2024 Volume 74 Issue Special_Issue Pages 2024-022
2022年1月以降,特許庁が日本語PCT出願の国内移行情報である再公表特許を廃止したことにより,再公表特許を利用した件数集計ができなくなった。近年は,PCT出願の利用を増やす日系企業も見受けられ,再公表特許廃止の影響は大きくなっている。このような背景により,PCT出願を含む日本特許の出願件数を正確に把握するには,制度,検索システムを理解し,目的に応じて件数集計することが重要となっている。
以上から,日本EPI協議会では,日本特許の件数集計において再公表特許の廃止による影響を調べるとともに,望ましい集計方法を研究した。
特許情報を用いた技術動向調査やベンチマーク調査では出願件数の把握は必須であり,どの国に何件の特許出願がなされているのか,また,その件数が増加しているのか,減少しているのかを正しく捉えることが重要である。
2022年1月より再公表特許が廃止されたことを受けて,日本EPI協議会注1)では,再公表特許の廃止が件数の集計に与える影響を調べるとともに,望ましい集計方法を研究した。
日本特許の出願件数は従来,表1に示す日本特許の公報数を集計することで把握できた。
再公表特許の廃止により,日本語PCT出願を利用する企業の件数集計に影響を及ぼすこととなった。従来のように日本特許庁発行の公報件数だけでは出願動向を把握することができなくなり,再公表特許に代わる日本語PCT出願の移行情報を取得する必要性が生じた。そこで,審査経過情報を利用した集計を試みた。検索システムによっては,日本出願番号の有無で国内移行を判断することもできる。関連の検索手法については3章で述べる。
集計結果の違いを把握するため,公報発行数と,審査経過情報をもとに集計した件数とを比較した。具体的な方法として,表1に示す公報A,B,S,Tの何れかの公報が存在する出願の合計数(集計①)と,審査経過情報をもとに集計した実際の出願数(集計②)とをそれぞれ算出の上,再公表特許廃止の影響の程度としてその差(集計②-①)と差の割合(集計②-①)/集計②*100を算出した。算出結果を表2および図1に示す。
集計対象は国際公開公報の件数が日本企業中トップ注2)の三菱電機社の出願とした。
表2および図1のとおり,公報発行数による日本特許の件数(集計①)は実際の出願数(集計②)よりも2021年の出願で751件少なく集計された。その差は同年の実際の出願数の21%に及ぶ結果となった。これは再公表特許廃止の影響であり,影響は大きく技術動向やベンチマークの結果を見誤りかねない。
2章で述べた問題に対応するため,主に日系ベンダーの各社は,日本語PCT出願を日本特許データベースに蓄積するとともに,検索機能を提供してきた。
従来から,日本語PCT出願は国内書面の提出有無等の審査経過情報から国内移行されているかどうかの条件で検索することができ,検索結果を集計することで件数を把握できる。表3は5つの検索システムを例として,審査経過情報を用いた国内移行情報の検索方法と,国内移行された日本語PCT出願を効率よく検索するための検索方法を整理したものである。
3章で述べた集計方法は国内移行された出願を集計するものであり,国内移行前の出願は集計対象にならない。国内移行前の出願がどの程度,存在するかを三菱電機社の出願を例に調べた。図2は三菱電機社の2021年と2022年のPCT出願を次の3形態に分けたものである。
(1)国内移行済み ・・・国内に移行済みの出願
(2)JP指定有り ・・・日本を指定国に含む国内移行前の出願
(3)JP除外 ・・・日本を指定国に含まない出願
三菱電機社における(2)JP指定有りの出願は2022年で1,140件あり,これを集計に加えるかどうかで結果の意味するところは変わる。これまで,三菱電機社のPCT出願においては,約9割が日本に移行されてきた。競合他社の直近の動向を把握するにあたっては,移行可能性のある出願を考慮する必要性がある。具体的には,2章で述べた表2の②国内移行済みの出願件数と共に,(2)JP指定有りを集計しておくのが望ましい。
上記3形態の内の(3)JP除外は,日本を指定国に含まない出願であるため日本特許には該当しない。集計から除外すべきであるが,除外するには日本指定の有無を判定しなければならず集計作業が複雑になる。集計対象に含めると,基礎出願が存在する出願であることから同じ内容が重複して集計することにもなる。基礎出願はPCT出願ではない通常出願として集計される。
指定国の判定が複雑になる理由として,その判定を可能にする検索システムが少ないことが挙げられる。外国特許系の検索システムにおいては,指定国の検索や表示・ダウンロードが可能なものが多い。しかし,日本特許庁発行の公報とともに日本語WO公報を同時に検索できる日本特許系の検索システムにおいては,日本語WO公報の出願が日本を指定国にしているかどうかを検索コマンドで判定できるものは少ない。
表3に示した検索システムの中ではNewCSS[日本特許DB]が判定可能であった。
どこまで正確に集計するのかについては,表4のメリット,デメリットを把握の上で調査や分析の目的に応じて判断するのが望ましいと考えられる。
再公表特許廃止の影響として,集計の仕方によっては日本特許の件数を少なく捉えることになる。近年PCT出願の利用を増やす日本企業もあり,今後その影響は大きくなる。技術動向の把握やベンチマークを適切に実行するには,これまでの集計方法を必要に応じて見直す必要があり,今はその時期にあると考えられる。技術動向を定点観測するための検索式やSDI配信のための検索式の見直しについても同様である。
また,検索システムの機能が充実され,再公表特許を利用せずに集計できるようになっている。検索システムの特性を理解するとともに,調査分析の目的に応じて集計範囲,検索システムを選ぶことも重要である。