Journal of Japan Society of Pain Clinicians
Online ISSN : 1884-1791
Print ISSN : 1340-4903
ISSN-L : 1340-4903
Clinical Report
Trigger-FlexTM Dart Bipolar system: a new therapeutic modality for percutaneous nucleotomy
Yuki KARASAWAHisashi DATERyota NISHIYAMAHiroyuki ITOYoko SUZUKIYuta SUENAGA
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2024 Volume 31 Issue 3 Pages 64-68

Details
Abstract

頚椎椎間板ヘルニア治療において,経皮的髄核摘出術(percutaneous nucleotomy:PN)は神経ブロックと手術の中間的侵襲度の治療である.PNデバイスとして,近年Trigger-FlexTM Dart Bipolar system(以下,Dart電極)が開発されたが,未だ臨床成績の報告はない.2020年4月から2021年3月に当施設でDart電極によるPNを施行した,頚椎椎間板ヘルニア4症例5椎間板の治療経験を述べる.手術直前・直後・術後1カ月・6カ月時点の外来のvisual analogue scale(VAS)を比較した.全例軽度~中等度変性椎間板だった.5椎間板中3椎間板は6カ月後時点でVAS 0もしくは症状が改善し終診となったが,2椎間板は6カ月後時点で術前のVAS値と同等だった.Dart電極は細径かつ内筒操作が簡便で,操作面で椎間板腔狭小例が多い高齢者にも施行しやすいが,中等度変性椎間板では無効例があると考えられた.

Translated Abstract

Nerve blocks as well as percutaneous nucleotomy (PN) is sometimes chosen for patients with cervical disc herniation. Trigger-FlexTM Dart Bipolar system (Dart Bipolar) is a new therapeutic modality for PN, but its clinical evaluation has not been reported. We underwent PN utilizing Dart Bipolar for 4 patients (5 disks) in clinic with bed between April 2020 and March 2021. Visual analogue scale (VAS) was obtained before PN, just after, 1 and 6 months after the procedure. Although 3 disks achieved pain-free state, the pain did not improve in 2 moderate degenerated disks. There was no complication. Dart Bipolar has small diameter and its procedure is very simple compared to existing therapeutic modalities.

I はじめに

頚椎椎間板ヘルニアの治療として,経皮的髄核摘出術(percutaneous nucleotomy:PN)がある.土方が腰部PNを提唱1),田島が頚部に応用2)し変法が複数考案され,近年Trigger-FlexTM Dart Bipolar system(以下,Dart電極)が米国で開発された.本法は物理的髄核摘出とラジオ波焼灼の併用で,土方(田島)式PNと髄核摘出の行程が共通のため国内で認可されたが,未だ臨床成績・動物実験とも報告はない.今回,当施設でのDart電極の治療経験を報告する.

本研究は所属施設の承認を得た(承認番号R3–01).手術施行についても患者に文書で同意を得た.

II 症例

手技:頚椎椎間板ヘルニアの診断は神経学的所見とMRIで行った.星状神経節ブロックや頚部神経根ブロック,薬物・理学療法を行い,6週間以上経過しても効果不十分な症例にPNを検討した.基本的に術前の椎間板造影で再現痛の位置が一致し,骨性・靱帯による障害でない症例にPNを行った.

PNの手技は,本穿刺までは椎間板造影に準じた.体位は仰臥位で肩枕を入れ,頚部を後屈させた.術者は患者の右側に立ち,左示指中指で総頚動脈・気管・食道を触知しながら避け,25G針を用い0.001%アドレナリン含有1%リドカイン3~5 mlで局所麻酔を行った.その際,気管の透亮像から穿刺針の先端が離れていることも確認した.16G Access Needleを患者の右側から穿刺し,正面・側面の透視像を交互に確認しながら,先端を患側近傍に進めた.この際,ヘルニアが右側(術者に近い側)なら刺入角度を高く,左側なら低くし左右を刺し分けた.また,先端位置が極端に外側とならないようにした(中央1/3の範囲内).深さは髄核後方1/3よりやや手前とした.内筒を抜去し,grasperで3回髄核を摘出した.grasperを抜去し,生理食塩水0.5 ml注入後,Dart電極を挿入し先端を髄核後方1/3の位置にした.Dart電極のシャフトには3 mm間隔でA~Cのマーキングがあり,ラジオ波焼灼を行いながらA~Cそれぞれの幅を1往復1秒で5往復ずつ出し入れし,焼灼と焼灼の間に10秒間の冷却期間を置いた.初期位置から腹側(ヘルニアから遠ざかる)方向に9 mm幅の数珠状の焼灼を行った3)図1,2).

図1

Dart電極の焼灼範囲

特に左側のヘルニアでは前後のみでなく左右方向にも細長い数珠状範囲となる.

症例:当施設で2020年4月から2021年3月に頚椎椎間板ヘルニアに対しDart電極によるPNを施行したのは4例5椎間板で,全例男性で37~72歳だった.施行椎間板は1椎間板がC4/5,他はすべてC5/6で,全例神経根症状を認めた.椎間板の変性度は腰椎に準じPfirrmann分類で評価し,grade 2~3だった.患者④はC5/6でPNを施行し右C6領域の痛みが改善した後,右C5領域の痛みが新規出現しC4/5のPNを追加した.手術は1泊2日の入院で行い,入院期間中は抗血栓薬以外の内服薬は原則継続し,神経ブロックなどの侵襲治療は行わなかった.退院後,侵襲度・合併症リスクと期待される効果・患者希望の有無を鑑み,有益と判断した場合積極的に神経ブロックを追加した.手術直前の外来・直後の外来(全例術後1~2週間で受診)・術後1カ月・6カ月時点のvisual analogue scale(VAS)を比較した.代表例として患者②を図2で示す.

図2

患者②

C5/6左傍正中ヘルニアによる左C6神経根障害に対しDart電極を施行した.

左:MRI画像,右上段:grasper挿入,右中下段:電極挿入時の透視像.

結果:手術直前,直後,1カ月後,6カ月後のVASはそれぞれ以下となった(症例①:69→88→0→73,②:58→15→5→終診(未評価),③:58→49→48→46,④C4/5:65→30→0→0,④C5/6:40→14→25→0).症例②は痛みが改善しPN 6カ月後までに終診となった.軽微なものを含め合併症はなかった(表1).

表1Dart電極施行者の患者背景と治療成績

  患者① 患者② 患者③ 患者④ 患者④
年齢・性別 72歳・男性 61歳・男性 37歳・男性 41歳・男性 40歳・男性
ヘルニア部位 C5/6左傍正中 C5/6左傍正中 C5/6左傍正中 C4/5正中 C5/6右傍正中
Pfirrmannの分類 Grade 3 Grade 3 Grade 3 Grade 2 Grade 2
頚部痛 あり あり なし あり あり
疼痛部位 左C6 左C6 左優位両側C6 右C5 右C6
術前VAS 69 58 58 65 40
術後VAS 88 15 49 30 14
1カ月後VAS 0 5 48 0 25
6カ月後VAS 73 術後6週で終診 46 0 0
術後1カ月間に施行した神経ブロック 星状神経節
ブロック1回
なし 星状神経節
ブロック2回
なし 星状神経節
ブロック1回

III 考察

Dart電極は頚椎椎間板ヘルニアに対する最も新しいPNデバイスで,物理的髄核摘出に加えラジオ波による髄核の焼灼を行う.Dart電極の特徴は,まず外筒が太さ16G(約1.7 mm)と保険適応のデバイス中2番目に細い点である.椎間板造影に近い感覚で刺入でき,椎間板造影に習熟している施設であれば刺入は容易と考えられる.最も細径のPNデバイスである頚椎用DekompressorTM(19G:直径約1.1 mm)は折損も報告されているが4),今回Dart電極で破損例はなかった.椎間板変性が中等度以下の症例では,16Gで侵入できない極端な椎間板高減少例はまれであり,当施設の経験内では刺入径が原因でDart電極を施行できなかった症例はない.細径のため物理的髄核摘出がほとんどできない症例も多く,髄核内の減圧効果の主体は焼灼によると考えている.

また,Dart電極は挿入の深さの基準が椎間板後方1/3と明確で,椎間板内での内筒の操作は前後運動のみである.他に蒸散(プラズマ波)を併用するデバイスとしてL'DISQTMがあるが,L'DISQTMは髄核内で内筒の曲げ具合を調整するレバー操作があること,内筒を出し入れする際の深さの基準がないことから,われわれはDart電極の方が内筒操作が簡便であると考えている.

今回の症例選択について,一般的にPNは髄核が硬化し退縮しにくい変性椎間板に不向きとされる.しかし他のPNで軽度~中等度の変性椎間板も含めた対象群に有効だった報告4,5)もあることから,当院では中等度以下の変性椎間板に対しPNを施行した.椎間板変性の評価基準は頚椎では確立していないが,腰椎に準じてPfirmann分類を代用できるとの報告があり6),採用した.

今回,Dart電極は5椎間板中3椎間板が6カ月後時点でVAS 0もしくは痛みの改善による終診となった.改善例である患者②と④C4/5は術直後,1カ月後,6カ月後と次第にVASが減少し,④C5/6も1カ月経過した後にさらにVASが減少している.Dart電極の治療効果発現時期および椎間板変性度との関係は,科学的に解明されていない.治療手順が類似するL'DISQTMは中程度以下の変性椎間板も含む報告で,1カ月かけ徐々にVASが改善したとされる5).今回全体的に椎間板変性度が高かったことが,VAS減少までに1カ月以上要したことに影響した可能性がある.

一方,症例①と③は6カ月後のVASは術前とほぼ不変だった.症例①は術前VAS 70~90程度で推移した症例で,1カ月かけ徐々に改善し一時的にVAS 0となった後,6カ月後に再度術前同等のVASとなった.しかしMRIの再撮影がなされていないため,症例①で最初からDart電極が無効だったのか,それとも1カ月後に一旦ヘルニアが改善した後に再発をきたしたのかは定かでない.症例③は術直後から6カ月後までほぼ不変で経過しており,Dart電極は無効であったと思われる.症例①③ともPfirmann分類Grade 3と今回の症例の中でも椎間板変性度が高く,ヘルニア嚢退縮効果が不十分だった可能性がある.

Dart電極の欠点は,外筒の位置で焼灼範囲が自動的に決定するため,外筒の穿刺に正確性を要す点で,外筒穿刺後の操作自由度・難易度が高いL'DISQTMとは対照的である.また,焼灼位置が椎間板後方1/3とヘルニア嚢から離れる.さらに焼灼域が数珠状で細長いため,特に術者から遠い左側のヘルニアの場合焼灼域は横方向に伸びることとなるが(図1),内筒の左右方向の留置位置については明確な規定がない.合併症は今回認めなかったが,潜在的リスクとして他のデバイス同様,周囲組織の穿刺損傷や椎間板炎の可能性がある.また,プローブから距離1 mmの髄核でも42℃以上にならないが3),加熱範囲は直接目視できない.術中患者が強く痛がるなど,椎体の加熱を示唆する変化に注意する.

高齢者は椎間板高減少例や椎間板変性例が多く,術中長時間の安静が困難なことも多い.Dart電極はPNデバイスの中では細径かつ内筒操作が簡便で,操作的には高齢者などPN施行困難例にも比較的施行しやすい.今回Dart電極は変性が強いと無効例があると思われた.前述のごとく他デバイスは中等度変性椎間板を含む母集団でも有効と報告されているが,それらの椎間板変性例の割合は不明のため,Dart電極のみが変性椎間板に不向きかは定かでない.報告により有効率の基準が異なり単純な比較はできないが,6カ月後の有効率は田島のPN・APCD(83.0%)7),DecompressorTM(84.2%)4)とされ,L'DISQTMも80%程度と考えられる5).今後より多くの症例数で,Dart電極に同等の治療効果があるか,椎間板変性度もそろえて検討する必要がある.また,L'DISQTMはプローブの先端位置が不適切だと有意に効果が低下するとされ5),Dart電極でも特に左右方向のずれによる効果減弱がないか,今後検討したい.

IV 結語

Dart電極は手術難易度が低くかつ細径のため,PN施行困難例にも適用できる可能性がある.VAS値はPN 6カ月後でも低下している症例もあったが,変性が強いと効果が減弱する可能性がある.自験例で合併症はなかった.

本稿の要旨は,日本ペインクリニック学会第55回大会(2021年7月,富山)において発表した.

文献
 
© 2024 Japan Society of Pain Clinicians
feedback
Top