抄録
斜面土砂災害において最も人的な被害の大きい現象はがけ崩れであり, 移動地塊の速度が急速なことが主要な原因である。これら災害の防止のため崩土の流下距離の予測手法の確立が強く叫ばれている。崩土の流下距離の予測に関する研究は, 災害実態の統計解析より相関関係をもとに予測式を検討する手法が議論されている。しかしながら従来の統計解析手法は, 斜面形態などの質的及び量的記述の要因などに関してファジィネスを有しているにも関わらずその特性を考慮した解析がなされておらず, 崩土の到達距離の予測手法の精度について検討が困難であった。
当論文は, これまでの手法によらず災害データはファジィネスを有する特性があることから, 崩土の流下距離に関与する要因をL-R型のメンバーシップ関数で表し, ニューラルネットワークで用いられているデルタルールを用いて学習し, この学習結果のファジィ推論より崩土の流下距離の予測を行う手法を検討した結果, 以下の結論を得た。
1) L-R型のメンバーシップ関数を用いることによって, ファジィ事象確率に従ってメンバーシップ関数を決定できる。
2) L-R型のメンバーシップ関数による簡略化推論手法の学習手法を定式化し, 従来手法に比較して演算が簡単である。
3) 提案する手法を用いて崩土の流下距離の予測を実施したところ, 数量化理論1類より精度の高い手法であり, 学習機能を有することにより汎化性の高い手法である。
4) 学習後のメンバーシップ関数分布形状を検討することによって, 解析に用いる要因の曖昧性が検討でき, 要因の適切な再区分設定が可能である。
がけ崩れの崩土の到達距離に関する災害データは, 災害直後に収集されることもあってファジィネスを有している。これら災害データについて到達距離に関与する要因をL-R型メンバーシップ関数で表わし, デルタ則による学習結果のファジィ推論より崩土の到達距離を予測する手法を提案した。この手法は学習機能を有することより汎化性の高い手法であるとともに解析に使用する要因の曖昧性が検討できることを明らかにした。