Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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2022 Volume 29 Issue 11 Pages 221-222

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I はじめに

複合性局所疼痛症候群(CRPS)の小児に持続硬膜外ブロック(CEB)を施行し,早期に症状緩解した.本報告にあたり治療同意取得時に当院承認の書面と口頭にて同意を得た.

II 症例

患 者:10歳,女児,身長136.0 cm,体重29.2 kg.

主 訴:左下肢痛.

既往歴:特記事項なし.

現病歴:当科初診2カ月前転倒.左第5中足骨骨折の診断で加療されるも痛みが持続し,徐々に皮膚萎縮傾向・発汗低下も認め,CRPS疑いで当科紹介された.

現 症:左足関節より末梢に安静時痛numerical rating scale(NRS)8/10があった.視診上患部の色調は暗赤色であり(図1),左足底接触で痛みが誘発されるため移動時は松葉杖使用での片足歩行,睡眠時は膝下にクッションを置き左足を浮かせていた.足関節背屈不能であった.

図1

初診時両下肢の写真

左下肢(足関節上部より末梢)の色調は暗赤色であった.

検査所見:血液検査所見上異常値はなく,下肢X線検査で明らかな骨萎縮はなかった.サーモグラフィーで両足趾の温度低下を認めるも明らかな左右差はなかった(足背;右31.9℃・左31.0℃,足趾;右28.1℃,左27.8℃).

治療経過:直線偏光近赤外線の疼痛部位への照射と内服薬(メコバラミン250 µg 3錠 分3 毎食後,プレガバリン25 mg 2錠 分2 朝夕食後,アミトリプチリン10 mg 1錠 就眠時,アセトアミノフェン300 mg 4錠 分4 毎食後・就眠時)を開始した.1週間後痛み不変のためプレガバリン25 mg 4錠 分4 毎食後・就眠時に増量,抑肝散5 g 分2 朝夕食前を追加した.その6日後も鎮痛効果ないため入院させCEBを開始した.硬膜外カテーテル留置はX線透視下に無鎮静で行い,L5/S1より穿刺しカテーテル先端をL4椎体レベル左側に留置した.1%メピバカイン3 ml注入で左L5–S1知覚低下を認め,同薬を患者管理型持続注入器にて2 ml/時,早送り3 ml,lockout time 60分の条件で開始した.接触時痛は消失,安静時NRS 7/10に減少した.内服薬はCEB開始時より中止した.入院4日目NRS 5/10となり,足関節可動域訓練・歩行訓練・筋力増強訓練目的の理学療法を開始した.6日目つかまり歩行可,7日目杖歩行可,患部皮膚色は健側との差はなくNRS 2/10となった.9日目カテーテル抜去,10日目退院させた.退院1カ月後来院時に左下肢痛はなく日常生活に支障はなかった.

III 考察

小児CRPSに関する最近の報告では,発症率年間10万人あたり1~2名,12歳前後の女児に多く,下肢の軽微な外傷を契機に生じる1)

本症例では第5中足骨骨折があり,受傷から1カ月以上経過した時点での強い痛みの訴え,皮膚の萎縮,発汗低下を認めていた.さらに当科初診時には皮膚色は暗赤色を呈し,アロディニア,運動機能障害も認めたことより厚生労働省研究班によるCRPS判定指標を満たしているものと判断した.

CRPSに対する治療は,ガイドライン上機能回復目的での理学療法を推奨しており,これを進めるための適切な鎮痛が必要となる.発症初期はNSAIDs・アセトアミノフェン・ステロイドを使用し理学療法の促進を図る2).また,ビスホスホネートを加えることで痛みの増悪や浮腫・骨萎縮をある程度抑える効果はあるとされているが,痛みが完成した時期においてはその効果は減弱する3).その他抗うつ薬・Caチャネルα2δリガンド・オピオイドが試されるが,副作用が出やすいわりに効果は少ない4).神経ブロックは理学療法が進まない際に施行する有益性はある2,5)

本症例は10歳児であり当初神経ブロックに躊躇し,薬物療法を選択したが効果はなかった.住所が遠方で頻回の通院が困難であったこと,明らかな心理社会的因子の関与はないと判断したこと,ブロックを単回で行うよりはCEBにする有益性を考慮したこと,小児CRPSにおいても理学療法が推奨されていることから本人と保護者に同意を得た後,CEBを開始した.CEBは即座に効果を示し,痛みは軽減し理学療法も順調に進んだ.CEB施行にあたっては母親同席のもと詳細に説明し,本人にも受容していただいた.すなわち成人と同様の扱いで本人も納得できる説明をすることで同意を得た.ただカテーテル挿入中は啼泣していた.より低年齢の場合や局所麻酔下でのブロックを受容できない場合には全身麻酔下に施行する選択肢も提供してよいと考える.

小児疼痛疾患では早期診断と治療が重要で,医療関係者をはじめ養育者や教育施設スタッフへの啓蒙が必要である.また,保存的治療が無効である下肢CRPSでは,小児であっても早期にCEBを併用したリハビリテーションを検討する.

本論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第53回大会(2019年7月,熊本)において発表した.

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