2023 Volume 30 Issue 6 Pages 131-134
40代男性.臼蓋部のdesmoplastic fibroma of bone(DFB)により生じた難治性の股関節・大腿痛により当科受診した.局所麻酔による大腿神経・坐骨神経ブロックにより一時的な除痛が得られたため同部位にパルス高周波法(pulsed radiofrequency:PRF)ブロックを施行したところ,長期間除痛を維持し,ADL改善を得られた.骨腫瘍による疼痛も神経障害性疼痛の要素があればPRFによる疼痛を軽減しうることが示唆された.問診や神経ブロックによる診断的治療によってその疼痛の性質を正確に把握することが重要である.
A man in his 40s came to our hospital because of intractable hip and thigh pain caused by desmoplastic fibroma of bone (DFB) in the acetabulum. Because temporary pain relief was achieved by femoral and sciatic nerve block under local anesthesia, a pulsed radiofrequency (PRF) block was performed at the same site, which resulted in long-term pain relief and improvement in ADL. We describe a case that pulsed radiofrequency (PRF) was effective for hip and thigh pain caused by DFB and improved ADL. It is important to accurately determine the nature of the pain by interview and diagnostic treatment with nerve blocks, as PRF may reduce pain due to primary bone tumors if there is a neurogenic pain component.
希少疾患に対する症例報告のため,個人情報保護の観点から情報を不明瞭としている部分がある.
なお,本症例報告に際し,文書および口頭で了承を得ている.
40代男性.身長172 cm,体重76 kg.
主 訴:下肢・股関節痛.
既往歴:特記すべき既往歴なし.
現病歴:南米出身,10代で来日した.幼少時に母国で骨腫瘍を指摘されたことがあったようだが,詳細は失念したとのことであった.
左股関節痛を主訴に他院から紹介され,X−5年に当院整形外科を受診した.股関節X線撮影やコンピュータ断層撮影法(computed tomography:CT),magnetic resonance imaging(MRI)などの画像所見から寛骨臼を主体とした腸骨骨腫瘍が疑われた.同年に開放腫瘍生検を施行され,desmoplastic fibroma of bone(DFB)の診断を受けた.
ご本人が腫瘍切除などの積極的治療を希望されず,保存療法の方針となった.トラマドール・アセトアミノフェン合剤(トラマドール150 mg・アセトアミノフェン1,300 mg/日)やセレコキシブ200 mg,ジクロフェナク75 mgなどの内服が試みられたが,疼痛のコントロールに難渋したためX年に当院ペインクリニック科を紹介受診した.
検査所見:臀部および大腿前・後面にそれぞれnumerical rating scale(NRS)10/10の疼痛を訴えた.しびれや運動障害は認めなかったが,疼痛のために日常生活動作は障害され,仕事上の労作に困難を感じていた.
骨盤X線写真やCT・MRIでは,腸骨は寛骨臼を中心に溶骨性変化を伴う腫瘍に広範に置換され,背側への腫瘍進展も認めた(図1~3).
骨盤正面X線写真
左寛骨臼周囲に溶骨性変化を認める(矢頭部).
骨盤CT矢状断
寛骨臼の加重面から坐骨棘・背面にかけて溶骨性変化を伴う腫瘍を認める(矢頭).
骨盤MRI (T1強調) 矢状断
寛骨臼はT1 Lowな腫瘍に置換されている.
治療経過:当初は内服加療を希望されたためミロガバリン20 mg/日の内服を行ったが,改善に乏しかった.画像検査で背側への腫瘍進展を認め,疼痛範囲が坐骨神経領域に一致することから,腫瘍による神経圧迫が痛みの一因であると予想された.ジブカイン・アセチルサリチル酸合剤による超音波ガイド下坐骨神経ブロックを殿下部アプローチで施行したところ,臀部および大腿後面の疼痛がNRS 6/10まで改善した.同様に大腿神経ブロックを施行したところ同じくNRS 6/10まで大腿前面痛の改善を得ることができた.しかし,いずれの効果も2週間ほどでブロック前と同程度のNRSまで減弱する経過を繰り返した.
以上の治療経過より,X年時点で生じている疼痛は大腿神経・坐骨神経痛の要素が強いと判断した.また神経ブロックで疼痛の改善は得られるものの,効果が短期間であることからパルス高周波法(pulsed radiofrequency:PRF)を施行する方針とした.
X+1年Y月に坐骨神経にPRFを施行した(超音波ガイド下,伏臥位,臀部法).トップリージョンジェネレーター(トップ,東京)を用いてsensory modeで殿部内側と外側で反応がある2カ所でそれぞれ42℃,2回/秒で3分間施行した.またY+1月に大腿神経へPRFを施行した.同様にsensory modeで疼痛部位に刺激感のある部位2カ所で42℃,2回/秒で3分間ずつ施行した.
その後現在まで腫瘍の明らかな増大や浸潤拡大は認めず,殿部・大腿部痛はNRS 6/10程度を維持しており,復職も果たした.原病は脆弱性が懸念される骨腫瘍であり,これ以上の除痛を行うと日常生活動作(activities of daily living:ADL)が過剰に改善し病的骨折をきたす恐れがあると考え,現在はPRF前と同量のトラマドール・アセトアミノフェン合剤内服および梨状筋周囲のトリガーポイント注射のみを行い,慎重な経過観察を継続している.
DFBによる下肢痛に対しPRFが有効でありADLが改善した症例を経験した.神経障害性疼痛成分をPRFで軽減することにより患者満足度およびADLが改善しており,有効な治療であったものと考える.
DFBは原発性骨腫瘍の0.3%を占めるとされる希少な疾患であり,主に若年から青年期に生じるとされる1).遠隔転移性のない良性骨腫瘍であるが強い局所浸潤性を持つ.報告が多いのは長管骨に生じた例であるが,12%ほどが骨盤に生じるとする報告もある2).希少な疾患であり症例報告は限られているが,経過中に局所浸潤が進行することで病的骨折をきたし,内固定術や骨移植術を要する症例が多数派である3).再発率が高いとの報告もあり,腫瘍掻爬術や局所切除のみで経過観察した症例の半数以上が局所再発をきたしたとの報告もある4).
そのため局所浸潤や再発予防のために広範切除や骨置換術が施行されることもある.しかしその希少性から手術経験のある施設は限られており,術後に重大なADLの障害をきたす例もあることから手術適応には慎重な検討が求められる.広範切除を伴わない治療として腫瘍掻爬術に腫瘍の熱焼灼などを併用する方法が疼痛・関節可動域の改善に有効であったとする報告もある5,6)が,これらは腫瘍掻爬術・人工骨移植や内固定術などの手術療法を併用したものであり,本症例における患者の希望にはそぐわないものと判断した.また報告例の腫瘍発生部位はいずれも非荷重部であったことから,本症例のような荷重部の腫瘍に対する適応は難しいものと考えられた.
近年,DFBの長期保存療法に成功した1例が日本から報告されている2).この症例は,本症例と同様に若年期に寛骨臼周囲に生じた腫瘍であった.この症例では疼痛に対する対症療法に加えて骨硬化を得ることを目的にビスホスホネートを用いた.本症例ではビスホスホネート系薬剤は使用していないが,幸いにして病的骨折を生じずに経過している.今後骨硬化をより強力に得たい場合や骨痛を生じる場合は,投薬の選択肢に挙がるものと考える.
寛骨臼に生じたDFBによる下肢痛に対しPRFが有効であり,ADLの改善により手術を回避しえた症例を経験した.骨原発腫瘍による疼痛に対しても神経障害性疼痛成分が含まれていればPRFにより疼痛を軽減できる可能性があり,問診や神経ブロックによる診断的治療によってその疼痛の性質を正確に把握することが重要である.
本報告の要旨は,日本ペインクリニック学会第56回大会(2022年7月,東京)において発表した.