2002 年 46 巻 5 号 p. 649-654
症例の概要: 睡眠時無呼吸症は, 突然死をはじめ生活習慣病や日中の傾眠による交通事故の増加を引き起こすなど, 社会問題としても認識されている.今回, われわれは重度の閉塞性睡眠時無呼吸症患者に対し口腔アプライアンス療法を適用し, 症状の改善を経験したので報告する. 患者は42歳の男性で, 強度のいびきと無呼吸を家族に指摘され来院した. 終夜睡眠ポリグラフィーでは無呼吸指数が33.4, 無呼吸低呼吸指数が48.5と, 重度の睡眠時無呼吸症と診断された.本症例に対し, 下顎の前方維持を目的とした口腔アプライアンス療法を施行した.7カ月後に終夜睡眠ポリグラフィーを再度施行した結果, 無呼吸指数が4.5, 無呼吸低呼吸指数が9.7と著しく改善した.また, 徐波睡眠も全睡眠時間の1.5から17.4%と著明に増加した.
考察: 現在, 最も有効性が確認されている治療法は, 経鼻的持続陽圧呼吸療法である.本療法は, 重度の睡眠時無呼吸症患者においては, 最も信頼性の高い治療法であると認識されているが, 装用時の不快感から患者のコンプライアンスが低いことが問題となっている.口腔アプライアンス療法は, 装用時の違和感が比較的少ないことから, 本症例のような重度の閉塞性睡眠時無呼吸症患者に対する治療法としても, 十分考慮に足りうる選択肢と考えられた.
結論: 下顎の前方維持を目的とした口腔アプライアンス療法が, 重度の閉塞性睡眠時無呼吸症に対して有効であった症例を経験した.