Japanese Journal of Public Health Nursing
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ISSN-L : 2187-7122
Public Health Nursing Report
The Effects of Participating Voluntary Case Study Meeting for a Prefecture Public Health Nurses on Improving Their Support Capability
Setsuko KoshioMichiko HikoneTomoko TanakaSatoe OnoEiko Kitaoka
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2019 Volume 8 Issue 3 Pages 163-171

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Abstract

【目的】自主的事例検討会参加が県保健師としての支援能力に対する意識・行動に及ぼした効果について明らかにする.

【方法】平成26年7月から平成28年12月に30回開催した自主的事例検討会に参加した県保健師41人に,参加動機,参加後の個別支援に関する意識・行動等の質問紙調査を実施し,参加回数との関連について分析した.

【結果】37人(有効回答率90.2%)から回答を得た.参加回数は,1回が5人(13.5%),2~5回23人(62.2%),6回以上9人(24.3%)であった.複数回参加することにより,県保健師としての役割がわかった等の学びがあり,支援能力の向上等を意識し,研修会や事業の中で事例検討を企画・実施していた.

【考察】自主的事例検討会への複数回参加により,自らの学びのみならず,人材育成や市町村支援につながっていた.今後は事例検討会をOJTとして日常業務に位置付けることが重要であると考える.

Translated Abstract

I. はじめに

都道府県の保健師活動は,地域保健法等により,住民に身近なサービスから精神・難病・感染症・医療安全など専門的で広域的な活動に変化してきている.平成25年の厚生労働省健康局長通知「地域における保健師の保健活動に関する指針」(厚生労働省,2013)では,都道府県保健所等で,「精神障害,難病,結核・感染症,エイズ,肝炎,母子保健,虐待等多様かつ複雑な問題を抱える住民に対して,広域的かつ専門的な各種保健サービス等を提供すること」とされており,多様かつ複雑な問題を抱える住民への支援の必要性が記されている.それを受け,X県では,平成28年度に作成した県の指針で具体的に「県保健師には,児童福祉法の一部改正により小児慢性特定疾病をもつ子どもたちへの支援,難病の患者に関する医療等に関する法律の施行による難病患者の療養生活支援など,より高い対応能力が求められる」と記載されている.

したがって県保健師には経験の長短に関わらず,保健師活動の基本である個別支援技術を向上させ,自信を持って住民や関係機関と向き合える力量が求められる.X県では,地域保健法の改正により分散配置となり,そのためOJTによる人材育成が難しく,とりわけ日常的に実施してきた事例検討の時間確保が厳しい状況にある.これらのことから事例検討会で支援能力に関する学びを共有することが人材育成につながるのではないかと考え,保健師有志による自主的活動として事例検討会(以下,『自主的事例検討会』とする)を平成26年から開催している.

そこで本研究では,『自主的事例検討会』が支援能力向上において参加者にもたらす効果を明らかにすることで,事例検討会を活用した人材育成のあり方を検討したいと考えた.

II. 方法

1. 活動地域(調査フィールド)の現状

X県では,平成9年度に保健所での保健師活動が地区分担制から業務分担制・分散配置となった.担当地区の住民・世帯に責任を持って行ってきた活動から,県の保健師として,広域的な専門性の高い個別支援・地域ネットワークづくりを求められ,20年が経過していた.業務分担制・分散配置後,X県保健師の採用は9年間途絶え,平成18年度に採用が再開された.その後も,職域拡大による分散配置が進み,県庁各課,児童相談所,衛生研究所等一人配置が増えたことで,人材育成の基礎となる個別支援技術の習得が困難な環境で職務遂行をせざるを得ない状況となっている.また,母子保健法の改正により未熟児訪問指導が市町村に移管され,児童虐待・高齢者虐待等と複雑困難事例への対応と他職種とのチームでの支援が主な役割となっている.本来,県保健師はこのような役割を担う必要があるが,実際には経験を積む場が限定され,特に新任保健師が学ぶ機会が少ないことは大きな課題となっている.

なお平成29年3月現在のX県保健師数は119人,経験年齢別では1~5年22人,6~19年24人,20年以上73人である.

2. 『自主的事例検討会』の概要

1) 『自主的事例検討会』の目的

個別支援の問題解決能力や実践力をつけ,対象者へのより良い支援ができるようになる.

2) 実施方法

『自主的事例検討会』は,日本看護協会による「そうだ!事例検討会をやろう!“実践力UP事例検討会”~みて・考え・理解して~」(日本看護協会,2014)を参考に始めた.対象はX県保健師とし,参加者には,個人情報取扱いの内部規定書に署名を依頼し,名簿登録を行う.行政保健師経験のある元大学教授にスーパーバイズを依頼している.

平成26年7月から月1回,19時~21時に県内2カ所の会場で交互に開催している.

3) 当日までの準備

事前に,事例提供者・ファシリテーター・板書係を募集し,自薦他薦にて決定する.事例提供者は所属の課長に事例提供の承諾を得る.事例提出用紙に事例を記載し,ファシリテーター・板書係・スーパーバイザーに情報提供を行う.名簿登録者に,日程・会場・事例概要について情報提供し参加者を募集する.

4) 当日の進行

ファシリテーターは司会進行を行い,板書係はホワイトボードに事例の概要,情報,アセスメント,目標,具体的な支援等検討内容を記載する.進行は以下のとおりである.①導入:自己紹介・所要時間の確認・グランドルールを確認する.②事例紹介:事例提供者が事例概要を説明する.③情報の整理:提供された情報から追加情報の確認を行い,不明点を整理する.④アセスメント:現状の評価と今後予想されることを検討する.⑤支援の方向性の確認:長期目標・短期目標と具体的な支援策を検討する.⑥役割の確認:今後の役割分担とその手法を検討する.⑦振り返り:感想を共有する.⑧振り返りシート(感想を自由に記載するシート)を各自記載して終了となる.

翌日,検討された概要とともに振り返りシートの記載から「学べたこと」を抽出したまとめを名簿登録者に報告し,次回の開催日を周知する.

5) 実施回数・参加人数・事例の種別

平成29年11月15日現在までに,41回実施し,参加実人数48人,延人数372人であった.1回の平均参加者数は9.1人であった.

毎回1事例を検討し,検討した事例の種別は,小児慢性特定疾病14例,感染症6例,心身障害5例,生活習慣病3例,難病3例,精神・認知症・妊産婦2例,その他4例であった.

事例としては,①医療的ケア児の就学に向けての支援体制構築,②外国籍結核患者への支援体制,③児童相談所保健師の関わる児童虐待事例などの多機関多職種との連携など,県保健師の役割についての検討を行った.

6) 研修会の開催

平成26年度の『自主的事例検討会』開始前に事例検討会の進め方に関する研修会を,県保健師を対象に開催した.その後も平成29年度まで年1回,事例検討会の重要性と手法を学ぶために,市町村保健師にも対象を広げて研修会を継続実施した.

3. 用語の定義

1) 意識

「意識」とは,広義には,われわれの経験または心理的現象の総体をさし,狭義には,これらの経験中特に気づかれる内容を意味するが,きわめて多義的である.しかし,意識はいずれにしても主観的で個人的であって,内省によってのみ把握できる直接経験である(ブリタニカ国際大百科事典,2018)としている.したがって,本研究の「意識」とは『自主的事例検討会』に参加した本人の県保健師としての個別支援の問題解決能力や,実践力への内面的な気づきとする.

2) 行動

「行動」とは,人,動物が目的をもって,意識的に体を動かしたり,他に働きかけたりすること.ふるまい.行為(精選版日本国語大辞典,2018)としている.したがって,本研究の「行動」とは『自主的事例検討会』に参加して本人が意識的に起こした県保健師としての専門性を高めるための事業・業務への反映や自己研鑽等の行為とする.

4. 調査対象者

平成26年7月から平成28年12月までの『自主的事例検討会』(全30回)に参加した41人であった.

5. データ収集期間

平成29年3月から4月の2か月とした.

6. 調査の方法と内容

1) データ収集方法

無記名の自記式質問紙調査票を郵送し,回収は返信用封筒による郵送とした.

対象者宛依頼文書に,調査の目的,参加の自由,個人情報の保護等,倫理的配慮について記載し,調査票に同封した.

2) 調査項目

調査票は『自主的事例検討会』に関する今までのまとめ(古塩ら,2015)と記載された振り返りシートのまとめを参考に,共同研究者で話し合い作成した.

構成としては,基本属性,自主的事例検討会の参加状況,参加後の意識と行動とした.具体的な項目は,保健師経験年数,『自主的事例検討会』での事例提供・ファシリテーター・板書の経験の有無,『自主的事例検討会』への参加回数,また参加動機(6項目),参加後の意識の変化(11項目)や行動したこと(7項目),参加しての学び(11項目)については「思った・わかった・感じた・学んだ・できた」「どちらかといえば思った・どちらかといえばわかった・どちらかといえば感じた・どちらかといえば学んだ・どちらかといえばできた」「どちらかといえば思わなかった・どちらかといえばわからなかった・どちらかといえば感じなかった・どちらかといえば学ばなかった・どちらかといえばできなかった」「思わなかった・わからなかった・感じなかった・学ばなかった・できなかった」の4件法とした.さらに感想・意見などの自由記載欄を設けた.

3) 分析方法

すべての項目の記述統計量を算出した.なお,参加しての学び(11項目)については「思った・わかった・感じた・学んだ・できた」を「そのとおり」,「どちらかといえば思った・どちらかといえばわかった・どちらかといえば感じた・どちらかといえば学んだ・どちらかといえばできた」を「どちらかといえばそのとおり」,「どちらかといえば思わなかった・どちらかといえばわからなかった・どちらかといえば感じなかった・どちらかといえば学ばなかった・どちらかといえばできなかった」を「どちらかといえばそのとおりでない」,「思わなかった・わからなかった・感じなかった・学ばなかった・できなかった」を「そのとおりでない」として,表に記載した.さらに参加回数を3群に分け,参加しての学び・意識の変化や行動したこととの関連についてクロス集計を行い,Fisherの直接確率検定を行った.感想・意見は,データから意味内容を示す部分を抽出し,コードを付け,類似性と相違性に着目しながら質的帰納的にカテゴリーを生成した.

7. 倫理的配慮

倫理的配慮として,調査に対する参加・拒否の自由があること,対象者に対する負担がないこと,調査は無記名で行い,個人や所属の匿名性とプライバシー保護,データの厳重な管理を保証した.調査への同意は,調査票の返信をもって得たものとすることを文書に記載した.

なお,本研究は,平成28年度一般社団法人日本公衆衛生看護学会研究倫理審査会(承認番号4,承認日平成29年2月15日)の承認を得て実施した.

III. 活動結果

1. 調査参加者の概要

調査対象者41人からの回答数および有効回答数は37人,回収率・有効回答率は90.2%であった.

X県保健師としての経験年数は,1~5年が14人(37.8%),6~19年7人(18.9%),20年以上16人(43.2%)であった.X県保健師全体からみると,1~5年の63.6%,6~20年未満の29.2%,20年以上の21.9%が参加していた.

参加回数は,1回5人(13.5%),2~5回23人(62.2%),6回以上9人(24.3%)であった.

参加回数1回の経験年数の内訳は1~5年2人,6~19年1人,20年以上2人で,参加回数2~5回では1~5年10人,6~19年5人,20年以上8人で,参加回数6回以上では1~5年2人,6~19年1人,20年以上6人であった.

2. 参加動機(複数回答)

初回の参加動機は,「職場の先輩・同僚等に誘われた,勧められた」25人(67.6%)が最も多く,次いで「事例検討会の手法を学びたかった」22人(59.5%)であった.

3. 役割体験

3つの役割のうち何か1回でも体験したのは24人(64.8%)であった.役割別では重複も含めて,事例提供体験は14人,ファシリテーター体験は13人と対象者全体の約1/3が経験をしていた.さらに板書体験は19人でおよそ半数が経験をしていた.

4. 参加しての学び

1のとおり,全項目で,「そのとおり」および「どちらかといえばそのとおり」が90%以上であった.さらに80%以上が「そのとおり」と回答した項目は,「アセスメントを言語化することがとても大切だと思った」「事例を整理することの大切さがわかった」「皆で議論することが多くの視点・角度から検討できると感じた」「生活状況等の情報や思いを確認していく必要があると思った」であった.

表1  自主的事例検討会に参加しての学び(N=37)
人(%)
項目 そのとおり どちらかといえばそのとおり どちらかといえばそのとおりでない そのとおりでない
アセスメントを言語化することがとても大切だと思った 35(94.6) 2(5.4) 0(0.0) 0(0.0)
事例を整理することの大切さがわかった 33(89.2) 4(10.8) 0(0.0) 0(0.0)
皆で議論することが多くの視点・角度から検討できると感じた 33(89.2) 3(8.1) 1(2.7) 0(0.0)
生活状況等の情報や思いを確認していく必要があると思った 30(81.1) 7(18.9) 0(0.0) 0(0.0)
将来を見通して事例を関わる必要性を感じた 27(73.0) 9(24.3) 1(2.7) 0(0.0)
事例への具体的な支援を学べたa) 25(67.6) 10(27.0) 1(2.7) 0(0.0)
自分が関わったことのない対象への支援を疑似体験できた 22(59.5) 12(32.4) 2(5.4) 1(2.7)
医学的な視点を深める必要性を感じた 20(54.1) 14(37.8) 3(8.1) 0(0.0)
自分の事例として考えることができた 17(45.9) 17(45.9) 3(8.1) 0(0.0)
保健師としての専門性を発揮するための支援がわかったa) 17(45.9) 18(48.6) 1(2.7) 0(0.0)
県の保健師としての役割がわかった 12(32.4) 22(59.5) 3(8.1) 0(0.0)

a)n=36

5. 参加後の意識の変化

2のとおり,参加した後の意識の変化について,「あった」と回答したのは37人全員であった.

表2  自主的事例検討会に参加後の意識の変化(N=37)
人(%)
項目
意識の変化の有無 37(100.0) 0(0.0)
事例検討会は大事と思った 32(86.5) 5(13.5)
自己研鑽が必要だと思った 27(73.0) 10(27.0)
事例検討会は自己を成長させてくれると思った 22(59.5) 15(40.5)
今後も継続して参加しようと思った 21(56.8) 16(43.2)
自分の受け持ち事例の情報やアセスメント,支援計画等を振り返ろうと思った 18(48.6) 19(51.4)
家庭訪問が大事と感じた 17(45.9) 20(54.1)
市町村支援で使える手法だと思った 17(45.9) 20(54.1)
他の保健師も誘おうと思った 15(40.5) 22(59.5)
事業の中で,事例検討会をやってみようと思った 15(40.5) 22(59.5)
所内の人材育成で使いたいと思った 15(40.5) 22(59.5)
事例検討会を広めようと思った 12(32.4) 25(67.6)

内訳では「事例検討会は大事と思った」が32人(86.5%)と最も多かった.半数以上が「あった」と回答した項目は,「自己研鑽が必要だと思った」「事例検討会は自己を成長させてくれると思った」「今後も継続して参加しようと思った」であった.

6. 参加後の行動

3のとおり,参加後に何らかの行動をした人は31人(83.3%)であった.「可能な時には,事例検討会に参加した」が一番多く,次いで「受け持ち事例の整理を行った」「所属内の保健師連絡会等で事例検討会を実施した」であった.

表3  自主的事例検討会に参加後の行動(N=37)
人(%)
項目
参加後の行動の有無 31(83.8) 6(16.2)
可能な時には,事例検討会に参加した 22(59.5) 15(40.5)
受け持ち事例の整理を行った 14(37.8) 23(62.2)
所属内の保健師連絡会等で事例検討会を実施した 14(37.8) 23(62.2)
研修会や事業の中で,事例検討会を実施した 13(35.1) 24(64.9)
他の保健師を事例検討会に誘った 12(32.4) 25(67.6)
他の研修会へ参加するなど,自己研鑽をした 10(27.0) 27(73.0)
市町村支援を行った 9(24.3) 28(75.7)
事例から地域のネットワークづくりへと広げた 5(13.5) 32(86.5)
家庭訪問の回数・件数が増えた 4(10.8) 33(89.2)

7. 参加しての感想・意見

4のとおり,15人からの記載があり,「スキルアップにつながった」「人材育成として役立つと思う」「サポートとエンパワメントが得られる」「方法論が獲得できる」「事例から事業へ反映できる」の5カテゴリーに分けられた.

表4  自主的事例検討会に参加しての感想・意見(n=15)
カテゴリー(コード数) コード例
スキルアップにつながった(7) ・様々な年代,経験者と話し合うことで,自分のアセスメント能力が高まった.
人材育成として役立つと思う(3) ・先輩から後輩への支援のスキル伝承の場になると感じた.
サポートとエンパワメントが得られる(2) ・自分の関わり方をサポートしてもらい,支援してもらえる場である.
方法論が獲得できる(2) ・事例から感じとったサインや非言語の部分の情報を見せる化できる.
事例から事業へ反映できる(1) ・現在,個別支援をしていなくても,常に現場で支援している事例を知ることで,今の立場でも生かすことができる.

8. 参加回数との関連

参加しての学びとの関連では,表5のとおり,複数回参加者は「医学的な視点を深める必要性を感じた」「自分の事例として考えることができた」「保健師としての専門性を発揮するための支援がわかった」「県の保健師としての役割がわかった」の4項目で「そのとおり」の回答が有意に多かった.

表5  自主的事例検討会への参加回数と参加しての学びとの関連(N=37)
(人)
項目 1回
n=5)#
2~5回
n=23)#
6回以上
n=9)
P
アセスメントを言語化することがとても大切だと思った そのとおり 35 5 21 9 1.000
どちらかといえばそのとおり 2 0 2 0
事例を整理することの大切さがわかった そのとおり 33 5 19 9 0.839
どちらかといえばそのとおり 4 0 4 0
生活状況等の情報や思いを確認していく必要があると思った そのとおり 30 4 17 9 0.591
どちらかといえばそのとおり 7 1 6 0
皆で議論することが多くの視点・角度から検討できると感じた そのとおり 33 5 19 9 0.709
どちらかといえばそのとおり 3 0 3 0
将来を見通して事例を関わる必要性を感じたa) そのとおり 27 3 16 8 0.558
どちらかといえばそのとおり 9 2 6 1
事例への具体的な支援を学べたb) そのとおり 25 3 13 9 0.071
どちらかといえばそのとおり 10 2 8 0
自分が関わったことのない対象への支援を疑似体験できたc) そのとおり 22 2 12 8 0.224
どちらかといえばそのとおり 12 2 9 1
医学的な視点を深める必要性を感じたc) そのとおり 20 3 8 9 0.005*
どちらかといえばそのとおり 14 2 12 0
自分の事例として考えることができたc) そのとおり 17 3 5 9 <0.001**
どちらかといえばそのとおり 17 2 15 0
保健師としての専門性を発揮するための支援がわかったb) そのとおり 17 2 6 9 <0.001**
どちらかといえばそのとおり 18 3 15 0
県の保健師としての役割がわかったc) そのとおり 12 0 3 9 <0.001**
どちらかといえばそのとおり 22 4 18 0

注)検定方法 フィッシャーの確率検定 イエーツ補正

*P<0.05 **P<0.01

a)n=36 b)n=35 c)n=34

#学びの否定的回答は分析に含んでいないため計が異なる場合がある

また,参加後の意識の変化では,表6のとおり,複数回参加者は「事例検討会は自己を成長させてくれると思った」「家庭訪問が大事と感じた」等の6項目で「有」の回答が有意に多かった.

表6  自主的事例検討会への参加回数と意識の変化との関連(N=37)
(人)
項目 1回
n=5)
2~5回
n=23)
6回以上
n=9)
P
事例検討会は大事と思った 32 4 19 9 0.384
5 1 4 0
自己研鑽が必要だと思った 27 3 15 9 0.081
10 2 8 0
事例検討会は自己を成長させてくれると思った 22 2 11 9 0.010*
15 3 12 0
今後も継続して参加しようと思った 21 1 12 8 0.034*
16 4 11 1
自分の受け持ち事例の情報やアセスメント,支援計画等を振り返ろうと思った 18 2 10 6 0.565
19 3 13 3
家庭訪問が大事と感じた 17 2 7 8 0.011*
20 3 16 1
市町村支援で使える手法だと思った 17 2 7 8 0.011*
20 3 16 1
所内の人材育成で使いたいと思った 16 3 5 8 0.001**
21 2 18 1
他の保健師も誘おうと思った 15 1 6 8 0.003**
22 4 17 1
事業の中で,事例検討会をやってみようと思った 15 3 7 5 0.294
22 2 16 4
事例検討会を広めようと思った 12 1 5 6 0.067
25 4 18 3

注)検定方法 フィッシャーの確率検定 イエーツ補正

*P<0.05 **P<0.01

参加後の行動との関連では,表7のとおり,複数回参加者は「可能な時には事例検討会に参加した」「研修会や事業の中で事例検討会を実施した」等の6項目で「有」の回答が有意に多かった.

表7  自主的事例検討会への参加回数と参加後の行動との関連(N=37)
(人)
項目 1回
n=5)
2~5回
n=23)
6回以上
n=9)
P
可能な時には,事例検討会に参加した 22 0 13 9 <0.001**
15 5 10 0
受け持ち事例の整理と行った 14 2 7 5 0.489
23 3 16 4
所属内の保健師連絡会等で事例検討会を実施した 14 3 6 5 0.225
23 2 17 4
研修会や事業の中で,事例検討会を実施した 13 1 5 7 0.010*
24 4 18 2
他の保健師を事例検討会に誘った 12 0 4 8 <0.001**
25 5 19 1
他の研修会へ参加するなど,自己研鑽をした 10 1 3 6 0.011*
27 4 20 3
市町村支援を行った 9 0 4 5 0.049*
28 5 19 4
事例から地域のネットワークづくりへと広げた 5 1 1 3 0.063
32 4 22 6
家庭訪問の回数・件数が増えた 4 0 1 3 0.048*
33 5 22 6

注)検定方法 フィッシャーの確率検定 イエーツ補正

*P<0.05 **P<0.01

IV. 考察

事例検討会の必要性や効果などについては,すでに多く報告(米山,2009杉谷ら,2011小林,2011兼平ら,2014永吉ら,2016石田ら,2016)されている.本調査においても限定された中での結果ではあるが,参加しての学び・意識の変化・行動したこと,その後の業務への影響などを確認することができた.

1. 参加することの効果

県保健師は,保健師活動の中で新任期であっても複雑多問題事例への対応を余儀なくされる.実体験が少ない現状の中で『自主的事例検討会』に参加することにより,アセスメントの言語化,事例の整理,生活状況等の情報や思いの確認,将来を見通しての支援などを学べていたことは貴重な経験といえる.さらに,複数回参加者では,自分自身が経験していない様々な疾病や背景,課題を抱えている事例に接することで,自分の事例として考えることができている.加えて,看護職である保健師としての医学的な視点や,保健師の専門性,県保健師としての役割を確認することができたと考える.また,新人からベテランまで様々な経験を有する参加者での話し合いは,多角的な視点からの検討ができる場になり,ベテランから新人期や中堅期へ,中堅期から新人期への個別支援技術の伝承の場にもなっていたと考えられる.

このように『自主的事例検討会』への参加は,事例検討会が大事であること,自己研鑽の必要性,自己の成長の場であること等を意識する機会となっていた.とりわけ複数回参加者では,家庭訪問が大事であること,参加の継続希望,他保健師の勧誘,所属内での人材育成,市町村支援での活用を意識していた.

さらに,複数回参加者では,行動の実践として,参加の継続,研修会や事業内での実施,他保健師の勧誘,自己研鑽,市町村支援,家庭訪問件数の増加をあげていた.

県保健師として市町村支援は,重要な役割である.常に管轄市町村の保健師活動を視野に入れ,住民の健康を守る使命を市町村とともに実施する立場にある.『自主的事例検討会』参加を重ねることで,市町村支援を意識し,行動したのであれば,『自主的事例検討会』参加は有意義なことであり,自分自身の学びだけでなく,人材育成や市町村支援へと広がりを持つことができたと思われる.つまり個人の個別支援技術の獲得だけでなく,職場や業務への波及効果もあったと考えられる.

2. 今後の事例検討会を活用した人材育成のあり方

杉谷ら(2011)は,「事例検討会を継続して実施することにより,長期的な効果として他の個別援助スキルについても向上することが期待できる」と述べており,今回の調査からも複数回参加が,学びの深まりや職場への波及効果につながっていたと考えられる.また,兼平ら(2014)は「事例検討会は,①保健師としての力量形成,②保健師の経験知の伝承,③保健事業・施策への反映等の効果があり,まさに職場における人材育成である.事例検討会を業務の一環として位置づけ,定期的に実施できると効果的である.」と述べている.さらに佐伯(2011)は,統括保健師の役割として,保健師の人材育成のための風土醸成づくりが必要で,人材育成の基盤となる職場の雰囲気と人間関係づくりが必要であると述べている.これらのことから『自主的事例検討会』は,人材育成の場のひとつとなると考える.今後はまだ参加していない人たちへの『自主的事例検討会』参加の促しと,参加した人が,以降も継続的に参加できるような工夫が必要である.例えば『自主事例検討会』に参加した学びを職場で共有し,『自主的事例検討会』に参加しやすい職場環境づくりをするなど,自己研鑽していくことが当たり前のような職場の雰囲気づくりが重要である.

しかし,夜間開催の自主的活動は,子育てや介護中の世代等の参加が難しい状況であるため,参加には限界があり,日常業務内での定例化した実施に位置づけていくことが課題と考える.

V. おわりに

本研究はX県保健師による『自主的事例検討会』への参加者を対象とした限定された結果ではあるが,複数回参加することで,自身の意識と行動だけでなく,他保健師へ参加勧誘や事業での実施,市町村支援等の波及効果も生じていたことが明らかになった.また,複数回の参加は,自分の事例として考えることや保健師の専門性,県保健師としての役割を確認することにもつながっていた.事例検討会は,人材育成の観点からも必要な取組みであり,保健師のラダー別研修などフォーマルに位置付け,日常業務内のOJTとして,定例的に実施することが課題である.

謝辞

本研究にご協力いただきましたX県保健師の皆さまに深謝いたします.また,『自主的事例検討会』の助言者として支援してくださっている元杏林大学教授塚原洋子先生に心よりお礼申し上げます.

なお,本研究に開示すべきCOI状態はありません.

本研究の一部は,第6回日本公衆衛生看護学会学術集会で発表した.

文献
 
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