スポーツ教育学研究
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教材活用の仕方や指導行動が学習成果に及ぼす影響について
特に開脚跳びのできない児童に対する学習指導を中心に
南島 永衣子高橋 健夫
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2007 年 27 巻 1 号 p. 21-35

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抄録

実際の体育授業場面を想定すると、有効だとされる下位教材を適用するだけで開脚跳びができるようになるわけではなく、教師の実践的指導力が問われると考えられる。そこで本研究では、開脚跳びの達成に有効だと考えられている「下位教材群」や、「つまずきに対応した指導言葉集」を3名の小学校教師に資料として提供し、それらが教師の裁量によつてどのように計画・実行され、また、授業中の教師の指導行動としてどのように反映されたのか。特に、開脚跳び越しのできない児童を対象にした教師の指導行動に焦点をあて、分析・検討することにした。
本研究では、以下のような結果が得られた。
(1) 指導計画の立て方
3名の教師に共通して、単元前半では、インストラクション場面やマネジメント場面が多くなった。特にインストラクション場面では、準備や片づけ、学習の流し方に関する説明が中心となった。しかし、A単元とB単元では、単元中盤において授業の流れが確立され始めたが、C単元では、マネジメント場面が大きく減少することはなかった。
(2) 教材の配置・配列の仕方
3名の教師とも、基礎的な感覚づくりに焦点をあてた多様な下位教材が採用された反面、単元を通して活用され続けることはなかった。特に、A単元やB単元では、単元中盤から再度、個別に下位教材を活用するようになったが、C単元においては、提供された下位教材が全児童によって正しく学習されていたとは言えず、児童によっては、不適切な方法で学習している場面もみられた。さらに、単元中盤からは開脚跳びにつながる下位教材は、まったく活用されなくなってしまった。
(3) 教師の指導行動
〈フィードバック行動〉
下位児の大部分は、「腕を支点とした体重移動」や「体の切り返し」に問題をもっていた。なお、A単元およびB単元においては、その部分に焦点をあてた下位教材の活用や教師による個別指導 (指導言葉や補助) がなされていたが、C単元においては、その部分に焦点をあてた指導や児童のつまずきに応じた適切なフィードバックは十分にされていなかった。
〈学び方の指導〉
どの単元も単元前半では、課題の学び方や正しい練習方法に関する指導はほとんどされていなかった。しかし、A単元およびB単元では、単元中盤から下位児に対し個別に関わる余裕がうまれると、個々人の能力に応じて適切な下位教材や課題を提供したり、あるいは、補助を行うことができるようになった。一方C単元では、児童の自発的な学習が尊重されたこともあり、教師が下位児に対する関わり極めて少なく、また、不適切な方法で学習している場合においても、学び方に関する適切な指導はされなかった。
3授業を通し、下位児の開脚跳び越しの技能については、A単元とB単元では概ね保障することができたが、一方で、C単元の下位児においては、十分に保障されたとはいえなかった。
以上の点をふまえ、本研究を通して以下のことが提案できる。
単元前半では、すべての児童に易しい同一の下位教材を学習させ、その同一の下位教材のなかで能力に応じて異なった挑戦課題を与える方法が有効であると考えられる。また、今回行われた3つの単元を観察して、6授業時間というのは教師が余裕をもって指導し、すべての児童に目標技の習得に必要な基礎的な技能を保障するにはあまりにも短く感じられた。少なくともあと2-3時間あれば下位児もより確実に技能を習得することができ、身につけた技能を基に、より豊かに運動を楽しむことができたのではないかと思われる。
また、つまずきをもつ児童においては、適切なフィードバックを与えることに加え、課題解決のためのめあてや、個別に下位教材を与え、それをどのように活用するのかといった学び方の指導を与える必要がある。
早期の段階で、目標技の習得に必要な基礎的な技能を身に付けさせることは、児童の学習意欲を高め、より大きな学習成果を生み出すためには大切なことである。そのためには、類似の運動を含む下位教材であっても、学び方の指導や正しい練習の仕方を十分理解させ丁寧に指導する必要がある。

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