Japanese Journal of Sensory Evaluation
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Technical Reports
Investigation of Oral-care consciousness for the research of fresh breath and freshness
Satomi Kunieda
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2003 Volume 7 Issue 2 Pages 124-131

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1. 緒言

香料の開発は, フレグランス, フレーバーを問わず, 日々, 国際的な製品市場を睨んで行われている. 特に香料はその製品の付加価値を上げるために, 様々な目的で使用されるため, 香料の機能性については多面的な研究開発を試みることとなる. しかしながら, 最も重要な課題は, その使用される香料が人体に安全で, 且つ良好な嗜好性を有することであり, 顧客からもこれを強く要望される. そのため, 社内における官能評価や嗜好調香査は頻繁に行われている. フレーバーの開発過程において, その特徴表現は幾つかの代表的な化学成分に対する感覚強度で表現されるだけでなく, イメージ用語も含まれる. 同じ用語を使用した評価や調査でも, そのニュアンスに微妙な差が生じることは少なくなく, 特に人種や地域の違いは, 当然, この差を生みやすく, その差を埋める努力が必要となる. 開発者が製品開発の方向性を決定する上でも, また, 社内スキルとしても, 用語の持つ意味について国を超えて共有することが今後さらに重要となるはずであり, そのような意味から, 今回, 同じ企業内社員として, 日本人社員と海外の社員との間にフレーバーに対する感覚的な違いがどの程度あるのかを調査する目的で, オーラルケアの事例について, フレッシュ感及び、フレッシュブレス(爽やかな息)に対する調査研究を実施した.

2. フレッシュ・フレッシュブレスに関する調査の概要

目的

このアンケートの目的は我々日本人の感覚が世界の仲間からどの程度異なっているかを知ることと, 我々が特に海外の仲間や得意先と目指すフレーバーについて共通認識をもつための土台づくりを行うことにある. 具体的にはフレッシュ或いはフレッシュブレスをキーワードとし, 一般的な印象の違いを具体化にみつけること, 及び今後の開発研究及び消費者調査に使用できる用語をみつけだすことであった.

調査様式

Web形式で該当するチェックボックスにチェックできる質問紙を作成し, アメリカ, フランス, シンガポール, 日本の4ヵ国の研究開発に携わる社員宛にグローバルネットワークを使って配信した. 本結果は勤務地が日本の日本人社員(日本人パネル)と, フランス, アメリカ, インドネシアで勤務する日本人以外の社員(グローバルパネル)という区分により比較検討を行うためのものである.

実際には, アンケートの性質やネットワークシステムのセキュリー環境から考えると, ホームページを開設し, そこへアクセスしてもらう方法をとることがより好ましいが, 今回はメールシステムの利便性を利用した簡便法にて関係部署にアンケートを依頼した.

パネル

前述の目的から, 調査回答者は消費者アンケート時よりも遥かに少ないが, 香料に対する認識のある関係者をパネルとした. 主に研究開発に従事する社員に対する調査としたため, 社内事情により, 今回は日本人パネルが50名, グローバルパネルが21名の参加となった. パネルの年齢は日本, グローバルともに20才から40才で, その年齢構成はおおよそ同比であった.

調査内容(質問表記載項目)

調査用紙の質問概要を示す(Table1, 2). Table1では口臭に関する設問を, Table2ではフレッシュ感に関する設問を用意した. ここに示す質問概要は英語表記(一部対応日本語併記)となっているが, 日本人向けの調査用紙では, 設問は基本的に日本語表記とした. フランス, アメリカ, インドネシア向けには英語表記とした. 調査用紙に記述された言葉のニュアンスができるだけ同等となるように, 社内における複数の部門の各海外事業に精通した社員との議論のうえ, 設問を決定した.

また, 調査用紙は, Microsoft FrontPageにてフォームの作成, 編集を行い, HTMLのドキュメントとし, メールに添付してパネルに配信した.

Table1 Questionnaire for fresh breath, awareness of oral odor

1. How often are you aware of your oral odor?

 □ Every time

 □ Sometimes

 □ Never

2. When do you become aware of your oral odor? You can check one or several boxes below. (If you checked Never in question #1, please skip this question and move on to question #3

 □ When I wake up

 □ Before I go to sleep

 □ After meals

 □ After drinking (alcohol)

 □ After smoking

 □ During conversations with other people

 □ When I am sick

 □ Anytime

 □ Never

 □ Others (pls. specify)

3. How often are you aware of other people's oral odor?

 □ Always

 □ Sometimes

 □ Never

4. When do you become aware of their oral odor? (If you checked Never in question #3, please skip this question and move on to question #5)

 □ When I wake up

 □ Before I go to sleep

 □ After meals

 □ After drinking (alcohol)

 □ After smoking

 □ During conversations with other people

 □ When other people are sick

 □ Anytime

 □ Never

 □ Others (pls. specify)

5. How do you take care of your oral health? You can check one or several boxes below.

 □ Brush my teeth

 □ Gargle mouthwash

 □ Chew a gum

 □ Eat a candy

 □ Chew a tablet

 □ Others (pls. specify)

6. How often do you take care of your oral health?

 □ Always

 □ Sometimes

 □ Never

7. How do you describe your oral health? You can check one or several boxes below.

 □ My gum bleeds during brushing. 歯磨きすると歯茎から出血する.

 □ There are food particles left in between my teeth. 歯間に食べ物が詰まりやすい.

 □ My gums are swollen. 歯茎が腫れる.

 □ I have sensitive teeth. 冷たいものなどを飲食するとき歯にしみる.

 □ It is easy to attach plaque to my tooth. 歯垢がたまりやすい.

 □ I have caries of the teeth. 虫歯がある

 □ I wear dentures. 義歯(差し歯, 入れ歯)がある

 □ I feel my mouth odor. 口臭が気になる

 □ I have a clean mouth and fresh breath. 清潔で爽やかな息である.

 □ I try keep my teeth looking as white and clean as I can. 歯のホワイトニングに気を使っている.

Table2 Questionnaire for feeling of fresh

1. Please check what kind of sensation you get when you feel fresh.

 □ Chilled 冷たい

 □ Cool 涼しい

 □ Warm 温かい

 □ Hot 熱

2. Please check what kind of stimulation you get when you feel fresh.

 □ Sharp 刺すような

 □ Tingling ヒリヒリする

 □ Irritated チリチリする

口 Soothing スースーする

3. Please check which of the activities below give you a feeling of freshness.

 □ During Shower

 □ After Shower

 □ In Bath

 □ After Bath

 □ During Sports

 □ After Sports

4. Which products or flavor types give you the feeling of freshness? You can check one or several boxes below.

 □ Toothpaste

 □ Chewing Gum

 □ Candy

 □ Carbonate drink

 □ Ice Cream

 □ Sherbet

 □ Mint

 □ Herb

 □ Green Tea

 □ Black Tea

 □ Vanilla

 □ Custard

 □ Milk

 □ Yogurt

 □ Coffee

 □ Chocolate

 □ Beer

 □ Whisky

 □ Vodka

 □ Spicy

 □ Valencia Orange

 □ Mandarin Orange

 □ Grapefruit

 □ Lemon

 □ Lime

 □ Grape

 □ Muscat

 □ Apple

 □ Peach

 □ Others (pls. specify)

5. Please check the terms you think describe the feeling of freshness.

 □ Energized 弾んだ

 □ Bright 明るい

 □ Light 軽い

 □ Calm 落ち着いた

 □ Dark 暗い

 □ Heavy 重い

 □ Clear はっきりした

 □ Bouncy 丸い

 □ Fine すっきりした

 □ Comfortable 心地よい

 □ Simple 単純な, 質素な

 □ Neat さっぱりした

 □ Clean 清潔な

 □ Soft 柔らかな

 □ Hard 堅い・固い

 □ Stimulating 刺激的な

 □ Sharp 尖った

 □ Powdery 粉っぽい

 □ Raw 新鮮な

 □ Pure 純粋な, 濃い

 □ Natural 自然な

 □ Steady しっかりした

 □ Smart 機敏な, スマートな

 □ Transparent 透明感のある

 □ Unripe 未熟な

 □ Ripe 熟した

 □ Straight 直線的な

 □ Streamlined 流線型的な

 □ Smooth スムースな

3. 調査結果

調査結果は日本人パネルとグローバルパネルでは絶対数が異なるため, 全てパーセント表示とし, 比較を行うこととした.

自分自身のオーラルケアに対する意識

どのくらい自分の口臭が気になるかという設問Table1-Q1に対する回答では, 我々日本人に比べてグローバルパネルの方が口臭に対する気遣いが強い傾向にあることが示唆された(Fig.1). また, どのような時に口臭が気になるかという設問Table1-Q2に対しでも, 日本人よりもグローバルパネルの方にほぼ全ての項目で反応率が高いことが確認できる. 特に就寝前と食後, 喫煙後といつでもの項に大きくパネルの違いが認められた(Fig.2).

このことから, 自分自身のオーラルケアに対する意識は, 日本人パネルに比べるとグローバルパネルの方が高いことがわかる. 彼らがどのようなケアをしているのかについては, Table1-Q5の回答から, 歯を磨くやガムを噛むの他に, マウスウォッシュを使う, キャンディをなめるなどの手段を持つことがわかる(Fig.5). このことは, オーラルケア製品中にガムやキャンディの位置があることを示唆するものであり, 我々がガムやキャンディの市場を考えるとき, ターゲットとする製品群は菓子としてのガムやキャンディだけに留まらせるべきではなく, マウスウォッシュ, 歯磨きなども視野に入れて検討すべきことを暗示していると考える.

口臭に関連して, Table1-Q6では口腔内の状態について気にしているかどうかについて尋ねた. この結果では, 日本人パネル, グローバルパネルの両者で圧倒的にAlways(いつも)への反応数が高かったが, 気にしていないパネルは, グローバルパネルでは存在しないのに対し, 日本人パネルでは22.2%存在していることが確認された(Fig.6). Table1-Q7では自覚症状を確認したが, My gums are swollen. (歯茎が腫れる)を除き, My gum bleeds during brushing. (歯磨きすると歯茎から出血する), There are food particles left in between my teeth. (歯間に食べ物が詰まりやすい), I have sensitive teeth. (冷たいものなどを飲食するとき歯にしみる), It is easy to attach plaque to my tooth. (歯垢がたまりやすい)等, いずれもネガティブな条件に対して, 少ないとはいえない回答数が認められた(Fig.7). このことから, オーラルケアのうちでも特にガムケア(歯周病対策)を必要としている人は決して少なくないことが予想された.

Fig.1

How often are you aware of your oral odor ?

Fig.2

When do you become aware of your oral odor ?

Fig.3

How often are you aware of other people's oral odor ?

Fig.4

When do you become aware of their oral odor ?

Fig.5

How do you take care of your oral health ?

Fig.6

How often do you take care of your oral health ?

自分以外の人へのオーラルケアに対する意識

他人の口臭については, Table1-Q3の結果からほとんどのパネルが他人の口臭を何らか感じ, 気になった経験を持っていることがわかる(Fig.3). 特に, Table1-Q4の結果から, 他人の息は会話をしている時に最も気になること, 次いでアルコールを飲んだ後, 喫煙後, 食事や病気の時という順に気になることが確認され, 自分自身の口臭に対する結果とは必ずしも一致しないが, 自分の口臭にも他人の口臭にも共通として気になるのは, 会話のときに感じる口臭であった(Fig.4).

逆に, 朝起きたときに感じる他人の口臭は自分の口臭ほどは気にならないようにこの結果からは見受けられるが, これは, 朝起きたときに近くにいる他人は非常に身近な人である場合が多く, 相手(身近な人)の口臭を気にするよりもむしろ, 自分の口臭を気づかせないようにするという心理効果が働くことによるのかもしれない.

我々が生活していく上で, 誰とも会話をしないという環境を作ることは非常に稀で, 考えにくい状況であることから, ガムやキャンディのように手軽で簡略にいつでもどこでもほおばることができる食品でフレッシュブレスが獲得されることが可能であれば, コミュニケーションにとって好都合な状況といえるのではないだろうか.

フレッシュに対するイメージ調査結果

次に, フレッシュ感(爽やかさ)に対するイメージ調査の結果を示す.

爽やかなイメージと温度感覚との関係を示すTable2-Q1では, 爽やかなイメージとの結びつきは温度の低い方が強く, 温感にはほとんど回答は集まらなかった. また, 日本人がフレッシュに感じる温度感覚は諸外国の人に比べ, 穏やかなものである可能性も示唆された(Fig.8).

一方, 刺激感覚とフレッシュ感(爽やかさ)の関係については, Table2-Q2により, グローバルパネルと日本人パネルで大きな感覚の違いがあることが確認された(Fig.9).

これらの結果は, 我々日本人がフレッシュ感(爽やかさ)を想起する刺激感は, グローバルスタンダードからは離れている可能性もあることを示唆している. センセートフレーバーを評価する基準について再考する必要があるかもしれないことを示すこの結果は, フレーバー開発にとって, 重要な知見となると考えられる.

続いて, Table2-Q3の結果から, フレッシュ感(爽やかさ)と関係する行動については, グローバルパネルと日本人パネルのどちらのパネルでも, 入浴後とスポーツ後にはフレッシュ感(爽やかさ)を感じることが確認された一方で, スポーツ中に対し, グローバルパネルではフレッシュ感(爽やかさ)を感じるが, 日本人パネルではほとんど感じないという極端な反応の違いが認められた(Fig.10).

Fig.7

How do you take care of your oral health ?

Fig.8

please check what kind of sensation you get when you feel fresh.

Fig.9

Please check what kind of stimulation you get when you feel fresh.

Fig.10

The activities below give you a feeling of freshness.

Fig.11

Which flavor types give you the feeling of freshness ?

Fig.12

Which description give you the feeling of freshness ?

フレーバータイプとフレッシュ感

さらに, 我々は30種の主なフレーバーの製品のうち, フレッシュに関係するものをパネルに選び出してもらった. フレーバーのタイプから, フレッシュだと思うものを全てパネルに選び出してもらった(Table2-Q4).

グローバルパネルに選ばれた割合が高い順番に9番目までのフレーバーを示す(Fig.11).

共通してフレッシュ感を想起させるフレーバーはミント, レモン, ハーブ, ライムであることが示唆された. ここで, シトラスフレーバーに注目すると, レモンやライムはどちらのパネルにもフレッシュを想起させるが, オレンジやマンダリンはグローバルパネルに, グレープフルーツは日本人パネルにそれぞれフレッシュ感を想起させることが示唆された.

最後に, フレッシュと相関を持つ表現について調べるためにパネルに29の言葉の呈示を行った(Table2-Q5). 全用語の調査結果から, グローバルパネルの選定率から高かった表現の順に14表現を示す(Fig.12). この結果, グローバルパネルと日本人パネルの違いはさらに明確化された. 今回, この14用語中, 50%以上の選定率をグローバルパネルと日本人パネルで共有した用語はBright, Clean, Light, Rawとtransparentの5つの用語に過ぎなかった. 日本人の選定率が高く, グローバルパネルの選定率が低かった用語には, Simple, Fine, Comfortableがあり, 逆にグローバルパネルの選定率が高く, 日本人の選定率の低かった用語にはEnergized, Pure, Clearがあった. グローバルパネルの結果をスタンダードとするならば, 日本人の結果はそれとはかなり異質であることが推測される.

4. 考察

今回の調査結果にはないが, 追加調査では, グローバルパネルに対してのみ, 幾つかの質問を試みた. 歯の健康, 口腔内の自覚症状に関する設問について, ポジティブな回答I have a clean mouth and fresh breath.とI try keep my teeth looking as white and clean as I can. の二つを追加したところ, グローバルパネルの36.8%がI have a clean mouth and fresh breath.と回答し, I try keep my teeth looking as white and clean as I can.では89.5%もの高い回答があった. また, フレッシュ感を想起させる色について自由記述により回答してもらったところ, Blue 88.9%, White 38.9%, Green 44.4%, Others 5.6%となり'フレッシュな色'は, ブルー, ホワイト, グリーンのほぼ3色に限定されていることが示唆された.

これらの日本人データは追加していないため, 結果の比較はできないが, 特にオーラルケアに対する関心が高まっている日本においても, 海外の仲間と感性を共有した開発がさらに有効となるものと考えられる.

5.おわりに

本調査における最も重大な問題点は, 比較対象としたパネル数のアンバランスであり, これに関する指摘を受けることは否めない. さらにグローバルパネルを可能な限り増やし, 国別での違い等, 詳細検討を行いたいと考えている.

その一方で, 国内と海外の社員との間のコミュニケーションが, 極めて限定された形式で行われることが多かった今までに対し, 今回のようなWebを使ったアンケート調査であれば, パネルと調査担当者の間でほぼ1対1のコミュニケーションが成立するので, 調査担当者が直接, 実施状況をコントロールすることが可能となる. 結果をweb上で公開すれば, 社員同士の情報の共有化にもつながる. 今後, さらに, 社内で構築されているLANを活用し, 企業内グローバルネットワークを利用した官能評価の実施を検討したい.

フレーバーに対する嗜好は風土や習慣によって異なるが, 相手先の嗜好をどのくらいスピーディに且つ正確に理解するかが開発のキーとなるであろう.

 
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