スポーツ教育学研究
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小学校体育授業における教師行動の類型に関する検討
岡沢 祥訓高橋 健夫中井 隆司
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1990 年 10 巻 1 号 p. 45-54

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抄録

本研究では, 体育授業中の教師の相互作用を中心とする教師行動の類型化を試みるとともに, それぞれの類型が児童の授業評価とどのように関係するかを明らかにしようとした。くわえて, 教師のパーソナリティ特性や教授熟練度が教師行動の類型とどのように関係するかということについても検討した。
ここでは, 小学校の22名の教師によって行われた64体育授業が対象とされた。教師行動はCAFIAS分析法によって, パーソナリティ特性についてはMPI性格検査によって, さらに授業評価については体育目標や学習の取り組み方を中心とする9項目からなる調査表を用いて分析した。
そこで得られた結果は次のようであった。 (1) 教師の相互作用を中心とした教師行動に因子分析を施した結果, 3因子が抽出された。第1因子は「批判」「生徒の意見の受理と活用」「発問」が高い因子負荷量を示していたため, 「児童の主体性」と命名した。第2因子は「賞賛や励まし」「説明や情報提示」が高い因子負荷量を示しており, 「授業の形式」と命名した。第3因子は「指示」のみが高い値を示していたため, 「指示」と命名した。
それぞれの因子の平均得点から, 「児童の主体性」因子については「受容」型と「権威」型に分類した。また, 「授業の形式」については「説明」型と「ふれ合い」型に, 「指示」については「効率」型と「ゆとり」型にそれぞれ分類した。
(2) これらの教師行動の類型と授業評価との関係を分析した結果, 「児童の主体性」因子では「受容」型が, 「授業の形式」因子では「ふれ合い」型が, より大きな授業評価を得る傾向がみられた。
(3) これらのタイプと教授熟練度との関係を分析した結果から, 授業評価の高かった「受容」型・「ふれ合い」型は熟練教師により多くみられた。
(4) 同様に, 教師行動の類型とパーソナリティ特性との関係から, 外向的な教師は「権威」型, 「ふれ合い」型の授業を, 内向的な教師は「受容」型, 「説明」型の授業を展開する傾向がみられた。また, 神経症傾向の低い教師は「ふれ合い」型の授業を, 神経症傾向の高い教師は「説明」型の授業を行う傾向が認められた。
以上の結果から, 体育授業における教師行動のあり方に対して次のような示唆を与えることができる。
(1) 教師行動の類型と児童の授業評価や教師の熟練度との関係から, 体育授業の実践場面においては「受容」行動 (発問や受理によって子どもの主体的な思考を導き出し, 批判を少なくすること) や「ふれあい」行動 (賞賛や励ましを多くして, 児童との肯定的なかかわりをもち, 教師の一方的な説明時間を限定すること) を適用するように心がける必要がある。
(2) 教師行動とパーソナリティ特性との関係から, 特に, 「権威」的な授業に陥りがちな外向的な性格の教師は児童の主体性を受容していくための教授技能を身につけていく必要があると考えられる。
最後に, 本研究では, 教師行動に関わる変数として, 教師の教授熟練度とパーソナリティの2つに限定して分析した。この他, 教師が授業に先立って採用する授業の基本的立場や学習指導の方法論も強く関与すると考えられるので, 今後はこれらを変数として位置づけ, 研究を深めたい。

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