Journal of Kanagawa Sport and Health Science
Online ISSN : 2436-7249
原著論文
空手師範が思考する精神修養に関する研究
─空手の修行目標に関するテキストマイニングによる探索的検討─
菅谷 麻衣清水 安夫
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2023 年 56 巻 1 号 p. 1-11

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抄録

【問題と目的】

 武道修練の本来の目的とは,稽古を通して心身の修養を行うことであると一般的に理解されているが,武道を習うことによって具体的に何が身につくのかについては武道家にも共通した理解がないのが現状である.本研究では,「心」の修養における到達点について,一つの共通した概念を見出せる可能性があることが期待される.

【方法】

 2022年7月―8月に,自由記述式質問紙を調査対象者に郵送する質問紙調査法及び調査対象者に対して半構造化面接を実施する面接法により,「空手の修養における精神性の習得」に関する質問を実施して回答を得た.調査対象者は,全日本空手道連盟に所属する公認段位4段以上(平均=5.9段,SD= ± 1.64)の師範10名(男性 : 9名,女性 : 1名)であった.調査対象者の平均修行年数は45.8年(SD= ± 19.46)であり,道場等における指導年数は平均33.3年(SD= ± 19.52)であった.データをテキストマイニングの手法を用いて分析を実施し,文章を単語の単位に区切り,品詞を判別することで頻出単語を抽出する「分かち書き作業(形態素解析)」と頻出語の関連性とクラスター構造を検証し図式化して可視化する「共起ネットワーク分析」を行った.

【結果】

 調査結果より各空手師範が思考する修行目標に関するテキストデータより,1)『稽古による向上』,2)『社会性の向上』,3)『身体と技の鍛錬』,4)『自己の内省化』という概ね4つに分類されることが示された.

【考察】

 本研究では,10名の空手師範への調査をもとに,空手の稽古における指導理念と目的について探索的に分析を実施した.テキストマイニングの結果,技術的進歩や身体的向上の他に精神性や社会性に関する領域の目標が抽出された.歴史的にも著名な空手師範の指導理念を踏襲し,現在の空手師範たちも,空手の稽古は単なる戦闘技術の習得ではなく,空手家の精神性や心の向上を鍛錬の主な目的として指導していることが示された.空手は,2020年の東京オリンピックの競技種目のひとつとなったが,スポーツとしての側面だけではなく,「心・技・体」の総合力を高めて社会性を養い,自己を客観的に見つめ直す精神性が重要な競技である.日本の空手は,歴史的に仏教の影響を受けており,「空」という概念は,修行者の目標として欠かせない精神状態の一つである.それは,単に試合に勝つことを目的とするのではなく,精神性や心理性に基づいて社会性や人間性を陶冶させるという点において,他のスポーツ競技とは異なると考えるべきことも,本研究の結果により示された.

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