2023 年 57 巻 1 号 p. 1-15
【問題と目的】
近年,日本固有の武道である空手は,世界中で広く普及するに至った。しかし,多くの人々が空手の修行を続ける,具体的な心理的な要因や動機づけに関する研究は限定的である。そこで本研究では,自由記述式の質問紙法により,空手の稽古を継続させる心理的動機づけの要因を抽出及び類型化し,将来的に空手修行者に特化した動機づけを測定する心理尺度を作成するための探索的研究を目的として実施した。
【方法】
2022年7―8月に,「成人の空手修行者の動機づけに関する質問(空手を修行する理由や意欲)」について,Google Formを用いた自由記述式によるオンライン調査を実施した。調査対象者は,都内の全日本空手道連盟和道会支部の成人空手修行者11名(男性7名,女性4名,年齢20―40歳)であった。サンプリングしたデータは,テキストマイニング法により分析され,文章を単語の単位に区切り,品詞を判別することで頻出単語を抽出する「分かち書き作業(形態素解析)」及び頻出語の関連性とクラスター構造を図式として可視化する「共起ネットワーク分析」を行った。さらに,共起ネットワーク分析の結果と空手や柔道における先行研究の結果を統合して,武道修行者の動機づけに関する統合モデルを構築した。
【結果】
分析の結果から,総単語数572語から頻出語である20語を抽出した。さらに,共起ネットワーク分析より,成人の日本人空手修行者の修行動機に関する記述は,1)Coaching and Instruction, 2)Awareness for Body and Mind, 3)Collective Effort, 4)Anti-Aging, 5)Learning and Trainingの5つに分類されることが示された。
【考察】
本研究の結果,空手修行者の動機づけの要因として,1)指導者との関係や社会的な繋がり,2)心身の健康や成長の感覚や学び,3)仲間との協同や競争心,4)若さの保持,5)鍛錬から得られる学びなどが,修行の動機として類型化された。本研究結果は,従来の武道研究では見られなかった分析方法により,空手道特有の修行継続に関する動機づけの要因を見出すことに成功した。今後は,さらに幅広い年齢層や修行経験を持つ対象者を含む調査を行い,空手修行者に特化した心理的測定指標を開発することにより,定量的に実証する必要がある。