抄録
耳下腺悪性腫瘍進行例に対する根治術として耳下腺全摘術が広く行われている。われわれは,進行例では安全域を確保するため乳突削除―顔面神経高位切断法を加えた拡大全摘術を採用し,その概要について報告してきた。今回,これまでの12症例について臨床的に検討を加えた。男性9例,女性3例,右側6例,左側6例で,皮膚癌(扁平上皮癌)の耳下腺浸潤1例を除いて,すべて耳下腺原発であった。その組織型は唾液腺導管癌3例,粘表皮癌2例,筋上皮癌2例,癌肉腫2例,腺房細胞癌1例,腺様嚢胞癌1例で,5例が術前に顔面神経麻痺を伴っていた。2例が側頭骨外側切除まで行い,下顎骨関節突起も合併切除していた。皮膚切除を伴った4例は遊離筋皮弁による再建を行った。顔面神経再建は7例に,静的再建は3例に施行した。癌肉腫の1例が肺転移,脳転移で,唾液腺導管癌の1例が肺転移で失われた。現在のところ局所再発は無く,原病死した2例以外は全例生存中である。この術式は耳下腺癌進行例の根治術式として有用であると考えられた。