Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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Pediatric complex regional pain syndrome successfully treated with pregabalin, clonazepam, and mirror therapy: a case report
Kunie NAKAJIMAShiro KOIZUKA
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2017 Volume 24 Issue 4 Pages 345-348

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Abstract

小児における下腿の複合性局所疼痛症候群症例に対し,薬物療法と鏡療法の併用が有効であったので報告する.症例は11歳,男児.持久走中に転倒し右足関節を受傷した.近医に通院するも軽快しないため受傷から3カ月後当院へ紹介となった.受診時,右足関節以下に強いアロディニアと右足優位に冷感を認めた.関節可動域は完全に制限されていた.わずかな運動でも痛みを強く訴え,数値評価スケール(numerical rating scale)は10/10であった.プレガバリンの内服を開始し,増量後多少の効果が認められた.鏡療法の併用とクロナゼパムの追加投与を行ったところその3週間後にはアロディニアが軽減し,6週間後には部分歩行が可能となりプレガバリンを減量した.初診後11週で歩行が可能となりクロナゼパムの内服を中止した.初診時より6カ月後の受診時では日常生活は問題なく,痛みがないためプレガバリンの内服を中止した.その後1年半以上経過したが再発はみられていない.小児の複合性局所疼痛症候群では,診断の遅れが重症化に影響するため早期の診断が重要であり,集学的に治療する必要性が高いと考えられた.

I はじめに

小児における複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome:CRPS)の報告例は少なく,治療法は確立されていないのが現状である.小児のCRPSでは発症部位,男女比,経過など成人と異なる点も多く,薬物治療の観点からも,治療薬の安全性や適切な投与量,副作用などに関して不明な点が多い.今回11歳の下肢のCRPS症例に対し,クロナゼパムとプレガバリンの内服に鏡療法を併用し良好な経過が得られたので報告する.

本症例は患者と家族より論文化の許可を得ている.

II 症例

患者:11歳6カ月の男児.体重28 kg(受診時).

現病歴:X年Y月,学校で持久走中に右足関節をひねり受傷した.3日後より右足関節痛が強くなり,以後荷重困難となった.近医整形外科Aを受診し反射性交感神経性ジストロフィーの診断でリハビリテーション加療を行ったが軽快しないため,母親の希望もありB医院の整形外科へ紹介となった.B医院での診察では,右足底部の強い疼痛,また下腿から足首にかけての冷感を認めた.他の感覚障害はなく,後脛骨動脈,足背動脈は左右差なく触知良好であった.単純X線写真上明らかな骨折や骨萎縮はなく,MRI検査でも下肢の冷感を説明できる所見はなくCRPSが疑われた.受傷より3カ月後,当院整形外科へ紹介となったのち当科ペインクリニック外来へ紹介受診となった.

家族歴・既往歴:特記すべきことなし.

受診時現症:車椅子にて入室.右足関節以下に強いアロディニアを認め,靴下着用困難な状態であり足底は接地不可であった.関節可動域は自力では完全に制限されており,他動的に動かすとわずかな運動でも痛みを強く訴え,数値評価スケール(numerical rating scale:NRS)は10/10であった.外見上,浮腫はみられなかったが血色不良であり,右足優位に冷感を認めた.血液生化学的所見では異常は認められず,サーモグラフィーにて有意に患肢の温度低下を認めた(図1a).受傷から約3カ月が経過しており,左足に比較し明らかな筋委縮がみられていた.前医より処方されたアセトアミノフェン1日800 mgを内服していたが鎮痛効果は得られていなかった.前医のリハビリテーション科外来にて関節運動を継続しており,入浴後はやや疼痛が軽減することもあり母親による他動的関節授動運動が行われていた.患者は受傷後も毎日通学しており,問診からは家庭内や学校生活における問題点はみられなかった.

図1

サーモグラフィー所見

a:初診時.右足優位の温度低下を認める.

b:終診時.両下腿に温度差認めず.

III 治療経過

厚生労働省CRPS研究班によるCRPS判定指標(臨床用)からA項目の関節可動域制限,持続ないし不釣り合いな痛みが,B項目からは関節可動域制限,アロディニアの存在がそれぞれ合致していることからCRPSと診断した.

薬物療法としてプレガバリンの眠前25 mg内服から開始した.開始後5日目の外来受診時では明らかな鎮痛効果はなく,多少の眠気が副作用として認められたが許容範囲内であったためプレガバリンを1日50 mgへ増量とした.初診後2週間の外来では軽度の眠気は続いていたが,NRSは8/10から5/10へと軽減していた.右下肢の強いアロディニアが持続していたため眠気を考慮しプレガバリンの増量ではなくクロナゼパム1日0.5 mgの内服を追加した.同日,鏡療法の説明を行い,外来で実演指導をしたうえで,家庭でも練習するよう本人と母親に説明した.本症例における鏡療法は,足関節が十分に映る大きさの鏡を健側足関節が映るように両下肢の間に挟み,鏡を覗きながら両側関節をゆっくり動かす方法とした.鏡に映っている健側肢が患側肢と錯覚されることで,患側肢が健側同様に動かせるという良いイメージを脳に与えることが目的である.これを毎日5~10分程度行うよう指導した.

初診後5週間の外来受診時ではNRSは7/10であったが右下肢の色調は改善しており,温感も認められ,アロディニアも多少の改善が認められた.初診後8週間の外来受診時では足関節以下のアロディニアの範囲は6割に減少し,荷重による疼痛が自制内となったためクロナゼパムの効果と判断し,1日0.75 mgへ増量した.初診後14週間には足関節の屈曲が可能となり,体重の8割である25 kgの荷重が可能となったためクロナゼパムを1日0.5 mgへ減量した.

初診後20週間には完全な自力歩行も可能となったためクロナゼパムを中止とし,プレガバリンを25 mgへ減量した.以降痛みの訴えはなく,日常生活に支障もなくなったため初診時よりおよそ6カ月後,プレガバリンを中止し,外来通院を終了とした.通院期間中,通学は休むことなく行えていた.初診時より7カ月後のサーモグラフィー検査では両下腿の温度差は認めず(図1b),痛みの訴えもなかった.その後2年以上経過したが再受診はない.

IV 考察

成人のCRPSの発症年齢は50~70歳であり,発症頻度は10万人あたり6.48~26.2と報告されている1).小児の報告は少ないが,発症年齢は5~15歳で発症頻度は10万人あたり1.2であり,成人よりも少ないことが伺える2).小児のCRPSの臨床的特徴として,女児の割合が多い,下肢の罹患率が高い,両側あるいは上下肢の罹患が4%に存在する,受傷時の重症度は軽度である,などの成人と異なる点があげられる3).CRPSの診断から治療開始までの期間が3カ月以内では早期の症状緩和が得られるが,治療開始の遅れは高率に入院治療へつながることから,早期診断は非常に重要であると考えられている3).また,小児での再発率は25~50%と高く,少なくとも2年間は経過を追うことが勧められている4).今回の症例でも当科受診までに3カ月,3カ所を経由しており,小児のCRPSの診断,治療の難しさが反映されていると考えられた.

CRPSの治療は薬物療法,理学療法,心理療法が基本となるが,薬物療法で処方される非ステロイド性抗炎症薬あるいはアセトアミノフェンの有効性は低いと報告されており5),本症例でもアセトアミノフェンの効果はみられていなかった.鎮痛補助薬である三環系抗うつ薬や抗痙攣薬と理学療法の併用が効果的との報告もあり4),本症例ではクロナゼパムとプレガバリンを投与したが,このような薬物の小児のCRPSへの投与例はまだ報告が少ない.また,侵襲的な治療法である交感神経ブロックや脊髄刺激療法などは小児のCRPSにおいてはエビデンスがないと考えられており6),本症例は行わなかったが,各療法に治療抵抗性であった場合は検討されるべきかもしれない.

クロナゼパムは抗痙攣薬で小児のてんかんに用いられており,投与に関する安全性は確立している.われわれは小児のCRPS症例で著効を示した報告を踏まえて本症例での使用を選択したが7),効果が得られた機序は不明である.クロナゼパムの神経障害性疼痛への有効性に関する報告は少なく明確な作用機序と有効性は不明であるが,クロナゼパムはベンゾジアゼピン受容体に結合し,GABA作動性経路を増強し過剰な神経伝達を抑制することがおもな作用であり,抗不安作用や不眠に対する作用も有するため総合的に効果がみられたと推察される8)

プレガバリンは新生児,乳児,幼児,小児に対する安全性は確立していないが,1日体重1 kgあたり10 mgという限定された投与量では安全性・許容性が認められ,さらに体重が30 kg以下の小児では1日体重1 kgあたり15 mgまでの安全性も報告されている9).また,ミルタザピンやガバペンチンの無効症例に対しプレガバリンの有効性を示した症例も報告されており10),今後小児への適応拡大が期待される.

鏡療法の小児に対する治療成績は片麻痺における有効性が報告されているのみでまだ少ない11).鏡療法は1994年にRamachandranが幻肢痛に対して用いたのが最初の報告であり12),成人ではその後脳卒中後麻痺や慢性疼痛治療への有用性が報告されている13).鏡療法の機序は明らかではないが2つの可能性が示唆されている.1つは,鏡に映った健側肢がまるで患側肢が動いているようにみえる画像が一次運動野の活動性を増強し,脳から筋肉への下行性投射が増強することである11).もう1つは,自己認識能や空間認識能に関与している揳前部や後帯状皮質領域の活性化である.鏡療法時には観察と行動のミスマッチが起こるためこの領域が活性化し,自己認識能が増強される.その結果,患肢への強制的な運動療法が新たな学習として認識されるのである11)

鏡療法は簡便で侵襲がないため小児でも安全に施行が可能である.本症例では鏡療法開始後,母親から好意的な感想が聞かれた.迅速な治療が優先であり,鏡療法の開始と内服薬の調整が同時であったため鏡療法単独の効果判定は不明であるが,CRPS治療におけるmultimodal analgesiaの選択肢の一つにあげてもよいと思われた.

小児のCRPS患者では症例数も少なく治療方法も確立されておらず対応が困難であると思われる.今回の症例では薬物療法と鏡療法のみで軽快したが,小児では社会的・心理的要素が指摘されることが多く精神療法が必要な場合もあり,集学的な治療が必要であると考えられた.

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