2020 年 35 巻 1-2 号 p. 37-40
舌痛症の治療としては抗うつ薬の有効性が古くから知られているが,十分に服用できず,治療に難渋することがしばしばある.その他の治療法として,抗てんかん薬等の神経障害性疼痛治療薬の有効性が示唆されている.今回,抗うつ薬抵抗性の本症にバルプロ酸ナトリウムが奏功した1例を経験したので報告する.患者は61歳の会社員,男性.主訴は舌背中央部と両側舌縁の灼熱感と味覚障害であった.不眠症のためトリアゾラムを服用していた.前医にてアミトリプチリンを処方されたが部分寛解にとどまり中断していた.当科にてアリピプラゾールとミルタザピンを処方したが,中途覚醒等の副作用で継続服用できなかった.10代の頃から続く頭痛の既往があり,舌痛症と潜在的な頭痛の要素の関連を疑い,バルプロ酸ナトリウム100mg/day,クロナゼパム0.6mg/dayに処方変更した.特に副作用もなく,灼熱感と味覚障害は波状ながら1年程かけて徐々に消失していった.本症例では舌痛は潜在する頭痛の要因に関連していたのではないかと考えられた.頭痛の既往があり,抗うつ薬抵抗性の舌痛症にバルプロ酸ナトリウムとクロナゼパムの併用療法が1つの選択肢となる可能性が示唆された.