.しかし,徐々に発達変化を遂げ,[社会の中で役割や居場所を見いだす]段階では,自己の置かれた状況を受けとめる認識の変化が生じていると考えられる.この【しょうがない】の意味の変化は,難病罹患により喪失した自己認知の変化であり,あきめない,物事を前向きに捉える思考を持ち[社会の中で役割や居場所を見いだす]自己の肯定的認知がされたことを示すといえる.

V. 結語

本研究で明らかになったことは以下である.

在宅療養生活を続ける難病患者が自分仕様の生活を再構築するプロセスは,難病症状の出現による[日常生活からの逸脱]から始まる.告知により[見込みの立たない将来への不安]を抱くが,【しょうがない】という気持ちの置き所を作り,時間をかけて自分の置かれた状況を認知する.この間に難病患者は,主体的に[自己管理を頑張る]ことと[必要な支援を得る]ことのバランスを取り,長期療養生活に対応できる修正可能な自分仕様の生活スタイルを再構築していく.この生活スタイルの再構築ができることで安定化が図られ,[社会の中で役割や居場所を見いだす]に至る.

VI. 研究の限界と今後の課題

本研究の限界として,研究対象者の偏りがある.対象疾患を広く設定したが,全難病を含有する事は困難であり,結果に影響を与えた可能性がある.また,インタビューの際に家族や支援者が同席するケースもあり,マイナスの発言は語りにくい部分があったことも考えられる.

今回の研究では,M-GTAの方法論的限定により,在宅療養生活を続ける難病患者が自分仕様の生活を再構築するプロセスを明らかにした.今後,生活の再構築が困難なプロセスをたどるケースの存在について比較検討することで,多角的なプロセスを明らかにすることが必要である.更に,今後コミュニケーションに障害があり,在宅以外の場で生活する難病患者にも対象を広げ,支援方法の検討をしていく必要がある.

謝辞

本研究にご協力いただきました研究対象者の方々並びに研究協力者の皆様に心よりお礼を申し上げます.本研究は,平成26年度山口県立大学大学院健康福祉学研究科に提出した修士論文の一部を加筆修正したものである.

本研究に開示すべきCOI状態はない.

文献
  •  秋山 智, 中村 美佐, 加藤 匡匠(2003):地域生活を送る脊髄小脳変性症A氏の病気への対処行動に関する研究―ライフヒストリー法による分析を通して―,日本難病看護学会誌,8(2),124–133.
  •  平野 優子, 山崎 喜比古(2013):侵襲的人工呼吸器を装着した筋萎縮性側索硬化症患者の病経験―ライフ・ライン・メソッドを用いた心理的状態のたどる過程と関連要因―,日本看護科学会誌,33(2),29–39.
  • 飯牟礼悦子(2011):生涯発達における「諦観」の機能―喪失経験に注目して,文部科学省科学研究費補助金若手研究(B)研究成果報告書(課題番号21730525)
  • 木下康仁(2016):グラウンデッド・セオリー・アプローチ質的実証研究の再生(8版),181,弘文堂,東京.
  • 近藤卓(2012):PTG 心的外傷後成長―トラウマを超えて,5,金子書房,東京.
  •  南澤 甫, 川井 充, 今野 義孝(2010):特集1:未分類疾患の情報集約に関する研究,病院ベースの情報収集方法の検討―筋萎縮性側索硬化症および多系統委縮症患者の発症から診断確定までの心理体験―,保健医療科学,59(3),199–203.
  •  村岡 宏子(1999):筋萎縮性側索硬化症患者における病を意味づけるプロセスの発見,日本看護科学会誌,19(3),28–37.
  • 中島孝(2016):疾病や障害の受容,中山優季編著,ナーシング・アプローチ第1版 難病看護の基礎と実践,53,桐書房,東京.
  • 大西和子,櫻井しのぶ編(2007):成人看護学 ヘルスプロモーション第2版,4,ヌーベルヒロカワ,東京.
  • 新村出編(2008):広辞苑第六版,1363,岩波書店,東京.
  •  隅田 好美, 佐々木 公一(2014):筋委縮性側索硬化症患者における家族役割・社会役割の認識,日本難病看護学会誌,19(2),189–199.
  •  鈴木 忠, 飯牟礼 悦子(2008):諦観と晩年性―生涯発達心理学の新しい概念として,白百合女子大学研究紀要,44,101–127.
  •  谷垣 静子, 矢倉 紀子(2003):神経難病患者のやまい体験―グループインタビュー法を用いて―,日本難病看護学会誌,8(2),137–142.
  •  牛久保 美津子(2005):神経難病とともに生きる長期療養者の病体験:苦悩に対する緩和的ケア,日本看護科学会誌,25(4),70–79.
 
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