Japanese Journal of Public Health Nursing
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Research Article
The Actual Situation and Related Factors of Interactions between Persons with Dementia Receiving Home-Based Care and Neighbors in the Community from a Family Caregiver Perspective
Sakura KojimaMichiko AoyanagiKazuko Saeki
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2020 Volume 9 Issue 3 Pages 156-164

Details
Abstract

目的:在宅認知症療養者と近隣住民の交流の実態および関連する要因を明らかにする.

方法:認知症療養者を自宅で介護している家族介護者または3年以内に自宅で介護していた家族介護者を対象に無記名自記式質問紙調査を行った.関連要因の分析はχ2検定,Fisherの直接確率検定を用いた.

結果:244名に配付し,回収数は118部,有効回答数は111部だった.近隣交流の程度は認知症発症に伴い44.1%が低下したが,49.5%は維持・上昇していた.認知症発症後の交流程度は,「家族構成」「発症前の交流程度」「介護者が認知症療養者に交流機会をもってほしいと思う」「介護者への近隣住民からのポジティブサポートの有無」「介護者の近隣住民からのネガティブサポートの有無」が有意に関連した.

考察:在宅認知症療養者が近隣交流を良好に保つためには,発症前からの近隣住民との関係性の構築や家族介護者と近隣住民の交流に対する理解が重要であると考えられる.

Translated Abstract

Objective: This study aimed to clarify the interactions between persons with dementia living in the community and their neighbors, and the related factors of these interactions, from the perspective of family caregivers.

Methods: The participants were family caregivers who cared for persons with dementia at home or had cared for such persons within the past three years. We administered an anonymous questionnaire to the participants. The related factors were analyzed using the χ2 test and Fisher’s exact test.

Results: We collected 118 questionnaires from 244 participants, of which 111 were valid. Of the participants, 44.1% mentioned that the degree of interaction between persons with dementia and their neighbors decreased with the onset of dementia, whereas 49.5% caregivers asserted that the interaction was maintained or increased. The degree of interaction with neighbors was significantly associated with the composition of the family, degree of interaction before dementia onset, whether the caregiver hoped to let the persons with dementia interact with neighbors, and whether neighbors provided caregivers with positive or negative support.

Discussion: To ensure that persons with dementia maintain good interactions with the neighborhood, they should have established good relationships with neighbors before the onset of dementia. Additionally, family caregivers and neighbors should reach an understanding of the interactions that the latter can have with persons with dementia.

I. 緒言

我が国の認知症高齢者の数は,2025年には65歳以上の高齢者の約5人に1人に達すると見込まれている(内閣府,2017).認知症高齢者の約半数は自宅で生活しており(厚生労働省,2013),医療技術や生活環境の進歩に伴い,認知症者の生存期間が延長している(Brodaty et al., 2012).よって,今後も長期に在宅で生活する認知症療養者の増加が予測される.

このような状況から,厚生労働省は認知症療養者ができる限り住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現を目指し,新オレンジプランを策定した(厚生労働省,2015).その社会の実現のためには,地域住民の認知症療養者に対する理解とサポートは欠くことができない.先行研究では在宅認知症療養者が受けているインフォーマルサポートの割合は「近隣住民」が家族に次いで高いことが報告されており(伊藤ら,2014),地域住民は重要なサポート提供者であることが示されている.

地域でのサポートは近隣住民間の交流を通して行われ,交流には親密な付き合いではないが,共通の話題や出来事を介し顔見知りや挨拶を交わすような自然発生的な付き合い,生活の娯楽や見聞を共有する付き合い,相互扶助があるとされている(番場ら,2003磯村ら,2015).地域で暮らす認知症療養者は近隣住民と交流し,共に生活していると考えられる.

認知症療養者および近隣住民の関係性について両者にインタビューした調査では,「関係の維持・継続を希求する」「つながりの安心感をもつ」等が抽出され,両者の関係性や交流が認知症高齢者の生活の質(Quality Of Life;QOL)の充実に結びついていたと報告されている(岡田ら,2016).その一方で,両者の関係性を脅かしている現状が報告されている.地域住民は認知症療養者に対し,「いろいろなことができなくなってしまう」「もの忘れがあり,同じことを何回も聞いてくる困った人」という負のイメージをもっている(岡村ら,2015).また,認知症療養者は,記憶障害により他者とのコミュニケーションに困難感を抱きやすく(Singleton et al., 2017),行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;以下,BPSD)に起因する攻撃的な行動によって近隣トラブルを起こすことがある.その結果,地域社会による排除につながってしまうケースもある(井藤ら,2013).さらに,認知症療養者に限らず,一般的に近年では近所付き合いの程度は都市,地方を問わず低下しており(厚生労働省,2017),住民同士の交流自体が希薄になってきているとも言われている.このように,認知症療養者と近隣住民の交流のメリット,地域で共生する際の課題は報告されているものの,認知症療養者と近隣住民との交流の程度や内容などの実態とそれに関連する要因はほとんど明らかにされていない.以上のことより,本研究では地域における,在宅認知症療養者および近隣住民の交流の実態とそれに関連する要因を明らかにすることを目的とする.

認知症療養者が地域でその人らしい生活を送ることを支えるために,地域包括ケアシステムにより地域住民同士の互助が推奨されており,認知症療養者と近隣住民の交流を良好に保つことは重要である.本研究は両者の交流を促進するための基礎資料となると考える.

II. 研究方法

1. デザイン

本研究は,量的記述的研究デザインである.

2. 用語の定義

本研究では,先行研究を参考に以下のように用語を操作的に定義した.

近隣との交流:近隣住民との対面における,生活の娯楽や見聞を共有する等の個人的な付き合い,偶発的に起こる共通の出来事を介し,やりとりが行われる自然発生的な付き合い,相互扶助的な関わり(番場ら,2003磯村ら,2015井藤ら,2013尾関ら,2009

ポジティブサポート:支援の意図の有無に関わらず,介護者が肯定的に捉えている介護者と近隣住民の間の相互作用(相川,2004Rook, 1987

ネガティブサポート:支援の意図の有無に関わらず,介護者が否定的に捉えている介護者と近隣住民の間の相互作用(相川,2004Rook, 1987

3. 対象

研究対象者は認知症療養者であるが,調査票の回答者は家族介護者とした.家族介護者を回答者とした理由は,認知症療養者は疾病により記憶が障害されていることがあり,信頼性のあるデータを得ることが困難であると考えたためである.回答者は,A市内において,認知症療養者を自宅で介護している家族介護者または3年以内に認知症療養者を自宅で介護していた家族介護者で,認知症を含めた精神疾患等がなく,調査への回答が可能である者とした.3年以内の設定は,介護者を対象とした介護経験に関する先行研究を参考とした(平井ら,2006寺崎ら,1999徳山,2006).3年以内に自宅で介護していた者については,現在の入所または入院する直近の自宅にいた際のことを回答してもらった.

4. データ収集

研究者らが作成した無記名自記式質問紙調査を2018年3~9月に実施した.調査票は2部構成とし,第I部を認知症療養者に関する調査,第II部を家族介護者に関する調査とした.

各施設の責任者に依頼文および口頭にて,研究協力および対象者の紹介の依頼を行った.調査協力が得られた施設や組織の内訳は A市の居宅介護支援事業所492ヶ所の内9ヶ所,地域包括支援センター27ヶ所の内8ヶ所,認知症カフェ31ヶ所の内1ヶ所,認知症対応型グループホーム136ヶ所の内1ヶ所,家族の会3ヶ所である.データ収集は,研究協力施設や組織に出向き,集合調査または対象者に調査票を手渡しで配付し実施した.居宅介護支援事業所および地域包括支援センターにおいては,ケアマネジャーから訪問時に対象者に配付してもらった.回答後の調査票は返信用封筒にて対象者から直接,研究者の所属先である大学宛に郵送してもらった.

5. 概念枠組み

研究目的に従い,認知症療養者の「近隣住民との交流」のうち,「発症後の交流程度」を従属変数とした.

認知症療養者の「基本属性」「心身状態」「近隣住民との交流:発症前の交流程度」を独立変数とした.「心身状態」は,「認知機能の重症度」,「日常生活動作(Activities of Daily Living;ADL)」,「抑うつ」,「手段的日常生活動作(Instrumental Activity of Daily Living;IADL)」が認知症療養者の社会活動の多様性やその維持に関連していたとする先行研究(Hughes et al., 2013Kang, 2012)を参考にした.また,家族介護者の「基本属性」「認知療養者の近隣交流への思い」「近隣住民との交流」も独立変数とした.これらは,認知症療養者の社会活動に関する先行研究(Hughes et al., 2013Kang, 2012Singleton et al., 2017)より,家族介護者の近隣交流や住民との関係性の捉え方が,認知療養者の近隣交流に影響することが示唆されたためである.

6. 調査項目

調査項目は,認知症療養者の特性,家族介護者の特性,認知症療養者と近隣住民の交流程度とした.

認知症療養者の特性は,年齢,性別等の「基本属性」,認知症の疾患,診断年数,要介護認定等の「心身状態」,認知症療養者と近隣住民の認知症発症前および発症後の交流程度の「近隣住民との交流」で構成した.「近隣住民との交流」は「認知症発症前および認知症発症後の,認知症の方の近隣住民との交流の程度を教えてください」と尋ねた.

家族介護者の特性は,年齢,性別等の「基本属性」,交流の機会をもってほしいか,近隣住民に迷惑をかけると思うかの「認知症療養者の近隣交流への思い」,近隣住民との交流程度,近隣住民からのポジティブサポートの有無,近隣住民からのネガティブサポートの有無の「近隣住民との交流」で構成した.近隣住民との交流程度は「あなたと近隣住民との交流の程度を教えてください」,ポジティブサポートおよびネガティブサポートの有無は,「あなたと近隣住民との交流において『ありがたい・嬉しい』と思っている交流はありますか」「あなたと近隣住民との交流において『つらい・負担』だと思っている交流はありますか」と尋ねた.

認知症療養者および家族介護者と近隣住民の交流程度は,山内ら(2003)を参考に,「ほとんど交流はない」「挨拶をする程度」「立ち話をする程度」「相談したり,生活面で協力し合っている」の4段階で回答を求めた.

7. 分析方法

交流程度の実態は単純集計を行った.また,認知症発症前後の交流の変化を比較した.発症前後ともに「交流なし」であった者を「変化なし群(交流なし)」,交流程度が挨拶程度以上の者で,発症前後ともに交流程度に変化がなかった者は「変化なし群(交流あり)」,交流程度が1つでも低下または上昇していれば,それぞれ「交流低下群」,「交流上昇群」とした.

認知症発症後の交流程度の関連要因の分析は「交流なし」「挨拶程度」を【低群】,「立ち話をする程度」「相談や生活面で協力」を【高群】に分け,χ2検定,Fisherの直接確率検定を用いて,認知症療養者の特性である「基本属性」「心身状態」「近隣住民との交流」と家族介護者の特性である「基本属性」「認知症療養者の近隣交流への思い」「近隣住民との交流」の各要因で分析した.分析にはIBM SPSS Statistics Version 22を用いた.有意水準は5%とした.

8. 倫理的配慮

調査票は無記名とし,配付時に説明文を添付し,研究内容,研究目的・意義,研究参加の自由,対象者へ匿名性を保証すること,収集したデータは適正に管理することを文書と口頭で説明した.質問紙への回答,回収をもって同意とみなした.本研究は,北海道大学大学院保健科学研究院倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:17-115-1,承認日:2018年3月15日).

III. 研究結果

家族介護者244名に配付し(家族の会45名,認知症カフェ・グループホーム4名,地域包括支援センター80名,居宅介護支援事業所115名),118名から回答が得られた(回収率48.4%).そのうち認知症の疾患,診断年数,近隣住民との交流程度が未記入,家族と同居していない,認知症でなかった7名を無効回答とし,111名を分析対象とした(有効回答率45.5%).

1. 認知症療養者および家族介護者の特性(表1
表1  認知症療養者および家族介護者の特性(N=111)
  n %
認知症療養者の特性
  基本属性 性別 49​ 44.1
62​ 55.9
年齢 74歳以下 15​ 13.5
75歳以上 91​ 82.0
無回答 5​ 4.5
家族構成 夫婦のみ 45​ 40.5
親と子供 50​ 45.0
その他 16​ 14.4
居住年数 0~9年 24​ 21.6
10年以上 84​ 75.7
無回答 3​ 2.7
現在の療養場所 自宅 90​ 81.1
施設入所または入院 21​ 18.9
心身状態 認知症疾患 アルツハイマー型 65​ 58.6
レビー小体型 18​ 16.2
脳血管認知症 5​ 4.5
前頭側頭葉型 2​ 1.8
その他・分からない 18​ 16.2
無回答 3​ 2.7
診断年数 0~1年 13​ 11.7
2~9年 77​ 69.4
10年以上 18​ 16.2
無回答 3​ 2.7
要介護認定 認定なし~要支援2 8​ 7.2
要介護1~2 64​ 57.7
要介護3~5 38​ 34.2
無回答 1​ 0.9
歩行状態 自立 96​ 86.5
他者の支援が必要 14​ 12.6
無回答 1​ 0.9
外出状況 1人で外出する 14​ 12.6
他者と外出する 66​ 59.5
外出していない 31​ 27.9
BPSD あり 69​ 62.2
なし 41​ 36.9
無回答 1​ 0.9
近隣住民との交流 発症前の交流程度 交流なし 8​ 7.2
挨拶程度 30​ 27.0
立ち話をする程度 60​ 54.1
相談や生活面で協力 12​ 10.8
無回答 1​ 0.9
発症後の交流程度 交流なし 22​ 19.8
挨拶程度 52​ 46.8
立ち話をする程度 29​ 26.1
相談や生活面で協力 7​ 6.3
無回答 1​ 0.9
家族介護者の特性
  基本属性 性別 24​ 21.6
87​ 78.4
年齢 64歳以下 42​ 37.8
65~74歳 33​ 29.7
75歳以上 31​ 27.9
無回答 5​ 4.5
認知症療養者との関係 配偶者 59​ 53.2
実の子ども 42​ 37.8
その他 10​ 9.0
認知症療養者の近隣交流への思い 交流の機会をもってほしい はい 56​ 50.5
いいえ 35​ 31.5
無回答 20​ 18.0
近隣住民に迷惑をかけると思う はい 61​ 55.0
いいえ 28​ 25.2
無回答 22​ 19.8
近隣住民との交流 近隣住民との交流程度 交流なし 4​ 3.6
挨拶程度 46​ 41.4
立ち話をする程度 46​ 41.4
相談や生活面で協力 15​ 13.5
ポジティブサポート あり 87​ 78.4
なし 22​ 19.8
無回答 2​ 1.8
ネガティブサポート あり 29​ 26.1
なし 75​ 67.6
無回答 7​ 6.3

現在自宅にいる療養者についての回答は90名(81.1%),現在入所または入院している療養者の過去3年以内の状況の回答は21名(18.9%)であった.認知症療養者は,男性44.1%,女性55.9%であり,平均年齢82.1±8.2歳であった.認知症の疾患はアルツハイマー型58.6%,レビー小体型16.2%,脳血管認知症4.5%,前頭側頭葉型1.8%,その他・分からない16.2%,無回答2.7%であった.

家族介護者は,男性21.6%,女性78.4%であり,平均年齢68.3±10.8歳であった.認知症療養者との続柄は配偶者が53.2%と最多であった.認知症療養者に近隣住民と交流の機会をもってほしいと回答した者が50.5%であった.近隣住民からポジティブサポートを受けていると回答した者が78.4%であり,ネガティブサポートを受けていると回答した者が26.1%であった.

2. 認知症療養者と近隣住民の交流の実態と変化(表2
表2  認知症発症前後の近隣住民との交流の変化(N=111)

認知症発症前の近隣住民との交流程度は,「交流なし」7.2%,「挨拶程度」27.0%,「立ち話をする程度」54.1%,「相談・生活面で協力」10.8%,であった.認知症発症後の交流程度は,「交流なし」19.8%,「挨拶程度」46.8%,「立ち話をする程度」26.1%,「相談・生活面で協力」6.3%であった.

認知症発症前からの変化は,「変化なし群(交流なし)」5名(4.5%),「変化なし群(交流あり)」が49名(44.1%),発症前より「交流低下群」が49名(44.1%),「交流上昇群」が6名(5.4%)であった.

3. 認知症発症後の交流程度の関連要因(表3
表3  認知症発症後の近隣住民と認知症療養者の交流程度の関連要因(N=111)
  認知症発症後の近隣住民との交流
低群   高群 P
n % n %
認知症療養者の特性
  基本属性 性別※1 31​ 67.4 15​ 32.6 0.818
41​ 69.5 18​ 30.5
年齢※1 74歳以下 9​ 60.0 6​ 40.0 0.549F
75歳以上 63​ 70.0 27​ 30.0
家族構成※1 夫婦のみ 23​ 56.1 18​ 43.9 0.028
それ以外 49​ 76.6 15​ 23.4
居住年数※2 0~9年 17​ 73.9 6​ 26.1 0.465
10年以上 52​ 65.8 27​ 34.2
現在の療養場所※1 自宅 60​ 70.6 25​ 29.4 0.359
施設入所または入院 12​ 60.0 8​ 40.0
心身状態 認知症疾患※2 アルツハイマー型 42​ 68.9 19​ 31.1 0.861F
レビー小体型 13​ 76.5 4​ 23.5
脳血管認知症 3​ 60.0 2​ 40.0
前頭側頭葉型 2​ 100.0 0​ 0.0
その他・分からない 11​ 64.7 6​ 35.3
診断年数※2 0~1年 8​ 61.5 5​ 38.5 0.745
2~9年 51​ 70.8 21​ 29.2
10年以上 11​ 64.7 6​ 35.3
要介護認定※3 認定なし~要支援2 6​ 75.0 2​ 25.0 0.900
要介護1~2 41​ 68.3 19​ 31.7
要介護3~5 24​ 66.7 12​ 33.3
歩行状態※3 自立 61​ 66.3 31​ 33.7 0.330F
他者の支援必要 10​ 83.3 2​ 16.7
外出状況※1 外出している 51​ 68.0 24​ 32.0 0.842
外出していない 21​ 70.0 9​ 30.0
BPSD※3 あり 45​ 66.2 23​ 33.8 0.529
なし 26​ 72.2 10​ 27.8
近隣住民との交流 発症前の交流程度※3 低群 32​ 88.9 4​ 11.1 0.002
高群 40​ 58.8 28​ 41.2
家族介護者の特性
  基本属性 性別※1 13​ 61.9 8​ 38.1 0.462
59​ 70.2 25​ 29.8
年齢※1 64歳以下 30​ 73.2 11​ 26.8 0.675
65~74歳 21​ 63.6 12​ 36.4
75歳以上 21​ 67.7 10​ 32.3
認知症療養者との関係※1 配偶者 33​ 62.3 20​ 37.7 0.160
それ以外 39​ 75.0 13​ 25.0
認知症療養者の近隣交流への思い 交流の機会をもってほしい※4 はい 35​ 64.8 19​ 35.2 0.022
いいえ 28​ 87.5 4​ 12.5
近隣住民に迷惑をかけると思う※5 はい 42​ 72.4 16​ 27.6 0.846
いいえ 19​ 70.4 8​ 29.6
近隣住民との交流 近隣住民との交流程度※1 低群 36​ 78.3 10​ 21.7 0.059
高群 36​ 61.0 23​ 39.0
ポジティブサポート※6 あり 53​ 63.1 31​ 36.9 0.026
なし 17​ 89.5 2​ 10.5
ネガティブサポート※7 あり 15​ 51.7 14​ 48.3 0.009
なし 54​ 78.3 15​ 21.7

χ2検定,F:Fisherの直接確率検定

※1n=105 ※2n=102 ※3n=104 ※4n=86 ※5n=85 ※6n=103 ※7n=98

認知症発症後の交流高群に有意に関連していた認知症療養者の特性は,「家族構成が夫婦のみ」(P=0.028),「発症前の交流程度が高い」(P=0.002)であった.心身状態と有意な関連はみられなかった.

家族介護者の特性では,「家族介護者が認知症療養者に近隣住民と交流の機会をもってほしいと思っている」(P=0.022),「近隣住民からポジティブサポートを受けている」(P=0.026),「近隣住民からネガティブサポートを受けている」(P=0.009)が有意に関連していた.家族介護者の基本属性とは有意な関連がみられなかった.

IV. 考察

1. 認知症療養者の近隣住民との交流の実態と変化

本研究において,認知症療養者の近隣住民との交流程度は,認知症発症前は「立ち話をする程度」が54.1%と最多であった.しかし,認知症発症後は,「立ち話をする程度」が26.1%まで減少し,交流の程度は低下して「挨拶程度」が46.8%と最多になった.認知症療養者は,認知症の進行に伴い,近隣住民との個人的な付き合いや相互扶助的な関わりが減少し,挨拶などの自然発生的な付き合いが主となると推察される.認知症療養者の社会活動が変化した要因をインタビューした調査では,「他者との会話を理解できない」「社会的過失への恥ずかしさ」といった要因が抽出されている(Singleton et al., 2017).このように,認知症療養者の記憶障害や実行機能障害によって,他者とのコミュニケーションが困難になることが近隣住民との交流を低下させると考えられる.また,認知症患者の70%以上に認められるとされている興味や意欲の障害のアパシー(Cipriani et al., 2014)の影響を受けていた可能性もある.

一方,認知症の発症前後で交流の変化という観点からみると,交流程度に違いはあるが,交流ありの程度に変化がなかった人が49名(44.1%),交流の程度が上昇した人が6名(5.4%),と約半数が同様の交流を維持するかもしくは交流の程度を高めていたことが明らかとなった.この結果は認知症が中程度から重度の者であっても50.9%の者が他者に対する社会的行動がとれていたこと(Mabire et al., 2016)と類似している.認知症療養者やその家族は,認知症の診断を受けることで,認知症療養者の近隣交流をはじめとする社会活動を諦めてしまいやすい(服部ら,2011Singleton et al., 2017)が,認知症発症後も近隣交流を維持もしくは上昇できる可能性が示唆された.

2. 認知症発症後の近隣交流の程度に関連する要因

認知症療養者の特性において,認知症発症後も近隣住民との交流程度が高いことには,発症前の交流程度が高いことが関連していた.この結果は,病前の地域活動への積極的参加が,病後の家族以外からのインフォーマルサポートの活用につながっていた(日本医療福祉生活協同組合連合会,2014)という報告と類似している.山ら(2009)は,「対人の関係維持を目的とした建設的行動がとられるのは,それまでの関係への満足度が高いとき,その関係に多くの資源(金銭等物質的なものだけでなく,サービスや愛情等精神的なものを含む)を投入しているときに限られる」としている.これらのことより,発症後の交流には認知症発症前からの住民間の関係構築が重要であると考えられる.

家族介護者の特性では,介護者が認知症療養者に交流の機会をもってほしいと思っていることと認知症療養者の近隣住民との交流程度に関連があった.本研究では,ひとりで外出している認知症療養者は12.6%のみであり,59.5%が他者と外出していた.先行研究でも認知症療養者の介護者は外出時の送迎支援を多く行っていたことが報告されている(Huang et al., 2015).このように,認知症療養者の多くが介護者の援助を受けて外出しており,家族介護者が意図的に外出の援助を行わなければ,近隣交流の機会は狭まってしまう.すなわち,認知症療養者の近隣交流は,彼らの主要な支援者である家族介護者の近隣交流へのサポート実施意向によって左右されやすいと考えられる.したがって,近隣交流を促進するためには,家族介護者からの理解を得ることも重要である.

また,認知症療養者の近隣住民との交流程度が高いことに「介護者が近隣住民からポジティブサポートを受けていること」も関連していた.交流程度が高い程,近隣住民に対して「日常生活の問題や心配事を相談できる人」という認識が強いことが分かっており(山内ら,2003),交流程度が高いということは,日頃から家族も含め,ポジティブサポートを受けやすい関係性があるためと考えられる.

一方,認知症療養者の近隣住民との交流程度が高いことは介護者がネガティブサポートを受けていることにも関連していた.一般住民を対象とした研究(原田ら,2015)においても,親しい隣人が多いほどネガティブな相互作用が多かったことが報告されており,本研究でも交流の程度が高いことから,その一部が介護者にとって否定的な内容であったと推察される.また,介護者は近隣に対する不満や関係悪化を感じている割合が高い(Shiue, 2017)との報告があり,本研究での介護者は近隣の変化や対応にネガティブサポートを受けたと感じた可能性が推察される.菊島(2003)は,サポートがネガティブなものになる要因の一つとして,被援助者と援助者の関係性をあげており,被援助者である介護者と援助者である近隣住民の双方の行動や認知によって生じると考えられる.以上のことより,認知症療養者と近隣住民との良好な交流を保つためには,介護者と近隣住民のそれぞれに認知症療養者との関わり方や近隣との付き合い方,近隣住民には家族への関わり方の理解を促す必要があると考える.

3. 本研究の強みと限界

本研究では,在宅認知症療養者の近隣住民との交流の実態を家族介護者の特性を含めて明らかにした.特に,新たな知見として,第一に認知症発症前後での交流の変化は半数が低下していたが,残りの半数は交流の程度が維持されるか高まっていた.第二に,療養者と近隣住民との交流が高い群のほうが介護者が感じる近隣住民からのネガティブサポートが高かった.

しかし,本研究では住宅や近隣の状況,家族の発症前の近隣との関係など近隣交流に影響すると思われる変数について検討していないため,今後はそれらを含めて検討する必要がある.また,横断研究であり,認知症療養者と近隣住民の交流程度とその関連要因の因果関係までは示すことはできず,交絡因子の影響を調整していない.対象者の選定において,3年以内に認知症療養者を自宅で介護した経験がある者も対象としたため,思い出しバイアスがある.加えて,対象地域が限られており,サンプリングが様々な機関を対象としていることや対象者に単身世帯の者が含まれていないことでの限界がある.

V. 結語

認知症発症に伴って近隣交流の程度は低下するが,約半数は交流を継続できており,認知症発症後も交流を継続できる可能性が示された.

認知症発症後の近隣交流には,「発症前の交流程度」「家族構成」「介護者が認知症療養者に交流機会をもってほしいと思っている」「介護者の近隣住民からのポジティブサポートの有無」「介護者の近隣住民からのネガティブサポートの有無」が関連していた.

認知症療養者の近隣交流を良好に保つために,認知症発症前から住民間の関係構築が重要である.また,認知症発症後では,療養者の主要な支援者である家族介護者に近隣交流の意義を理解してもらうことも重要である.そして,交流程度が高くなれば,「ネガティブサポート」も増加する.そのため,住民に対し,認知症療養者および家族介護者への適切な関わり方への理解を促す必要があると考える.

謝辞

ご協力いただきましたご家族の皆様,患者会の皆様,施設の皆様,ケアマネジャーの皆様に心より感謝申し上げます.

利益相反

本研究に開示すべきCOI状態はない.

文献
 
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