経営哲学
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投稿論文
ジョブ・クラフティングの思想 ― Wrzesniewski and Dutton(2001)再訪に基づいた今後のジョブ・クラフティング研究への示唆 ―
高尾 義明
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2020 年 17 巻 2 号 p. 2-16

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【要 旨】

Wrzesniewski and Dutton(2001)によって提唱されたジョブ・クラフティング概念は、現代の組織における仕事の絶えざる変化に対する従業員の能動性の発揮を描写するために有効な概念として定着しつつある。しかし、ジョブ・クラフティングというターム自体が魅力的であったことで多くの研究者を惹きつけた一方で、彼女らが示したジョブ・クラフティングの思想は後続の研究においては必ずしも精確に読み取られてこなかった。こうした事態はジョブ・クラフティング研究の発展を妨げている。そこで本研究では、ジョブ・クラフティング概念を提示したWrzesniewski and Dutton(2001)を学説史的な流れを踏まえて再検討し、彼女らが提示した既存研究に対する新奇性を明確にする。それらの新奇性とは、(1)従業員の能動性の強調、(2)認知的ジョブ・クラフティングの提唱、(3)仕事の意味やワーク・アイデンティティといった従業員の主観的経験の継続的な変化の焦点化である。次に、それらの新奇性を現在のジョブ・クラフティング研究がどの程度引き継いでいるかを確認する。第1の新奇性は既存研究において最も基本的な前提と見なされているものの、多くの実証研究は第2の新奇性を継承しておらず、第3の新奇性を継承している研究はごくわずかである。最後に、以上を踏まえてジョブ・クラフティング研究のいっそうの発展に向けた示唆を提示する。

1.はじめに

Wrzesniewski and Dutton(2001)によって提唱されたジョブ・クラフティング(以下ではJCと略記する)に関する研究が、欧米日本を問わずこの数年で増加している。「個人が自らの仕事のタスク境界もしくは関係的境界においてなす物理的・認知的変化」(Wrzesniewski and Dutton, 2001:179)1) と定義されているJCへの注目が高まっている背景として、近年の環境変化に伴って従業員自身が仕事の絶えざる調整を行う必要があること、従業員が仕事のやりがいを求める傾向がいっそう高まっていることなどが挙げられる(高尾, 2019)。

この数年でJC研究は急速に増加したが、JC研究は一種の踊り場に差し掛かっているように思われる。後述するように、JCをプロアクティブ行動の一種として捉え、その先行要因、結果要因を検討するという枠組みに基づいた実証研究の蓄積がかなり進んできたことに加えて、昨今のJC研究には2つの潮流があり、それらの間の断絶が問題となっているためである。

そうした現状を踏まえ、本研究では今後のJC研究のいっそうの発展に向けて、JC研究の原点であるW&D(2001)に立ち戻り、その革新性を確認する。なぜなら、W&D(2001)がJC概念を提起した際に込められていたJCの思想は、必ずしも後続の研究に引き継がれているわけではなく、これまでに引き継がれていない論点をもとにしてJC研究の新たな展開を構想することが可能であると考えられるためである。まず、第2節では、W&D(2001)の内容を簡単に確認した後、学説史的検討を行いながらW&D(2001)を丁寧に読解し、そこで提示されたJCパースペクティブの主要な3つの新奇性を指摘する。続いて第3節では、W&D(2001)から現在までのJC研究の動向を概観したのちに、それらの新奇性が現在のJC研究にどのように継承されているのかを確認する。最後に、以上の検討をもとに今後のJC研究展開において期待されることを第4節で述べる。

2.Wrzesniewski and Dutton(2001)の3つの新奇性

本節では、W&D(2001)における文献参照を主な手がかりとしながら、W&D(2001)が提唱したJCパースペクティブの何が新しかったのかを検討する。まずW&D(2001)の概要を述べた後、W&D(2001)によるJC概念提唱には3つの主要な新奇性が認められることを指摘する。3つの新奇性とは、(1)従業員の能動性への注目、(2)認知的JCの追加、(3)個人にとっての仕事の経験の変化の重視である。

これら3つの新奇性に焦点を当てるのは、それらの同定がJC概念の核を確認するとともに、W&D(2001)後に展開されたJC研究の整理に役立つと考えるためである。W&D(2001)においては、これらの新奇性は相互に関連しており、並列的に扱えない性質をもっている。しかし、W&D(2001)以降の研究ではそれらの新奇性が独立的であるかのように扱われることが多く、その継承においてもかなりのばらつきがある。そこで、それら3つの新奇性について、関連性を示しつつ順次取り上げていくことにする。

2.1 Wrzesniewski and Dutton(2001)の概要

3つの新奇性を取り上げる前に、それらを把握するのに役立つ程度の簡潔さで、W&D(2001)を紹介する。まず、論文としての構成を確認した上で、導入部分に基づいてJC概念の核といえる部分を説明する。

論文の導入部分では、彼女らの問題意識が述べられるとともに、JCの定義や形式(form)が提示される。次に、図1のようなモデルに基づいて、JCの動機、調整変数、形式、具体的・一般的結果が順次説明される。続いて、JCに関連する概念や類似する概念との関係や差異が取り上げられる。さらに、彼女ら自身が調査した病院の掃除人の事例を含む6つのJC事例が挙げられる。ディスカッションでは、ジョブデザイン、仕事の意味、ワーク・アイデンティティという3つの領域に対する理論的貢献、実務的示唆、今後の研究の方向性が提示され、最後に結論で主要な主張が繰り返される。

図1 ジョブ・クラフティングのモデル

出所:Wrzesniewski and Dutton(2001) p.182 Figure 1をもとに一部改変

彼女らの主張は論文の冒頭部分に鮮明に現れていることから、そこを詳しく取り上げてJC概念の核の紹介を行う。最初に、組織研究者は何が仕事の経験を構成するかを検討してきたものの、仕事を構成するタスクと社会的関係を従業員が能動的に形作っていることが注目されてこなかったことが指摘される。そこで、公式的なジョブ・ディスクリプションや社会的コンテクストでは仕事の境界や仕事の意味、ワーク・アイデンティティは完全に決定されず、従業員が仕事を定義し、イナクトできる自由度を持っているとしてJCという概念を提示し、「個人が自らの仕事のタスク境界もしくは関係的境界においてなす物理的・認知的変化」(p.179)と定義している。続いて、JCの3つの形式として、仕事をする際の活動の形式や量などを変えるタスク境界の変更(タスクJC)、どのように自分の仕事を見るかを変える認知的なタスク境界の変更(認知的JC)、仕事中に相互作用する相手に関してその質や量を決める関係的境界の変更(関係性JC)を挙げている。

さらに、JCによって仕事の意味、ワーク・アイデンティティのいずれもが変化していること、従業員は誰もがJCをするジョブ・クラフターであり、仕事が日々再創造もしくはクラフトされていると主張される。こうしたJCは、タスク要素が静的であることを前提として従業員の仕事への知覚に焦点を当ててきたジョブデザインとは異なっており、それを補完するものであると位置づけられている。

このようにW&D(2001)においては、従業員がタスク・関係性・認知を能動的に変えていくことで、仕事の知覚、さらには仕事の意味やワーク・アイデンティティといった仕事の経験を変更するものとしてJC概念が提唱されている。

2.2 従業員の能動性への注目

第1の新奇性として挙げたように、JCは従業員のもつ能動性に注目している。しかし、そのように能動性に注目することは、何に対して新しかったのだろうか。W&D(2001)は、主要な先行研究としてジョブデザイン・パースペクティブ(以下ではジョブデザインをJDを略記する)と社会的情報処理パースペクティブを挙げ、それらについて再三言及している2) 。従業員の仕事に対する認識もしくは仕事の経験に対する能動性については、これらの研究と対比することで明確に位置付けることができる。

2.2.1 先行研究としてのジョブデザインと社会的情報処理パースペクティブ

JC概念をJDパースペクティブ、社会的情報処理パースペクティブの主張と対比する準備として、それらの研究が従業員の仕事に対する知覚や態度についてどのように主張していたかを確認しておく。なお、ここでいうJDパースペクティブとは、JD研究を席巻していたHackman and Oldham(1976; 1980)の職務特性モデルを主に指している。

図2は、JDパースペクティブの代表例であるHackman and Oldham(1976)からの引用である。Hackman and Oldham(1976)は、客観的な職務特性が、従業員の仕事に対する知覚への影響を通じて、内発的モチベーションや職務満足に影響を与えるとしている。たとえば、スキル多様性、タスク完結性、タスク重要性といった特性を変えるような職務変更が、タスクの有意義性の知覚の改善を通じて、内発的モチベーションの向上を導くといった具合である。したがって、職務デザイナーとしてのマネジャーが、部下の従事する職務の特性に目を向け、内発的モチベーションを高めやすい職務へと再設計することで、従業員の職務パフォーマンスを高めることができると考えられている。このモデルでは、従業員による仕事に対する知覚に注意が払われているものの、従業員の知覚は客観的な職務特性によって影響を受ける受動的なものであることが仮定されている。

図2 ジョブデザインのモデル

出所:Hackman and Oldham(1976) p.256 FIG.1を一部改変

客観的な職務特性が従業員の仕事に対する知覚に影響することに注目したJDパースペクティブに対して、社会的情報処理パースペクティブでは社会的な手がかり(cues)が従業員の仕事への態度に影響を及ぼすことが主張されている。社会的情報処理パースペクティブの特徴を要約したPfeffer(1981)は、社会的な手がかりは、どのような次元が仕事環境を特徴づけているのか、さまざまな次元をどのように重みづけすべきか、他者がそうした次元をどのように評価しているのかといった情報を与えており、社会的なコンテクストが仕事環境の直接的な評価を提供していると述べている(Pfeffer, 1981:10)。このように社会的情報処理パースペクティブは、仕事に関する知覚が社会的情報もしくは社会的なコンテクストによって影響を受けると主張している。

社会的情報処理パースペクティブはJD研究に導入され、Griffinなどによって統合モデルが提示されている(e.g. Griffin, 1987)。そうした統合モデルでは、従業員の仕事に対する知覚が、職務の客観的な特性および社会的なコンテクストから得られた情報などによって影響を受け3) 、さらに従業員の仕事への知覚が仕事に対する態度に重要な役割を果たすという関係性が想定されている。

2.2.2 先行研究の暗黙の前提を覆す従業員の能動性への注目

W&D(2001)では、JDパースペクティブ及び社会的情報処理パースペクティブで仕事に関する認知に影響を与えるとされていたタスクそのものや社会的環境を、従業員が自ら変更できることが主張されている。W&D(2001)がJCパースペクティブの全体的なモデルを示した図1においてJCの直接的で具体的な効果として、JDの変化、仕事の社会的環境の変化が挙げられている。それは、従業員が自らの仕事に関する認知に影響を与える環境を変えることを通じて、自らの仕事に対する認知を変化させうることを意味している。

このような主張は、「従来のジョブデザインの諸研究に対する代替的な見方を提示」(p.194)しており、職務に従事する従業員が受け身的な存在であるという、JDパースペクティブ及び社会的情報処理パースペクティブにおける暗黙の前提を覆すものであった。すなわち、「従業員はジョブデザインの諸理論で典型的に描かれているよりも主体的(agentic)である」(p.193)と主張したのが、W&D(2001)の提起したJCパースペクティブの最も重要な新奇性であった。

もっとも、W&D(2001)は、JDパースペクティブや社会的情報処理パースペクティブを全面的に否定したわけではなく、JCパースペクティブとそれらの理論を補完的なものと位置づけている(p.187, 194)。したがって、職務特性や社会的環境によって影響されつつも、自らそれらに影響を与える存在として従業員を捉え直したといえるだろう。

従業員の能動性や主体性に注目する重要性について、どこから着想を得たのかについても、文献参照から手がかりを得ることができる。まず、JCの典型的事例の1つとして挙げられている病院の掃除人の質的研究(pp.190-191)は、彼女ら自身が手がけたものである。自律性がほとんどないように見える仕事に就いている従業員でも、自らの仕事の意味を積極的に定義づけ、タスクや関係性を自ら変える能動性を持ちうることについて、病院の掃除人たちへのインタビュー調査から大きな示唆を得たと考えられる。また、JCに関連する概念として挙げられているtask revisionなどを提唱した諸研究(e.g. Staw and Boettger, 1990)からも着想を得たと考えられるだろう。もっとも、それらの諸概念では、組織の問題解決のために従業員が変化を起こすことに注目しているのに対し、JCでは従業員は、自らの仕事の意味やアイデンティティとの関係で能動性を発揮していると対比されている(p.188, 190)。したがって、それらの研究で注目されていた従業員の能動性を広義のJD研究に結びつけるという新結合が、W&D(2001)の第1の新奇性であったといえる。

2.3 認知的ジョブ・クラフティングの提唱

前項で挙げた、タスクそのもの及び社会的環境についての従業員による能動的変更は、最初に紹介したJCの3つの形式に含まれるタスクJC、関係性JCに該当する。それらとともに認知的JCをJCの1つとして導入したことを、第2の新奇性として取り上げる。なぜなら、認知についての位置づけがそれまでのJD研究と大きく異なっているからである。

図3は、広義のJD研究のモデルの一部とJCの3つの形式の関係を描いたものである。タスクの特性と社会的環境から従業員自身の仕事に対する認知に向かっている太線の矢印は、従来のJDの諸研究が取り上げてきた関係性である。それに対して、タスクJCと関係性JCは、それらの先行要因に働きかけるものであり、仕事に対する認知に影響を与える環境要因を自ら変えることであったといえる。一方、認知的JCによって認知そのものを自ら変えるのは直接的な認知への働きかけであり、仕事に対する認知に関する、より強い能動性を従業員に認めている。

図3 ジョブデザインのモデルと3つのクラフティングの形式の関係

タスクJC、関係性JCの必要性については、前節で述べたように広義のJD研究の前提を覆そうとしたという意図を明確に読み解くことができる。それに対して、JCに認知的JCを含めたことに関わる由来はそれほどには明らかではない。しかし、文献の参照関係から2つの理論的な源泉を見出すことができる。1つは前節でも言及した社会的情報処理パースペクティブであり、もう1つは構成主義4) である。先に言及した病院の掃除人の質的研究から得られた発見事実も反映していると思われるが、ここではそれら2つの理論的な源泉の影響を検討する。

まず、社会的情報処理パースペクティブの影響を取り上げる。すでに述べたように社会的情報処理パースペクティブが広義のJD研究へ導入された際には、社会的情報がタスク環境の知覚に影響を及ぼす要因であるという主張が取り入れられた(e.g. Griffin, 1987)。しかし、社会的情報処理パースペクティブを提唱したSalancik and Pfeffer(1978)は、個人にとっての環境が所与のものではなく、現実が社会的のみならず個人的にも構築されているとも主張していた。彼らは、Weick(1977)を引用し、「個人が環境の創造に関わることなしに、ものや出来事がその個人にとっての環境の一部となることがない」と述べている(Salancik and Pfeffer, 1978:228)。

W&D(2001)は、JCパースペクティブはSalancik and Pfeffer(1978)のパースペクティブのもとに築かれていると述べている(p.188)。社会的情報処理というラベリングに含みきれていない、個々人による現実の構築というSalancik and Pfeffer(1978)の主張が、W&D(2001)がタスクJC、関係性JCのJCに加えて、認知的JCを含めた根拠の1つと考えられる。すなわち、それまでのJDの統合モデルでは、社会的情報が仕事への認知に及ぼす重要性という、社会的情報処理パースペクティブの最も特徴的な主張のみを取り入れていたのに対して、W&D(2001)では社会的情報処理パースペクティブを提唱したSalancik and Pfeffer(1978)の理論的背景まで立ち戻り、個人の認知の主体性を重視し、認知的JCを導入したといえる。

認知的JCを導入した第2の根拠として、構成主義の影響を取り上げることができる。W&D(2001)では、導入の第2段落目で、社会構成主義の代表的論者の1人であるGergenの著作(Gergen, 1994)を引用しつつ、彼らが「『個人の経験世界が、その個人の内界で構成されることを強調する』社会構成主義の諸仮定に依拠している」と述べている(p.179)。このような仮定も、個人の認知の主体性を重視したものである。

この引用箇所から明らかなように、厳密に言えばW&D(2001)では社会構成主義と心理的構成主義が区別されておらず、W&D(2001)は認知における個人の主体性を認める心理的構成主義に依拠していると理解できるが5) 、広い意味での構成主義に基づいて個人の認知における能動性を認め、認知的JCをタスクJC、関係性JCと並ぶものとして位置づけたと解釈できる。

2.4 個人にとっての仕事の経験の変化の重視

前節までに、W&D(2001)が広義のJD研究に依拠しつつ、その前提を覆そうとしたことを紹介した。本節では、W&D(2001)にはJD研究の基本的枠組みから大きく逸脱した部分があることを指摘し、その点を第3の新奇性として取り上げる。

まず、伝統的なJD研究の枠組みの核にある目的を確認する。JD研究の主要な目的とは、職務に従事する従業員の生産性や労働意欲を高めるJDを見出すことであった。このような問題意識は、経営学の原点の一つである科学的管理法、さらにいえばアダム・スミスの分業論に遡ることができるものである(cf. Oldham & Hackman, 2010)。そうした古典的な研究を批判的に捉えつつも、生産性の向上というJD研究の目指す目的は変わってこなかった。

図2においても結果変数に業績の質、欠勤率・退職率が含まれていることから、JD研究においてマネジメント側の視点からの生産性やモチベーションの向上が目指されていたことが確認できる。従業員の仕事に対する認知は、あくまでタスクの特性と成果変数をつなぐ媒介変数であった。

それに対して、W&D(2001)図1のモデルには、業績やワーク・モチベーションといった、JD研究で追求されてきた組織にとっての成果変数やそれに密接に関係する変数が含まれていない。また、W&D(2001)は、JCそれ自体は組織にとってよいものとも悪いものとも言えないことを繰り返して述べており(p.187, 195)、JCの提唱が組織の生産性向上を目指した枠組みに留まっていないことが示唆されている。さらに、2.2で言及したように、従業員の能動的な職務変更を扱っていたtask revisionなどの諸概念とJCとの主要な違いとして、それらの概念が組織の問題解決のために従業員が変化を起こすことに注目しているのに対し、JCでは自らの仕事の意味やアイデンティティとの関係で能動性を発揮していると対比されている(p.188, 190)。

以上から、W&D(2001)は、それまでのJD研究の大前提である、マネジメント側視点から生産性の向上を図る方策を追求するという目的から離れ、JD研究では媒介変数であった従業員にとっての認知、もしくは経験を中心に据えた研究を提唱しているといえる。このように認知を重視するというスタンスは、第2の新奇性における認知における能動性と対応している。

図1ではJCの具体的な結果として、仕事のデザインの変更と仕事における社会的環境の変更が挙げられているが、それらが相まって仕事の意味の変更とワーク・アイデンティティに変化が生じるという一般的効果をもつとされている。また、「ジョブ・クラフティングが起きたときには、仕事(とそのタスク)、その意味、従業員のアイデンティティがすべて変化する」(p.181)といったようにJCが仕事の意味やワーク・アイデンティティの変化を引き起こすことが、随所で繰り返し強調されている(p.180, 186, 188, 194)。したがって、W&D(2001)の冒頭の第1文に出てくる「仕事の経験」には、従来のJD研究で媒介変数と位置付けられてきた、従事している仕事に対する認知や態度のみならず、現在従事している仕事に限定されない仕事の意味やワーク・アイデンティティも含まれていると解釈できる6) 。このように、職場の短期的な生産性を高めるというJD研究の主要な目的から外れて、従業員個人にとって意味をもつ、仕事の経験のJCによる変化を捉えることがW&D(2001)では目指されている。

W&D(2001)は、ディスカッション・パートで彼女らの研究の3つの貢献領域として、JD以外に仕事の意味、ワーク・アイデンティティを挙げ、JCを通じてそれらが能動的に、かつダイナミックに変容することを解明できることを示したことを貢献として挙げている。1970年代もしくはそれ以前から精力的に検討がなされてきたJD研究と比較すると、仕事の意味研究、ワーク・アイデンティティ研究のいずれも、1980年代半ばから研究が進展し始めた、相対的に新しい研究領域であった。

仕事の意味とワーク・アイデンティティは当然密接にかかわっているが、ここでは学説史的な系譜を確認するために個々に取り上げていく。さまざまな分野で仕事の意味に関連する研究は散在していたものの、MOW international team(1987)による国際比較研究や、W&D(2001)でその定義が採用されているBrief and Nord(1990)などによって仕事の意味への注目が次第に高まってきた。1990年代から少しずつ仕事の意味に関する研究が蓄積されてきたが、その1つがWrzesniewski et al. (1997)による仕事の志向性(work orientation)の研究であった7) 。したがって、JCと仕事の意味への関連づけにはWrzseniewskiの研究関心が関わっていたと考えてよいだろう。

ワーク・アイデンティティに関する研究についても、仕事の意味と同様に、JDよりも近年になって展開された。Albert and Whetten(1985)によってアイデンティティ概念が組織研究に持ち込まれ、1990年代からアイデンティティを鍵概念とした研究が盛んになされるようになったが、Duttonはまさにそうした研究のパイオニアの1人であった(e.g. Dutton and Dukerich, 1991; Dutton, Dukerich, and Harquail, 1994)。したがって、アイデンティティとJCを結び付けるというアイディアにはDuttonが深く関わっていたと推察される。このように組織(行動)研究の新しい動向と二人の著者それぞれの研究関心から、仕事の意味、ワーク・アイデンティティが仕事の経験を捉えるものとして取り上げられたと考えられる。

以上のように、JCという魅力的な用語を用いてJD研究の前提を覆し、仕事の経験に対する従業員の能動性を認め、タスク境界・関係的境界に加えて認知的境界の変更からそうした能動性の発揮を捉える枠組みを示し、さらにJD研究の枠組みを外れて仕事の意味・ワーク・アイデンティティといった当該個人にとって重要性をもつ仕事の経験の変化を重視することを主張しようとした点が、W&D(2001)の主要な3つの新奇性だったといえる。

3.JCの思想はどのように継承されているのか

本節では、前節で抽出したW&D(2001)の3つの新奇性が、その後のJC研究においてどのように継承されているのかを確認していく。先に述べたように、これらの新奇性はW&D(2001)においては相互に関連し合っていたが、W&D(2001)以降の研究では独立的であるかのように扱われており、継承のされ方に大きなばらつきがあることが示される。まず、W&D(2001)以降のJC研究を概観した上で、3つの新奇性の継承について順に取り上げていく。

3.1 ジョブ・クラフティング研究の展開

JC研究は2010年代初頭までとそれ以降で様相がかなり異なっている。2010年頃までは、JC概念を提唱したW&D(2001)がJD研究やポジティブ組織研究などの理論研究や文献レビューなどで引用され(e.g. Clegg and Spencer, 2007; Oldham and Hackman, 2010; Cameron and Dutton, 2003)、概念の受容が少しずつ進んだ時期といえる。ただし、JCの実証研究は2010年頃まではごく少数に留まっており(e.g. Berg, Wrzesniewski, and Dutton, 2010; Leana, Appelbaum, and Shevchuk, 2009)、JC研究が1つの研究領域として認知されるまでには至っていなかった。

そうした中で、Tims and Bakker(2010)が職務要求-資源モデル(Job Demands-Resources model: 以下ではJD-Rモデルと略記)8) を下敷きにしたJC概念の再定義とそれに基づく研究プログラムを提示し、それがJC研究の転換点となった。Tims, Bakker,and Derks(2012)が量的な測定尺度を開発し、彼らを中心としたグループが精力的にJD-Rモデルに基づく実証研究を展開したことでJCを主題とした研究が著しく増大し、JC研究という領域が成立した。

JC研究の転換点となったTims and Bakker(2010)は、W&D(2001)の定義は一般的だが、彼(女)ら自身は職務を再設計する従業員の実際の行動に関心を持っているとして、JCを従業員が自らの仕事の要求と資源に関する変化を自ら生み出すプロアクティブ行動と捉えた。いいかえれば、仕事の資源を増やす、仕事の要求を減らす、仕事の要求を増やすという行動によって仕事の要求と資源のバランスを取り、個人―職務ミスフィットを解消することをJCと捉えており、タスクJC、関係性JCはそれらに含まれているとしている(Demerouti, 2014)。それに対して、仕事に関する認知的変化は環境へのコーピングのようなものであり、能動的に仕事の境界を形成するものではないとして、認知的JCを除外している(Tims and Bakker, 2010)。その後のJD-Rモデルに依拠した多くの研究においては、ワーク・エンゲイジメントをはじめとしたさまざまな結果変数とJCとの有意な正の関係が示されている。また、JCの先行要因についても検討が多くなされ、メタ分析の結果もすでに複数紹介されている(Lichtenthaler and Fischbach 2018; Rudolph et al., 2017)。

こうしたJD-Rモデルに依拠した研究の興隆に対して、Slemp and Vella-Brodrick (2013)Niessen, Weseler, and Kostova(2016)は、JD-Rモデルに依拠する研究では取り上げられていない認知的JCの重要性を主張し、W&D(2001)の提示したタスク・関係性・認知という3つの形式を反映した測定尺度をそれぞれ開発した。W&D(2001)の提唱したJCの形式を反映していることからJC研究の1つの潮流として認識されているものの(cf. Zhang and Parker, 2019)、W&D(2001)の3つの形式に基づいた測定尺度を採用した実証研究の比率はあまり高くはない。

このように、JD-Rモデルに依拠した実証研究が大半を占めるものの、W&D(2001)の3つの形式に基づく研究も少しずつ増えつつあり(e.g. Sekiguchi, Li, and Hosomi, 2017)、それらが2つの研究潮流と認識される中で、両者の統合を図ろうとする研究もごく最近になって現れている(Bruning and Campion, 2018; Zhang and Parker, 2019)。こうした研究の枠組みの議論もなされながら、JCの先行要因や結果要因、さらには調整要因等を検討する実証研究が引き続き積み重ねられている。さらに、JCに対する実務的な関心の高まりと呼応するように、従業員のJCを高めるプログラムなどの結果を検討する介入研究も増加しつつあるのが直近の研究動向といえる(cf. 高尾, 2019)。

3.2 3つの新奇性の継承の現状

以上のようなJC研究の展開の中で、第2節で取り上げた3つの新奇性がどのように継承されているかを確認していく。まず、従業員がタスクなどを自ら変更できる能動性をもつことは、JC研究における基本的な前提となっている。いいかえれば、W&D(2001)の第1の新奇性である従業員の能動性への注目については、JC研究の根幹的なテーゼとなっている。

第2の新奇性として挙げた認知的JCについては、それを継承しているかどうかについは、JC研究の中でもスタンスが分かれている。先に紹介したように、現在のJCに関する実証研究の多くを占めるJD-Rモデルに依拠した研究は具体的な行動に着目しており、認知的JCを含めていない。一方、W&D(2001)で提示された3つの形式を採用した実証研究ではしばしば認知の重要性が強調されている(e.g. Slemp and Vella-Brodrick, 2013; Niessen et al., 2016)。このように、認知的JCをどのように考えるかでJC研究が二分されていると理解されている。

この違いは、W&D(2001)が依拠していたJDパースペクティブ及び社会的情報処理パースペクティブとJD-Rモデルにおける、認知の位置づけの相違に由来する。JDパースペクティブ及び社会的情報処理パースペクティブは、客観的な職務特性や社会的情報が、仕事に対する認知を媒介して職務等に関する態度や行動に影響を及ぼすというモデルである。W&D(2001)は、それらの影響要因を従業員が自ら変更できるという見方を提示し、認知が媒介変数であるというJDパースペクティブのモデルを基本的に継承しつつ、それ以上に認知に重要な位置づけを与えている。それに対して、JD-Rモデルは、資源と要求がストレスやモチベーションを規定するというモデルになっており(Bakker and Demerouti, 2007)、そこでは仕事に関する認知という媒介項が事実上含められていない9) 。すなわち、認知が仕事に対する態度や行動を左右するという広義のJD研究の前提をJD-Rモデルは採用していない。このようなモデルの基本前提の違いが、認知的JCの扱いに反映されていると考えられる。

最後に、仕事の意味/ワーク・アイデンティティといった、従業員自身にとって重要であり、長期的に作用しうる仕事の経験の変化に着目するという第3の新奇性の継承については、それを忠実に継承している研究は少ない(例外的なものの1つとして、Berg, Grant, and Johnson, 2010)。JC研究の主流となっているJD-Rモデルに依拠したJC研究は、現在の仕事に対する前向きな態度や行動の喚起を目指しているという意味でJD研究の伝統を継承しているものが多い。それは、JD-Rモデルを取り入れたモデルを提唱したTims and Bakker(2010)のタイトルの副題が「個人の職務再設計の新しいモデルに向けて(Towards a new model of individual job redesign)」であったことにも現れている。したがって、全般的にいえば、JD-Rモデルを下敷きにした研究は、JD研究の目的を受け継がなかったW&D(2001)と異なっており、従業員個人の長期的に影響しうる経験の変化に注目するという第3の新奇性を継承していないといってよいだろう10)

タスク・関係性・認知という3つの形式を採用した実証研究については、JCを通じた仕事の経験の変化を取り上げようとしたものもある(e.g. Slemp, Kern, and Vella-Brodrick, 2015)。しかし、業績への影響を取り上げるものもあり(Weseler and Niesen, 2016)、W&D(2001)の第3の新奇性を継承したものばかりとはいえない。

なお、仕事の意味との関連についてはいくつかの研究がJCとの関係を取り上げているものの(e.g. Tims, Derks, and Bakker, 2016; Bruning and Campion, 2018; Nagy, Johnston, and Hirschi, 2019) 、仕事の意味が論文の中心的な主題に位置づけられているとは必ずしもいえない。ワーク・アイデンティティとの関係については、Kira and Balkin(2014)のようなアイデンティティに関する理論的研究においてJCが取り上げられることは若干見受けられるが、実証研究ではほとんど取り扱われていない。したがって、従業員の仕事の経験の変化を主眼とした研究は限定的であり、第3の新奇性は、第2の新奇性以上に継承がなされていない。

以上から、表1のように第1の新奇性のみがJC研究全般で継承されており、第2の新奇性については依拠する理論や前提の違いによってその受容が分かれており、第3の新規性の継承はわずかにしかなされていないというのが現状である。

表1 Wrzesniewski and Dutton(2001)の3つの新奇性と現在の研究における継承
新奇性 現在のジョブ・クラフティング研究における継承

  1. (1)   ジョブ・クラフティングによる従業員の能動性発揮への注目

ジョブ・クラフティング研究の基本的な前提として継承されている。

  1. (2)   認知的ジョブ・クラフティングの提唱

実証研究の多くを占める職務要求-資源(JD-R)モデルに依拠した研究では継承されていない。

認知的クラフティングを含めた研究は少数派であるものの、1つの研究潮流として認識されている。

  1. (3)   仕事の意味/ワーク・アイデンティティといった、従業員自身にとって重要な 仕事の経験とジョブ・クラフティング との関連づけ

JD-Rモデルに依拠した研究の多くのように、ジョブデザイン研究の目的を継承し、現在の仕事についての態度や行動の変容を目指した研究が多数を占めており、実質的に継承しているのはごくわずかしかない。

4.おわりに―ジョブ・クラフティング研究の展開に向けて―

本稿では、学説史的な検討をもとにしてW&D(2001)の3つの新奇性を取り出し、それらの新奇性からこれまでのJC研究に光を当て、依拠する前提が大きく異なる研究が併存している現状を明確にした。最後に、本稿の検討から得られる今後のJC研究の展開への示唆を本節で提示する。まず、近年の統合を指向した試みについての評価を提示し、異なる理論的前提に基づいて多様なJC研究が展開される意義を述べる。

先に言及したように、認知的JCを含めないJD-Rモデルに基づいた研究と認知的JCを含む3つの形式を採用した研究を統合する試みが近年なされている。前節で論じたように、JC研究の2つの潮流において認知的JCについてのスタンスが異なっていることは理論的前提の相違に由来するものであることを踏まえると、それらの統合には理論前提の違いを止揚することが不可欠である。

しかし、これまでになされている統合の試みでは、そうした理論的前提の違いが意識されていない。Bruning and Campion(2018)は、W&D(2001)の3つの形式に基づいたJCを役割(role)クラフティング、JD-Rモデルに依拠するものを資源(resource)クラフティングと呼び、それらを単に対置し、さまざまな形式のJCを1つのマトリクス図式に寄せ集めただけに留まっている。そこでは、2つの潮流を組み合わせるための理論的根拠が何も示されていない。一方、Zhang and Parker(2019)は、3つの二分法に基づいてトップダウン式に8つのJC類型を導出しているが、行動と認知、要求と資源といった二分法を導入する妥当性の根拠を示しておらず、先行研究の理論的前提まで立ち戻った吟味を行っていない。

このように、これまでの統合の試みは、主要な研究を包括的に扱う枠組みを性急に求めるあまり、認知の位置づけといった基本的な前提の違いを踏まえていない。したがって、それらはパッチワーク的な統合にとどまっていると評価される。それゆえ、統合によってJC研究の発展を目指そうとする意図は評価できても、それらの試みがJC研究全体を包含した枠組みとして受容されていくことは望ましいとはいえない。

理論的な前提の違いを考慮せずに中途半端に統合を図る前に、本稿で検討したようにそれぞれの潮流が異なった形式を採用するに至った、基本的な前提の違いが明確に認識されなければならない。その上で、共約不可能な部分も含んでいる前提の違いを踏まえながら、そうした違いをもとにJC研究が多様化することでJC研究全体が豊かなものになると考えられる。

JD-Rモデルに依拠した研究の多くのように、組織の生産性向上を目的としたJD研究の延長線上に位置づけられるプロアクティブ行動研究の一領域としてJC研究を展開していくことは、近年の欧米の研究動向を見る限りでは今後もJC研究の主要な潮流であり続けると予想される。しかし、そうした流れに沿ってJCの先行要因、結果要因の探索が一通りなされた感がある中で、異なる前提に基づくJC研究が展開されることはJC研究全体の活性化に貢献しうる。

たとえば、第3の新奇性として取り上げられていた仕事の意味やワーク・アイデンティティといった変数は既存研究でほとんど取り入れられていないが、それらを再び導入することはプロアクティブ行動研究としての潮流にも貢献しうる。図1W&D(2001)の理論モデルでは、JCが仕事の意味、ワーク・アイデンティティの変化を引き起こし、それらがJCの動機に影響を及ぼすことによって、次なるJCを引き起こすもしくは抑制するという個人内部でのフィードバック・プロセスが示されていた。そのような、これまでにほとんど検討されていないJCの継起的な遂行プロセス11) を探求することが、長期的な視点からのJCのダイナミズムの検討を促進する可能性がある。

こうしたJCの継起的遂行プロセスの解明は、近年増加しつつある介入研究にも貢献しうる。ここでいう介入とは、従業員に対して研修のような何らかのプログラムを実施することによって、JCそのものやJCの結果としてのワーク・エンゲイジメントなどを高めようという働きかけである。近年の介入研究の結果が明らかにしているように、介入はJCを高めるトリガーとなるが(cf. Devotto & Wechsler, 2019)、その効果が持続しなければ介入の意義は大きいものとはいえない。したがって、介入プログラム終了後もその効果が維持されるメカニズムやプロセスを検討する必要があり、その1つの手がかりとして、仕事の意味やワーク・アイデンティティの変化を通じたJCの継起的な遂行プロセスに光を当てる意義が見出せる。

仕事に対する従業員の主観的経験の変化プロセスを検討することからのさらなる展開の1つとして、そのコア概念が個人の主観的な経験と関わっており、組織行動論において重要な位置づけを占めているキャリア研究やアイデンティティ研究(Kira & Balkin, 2014)との接点を見つけ、そうした研究との接合を図ることが考えられる。たとえば、Tims and Akkermans(2020)は、よりよい個人とキャリアの適合(person-career fit)を目指すものとしてキャリア・クラフティングという概念を提示しているが、キャリアの一般的な定義にあるように1つ1つの仕事経験の連続からキャリアが築かれていく側面があることを踏まえれば、キャリア・クラフティングとJCとは密接な関係があると予想される(cf. 森永・金井, 2013)。キャリアとの適合を検討する場合には、客観的な職種や職位等を意味する外的キャリアだけでなく、当該個人のキャリアに対する主観的な認識を意味する内的(主観的)キャリア、さらにはそれらの間のダイナミズムが問題となる(Schein, 1978)。したがって、JCがキャリア・クラフティングとの関わりを通じてキャリアとの適合に影響をもたらすという長期的な効果を検討しようとすれば、JCがもたらす主観的な仕事経験の変化を捉えることが不可欠となる。

このように、理論的前提や志向性の違いを明確に意識しつつ、異なる前提に依拠しながら多様な研究を展開することがJC研究全体の進展に資すると思われる。日本のJC研究は、JD-Rモデルに依拠した研究が欧米で開始される前に森永(2009)関口(2009)などによって拓かれており、独自の展開がなされている。本稿のようなJC研究の原点に立ち戻る試みを踏まえることで、日本の研究がJC研究の多様化に貢献しうることが期待される。

1)  本稿ではWrzesniewski and Dutton(2001)を度々引用するため、以下ではW&D(2001)と略記し、引用する際にもページのみ示すことにする。

2)  W&D(2001)で最も引用されている文献は社会的情報処理パースペクティブを提唱したSalancik and Peffer(1978)の8回であり、JDパースペクティブのHackman and Oldham(1980)が7回でそれに続いている。

3)  Griffin(1987)では、この他にもタスクへの知覚に影響を与えるものとして、主要な変数として物理的な状況が、2次的な変数として個人属性が挙げられている。

4)  構成主義は心理的構成主義(constructivism)と社会構成主義(social constructionism)を包括する言葉として暫定的に用いている。

5)  W&D(2001)Gergen(1994)を引用している「個人の経験世界が、その個人の内界で構成されることを強調する」(p.179)という箇所は、社会構成主義と影響関係にある知的伝統の1つであるが、それと区別されるべきとGergenが位置付けている心理的構成主義(constructivism)を紹介している部分から取られている。Gergen(1994)によれば、社会構成主義と心理的構成主義は、個人の心を外界の性質や状態を映す装置とみなす伝統的な観点に対して異議を唱えている点などで共通点があるが、「心」と「世界」のいずれについても、その存在を自明視しない社会構成主義は心理的構成主義の大前提を否定しており、両者を同じものとみなすことはできないとされる。Gergen(1994)の主張を踏まえると、W&D(2001)は社会構成主義と心理的構成主義を十分に区別できていないと考えざるをえない。なお、「心理的構成主義」という訳語はGergen(1994)の日本語訳から採用したが、コンストラクティビズムとカタカナで訳されることもある。

6)  George and Jones(1997)は、仕事の経験を時間、ダイナミズム、焦点という観点から価値/態度/ムードに分類している。仕事の意味やワーク・アイデンティティは、安定的であり一般的であるという特徴から、この分類でいえば価値に当てはまる。

7)  W&D(2001)でも仕事の志向性は、JCとその動機の関係を調整する変数として取り上げられている。

8)  JD-Rモデルにおける職務要求とは、持続的な身体的・精神的努力を求め、生理的・心理的コストと関連している、職務の物理的・社会的・組織的側面である。一方、職務資源とは、仕事の目標を達成することに用いることができ、職務要求やそれに関連する生理的・心理的コストを減らすことができ、個人の成長・発達を刺激するような職務の物理的・社会的・組織的側面である(Demerouti et al., 2001; Tims and Bakker, 2010)。それらの職務要求と職務資源の水準が、バーンアウトやワーク・エンゲイジメントを予測すると仮定されている(Bakker and Demerouti, 2007)。

9)  JD-RモデルをJCに適用することを提唱したTims & Bakker(2010)のモデルでは、個人-職務不適合(person-job misfit)という認知的な変数が媒介項に含まれていたものの、後の実証研究で必ずしも重要な位置づけを与えられているとはいえない。

10)  レジャー・クラフティングという概念も用いて意味形成を主題に取り上げたPetrou, Bakker, van den Heuvel(2017)のような研究も、多くはないが存在する。

11)  例外的なものとして、個人内部でのフィードバック・プロセスの一部を実証的に取り上げた藤澤・高尾(2020)が挙げられる。

参考文献
 
© 経営哲学学会
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