Japanese Journal of Public Health Nursing
Online ISSN : 2189-7018
Print ISSN : 2187-7122
ISSN-L : 2187-7122
Research Article
Community Consciousness in People Aged More than 60 Years regarding the Need to Support People with Cognitive Impairment
Saori KutomiKazuko SaekiYoshiko Mizuno
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2019 Volume 8 Issue 2 Pages 89-95

Details
Abstract

目的:60歳以上の地域住民がもつ認知症高齢者に対するサポートの実施意向の実態を明らかにし,さらに,個人属性,認知症の人に対する態度,地域に対する思いとの関連を明らかにする.

方法:大都市に居住する225名を対象に,無記名自記式質問紙調査を実施した.個人属性,認知症の人に対する態度,地域に対する思い,サポートの実施意向をたずね,統計分析にはχ2検定とFisherの直接確率検定,t検定を用いた.

結果:有効回答は176名(有効回答率78.2%)であった.実施意向「あり」130名,実施可能内容は「観察」102名,「話し相手」87名,「家事の手伝い」14名であった.実施意向の有無は,認知症の人に対する態度尺度の総得点と,地域に対する思いのうち積極性,協同による充実,行政との対等な関係と関連があった.

考察:住民は観察や話し相手を引き受ける意向を示していた.よりよい地域づくりに向けた意識と認知症の人に対する態度が否定的であるよりも肯定的である方が,住民は認知症高齢者へのサポートの担い手になり得る.

Translated Abstract

Purpose: This study aimed to measure community awareness regarding the need to support people with cognitive impairment.

Methods: We recruited 225 residents (age: >60 years) from a metropolitan city area. Each participant completed an anonymous self-report questionnaire and returned it to a collection box in a community center. The questionnaire involved questions regarding participants’ awareness regarding the need to support people with cognitive impairment, their attitude toward dementia, and community consciousness in their own community. Descriptive analysis, χ2 test, Fisher’s exact test, and t-test were used to analyze responses.

Results: We received valid responses from 177 participants. Among these, 130 considered the possibility of offering support to people with cognitive impairment. Of these 130 participants who considered offering support, 102 were willing to monitor, 87 were willing to serve as a conversational partner, and 14 were willing to help with the housework of people with cognitive impairment. The possibility of offering support was associated with a positive attitude toward people with dementia, community consciousness about positivity, enrichment from cooperation, and recognition of an equal relationship with the community administration.

Conclusion: Residents can support people with cognitive impairment in several ways, such as by monitoring them or serving as a conversational partner. To promote the support of people with cognitive impairment, residents need to have community consciousness regarding community development and a positive attitude toward people with dementia.

I. 緒言

日本では,2012年には認知症高齢者が約462万人いると推計されており,認知症の人がよりよく生きる社会の実現のために認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)が実施されている(厚生労働省,2015).新オレンジプランの具体的項目の中では,認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりの推進として生活支援や環境整備等の方向性が示されている(厚生労働省,2015).

認知症高齢者の地域生活の継続に関する課題には,家族のサポート力が大きく影響している.高齢者の一人暮らし世帯の増加(厚生労働省,2016)といった家族形態の変化により,高齢者が認知症になった際に日常的に家族からのサポートを得られない場合が生じる.また,認知症高齢者の家族には介護負担や将来への不安(木村ら,2013)があり,家族がいてもサポートが上手く機能しなくなる可能性がある.家族形態の変化や家族の負担といった課題がある中で認知症高齢者が安心して地域で暮らすためには,家族外からのサポートが重要となる.認知症高齢者が要介護認定を受けていない場合や簡易な手助けなど公的サービスで対応しきれない生活課題は,身近な人でなければ対応が難しい(厚生労働省,2008).地域在住高齢者の支援に関して,地域住民と専門機関はそれぞれの特性に応じた役割を担うことが必要であり,地域住民は高齢者の身近な他者として重要な役割を担うことが期待される.地域住民の中でも,役割を担うことが期待されるのが退職後の人々である.退職後には,生活の中に時間の余裕ができる者も多く,地域活動が可能になる人が増加すると考えられる.

高齢者が見守りを受諾する意向に対して,地域への関心の高さが関連する(瀧澤ら,2015)ことや,高齢者が地域での役割を遂行する促進要因には,地域貢献意識や相互扶助意識がある(佐藤ら,2014)ことが明らかになっている.地域への関心を表す概念の一つにコミュニティ意識がある.地域における行政の役割や市民の主体性の発揮をも含む多面的な概念とされており,コミュニティにおける課題解決に寄与することが期待されている(石盛ら,2013).認知症高齢者を地域で支えるという課題に対して,コミュニティ意識の関与を明らかにすることは,住民が活躍できる支援体制を考えるために重要であるといえる.

一方で,地域住民は認知症高齢者に対して否定的な思いや対処への困惑を抱いていることが明らかにされている(大澤ら,2007).認知症高齢者を地域全体で支援することを考えるにあたって,地域住民の認知症の人に対する態度について,サポートの阻害要因としてだけではなく,促進要因として捉えることができるかどうか検討することは意義があると考える.

以上を踏まえ,本研究の目的は,60歳以上の地域住民が持つ,①認知症高齢者に対する地域住民のサポートの実施意向の実態を明らかにすること,②サポートの実施意向と個人属性・認知症の人に対する態度・地域に対する思いとの関連を明らかにすることである.

II. 研究方法

1. 用語の操作的定義

本研究では,認知症高齢者に対する地域住民のサポートの実施意向を,「地域住民が認知症高齢者に対するサポートを依頼された際に考える,実際にできるかどうか,具体的に何を行うことができるかといった思い」とした.なお,サポートはMaguire(1991)が述べたソーシャルサポートの主要な援助形態や目的,機序を参考に,「ある対象のストレスの軽減や困難な事態の処理を援助するために,直接的ケアや助言を行ったり,関心や思いやりを示すこと」とした.

2. 対象

A市の1地区に居住する60歳以上の者のうち,地区組織等に所属する225名を対象とした.

対象者は単位町内会に所属する住民,民生委員児童委員協議会会員,町内会連合会女性部の者,介護予防事業の参加者,老人クラブ会員から選定した.対象者の選定は,地区社会福祉協議会から依頼できる範囲の中で実施した.

2016年4月1日時点で,対象地区の人口は22,340人であり,高齢化率は30.8%,60歳以上の人口は8,469人であった(A市住民基本台帳).対象地区では,地区社会福祉協議会が中心となって,認知症の普及啓発を含めた福祉にかかわる活動が盛んに行われていた.

3. 配付と回収

2016年6月から8月までの間に,無記名自記式質問紙調査を実施した.

関係機関の各代表者から研究協力の承諾を得た後,研究者が調査票の一式を代表者に渡した.代表者はそれぞれの機関の会合等で,調査票を対象者へ配付した.回収は,地区会館内に回収箱を設置し実施した.関係機関の各代表者との調整や調査票の配付と回収は,地区社会福祉協議会の協力を得て実施した.

4. 調査内容

個人属性:年齢,性別,家族構成,居住年数,健康状態,暮らし向きをたずねた.健康状態と暮らし向きについては,それぞれ主観的状態をたずねるものとし,回答の選択肢は「よい」,「まあよい」,「あまりよくない」,「よくない」とした.

認知症の人に対する態度:金ら(2011)が開発した『認知症の人に対する態度尺度』を,作成者の許可を得て使用した.この尺度は14項目から構成され,認知症の人に対する肯定的・否定的感情の強さと,受容的・拒否的な行動の向きの程度を測定するものである.各項目は「全く思わない」,「あまり思わない」,「ややそう思う」,「そう思う」の4件法で回答を求め尺度得点を算出した.点数が高いほど肯定的な態度を示し,得点範囲は14~56点である.内的整合性を示すCronbach αは尺度開発時の総得点では0.793であり,本研究におけるCronbach αは0.809であった.

地域に対する思い:石盛ら(2013)の『コミュニティ意識尺度(短縮版)』を参考に,各協力機関との相談の上で5項目を作成した.設問は「住みよい地域づくりのために自分から積極的に活動していきたい」(以下,「積極性」),「地域のみんなと何かをすることで,自分の心の豊かさを求めたい」(以下,「協同による充実」),「地域をよくするためには,地域住民と行政が対等な関係を築くことが重要である」(以下,「行政との対等な関係」),「いま住んでいる地域に,誇りや愛着のようなものを感じている」(以下,「誇りや愛着」),「地域をよくするための活動は,熱心な人たちに任せておけばよい」(以下,「熱心な人に任せる意向」)とした.各設問に対して「そう思う」,「ややそう思う」,「どちらともいえない」,「あまりそう思わない」,「そう思わない」の5件法でたずねた.

認知症高齢者に対する地域住民のサポートの実施意向:「『同じ町内会の,認知症かもしれない一人暮らし高齢者の様子を見たり,手助けをしてあげてほしい.』と,町内会長から頼まれたとします.相手は1人だけで,同じ町内会ですが,顔見知りではないかもしれません.軽度~中度の認知症,またはその疑いがある方とします.」という,筆者らが設定した状況を示した.この認知症高齢者へのサポートを引き受けることができるかどうかを「できる」,「できない」でたずね,「できる」を「実施意向あり」,「できない」を「実施意向なし」とした.「実施意向あり」の者に,実施することが可能なサポート内容(以下,実施可能な内容)をたずねた.実施可能な内容は伊藤ら(2014)の調査で用いられた項目を参考に,「家の外部からのさりげない観察」,「異常発見時の通報」,「話し相手」,「買い物の代行」,「外出の付き添い」,「家事の手伝い」の6項目を作成し,複数回答でたずねた.

5. 分析

認知症高齢者に対する地域住民のサポートの実施意向の有無との関連について,個人属性と地域に対する思いはχ2検定とFisherの直接確率検定を用い,認知症の人に対する態度はt検定を用いた.有意水準は全て5%とした.

個人属性の項目は,健康状態と暮らし向きについては,「よい」と「まあよい」を「よい」,「あまりよくない」と「よくない」を「よくない」とした.

地域に対する思いの項目は,積極性,協同による充実,行政との対等な関係,誇りや愛着の4項目は,「そう思う」と「ややそう思う」を「そう思う」,「どちらともいえない」と「あまりそう思わない」と「そう思わない」を「そう思わない」として2群化した.熱心な人に任せる意向は,「そう思う」と「ややそう思う」と「どちらともいえない」を「そう思う」,「あまりそう思わない」と「そう思わない」を「そう思わない」として2群化した.「どちらともいえない」は,肯定的な思いが弱い群として扱うため,熱心な人に任せる意向以外の項目では「そう思わない」,熱心な人に任せる意向の項目では「そう思う」の群とした.

認知症の人に対する態度は,尺度の総得点を用いた.

6. 倫理的配慮

各協力機関の代表者と調査対象者に対し,研究の概要と調査への協力は自由な意思であること,回答の拒否や回答の内容によって不利益を被ることはないこと等について,文書と口頭にて説明を行った.本研究は,北海道大学大学院保健科学研究院倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:16-19,2016年6月10日).

III. 研究結果

回収数は189部(回収率84.0%)であり,年齢の非該当と認知症高齢者に対する地域住民のサポートの実施意向に欠損がみられた調査票を無効とし,有効回答数は176部(有効回答率78.2%)であった.

1. 対象者の特徴(表1
表1  対象者の特徴(N=176)
n %
個人属性 年齢 75歳未満 118​ 67.0
75歳以上 58​ 33.0
性別 男性 77​ 43.8
女性 99​ 56.3
家族構成 一人暮らし 18​ 10.2
同居者あり 158​ 89.8
居住年数 30年未満 49​ 27.8
30年以上 127​ 72.2
健康状態 よい 156​ 88.6
よくない 20​ 11.4
暮らし向き よい 166​ 94.3
よくない 10​ 5.7
地域に対する思い 積極性 そう思う 128​ 73.1
そう思わない 47​ 26.9
協同による充実 そう思う 138​ 78.9
そう思わない 37​ 21.1
行政との対等な関係 そう思う 153​ 87.4
そう思わない 22​ 12.6
誇りや愛着 そう思う 161​ 91.5
そう思わない 15​ 8.5
熱心な人に任せる意向 そう思う 58​ 33.0
そう思わない 118​ 67.0

:欠損値を除くn=175で算出

75歳未満の者が118名(67.0%),女性が99名(56.3%),健康状態がよい者が156名(88.6%),暮らし向きがよい者が166名(94.3%)であった.

地域に対する思いについて「そう思う」者は,積極性128名(73.1%),協同による充実138名(78.9%),行政との対等な関係153名(87.4%),誇りや愛着161名(91.5%),熱心な人に任せる意向58名(33.0%)であった.

認知症の人に対する態度について,尺度の総得点の平均±標準偏差は39.64±5.40であった(範囲:23–54).

2. 認知症高齢者に対する地域住民のサポートの実施意向の実態と関連要因

1) サポートの実施意向の有無と関連要因(表2
表2  サポートの実施意向の有無と関連要因(N=176)
実施意向
あり なし
n % n % P
130​ 73.9 46​ 26.1
個人属性 年齢 75歳未満 84​ 71.2 34​ 28.8 0.249
75歳以上 46​ 79.3 12​ 20.7
性別 男性 57​ 74.0 20​ 26.0 0.966
女性 73​ 73.7 26​ 26.3
家族構成 一人暮らし 13​ 72.2 5​ 27.8 0.867
同居者あり 117​ 74.1 41​ 25.9
居住年数 30年未満 33​ 67.3 16​ 32.7 0.222
30年以上 97​ 76.4 30​ 23.6
健康状態 よい 115​ 73.7 41​ 26.3 0.902
よくない 15​ 75.0 5​ 25.0
暮らし向き よい 120​ 72.3 46​ 27.7 0.065a
よくない 10​ 100.0 0​ 0.0
地域に対する思い 積極性 そう思う 104​ 81.3 24​ 18.7 <0.001
そう思わない 25​ 53.2 22​ 46.8
協同による充実 そう思う 111​ 80.4 27​ 19.6 <0.001
そう思わない 19​ 51.4 18​ 48.6
行政との対等な関係 そう思う 117​ 76.5 36​ 23.5 0.029
そう思わない 12​ 54.5 10​ 45.5
誇りや愛着 そう思う 120​ 74.5 41​ 25.5 0.507
そう思わない 10​ 66.7 5​ 33.3
熱心な人に任せる意向 そう思う 38​ 65.5 20​ 34.5 0.077
そう思わない 92​ 78.0 26​ 22.0
認知症の人に対する態度 平均±標準偏差 40.35±5.19 37.64±5.55 0.003b

注)χ2検定

a:Fisherの直接確率検定,bt検定,:欠損値を除くn=175で算出

「実施意向あり」は130名(73.9%)であった.

サポートの実施意向は,個人属性の変数との関連はみられなかった.地域に対する思いとの関連では積極性(P<.001),協同による充実(P<.001),行政との対等な関係(P=.029)において有意差がみられた.認知症の人に対する態度との関連では尺度総得点(P=.003)において有意差がみられた.

2) 実施可能な内容の実態(図1

「実施意向あり」の130名のうち,実施可能な内容について,実施可能であると回答した者は,「家の外部からのさりげない観察」102名(78.5%),「異常発見時の通報」96名(73.8%),「話し相手」87名(66.9%),「外出の付き添い」49名(37.7%),「買い物の代行」30名(23.1%),「家事の手伝い」14名(10.8%)であった.

図1 

サポートを実施することが可能な内容(N=130,複数回答)

IV. 考察

1. 対象者の特徴

本研究の対象者は,60歳以上の住民の中でも前期高齢者が多く,健康状態や暮らし向きが良好であり,地域に対する思いが肯定的な者が多かった.地域に対する思いについて,同様の設問を20歳以上の住民に対して調査した先行研究(石盛ら,2013村山ら,2011)と比較すると,本研究の結果の方が肯定的な結果であった.本研究の対象地域は福祉活動が活発であり,対象者は地域活動を行う機関からも選定されていた.そのため,地域に対する意識が強い者が多くなった可能性がある.

認知症の人に対する態度については,本研究で用いた尺度の総得点は大学生を対象とした調査の結果(金ら,2011)と同程度の値であった.認知症の人に対する態度に関連する変数には認知症の人との関わりの有無があり,年齢や性別では統一した見解が得られていない(金ら,2011三上ら,2015).

2. 認知症高齢者に対する地域住民のサポートの実施意向

本研究の対象者の認知症高齢者に対する地域住民のサポートの実施意向は,冷水(2009)の調査の「近所の高齢者へのちょっとした声かけ」への参加意向ありの者(66.1%)より割合が高かった.松下(2016)は,住民には認知症高齢者に対して「このまま放っておけない」という内的な衝動があることを述べている.本研究においては「同じ町内会」や,「町内会長から頼まれた」という条件設定があり,これらの条件が「実施意向あり」の上昇につながった可能性がある.

地域に対する思いとの関連では,地域活動への積極性,協同性に関する思い,行政との対等な関係に関する思いに関連がみられていた.地域活動に対する積極性や協同の意識,行政との対等な関係は,よりよい地域づくりに向けた意識といえる.連帯・積極性のある人や,自己決定意識の高い人ではNPO活動への参加意図が高いこと(Ishimori, 2007),近隣住民とのネットワークはボランティア活動への参加意向の高さに関連していること(冷水,2009)がいわれている.本研究で調査した「認知症高齢者に対するサポート」は,認知症という特性があるが,住民間の互助を中心としたボランティア活動であるといえる.そのため,認知症高齢者に対するサポートも他の地域活動と同じく,よりよい地域づくりに向けた意識が重要であることが示唆された.

認知症の人に対する態度は認知症高齢者に対する地域住民のサポートの実施意向と関連していた.丸尾ら(2012)は,認知症の理解促進プログラムによって地域住民は,「認知症高齢者を自分の地域で支えることができると思う」という思いを強めることができることを明らかにした.認知症について住民が学び,肯定的な考え方を持つことで,認知症の人への対応にかかわる自信を住民自身が持つことにつながり,地域における認知症高齢者へのサポート実施の可能性がより高まると考えられる.

また,認知症高齢者に対する地域住民のサポートの実施意向は個人属性の変数と関連がなかったことから,住民が認知症高齢者へのサポートの担い手になり得るかどうかは,担い手となることを期待される側の年齢や性別などに影響されないことが示唆された.

実施可能な内容については,「観察,通報,話し相手」と比べ「外出付き添い,買い物代行,家事手伝い」の実施可能割合が低いことが明らかになった.和気ら(2007)は,一般的に近隣により実施されている支援は「ちょっとした用事や留守番」,次に「元気づける」であり,看病や世話,金銭の貸与は0%に近いと述べており,本研究でも同様の結果が得られた.このことから,他者へのサポートに関して,相手の生活に深く入り込む必要のない観察や話し相手は行いやすいが,金銭を扱うものや心身の負担が大きくなるものは実施が困難であるという傾向があり,その傾向は地域での住民間のサポートに共通であると考えられる.

3. 提言

本研究の結果より,認知症高齢者を地域で支えるために3点の示唆が得られた.1点目は,60歳以上の地域住民の7割には認知症高齢者を支える意向があり,退職後の高齢者間での支え合いが期待できることである.2点目は,地域住民が認知症高齢者をサポートする際に実施できることとして,観察,通報,話し相手など,相手の生活に深く入り込む必要のないものが挙げられることである.3点目は,よりよい地域づくりに向けた意識と認知症の人に対する態度が否定的であるよりも肯定的である方が,より住民は認知症高齢者へのサポートの担い手になり得ることである.

以上の示唆を踏まえ,地域で認知症高齢者のケアを考える際に公衆衛生看護職に求められる活動としては,2点が挙げられる.1点目は,住民によるサポートの内容の限界を踏まえ,住民が行うには負担が大きい生活支援について,地域で福祉的な事業を実施している機関と連携し,支援の提供体制を整えることである.また,地域住民ができると考えている見守りや話し相手などのサポートについて,住民自身がそれらを重要な支援であると認識し,日常の中で実践できるような働きかけが必要である.2点目は,認知症高齢者に対する地域住民のサポートの実施意向やよりよい地域づくりに向けた意識,認知症の人に対する態度を日々の活動の中から把握し,年齢や性別に特化した集団ではなく小地域全体に働きかけていくことである.これらの活動を実践することで,地域全体で認知症高齢者を支えることが可能になると考えられる.

4. 本研究の限界と意義

本研究で調査しなかった地域参加の状況や認知症の者とのかかわり経験,認知症サポーター養成講座受講経験などの要因が認知症高齢者に対する地域住民のサポートの実施意向と関連している可能性がある.また,対象集団は地域活動が活発な地域の集団であるため,本研究の一般化には考慮が必要である.認知症高齢者に対する地域住民のサポートの実施意向の設問では,研究対象者がイメージを持ちやすくするために条件設定を行った.そのため,本研究で明らかになった意識は「町内会長に頼まれた場合」,「顔見知りではないかもしれない」等に限られる.

以上の限界があるうえで,本研究は地域住民自身の認知症高齢者を支える意向として,相手の生活に深く入り込む必要のない内容であれば可能であること,また,認知症高齢者に対する地域住民のサポートの実施意向にはよりよい地域づくりに向けた意識,認知症の人に対する態度が関連することを明らかにしたことに意義があると考える.

謝辞

A市B区社会福祉協議会の皆様,地区町内会連合会役員の皆様,回答にご協力いただいた皆様に心より感謝申し上げます.

本論文は修士課程での特定課題研究の一部であり,第5回日本公衆衛生看護学会学術集会において発表した.

本研究に開示すべきCOI状態はない.

文献
 
© 2019 Japan Academy of Public Health Nursing
feedback
Top