Japanese Journal of Public Health Nursing
Online ISSN : 2189-7018
Print ISSN : 2187-7122
ISSN-L : 2187-7122
Research Article
Organizational Commitment and Related Factors Affecting Community Organizations for Older Adults
Shiori TakedaKazuko SaekiYoshiko Mizuno
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2020 Volume 9 Issue 1 Pages 18-26

Details
Abstract

目的:本研究の目的は,高齢者が中心の地域サロン参加者の組織コミットメントの実態と組織コミットメントに関連する要因を明らかにすることとする.

方法:地域サロン参加者に,無記名自記式質問紙調査を集合で行った.調査内容は,個人属性,参加状況,集団凝集性の意識,組織コミットメント(情緒的,規範的,集団同一視)とした.分析は,単変量解析及び多重ロジスティック回帰分析を用いた.

結果:有効回答は183部(有効回答率88.0%)であり,75歳以上54.6%,女性80.3%,役員35.7%であった.3つの組織コミットメントはいずれも年齢と関連を示した.さらに,情緒は課題凝集性,規範は成員凝集性,集団同一視は課題・成員凝集性と関連があり,加えて,集団同一視は会員よりも役員が有意に高かった.

考察:地域サロン参加者のコミットメントを高めるには,情緒的コミットメントを維持しながら,役員だけでなく多くの会員を交えた運営への支援が重要である.

Translated Abstract

Purpose: The purpose of this study is to clarify the relationships between organizational commitment, individual characteristics, and group cohesiveness among members of community organizations for the elderly which were depended on voluntary participation of members. Active organizational commitment is one of elements that can improve the activity of the organizations.

Methods: A collective survey using an anonymized questionnaire was completed by participants in community organizations that cater to the elderly. The questionnaire assessed respondents’ personal attributes, characteristics of their participation in the organization, task cohesiveness, group cohesiveness, and organizational commitment. Univariate analysis and multiple logistic regression analyses were used for statistical analysis.

Results: The effective response rate was 88.0% (n=183). A majority of respondents were female (80.3%), aged over 75 years (54.6%), and 35.7% were leaders who were the member of the community organizations and running their organizations. Submeasures of organizational commitment—emotional, group identification, and normative commitment—were all related to age. Furthermore, affective commitments were associated with task cohesiveness, normative commitments with member cohesiveness, and group-identification commitments with task and member cohesiveness. In addition, group identification was significantly higher for leaders than for members.

Conclusion: Maintaining emotional commitment is important for increasing organizational commitment among members of community organizations for the elderly. Moreover, it is important to support operations that involve not only leaders but also regular members.

I. 緒言

日本では2016年に高齢化率が27.3%となり,急速な高齢化が進んでいる(内閣府,2017).約8割は元気な高齢者とされる現代において,高齢者が身近な地域における社会参加を通じて,生きがいを持って健康に過ごすことが重要である.

高齢者が主体的に生きがいづくりや健康づくりを行うことができる場として,「ふれあい・いきいきサロン」(以下,地域サロン)がある.1994年から全国社会福祉協議会を中心に行われ,「地域を拠点に,住民である当事者とボランティアとが協働で企画をし,内容を決め,共に運営していく楽しい仲間づくりの活動」と定義される(全国社協,2000).先行研究では,地域サロンの活動実態(山下ら,2012)や効果(豊田,2008),運営の課題(石飛,2011),ネットワーク化(菅原,2017)に関して知見が得られている.特に,課題として多くのサロンに共通するものは活動プログラム作成,運営スタッフの確保,参加者の確保や拡充がある(森,2008)とされている.

それらの課題を解決するために,組織コミットメントが示唆を与えてくれると考える.組織コミットメントは,経営管理的な側面から企業において多数の研究が行われてきた(板倉,1999大倉ら,2004).地域サロンは,参加と離脱の自由があるという点でフォーマルな組織との違いがありながらも,集団目標や成員の責任性などの要素を持つ準組織といえる.橋本ら(2010)は「“準組織”とは,『集団としての共通目標』『成員間の責任・役割の分化』『権限の分化』といった,組織に必要とされる諸要素(Barnard, 1938)を持つが,フォーマルな組織ほどの厳格性を帯びておらず,その度合いが集団ごとに異なる集団と定義する」と述べている.地域サロンのような準組織的な集団として,ボランティア組織や住民主体の総合型スポーツクラブ等を対象とした研究においても,参加継続の意志(Vecina et al., 2013)や運営協力意志(長積ら,1998)が組織コミットメントと関連していることが報告されている.

組織コミットメントを規定する要因として,年齢,勤続年数との正の関連(Allutto et al., 1973Lee, 1971)が報告されている.性別との関連では,産業組織においては男性が高い(田尾ら,1997,p. 53)とするもの,ボランティア組織では女性が高い(北村ら,2005)とするなど様々である.また,職務内容や役職などの役割に関する変数が関連を持つという指摘がなされている(田尾ら,1997,p. 77)一方,行政組織では役職はコミットメントと有意な関連は示されないという報告もある(倉谷ら,2006).地域サロンにおける役割では,担い手と参加者の協働が推奨されているため,参加立場と組織コミットメントの関連を検討する必要がある.個人の組織への認識としては,協働的組織風土(関本ら,1997國府島ら,2006)や組織内の人間関係(高木,2003鈴木ら,2012),集団凝集性(橋本ら,2010)と組織コミットメントとの関連が報告されている.地域サロンは楽しみや生きがいを求めて自らの意志で自由に参加する場であるため,地域サロン内の風土や人間関係を個人がどのように認識しているかが,組織コミットメントに大きな影響を与えていると考える.

以上のことから,本研究は地域サロン参加者の組織コミットメントの実態と組織コミットメントに関連する要因を明らかにすることを目的とする.地域サロン参加者の組織コミットメントを検討することで,地域サロン独自のコミットメントの実態を明らかにして,自主的な活動を発展させる上での示唆を得ることができると考える.

本研究において組織コミットメントは,情緒的要素,存続的要素,規範的要素の3つの要素の組み合わせとその程度によるとするアレンとメイヤー(Allen et al., 1990)を参考として,「地域サロン参加者の地域サロンの組織並びに他の参加者と結びついていたいという意思決定を含む心理的な状態」と定義した.

II. 研究方法

1. 研究対象

対象とする地域サロンは,大都市A市B区社会福祉協議会に登録され,高齢者を対象として活動していることを条件とした.当該社会福祉協議会に文書と口頭で依頼し,2017年5月現在登録されている74か所のうち,紹介された16か所の地域サロンの代表者に,文書と口頭で研究協力を依頼し,会員と役員の211名を対象とした.

対象とした16か所の地域サロンは,参加人数では15人未満が11か所,住民主体で運営している地域サロンが8か所,活動内容では様々な活動を行う地域サロンが7か所であった.

2. データ収集方法

2017年5月~8月に地域サロンの開催に合わせて,研究者が地域サロンに参加し,対象者にその場で回答及び回収を行う集合調査を行った.1か所のみ希望により,留め置き法で行った.地域サロン参加者には,文書で無記名自記式調査票への回答を依頼した.

3. 調査項目

地域サロンと組織コミットメントの先行研究(橋本ら,2010)を参考にした.

1) 個人特性

個人特性は,年齢(50歳未満,50~55歳,56~59歳,60~64歳,65~69歳,70~74歳,75~79歳,80歳以上),性別(男,女),世帯構成(一人暮らし,夫婦のみ,二世代以上,その他),主観的健康感(健康~健康でないの4件法)を尋ねた.

2) 参加の状況

参加の状況は,参加立場(会員,役員,代表・副代表),参加期間(3か月未満,3か月以上半年未満,半年以上1年未満,1年以上2年未満,2年以上3年未満,3年以上),参加頻度(週に3回以上,週に1回くらい,月に2回くらい,月に1回くらい,2か月に1回くらい,年に数回)を尋ねた.分析の際,参加立場の役員と代表・副代表をまとめて「役員」とした.

3) 集団凝集性の意識

集団凝集性の意識は,橋本ら(2010)の作成した尺度を用いた.2つの下位尺度より成り立ち,成員が集団の他のメンバーにどれだけ好意を持っているかを表す「成員凝集性」と,成員がどれだけ集団の目標や活動内容に満足しているかを表す「課題凝集性」から構成される.成員凝集性は,「別の集団よりも,この集団といる方が楽しい」「自分のもっとも仲の良い友人の何人かは,サロン内にいる」「サロンの交流的活動(食事会や飲み会など)に参加して,自分は楽しめる」「サロンが活動していないときに,他のメンバーに会えない寂しさを感じる」の4項目,課題凝集性は,「この集団の目標達成へのやる気の程度に満足を感じる」「この集団の活動スタイルが好きである」の2項目から成る.

4) 協同的な組織風土の認知

組織風土は地域サロンを対象とした尺度がないため,田尾(1999, p. 189)がまとめたキャンベルらの組織風土の下位次元と,中山(2007)の住民組織の質的評価指標を参考に,サロンの組織風土として適切な表現を検討し,4つの質問項目を作成した.設問は,「あなたから見たサロンについて,以下の全ての質問にお答えください」とし,回答は4件法を用いた.各設問は,主体的な参加の認知として「皆,個人の自由な意志に基づいてサロン活動を行っている」,運営の民主性として「サロン活動の企画や運営に,参加者ひとりひとりの意見が尊重されている」,努力の承認として「サロン活動でのあなたや他者の努力が,別の参加者に適切に評価されている」,良好な関係性として「お互いに大切にした関係を築くことができている」とした.各設問について集計では「当てはまる群」,「当てはまらない群」とした.

5) 組織コミットメント

アレンとメイヤー(Allen et al., 1990)を元に作成された,橋本ら(2010)の大学生を対象としたサークル・コミットメント尺度を用いた.企業や職場などのフォーマルな組織とは異なる準組織的な集団として,サークル集団の特徴を捉えるために開発された尺度であり,本研究の対象である地域サロンも,参加の自由度とある程度の責任性,集団ごとの多様性の点で準組織といえることから,本尺度が応用できると判断した.

橋本らの尺度は,3つの下位尺度(各4項目)から構成される.感情的な愛着による組織への結びつきである「情緒的コミットメント」,自らを集団の一員として意識することによる組織への結びつきである「集団同一視コミットメント」,組織をやめることへの罪悪感や責任による組織への結びつきである「規範的コミットメント」である.

質問項目は,情緒的コミットメントが,「これからも喜んでこの集団の一員であり続けたい」「この集団に対する情緒的な愛着を感じる」「この集団は,自分にとって大いに意味のある存在だ」「この集団は,自分にとって家族のようなものだ」,集団同一視コミットメントが「自分は,この集団への忠誠心を割と持っている」「この集団の一員であるということを強く意識している」「この集団は,自分が所属する集団の中で,もっとも重要だと感じる集団のひとつだ」「この集団の問題は,あたかも自分自身の問題であるかのように感じる」,規範的コミットメントが,「今このサロンをやめたら,罪悪感を覚えるだろう」「せっかくここまでやってきたのだから,今更このサロンをやめられない」「集団の他のメンバーに悪いので,今やめようとは思わない」「このサロンをやめたいと思ったとしても,今やめるのはとても難しいだろう」である.

集団凝集性の意識と組織コミットメントは,市の社会福祉協議会職員および専門家との検討により,高齢者という特徴を踏まえて尺度作成者の許可を得て,逆転項目をすべて肯定的な表現に,7件法を5件法に変更した.全ての項目は「1=当てはまらない~5=当てはまる」の5件法を用いた.各尺度の得点範囲は,成員凝集性が4–20点,課題凝集性が2–10点,組織コミットメントの3つの下位尺度が4–20点である.

4. 分析方法

有効回答は,年齢の回答があり,集団凝集性の意識と組織コミットメントでいずれも半分以上に無回答がないものとした.

組織コミットメントの下位尺度間の差の検定には,Kruskal-Wallis検定を行った.

組織コミットメントの関連要因は,χ2検定及びFisherの直接確率検定を用いた.組織コミットメントは各下位尺度について分析を行った.組織コミットメントの各下位尺度はいずれも正規分布しておらず,下位尺度の平均点が「4=やや当てはまる」よりも肯定的であることを基準として,16点以上を「高群」,16点未満を「低群」とした.独立変数は,個人特性,参加立場,集団凝集性の意識について検討した.集団凝集性の意識は2つの下位尺度をそれぞれ中央値で2群化した.

組織コミットメントの各下位尺度を従属変数とし,独立変数間の関連を求めるため,多重ロジスティック回帰分析を行った.従属変数の各下位尺度は高群1,低群0とした.独立変数は,χ2検定及びFisherの直接確率検定の結果,各下位尺度のいずれかに有意な関連を示した変数を用いた.さらに,地域サロンの課題に運営スタッフの確保が挙げられていることから(森,2008),参加立場を加えて強制投入した.なお,投入した変数間において強い相関がないことを確認した.いずれの検定もIBM SPSS Statistics Ver. 22を用い,有意水準は5%とした.

5. 倫理的配慮

対象者に対しては,文書と口頭により,研究内容,研究目的,研究方法,研究参加の自由,不参加による不利益がないこと,匿名性が保持されること,研究目的以外にデータを使用しないことを説明した.

本研究は,北海道大学大学院保健科学研究院倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:17-3,承認日:2017年5月8日).

III. 結果

調査票は208部回収し(回収率98.6%),有効回答数は183部であった(有効回答率88.0%).

1. 対象者と対象サロンの特徴(表1

対象者は75歳以上100人(54.6%),女性147人(80.3%)であった.サロンにおける立場は,会員が110人(64.3%),参加期間は2年未満70人(39.3%)であった.

表1  対象者と地域サロンの特性(N=183)
n %
個人特性 年齢 75歳未満 83 45.4
75歳以上 100 54.6
性別 男性 36 19.7
女性 147 80.3
世帯構成 独居 68 37.2
同居 115 62.8
主観的健康感(n=181) 健康 149 81.4
健康でない 32 17.5
参加の状況 参加立場(n=171) 会員 110 64.3
役員 61 35.7
参加期間(n=178) 2年未満 70 39.3
2年以上 108 60.7
参加頻度(n=182) 月1回以下 87 47.8
月2回以上 95 52.2
集団凝集性の意識 成員凝集性 低群 88 48.1
高群 95 51.9
課題凝集性 低群 82 44.8
高群 101 55.2
協同的な組織風土の認知 主体的な参加の認知(n=178) 当てはまる群 168 94.4
当てはまらない群 10 5.6
運営の民主性の認知(n=178) 当てはまる群 165 92.7
当てはまらない群 13 7.3
努力の承認の認知(n=175) 当てはまる群 145 82.9
当てはまらない群 30 17.1
良好な関係性の認知(n=175) 当てはまる群 166 94.9
当てはまらない群 9 5.1

集団凝集性の意識において,成員凝集性は平均値16.4(±3.1),中央値17,高群95人,低群88人であり,信頼性係数はクロンバックα=.71であった.課題凝集性は平均値9.1(±1.2),中央値10,高群101人,低群82人であり,信頼性係数はクロンバックα=.83であった.

協同的な組織風土の認知において「当てはまる群」は,主体的な参加の認知168人(94.4%),運営の民主性の認知165人(92.7%),努力の承認の認知145人(82.9%),良好な関係性の認知166人(94.9%)であった.

2. 組織コミットメントの実態

組織コミットメントは,情緒的コミットメントは平均点17.1(±2.5)点,高群136人,低群47人であり,信頼性係数は,クロンバックα=.83であった.集団同一視コミットメントは平均点15.1(±3.7)点,高群94人,低群89人であり,信頼性係数は,クロンバックα=.76であった.規範的コミットメントは平均点14.1(±3.7)点,高群75人,低群108人であり,信頼性係数は,クロンバックα=.87であった.

3つの組織コミットメント間には,有意な差があった(P<.001).ペア毎の比較では,情緒的コミットメントと集団同一視コミットメント(P<.001),情緒的コミットメントと規範的コミットメント(P<.001)および集団同一視コミットメントと規範的コミットメント(P=.049)に有意な差があった.

3. 組織コミットメントの関連要因

最初に各コミットメントに関連する要因をχ2検定で検討した(表2).情緒的コミットメントが高いことと,75歳以上(P=.009),成員凝集性が高いこと(P<.001),課題凝集性が高いこと(P<.001)が有意な結果となった.集団同一視コミットメントが高いことと,75歳以上(P<.001),参加期間2年以上(P=.006),成員凝集性が高いこと(P<.001),課題凝集性が高いこと(P<.001)が有意な結果となった.規範的コミットメントが高いことと,75歳以上(P=.002),男性(P=.047),成員凝集性が高いこと(P<.001),課題凝集性が高いこと(P<.001)が有意な結果となった.

表2  組織コミットメントの下位尺度と個人属性,参加の状況および集団凝集性の意識との関連(N=183)
N 情緒的コミットメント 集団同一視コミットメント 規範的コミットメント
低群 高群 P 低群 高群 P 低群 高群 P
47 136 89 94 108 75
n % n % n % n % n % n %
年齢 75歳未満 83 29 34.9 54 65.1 .009 53 63.9 30 36.1 <.001 59 71.1 24 28.9 .002
75歳以上 100 18 18.0 82 82.0 36 36.0 64 64.0 49 49.0 51 51.0
性別 男性 36 6 16.7 30 83.3 .167 13 36.1 23 63.9 .093 16 44.4 20 55.6 .047
女性 147 41 27.9 106 72.1 76 51.7 71 48.3 92 62.6 55 37.4
世帯構成 独居 68 18 26.5 50 73.5 .851 34 50.0 34 50.0 .776 35 51.5 33 48.5 .110
同居 115 29 25.2 86 74.8 55 47.8 60 52.2 73 63.5 42 36.5
主観的健康感
n=181)
健康 149 40 26.8 109 73.2 .340 76 51.0 73 49.0 .165 90 60.4 59 39.6 .278
健康でない 32 6 18.8 26 81.2 12 37.5 20 62.5 16 50.0 16 50.0
参加立場
n=171)
会員 110 27 24.5 83 75.5 .634 58 52.7 52 47.3 .141 69 62.7 41 37.3 .191
役員 61 17 27.9 44 72.1 25 41.0 36 59.0 32 52.5 29 47.5
参加期間
n=178)
2年未満 70 23 32.9 47 67.1 .116 44 62.9 26 37.1 .006 48 68.6 22 31.4 .064
2年以上 108 24 22.2 84 77.8 45 41.7 63 58.3 59 54.6 49 45.4
参加頻度
n=182)
月1回以下 95 27 28.4 68 71.6 .403 44 46.3 51 53.7 .466 58 61.1 37 38.9 .623
月2回以上 87 20 23.0 67 77.0 45 51.7 42 48.3 50 57.5 37 42.5
成員凝集性 低群 88 41 46.6 47 53.4 <.001 65 73.9 23 26.1 <.001 71 80.7 17 19.3 <.001
高群 95 6 6.3 89 93.7 24 25.3 71 74.7 37 38.9 58 61.1
課題凝集性 低群 82 44 53.7 38 46.3 <.001a) 59 72.0 23 28.0 <.001 63 76.8 19 23.2 <.001
高群 101 3 3.0 98 97.0 30 29.7 71 70.3 45 44.6 56 55.4

χ2検定

a)Fisherの直接確率検定

多重ロジスティック回帰分析を行いオッズ比(OR)と95%信頼区間(95%CI)を求めた(表3).情緒的コミットメントが高いことと関連があったのは,75歳以上(OR=2.81, 95%CI: 1.03–7.68, P=.044),課題凝集性が高いこと(OR=26.68, 95%CI: 6.99–101.90, P<.001)であった.集団同一視コミットメントが高いことと関連があったのは,75歳以上(OR=5.05, 95%CI: 2.07–12.34, P<.001),役員(OR=3.15, 95%CI: 1.26–7.78, P=.014),成員凝集性が高いこと(OR=2.69, 95%CI: 1.14–6.32, P=.024),課題凝集性が高いこと(OR=3.52, 95%CI: 1.50–8.24, P=.004)であった.規範的コミットメントが高いことと関連があったのは,75歳以上(OR=2.95, 95%CI: 1.29–6.77, P=.011),成員凝集性が高いこと(OR=3.02, 95%CI: 1.28–7.11, P=.012)であった.

表3  組織コミットメントの下位尺度ごとの関連要因(N=169)
情緒的コミットメント 集団同一視コミットメント 規範的コミットメント
OR 95%CI P OR 95%CI P OR 95%CI P
下限 上限 下限 上限 下限 上限
年齢 2.81 1.03 7.68 .044 5.05 2.07 12.34 <.001 2.95 1.29 6.77 .011
性別 1.66 0.50 5.55 .411 1.94 0.74 5.11 .180 2.02 0.84 4.83 .116
参加立場 0.88 0.31 2.51 .811 3.15 1.26 7.87 .014 2.33 0.99 5.52 .054
参加期間 1.39 0.55 3.54 .487 1.79 0.82 3.92 .146 1.19 0.56 2.53 .647
成員凝集性 2.61 0.84 8.13 .097 2.69 1.14 6.32 .024 3.02 1.28 7.11 .012
課題凝集性 26.68 6.99 101.90 <.001 3.52 1.50 8.24 .004 2.05 0.89 4.73 .093

多重ロジスティック回帰分析(強制投入法)

年齢:75歳未満=0,75歳以上=1

性別:女=0,男=1

参加立場:参加者=0,役員=1

参加期間:2年未満=0,2年以上=1

成員凝集性,課題凝集性:低群=0,高群=1

IV. 考察

1. 対象者と対象サロンの特徴

対象者は,半数以上が後期高齢者であり,女性が8割を占めていた.参加期間は2年未満が39.3%であり,継続的な参加者が多かった.

協同的な組織風土の認知は,いずれの項目も「当てはまる」が8割を超える結果であった.よって,地域サロンは全体的に目標とされている参加者同士が力を合わせて取り組んでいる組織風土があったといえる.

2. 組織コミットメントの実態

本研究は,産業組織の分野で研究が発展してきた組織コミットメントの概念を,初めて住民主体の地域組織活動である地域サロンで検討した.運営への協力意志や参加の継続意志と関連があるとされる組織コミットメントを,地域サロン参加者において測定したことは,地域サロンの課題解決やさらなる発展への示唆を得るために重要だと考える.

組織コミットメントの平均点は,地域サロンへの愛着である情緒的コミットメントが17.1点と最も高く,次いで集団の一員としての意識である集団同一視コミットメントが15.1点,義務感や責任感である規範的コミットメントが14.1点であった.3つの組織コミットメントはいずれも,下位項目の平均が「3=どちらともいえない」となる12点よりも高く,地域サロン参加者は現状として高い組織コミットメントを持っていたといえる.

情緒的コミットメントは,3つの組織コミットメントの中で最も高かった.本研究の対象である地域サロンは,参加人数が15人未満の地域サロンが半数以上を占めており,一人一人の顔が見えやすい地域サロンであったことから,3つのコミットメントの内情緒的コミットメントが最も高い結果になったと考えられる.また,情緒的コミットメントが最も高いという結果は,産業組織を対象とした研究(倉谷ら,2006)や,大学生サークル集団(橋本ら,2010)においても同様であった.地域サロンは,多くの参加者にとって義務感や責任感ではなく,集団との一体感を得つつも,参加することの意義や喜びを最も強く感じながら愛着を持って参加していたといえる.

3. 組織コミットメントの関連要因

情緒的コミットメントが高いことには,後期高齢者であることと課題凝集性が高いことが関連しており,特に課題凝集性が高いことが強く関連した.地域サロンの参加目的は,「人との交流」が最も多いと報告されている(中村,2009).したがって,老年期の人々が,近隣の住民と交流しながら健康に暮らすという目標を共有していることで,地域サロンへの愛着を持ち参加していたと考えられる.

集団同一視コミットメントは,年齢,参加立場,成員凝集性,課題凝集性と有意に関連し,中でも後期高齢者と集団同一視コミットメントが高いことが最も強く関連した.大畑ら(2006)によると,80歳以降の高齢者の生活圏は町内会であり,地域サロンは特に後期高齢者にとって,近隣の住民と楽しみを共有し,一体感を得ることができる場の機能があったと考えられる.参加立場では,役員が会員よりも高かった.自主グループにおける高齢者リーダーの継続的な役割遂行に関連する要因には,「活動維持のための参加者との共創」と「リーダー間の協働」が挙げられている(早坂ら,2016).役員は,地域サロン活動の企画や運営を行う中,自分自身の問題として集団全体を捉えていたと考えられる.また,成員凝集性と課題凝集性を高く持つことが,高い集団同一視コミットメントに関連した.住民の自主的な組織活動への参加継続要因(成木ら,2003)には,魅力あるメンバーやつながりを深める場など「創り上げた組織の機能からの満足感」が挙げられている.本研究においても目的や目標を共有する好意あるメンバーとともに,高い満足感が得られる活動をすることが,地域サロンへの参加継続意思につながっていたと考えられる.そして地域サロンを継続させるために,自分自身のことのように地域サロンの問題を考え,集団の一員としての意識が高くなっていたと考える.成員凝集性と課題凝集性を高めることで,集団同一視コミットメントを高める可能性が示唆された.

規範的コミットメントは,後期高齢者であること,成員凝集性が高いことが関連していた.地域の年齢集団への参加は,自治会活動とは異なり年齢が上がるにつれ積極的なかかわりが報告されている(庄司ら,2015).後期高齢者にとって地域サロンに参加することは,参加が任意で多様な社会活動であるからこそ世代交代を意識する必要がなく,自分のペースで参加が続けられる.そして,組織への規範として役割意識や継続することを自身に課すことで,日常生活の中で自分の価値や居場所を見出していたと考える.また,成員凝集性の観点からは,地域サロンは参加の自由な組織であるが,誘いを受けたことや集団への好意があることが,規範的コミットメントを高めることになったと考えられる.一方で,地域サロンの代表者と担い手の70%以上に義務感が生じているという報告があるが(社会福祉法人山口県社会福祉協議会,2006),本研究において規範的コミットメントは,会員と役員との間に有意な差はなかった.本研究が対象とした地域サロンは,自治体が立ち上げた集団を住民主体に移行したものではなく,自らサロンを立ち上げ自分の意思で役員になり活動の企画運営を担っているため,規範的コミットメントに有意な差がなかったと考えられる.また,役員の義務感が強いことは,活動継続に負担になるばかりではなく,一方では高い満足感を得らえる活動をすることによって,役員の使命感や意欲を高めることにつながっていたと考える.

4. 提言

地域サロン参加者の現状として地域サロンへの組織コミットメントが高く,その中でも特に情緒的コミットメントが高かった.地域サロン参加者は,喜びや意義を感じながら愛着を持って参加していたといえる.地域サロンが高齢者の日常生活を豊かにする居場所としての機能を果たしていたことが示された.したがって,地域サロンは要支援になる以前の元気な高齢者の身近な交流や社会参加の資源のひとつであり,今後も継続と活性化を推奨する必要がある.

地域サロンは参加者と運営者の協働を実現する場として,今後期待できることが示唆された.参加立場の違いが集団同一視コミットメントに関連していたことから,会員の集団同一視コミットメントを高めることで,より協働的な運営が実現すると考える.そこで,集団同一視コミットメントに関連を示した集団凝集性の意識を高めることで,参加者の地域サロンへの一体感を高めることができると考える.したがって,実践への具体的な示唆として,役員だけでなく会員も交えて交流する機会をつくり,地域サロンの目標の共有や活動の振り返り,活動内容の検討を行うことが必要だと考える.特に組織コミットメントが低かった75歳未満の会員には運営の一部に参加を依頼するなど,負担の少ない役割を担ってもらいながらの参加を促すことも考えられる.話し合いの過程を通して,参加者の関係性が深まると考える.

5. 本研究の限界と今後の課題

本研究は,今後の期待が高まる住民の自主的な活動である地域サロンについて,組織論的な観点から組織コミットメントの実態と関連要因を明らかにした.そして,高齢者の健康のための自主的な組織活動を支援するための,地域サロンの意味づけや組織の在り方に関する示唆を得ることができた.

本研究は,都市部の地域サロンに限定した点に限界がある.また,協同的な組織風土の認知の結果は良好に偏りがあり,地域サロン毎の組織風土の違いを適切に分析できなかったため,別の項目を検討する必要がある.さらに,本研究で使用した組織コミットメント尺度は大学生を対象としたものであり,地域サロン参加者独自の組織コミットメントに関して今後検討する必要がある.

謝辞

本研究にご協力いただきました社会福祉協議会の皆さま,調査に回答いただいた地域サロンの代表と参加者の皆さまに心より感謝申し上げます.

本研究に開示すべきCOI状態はありません.

文献
 
© 2020 Japan Academy of Public Health Nursing
feedback
Top