経営哲学
Online ISSN : 2436-2271
Print ISSN : 1884-3476
特集 サステナビリティと経営哲学
企業サステナビリティに有用なテクノロジーの進化
大月 博司
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2022 年 18 巻 2 号 p. 75-89

詳細
【要 旨】

サステナビリティは、地球環境への負荷が高まり、人間が快適に住めなくなる恐れから使われるようになった用語である。そして、その対策として今や各国の政策や立法の場で広く議論を呼んでいる。しかし、その用語の捉え方は一様でなく、具体的な策として皆が納得する策を見いだすには至ってない。こうした中で、企業にとっては持続可能な地球環境の保護問題より、持続可能な企業行動のあり方の方が喫緊の課題といえる。なぜなら、企業活動が国の経済を支え、グローバル経済の支えである一方、多くの人が企業活動との相互作用によって生計を立てているからである。そこで、企業サステナビリティを考えてみると、目的達成の手段たるテクノロジーの活用・開発次第で、企業の持続的活動が操作可能であり、影響を受けることが判明する。しかも、環境変化とともにテクノロジーも進化し、それを生かすも殺すも経営陣次第であることが想定できる。そこで、どのような経営なら持続可能な企業行動につながるかを論究すると、そこには環境変化に動じない経営哲学を保持する経営者像が浮かび上がる。そして、テクノロジーが進化して複雑化すると、その使い方は多様になる。しかし、経営者の行動基準である経営哲学が企業に浸透していれば、テクノロジーの活用方法が多様化しても逸脱する可能性は低く、サステナブルな経営を実現できる。

1.問題の所在

グローバル化とデジタル化が進展する中で、さまざまなテクノロジー1)がビジネスにおいて開発・活用されてきた。また、企業行動のあり方をめぐって、ESGやSDGsとの絡みが避けられなくなるなど、企業に対する境界外部からの圧力は増すばかりである。さらに2020年当初から新型コロナウイルス感染症(Covid-19)が世界的に広がるとともに、グローバル・サプライチェーンに取り込まれた多くの企業が従来のビジネスモデルを見直さざるを得ない事態となっている。しかし、その対応策に関しては見通しがつかず、企業の経営者にとって不透明感を増すばかりである。こうした状況を踏まえると、企業にとって、今後どのようにしたら生き残れるのかといったサステナビリティ(持続可能性)2)問題への対応は喫緊の課題といえる。

一般的に、サステナビリティという用語は、地球環境の多様性や生産性を保全するという観点で注目されたもので、地球自体の持続性確保が焦点であった。そうした中で昨今、地球温暖化の進行を裏付ける自然環境の変化(地震や風水害)や目に見えないデジタル化の進展によって、経営環境は従来とは異なる次元に突入している。そのため、企業自体のサステナビリティについても経営者がそれを強く認識した行動を余儀なくせざるを得なくなっている。その結果、経営者が意図する企業行動が従来の理論モデル、たとえば、ドメイン設定など企業側の主体的行動(決定主体論)が業績に大きく影響すると行った経済合理的な戦略モデルでは通用しなくなってしまった。

理論モデルの陳腐化を解消するには、基本的に企業行動に影響する要因の変化にその起因を求めることが筋であろう。そうだとすれば、イノベーションを通じて環境をコントロールできるという科学的認識から、企業が地球環境(市場)に影響する側面ばかりでなく、それに影響される側面も考えることが必要である。

環境に影響されるという環境決定論は、生物進化論が今でも通用しているように正当化された見方だった。だが今日では、コントロールできない環境という新しい要因が登場し、そうした見方の正当性が揺らいでいる。そして、長い目で見れば、科学の発展によって人間の生存率が高まり世界の人口は増加の一途であり、人間による地球環境への負荷は増加しコントロール不能である。企業活動を通じて世界を豊かにするはずの科学の発展がパラドクシカルに世界を滅ぼす要因となっているといえよう。

とはいえ、天候の変化を克服した安定した農産物作りや工場内の安定した室温管理などは、科学テクノロジーの開発とその活用によって克服されてきた、という歴史を振り返ると、企業のサステナビリティ問題もテクノロジーの発展という視点で考えることが有用である。サステナブルな企業行動を実践し成果を出している、という現象においてテクノロジーはどのように活用されているのだろうか。企業サステナビリティが問われる今日、テクノロジーとの関連を明らかにすることは、企業行動による地球環境への負荷を減らす可能性を高めるという点で有意義である。

本稿では、今日求められる企業のサステナビリティ問題の解消について、企業の有するテクノロジーを焦点に分析を進める。そして、テクノロジーの開発と活用の研究を踏まえた上で、企業を取り巻く内外の環境変化に対してどのような視点が重要となるかを明らかにし、企業がサステナブルな目的達成に有効なテクノロジーの進化のあり方を探っていきたい。

2.企業サステナビリティを左右するテクノロジー

2.1 企業サステナビリティ

企業にとってのサステナビリティ(持続可能性)問題は、企業が持続可能な存在であり続けるにはどうすれば良いかであり、収益目標達成のための一連の企業活動を持続的に行うことができればそれが実現したことになる。その場合、経営資源(人、モノ、金、情報)は意図した企業活動を展開する際に制約要因となる。そのため、企業サステナビリティを実現するには、障害要因がいろいろある中でどのような要因がその問題解決の鍵となるかを突き止め、早急に対策をとることが求められる。

わが国では、日産のNissan Sustainability 2022、大林組のObayashi Sustainability Vision 2050、富士通のサステナビリティ・データ・ブック公表など、サステナビリティを意識したビジョンを掲げレポートを出している日本企業も増えだしている。これは、各企業がサステナビリティ問題を意識して、それに取り組みつつあることの反映といえる。

もっとも、企業のサステナビリティは企業成長の問題と異なる。その違いは、両者を比べるとその特徴から明白である。企業のサステナビリティは企業と環境との関係を視野において生じるのに対して、企業成長は企業自体の問題である。ペンローズ(Penrose, 1959)は、企業をして、1つの管理単位であるとともに生産資源の集合体であると捉えた上で、企業の経営主体がその成長の主たる起因であることを明らかにしている。

そしてその特徴は、経営主体(企業家や経営者)の活動が企業成長の誘因であるとともに成長率を左右することを指摘したユニークな主張にある。こうした企業成長についての考え方は、その独自性から、「ペンローズ効果」と呼ばれている。ペンローズ効果によって、企業規模が大きくなると、今まで経験したことのない管理上の問題に直面し、従来の管理方法では限界が生じてしまう。これは、企業の成長率が管理経験を超えるために生じるからである。

企業を創始するのは企業家としての意欲と資源が揃えば容易だが、事業活動を持続させ、成長させることはそう簡単ではない。企業成長は、新たなドメイン・コンセンサスの探索・確保といえるが,企業のサステナビリティは、既存のドメイン・コンセンサス確保という狭義の見方と、新たなドメイン・コンセンサス探索・確保という広義の見方が可能である。したがって、企業サステナビリティの問題は多面的であり,その解決はそうたやすくはない。

2.2 テクノロジーの特徴

企業活動のあらゆる側面においてテクノロジーが用いられる。具体的には、設計、製造、販売、マーケティング、研究開発など、企業活動それぞれの側面でテクノロジーが活用される。製造活動においては、科学的管理法の導入以来、標準となるタスクを判別するのに時間管理、プロセス管理などのテクノロジーが用いられる。近年では、センサー・テクノロジーを欠いては製造活動ができない。しかもそれぞれのテクノロジーは常に見直され、いいものだけが残され、蓄積される。

しかし、このように既存テクノロジーの活用・見直しが図られると同時に、そのテクノロジーが陳腐化し、無用となることがよくある。その結果、たえず新規テクノロジーの開発もせざるを得ない。用いられるテクノロジーは一定でなく、常に見直されるという点で、テクノロジーは進化的特性を有しているといえる。すなわち、テクノロジーの変異-選択(淘汰)-保持のプロセスが見られるである。

一般的に、テクノロジーについての基本的な考え方は、産業革命における蒸気機関テクノロジーから明らかなように、人間の目的達成を図る手段である。工場レベルでいえば、生産性アップを実現する手段である。そして、従来その多くはアナログ的だが模倣は容易でないとされた。たとえば、自動車の大量生産テクノロジーはアナログ的で可視的な部分は一見模倣が容易に感じられるが、実際には大量生産のシステムとしてその全体像を想定すると、それらを構成する要素をすべて網羅して模倣するにはコスト面、時間面でハードルが高かったのである。

しかし、20世紀末に起こったデジタル化の進展で、その様相は一変した。テクノロジーは多様な構成要素から成り立っており、アナログ的な構成要素が多いほどそのコピーは困難だが、それらがデジタル化されると、そのコピーは劣化しないという点で模倣可能性は増す。そのため、プロトタイプ化したデジタル・テクノロジーが社会の主軸になりテクノロジーの模倣が容易になるとともに、テクノロジーで物事のありかたが決まるという決定論的な考え方では説明がつかない現象が多くなったのである。

デジタル化したテクノロジー体系は、継続的学習蓄積より革新的学習棄却を特徴とするといえる。デジタル化によってテクノロジーの構成要素がアナログ時代と比べて、より複雑化、ブラックボックス化して、テクノロジーの変容が連続的でなく断続的に変わってきたのである。

こうしたテクノロジーの見方・変容に対して、旧来とは次元が異なるという意味で、新テクノロジーと称されることもある。具体的には、マイクロエレクトロニクス、衛星通信、レーザー、エキスパート・システム、ロボット、マルチ・メディアなどコンピュータを活用したテクノロジーである。そしてこれらは、見えない部分が多いため、その理解・説明に解釈プロセスが求められる存在と化したのである。

2.3 テクノロジーの捉え方

テクノロジーは、自然科学から社会科学の分野でそれぞれの観点から扱われるため、その捉え方は多様にある。たとえば、科学的知識の生かし方といった人的属性に関わるものがある一方、テクノロジーには物的特性がある。コンピュータに大型からポータブルまでそのバリエーションがある点からみても、大きさや複雑性など物的特性があることは一目瞭然である。

組織研究の発展を振り返ると、テクノロジーが主要な変数として用いられてきたことが分かる。そして、テクノロジーには二つの側面、すなわち範囲(特許明細、ハードウェア)と役割(組織とテクノロジーとの相互作用)があるとされた。前者は、製造業における大量生産など多元的・コンテクスト特有なものとされる。後者は意味変数で、ハードウェア(物的特性)としてより組織にとって欠くことができない存在である。

こうした考えを前提にオリコウスキー(Orlikowski, 1992)が提示したのはテクノロジーの構造化モデルである。これは、組織とテクノロジーの相互作用を通じて、両者ともレベルアップしていことを想定したものである。つまり、人はテクノロジーに意味や形を与える一方、テクノロジーの利用(実用テクノロジー)を通して人自体も影響される。「テクノロジーは、ある特定の社会的コンテクストの中で働くアクター(行為者)によって物理的に構築され、付与される様々な意味と強調される特徴を通じて社会的に構築される」(Orlikowski, 1992: 406)。こうした現象は、IT分野やGAFA企業の実践において確かに見ることができる。

そうした中で、従来の科学的知見を踏まえた複雑系科学を主張するアーサー(Arthur, 2009)によると、テクノロジーは要素の組み合わせであり、その違いによって多様な様相を示す。したがって、それを統一的に定義づけするのは容易でないが、そのポイントは以下の3つに集約される。

  1. ①  目的を達成する手段
  2. ②  実践方法と要素の集合体
  3. ③  文化に有用な技能(知識)の集合体

こうした整理の仕方とは別に、組織におけるテクノロジーに限定してみれば、テクノロジーには以下の側面があるとハッチ(Hatch, 2013)は指摘している。すなわち、(a)生産で用いられる用具と装置の側面、(b)生産方法の側面、(c)テクノロジーを開発し応用するために有用な知識体系としての側面、である。

立場は異なるが、アーサーとハッチ両者の捉え方に共通している点は、第一に「目的達成の直接手段としてのテクノロジー」、第二に「目的達成の間接手段としての知識体系」である。なので、テクノロジーの捉え方は、基本的に目的達成の手段である、という捉え方は議論の余地がないといえよう。

実際に組織行動は、主として収益向上や成長といった目的達成のために行われるが、その際の手段として活用される一例が戦略テクノロジーである。しかもそれには、直接的に関わるものと間接的に関わるものがある。この点から、操作可能な度合いが高いものが直接的な手段としてのテクノロジーである。換言するなら、テクノロジーには操作可能な側面があるということである。

もっともこうした捉え方とは別に、テクノロジーに関して旧来から、社会的に構築される側面があるという主張も展開されてきた(Bijker and Law, 1992)。いわゆるテクノロジーの社会的構築論(Social Construction of Technology: SCOT)である。それは、テクノロジーが人々の行動やシステムを決定するとともに、決定されるという両者の相互作用のプロセスから、テクノロジーの本質を理解しようという説明モデルである。

こうした見方の前提は、社会を構成する要素が相互作用していることである。そして、とりわけデジタル化したテクノロジーは0-1の世界から成り立っており、その内容について我々の経験値からは容易に判読できず、見えない。それをあたかも見えるがごとく理解するには、テクノロジーとの相互作用を通じてしかできないのである。テクノロジーと人との相互作用のプロセスでいろいろな解釈が出てくるが、やがてその中から共通理解できるものが広がり、それらが共有されれば客観化と同じだと想定するのである。

先に指摘した新テクノロジーは、0-1ベースで構成されるため、その特徴は確率的性質を有し、継続的プロセスであり、その作動プロセスは抽象的である(Hatch, 2013)。新テクノロジーのこうした確率的・継続的。抽象的という性質は、ウッドワード(Woodward, 1965)やトンプソン(Thompson, 1967)らによって指摘されたものと比べて、質的に異なる複雑性をテクノロジーが有するようになったことを意味する。

ペロー(Perrow, 1984)によれば、システムの複雑性が高まると失敗の確率が高まるという。なぜなら、複雑性の変化によって構成要素間に予期せぬ相互作用が生み出されるばかりでなく、そうした相互作用に対する人間の想定外の反応や要素間に柔軟性を欠いたタイトカップリング(Tight-coupling)が存在するからである。つまり、組織メンバーの予期せぬ相互作用への反応が一定しない点や組織の構成要素間がタイトカップリングだと、複雑性が処理不能状態をもたらし想定外の結果に至るため、組織成果としては失敗に陥るのである。

企業組織の失敗は、組織の複雑性とテクノロジーがもたらす宿命と言われる側面である。たとえば、福島原発事故は、組織のタイトカップリング面とテクノロジーの複雑性の相互作用によって起こるべくして起きた事故だと解釈できる。組織の複雑性が高まると、タイトカップリングとの相互作用はますます見えなくなるためコントロール不能となり、想定外の結果が生じる現象は避けられない。企業が失敗を避け,サステナビリティ(持続可能性)を確保するためにテクノロジーが手段となるのは明らかであるが、どのようなテクノロジーが求められるかは十分に解明されているとはいえない。

3.組織現象を解明するテクノロジー論

3.1 組織の環境適応手段としてのテクノロジー

組織現象がもらす複雑性、不確実性、相互依存性の問題は、組織が目標達成行動をする際に避けて通れないものである。そのため、これらを解消することが求められ、原因を解き明かすことが組織研究の主眼となってきた。

そこでガルブレイス(Galbraith, 1973)は、情報処理アプローチから、これら問題が増幅すればその調整のために情報処理の必要性が高まることを想定し、その例証をしている。不確実性が増せば、組織構造を構成するコミュニケーションへの負荷が高まるだろう。そのため、この負荷を削減する手段、すなわち情報処理のテクノロジー活用が必要となるのである。不確実性は必要情報量と情報処理能力の差であると見なすと、その削減策は、①必要情報量の削減、②情報処理能力の拡大、のいずれかに限ることが明らかである。

組織現象としてのテクノロジー活用が注目されたのは、1960年代以降である。その中でもとりわけ、ウッドワード(1965)トンプソン(1967)ペロー(1967)らによる研究は、組織現象を機能的に分析し実証可能な結論に至るという意味でその後の組織研究発展の先駆けとなった。そして、テクノロジーと組織に関する研究内容は多様であったが、その共通点として、手段論、決定論としての特徴を挙げることができる。

ウッドワード(1965)は組織構造と業績の関係においてテクノロジーを媒介要因として捉えた。これに対してトンプソン(1967)は、テクノロジーの構成要素に着目して、そのパターン化と調整コストの関係を明らかにしている。さらにペロー(1967)は、タスクの分析可能性と可変性のマトリックスにおいてテクノロジーの違いを識別するともに、ノンルーティン型テクノロジーは捉えどころが少なく、手段としては活用しにくい点を指摘している。

伝統的な組織研究においてテクノロジーは、組織が目的達成するために環境と組織を結びつける手段とみなされた。すなわち、インプットを製品・サービスのアウトプットに転換するための手段である。またテクノロジーには、たとえば生産技術によって従業員をコントロール(規制)できるような手段としての側面がある一方、その類型や構成要素の関係性などから組織のパフォーマンスが影響されるという側面があることも指摘された。

組織環境が一定とすれば、こうした見方が一般的といえるが、IT化が進むとともに環境は激変し、組織現象におけるテクノロジーの性格も変容を来している。伝統的なテクノロジーは見える化し、人的ないし機械的なコントロール対象となるもので、ルースカップリング的性質(アナログ色)を有している。これに対して、新テクノロジーと称されるものは、コンピュータを介したもので可視化されないまま、複雑でタイトカップリング的性質(デジタル色)を有するようになったため、その複雑性がますほどコントロール不可の状態に陥る。しかも新テクノロジーの可視化は難しさを増しその理解には解釈を要することになった。

ハッチ(2013)は新技術の特徴を、確率的、継続的、抽象的だが信頼性のあるものだと特徴づけている。そして、新テクノロジーへの移行は避けられないものであり、その扱い方は伝統的なテクノロジーとは一線を画するものだとしている。こうした新テクノロジーを理解し応用するためには、見えないものでも活用できる現象を説明できなければならない。目に見えないものを説明するには、「群盲象をなぜる」という逸話から示唆される問題点を脱却する必要がある。つまり、大きな象の全体像を理解・説明するには、鼻や足だけといった象の一部分だけを探って分かったつもりになる危険性の回避である。

新テクノロジーの抽象的で、目に見えない部分について客観的な知識が得られるメカニズム探求のために応用されたのが社会的構築アプローチである(Bijker and Law, 1992)。すなわち、人々の異なる認識でもそれぞれが相互作用することによって、了解できる部分が多くなり、それが次第に共有理解に至るという図式である。その図式通りに推移すれば、皆が賛同することになり、このことが客観的な存在となることに他ならないという説明モデルである。テクノロジーの社会的構築アプローチは、以下の観点を想定することによってその妥当性が主張される。

  1. ・  複雑なテクノロジーは社会と文化のコンテクストによって生まれる
  2. ・  陳腐化するテクノロジーと選択・活用されるテクノロジーに分断される
  3. ・  情報テクノロジーは組織の思考と実践を方向づけ、従業員を規制する手段となる

人とテクノロジーの相互作用の点からいえば、人材はテクノロジーの活用方法を実践するが、同時にテクノロジーがその実践を通して人材育成に資するのである。

こうしたテクノロジーを進化論的に見ると、変異に当たるのがテクノロジーの創造プロセス、保持に当たるのが影響プロセスであり、創造されたテクノロジーがそれぞれ選択の対象となる。つまり、テクノロジーは新しいものが生み出され、その中から選択・淘汰され、さまざまな影響を受けながら保持されるプロセスの繰り返しである。そのため、伝統的なテクノロジーは次第に新テクノロジーに移し替えられて行く宿命にあるといえる。しかし新しく生み出され、淘汰の結果生き残ったテクノロジーでもいつかは消えていく運命にある。したがって、テクノロジーの陳腐化が避けられない現象であることは論を俟たない。

3.2 組織変革のテクノロジーとしての持株会社方式

組織変革を実行する際に必ずテクノロジーの世話になる。変革の可能性を探る際、変革を実現する道筋を決定する際、そして変革を実現する際にもそうなのである。変革は、その内容はともかく,組織目標達成の手段であり、多様なやり方がある。そして、いろいろなテクノロジーを駆使して実現するものといえる。つまり、組織の構成要素の組み合わせを変えることを変革だとすると、そのやり方、つまりテクノロジーの使い方は無数にある。したがって、目標達成のために変革を意図して、それを実行する方法は,組織の経営者が行使するテクノロジー次第といえる。

変革について組織のインプットをアウトプットに変換する手段の見直しだと捉えると理解し易い。すなわち、変革を構成する要素分解とその再構成は、変革という目標達成の手段を構成する要素を再構成することにならざるを得ない。要素分解できれば、変革という目的を達成するために何をすべきか、何を優先すべきかについて、要素の観点から判明するのである。

組織変革はその対象レベルの違いからさまざまな方式がある。そして、その内容、範囲、時間もそれぞれで異なる。しかし、変革がいろいろあるとはいえ、それを構成する要素自体は共通するところが多い。それゆえ、特定の組織変革を分析することでも、変革手段たるテクノロジーの不可欠な要素が捉えられるのである。そこで以下では、近年様々な業界で行われている持株会社への移行(持株会社化)を対象に手段であるテクノロジーの多様性を描いてみる。

一般的に、持株会社化の方法には3つの方式(テクノロジー)があると整理される。すなわち、株式交換方式、株式移転方式、会社分割方式である。

(A)株式交換方式(テクノロジー)による持株会社化

既存のさまざまな親会社・子会社の関係を完全子会社体制に統一することにより、意思決定を一本化し、各子会社に必要な経営資源を最適配分することが意図される方式である。そのため、完全子会社の企業の価値を100%親会社の企業価値に反映することが可能となる。その意図するところは以下のような点である。

  1. ・  子会社間で関連する事業領域において共同開発・事業を押し進めるため
  2. ・  科学テクノロジーの発達や時代の変化に応じたビジネスモデルを作るため
  3. ・  不採算事業の撤退・転換、人員再配置、必要な資金投入を迅速に行うため
  4. ・  親子会社間で重複していた業務を統合するため
  5. ・  グループ全体としての最適適合や競争力を上げるため。

ソニーは、このような株式交換テクノロジーを使って持株会社化を進めた最近の代表例である。ソニーは、2021年4月に会社名をソニーグループとするともに、ソニーフィナンシャルホールディングス(SFH)の金融事業を完全子会社化して、持株会社化を進めた。そして、伝統的なエレクトロニクス部門に旧来のソニーという会社名を残し中間持株会社化した。それゆえ、ソニーグループ(持株会社)がハード、金融、エンタメの各事業を統括し、グループ全体の視点で戦略を立てる本社機能に特化することを意図した組織体制といえる。株式交換方式というテクノロジーは、実行コスト面において想定内に収まることから、持株会社化の意図を実現するには有効な手段といえる。

(B)株式移転方式(テクノロジー)による持株会社化

新たに親会社として持株会社を作り、グループ会社の株式をそこに移転して、各会社を完全子会社にすることにより実現する方式である。株式交換テクノロジーを活用した企業再編と同様、資本や人材等の経営資源を重点的かつ戦略的に配分でき、企業グループの力を発揮できる体制の構築が可能とる。この場合の具体的な狙いは以下の通りである。

  1. ・  同一業種で資本提携関係のある複数の会社が、持株会社のもとにグループ経営体となり、大きな市場占有率を持つことができるようにするため。
  2. ・  異なった業種で資本提携関係のある複数の会社が持株会社のもとにグループ経営体となり、想定する市場において有機的なビジネスの展開が可能となるため
  3. ・  子会社の事業間で相乗効果を図り、単体の利益以上のものを上げることができるようにするため。

日通は株式移転テクノロジーを用いて、グループ経営戦略機能と事業推進機能を分離する持株会社体制へ移行することを表明している(2022年1月実施予定)。その意図は、これまで事業持株会社であった日本通運が引き続きコア事業を担うことに変わりはないが、当該事業に専念する事業子会社として再出発し、新たなグループ本社(持株会社)に経営戦略機能を集約して、全体最適の意思決定とその実行を企図したものである。そこで期待されるのは、日本国内ロジスティクス事業および日本起点のグローバル事業をさらに促進することである。

海外ロジスティクス事業は、海外各地域統括会社が、グローバル本社機能を有する持株会社と連携しながら牽引する。物流サポート事業会社は、グループ内向けサービスの機能会社と顧客向け物流関連サービスを提供する物流サポート事業会社に役割を整理し、ロジスティクスに新たな価値を付加する事業を展開し、物流の高度化を推進することが目指されている。

株式移転方式というテクノロジーは、持株会社化を進める上で、一見容易に見えるが、経営人材の意識面でコンフリクトの発生が避けられない。事業面と戦略面の双方において活躍が求められていた旧事業持株会社の経営陣にとって、戦略や事業に活躍の機会が絞られると権力基盤が狭まるからである。このテクノロジーによる持株会社化は,形式的にはグループ経営の再編が可能なように見えるが,相乗効果の発揮などの狙いが思い通り行くかどうかは,変革手段としてのテクノロジーとは異なるものが必要となる。

(C)会社分割方式(テクノロジー)による持株会社化

親会社となる既存会社から現物での出資や事業の譲渡などを行うことで子会社に事業を分割する方式である。そのため、親会社は純粋持株会社の立場から子会社を支配して、グループ経営を促進することが可能になる。その意図するところは以下の通りである。

  1. ・  各事業会社は明確な責任と権限に基づき自主責任経営を徹底するため
  2. ・  外部環境の変化に応じた迅速な意思決定をグループ経営として行うため
  3. ・  事業特性に応じた柔軟な制度設計によって、事業競争力の大幅な強化を図るため
  4. ・  企業グループ全体最適の視点から各事業会社の成長領域の確立を図るため
  5. ・  企業グループとしての企業価値向上を図るため

パナソニックは、グループの経営を深化させ、成長をより確かなものにしていくために、この方式により持株会社へ移行することを決議している(2020年11月3日プレス発表)。具体的には、現在上場のパナソニック株式会社を親会社のパナソニックホールディングとした上で会社分割のテクノロジーにより、商号を継承する新たなパナソニック株式会社と、現場プロセス事業、デバイス事業、エナジー事業の4つの事業会社をパナソニックグループの発展の中核となる子会社だと位置づける持株会社化である。

分割テクノロジーを用いた持株会社化は、既存事業の集約と再編によって企業価値の向上を意図したものであり、未来志向のため、リスク面において不透明なところが多く、持株会社化の事例としては少ない。それは,未来志向を優先した企業で意図した成果を出したケースはまれだからである。

持株会社化においていずれのテクノロジーを使うかは経営者次第である。また持株会社化の狙いは活用するテクノロジーによって異なる部分があるため、経営者の認識・行為に影響する経営哲学が重大な役割を担うといえる。もっとも各企業にとって経営哲学はさまざまである。創業100年を超える企業から新興間もない企業まで各社各様である。そのため、持株会社化のテクノロジー活用を一律に語ることは困難である。

持株会社化のテクノロジーに限らず、組織活動にはさまざまなテクノロジーが活用されるとともに、テクノロジーに拘束されるという側面がある。組織研究においてテクノロジーと組織の関係はまだ問題解決済みとはいえないため,実践面で貢献が少ないのは致し方ないところである。いずれにせよ,目的達成の手段としてのテクノロジーは,持株会社化,M&A,海外進出など,多様な企業現象を解明する上で欠くことのできない要因であるといえよう。

4.企業サステナビリティの実現に影響するテクノロジー

4.1 企業サステナビリティ

企業のサステナビリティ(持続可能性)は、事業の存続が軸になるが、各企業の有する経営資源、ステークホルダー、テクノロジーといったサステナブルな企業行動に関わる構成要素の組み合わせとその重きの置き所によって見方が異なる。たとえば、経営者の場合、企業のサステナビリティ自体が目的となり、それを実現する手段であるテクノロジーの模索・選択が求められる。すなわち、経営者のテクノロジー処理能力次第で、企業サステナビリティは左右される。

これに対して、従業員や取引先の立場では、企業サステナビリティを前提に自らの意思決定をせざるを得ない上、企業行動をコントロールできない。しかし、企業サステナビリティに関わる要因を解明できれば、持続可能(サステナブル)な企業行動の可能性が高まる。なぜなら、企業のサステナビリティは、企業環境に影響されるからであり、とりわけ、環境要素でもあるテクノロジーの使い方次第で、企業サステナビリティの程度は変わるからである。

テクノロジーに関していえば、その構成要因と組み見合わせ方は多様である。そのため、ポジティブに企業の存続を図るサステナブル経営に取り組むために必要なテクノロジーと、単に企業が存続するために必要なものとではその内容が異なるはずである。

企業のサステナビリティは、既述のように主体論的な存続の観点から誘因・貢献理論(Barnard, 1938)など経営の本質論として議論されてきた。また、外部環境によって企業がコントロールされるという見方に対して、資源依存論(Pfeffer and Salancik, 1978)が指摘したように、組織主体が外部環境がもたらす不確実性を削減し、ステークホルダーに対してパワー行使できれば、外部環境をコントロールすることも可能である。換言すれば、企業組織は地球環境に対する負荷をコントロールすることも可能なのである。

企業にとってサステナブル(持続可能)な地球環境の確保は、環境は操作できない存在であるという前提からすると、環境決定論的な見方になってしまう。その意味で、企業は環境の要請に適応せざるを得ない。コンティンジェンシー理論はこうした場合の説明モデルである。しかし、環境をコントロールできると想定すると話が違ってくる。そこで登場したのが主体論を取り込んだ戦略的選択論(Child, 1972)である。また、組織経済学的な取引コスト論(Williamson, 1981)は、限定合理性と機会主義的行動を行う人間を前提として、取引コストを勘案して企業は存続を図る、ということを説明するモデルである。さらに、ステークホルダー論(Freeman, 1984)によれば、組織の存続はステークホルダーとのギブ・アンド・テイクが継続することが前提条件だとするモデルである。

以上のような理論モデルでは企業サステナビリティとテクノロジーの発想はほとんどなかったが、いずれも企業と環境との相互作用現象に焦点を当てながら、組織行動の違いを説明するモデルに他ならない。

企業と環境との関係において登場した決定論と主体論いずれのモデルに与しても、あるいは両者を折衷したモデルでも、企業サステナビリティについて説明可能である。とはいえ、説明力を増すには両モデルの関係をさらに探求する必要がある。それゆえ、サステナビリティを実現するテクノロジーは、その活用を図る目的論でなく実行するための手段論として展開されなければならない。そして、テクノロジーとの関連でいえば、既存テクノロジーの活用と新規テクノロジーの開発が焦点となる。

4.2 企業サステナビリティを促すテクノロジーのあり方

サステナビリティーに関して、SDGs(持続可能な開発目標)が具体的な指針として社会的にコンセンサスを得つつある中、通産省も省内に研究会を設け「SDGs経営ガイド」(通産省2019年5月)を提示して、その企業社会で啓蒙活動に励んでいる。

SDGsを実現する手段はいろいろ想定されるところだが、それを実現するにはいろいろなテクノロジーが用いられる。そして、用いられるテクノロジー次第で、その実現度合いは違うと想定される。しかし、そうしたテクノロジーがいつも使えるとは限らない。テクノロジーの行使には制約が伴うのである。たとえば、組織を構成する部門間の統合を意図することは容易だが、それを実現して意図した結果がだせるとは限らない。それゆえ,SDGsの取り組みは各企業できる範囲で行っているため、足並みが揃っているとはいえない。

企業サステナビリティへの注目動向は、社会との関わり、具体的にはステークホルダーとの関わりを鮮明にしたが、どのようにそれを推進すべきか各企業の問題として残されている。そうした中で、率先してサステナビリティ経営を推進している企業がある一方、それを意識してもできない企業も数多くある。それらは、いわゆる「実行力不全(The Knowing Doing Gap)」(Pfeffer and Sutton, 2000)が解消されない企業群である。

そもそも、実行力といっても、全力の場合から手抜きまでその幅は大きい。そのため、実行力のあるなしだけで済む問題ではない。我々人間は、古くから生き抜くたまにさまざまな手段,すなわちテクノロジーを開発・活用してきた。その経験から、企業サステナビリティの問題を解消するために、テクノロジーの観点は優先すべきポイントであるといえよう。

サステナブルな企業行動を意識してサステナブル経営を実践する事例が多くなりつつある。たとえばサントリーは、持続可能な社会の実現に貢献する企業でありたいと意識して、具体的に「水と生きるSUNTORY」を標榜し、積極的に水資源のサステナビリティ(持続可能性)に貢献する環境活動に取り組んでいる。そして、サントリーの事業活動は、多様なステークホルダーとの関わりを前提に展開されている。また、シチズンは、人権や地球環境などの社会的課題にも配慮した経営を通じ、ステークホルダーからの信頼を獲得しながら事業を拡大し、企業価値の向上を図ることがサステナブル経営だと定義づけ、それを実践している。

サステナブル経営の捉え方は広狭いろいろ可能だが、その基本は「長期的視野から利益を出し続けるために、経営資源をストレスなく投入・組み合わせ・配分すること」といえる。そしてサステナブル経営を実現するために必要なのは以下の点である。

  1. ・  長期的にドメイン・コンセンサスを確保すること
  2. ・  長期的に経営資源の供給を確保すること
  3. ・  長期的に社会からの信頼を確保すること
  4. ・  社会の動向を常にキャッチできる体制を確保すること

サステナブル経営を実現できたとしても長続きしなければ意味がない。また,それが実現できているかどうかの判断は評価次第である。企業サステナビリティの評価は、地球環境や人権等に負荷を与えないという観点からインプット・プロセス・アウトプットの各側面で可能である。しかし、こうした一連の活動面が評価対象となると、活動が分断される恐れがでる。それぞれの側面で担当責任者が配置されると、彼ら/彼女は自分の担当業務のみに関心を持ち、他の業務には無関心になるからである。

サステナブル経営を評価する場合、結果としてサステナビリティが確保されなければならない。それゆえ、企業サステナビリティは結果をもたらす一連の活動が充足したものかどうかで評価することが必要である。サステナビリティに関わる一連の活動を促す手段として有効なテクノロジーのあり方が問われるのである。

テクノロジーは、正当化された科学的知識・理論の応用から生み出されるため、科学の発展に応じてその発展も目を見張るものがある。ただし発展といっても、連続的ないし革命的、短期的ないし長期的、部分的ないし全体的など、その捉え方は論者の立場を反映して多様である。

用いるテクノロジーが変化するといった変化に着目すると、進化論的な発想が有用である。なぜなら、自然現象や社会現象についていろいろな理論枠組みが登場しては消えていった中で、進化論の枠組みは、批判こそあったがいまでも正当性のあるモデルとして健在である。そこで、企業サステナビリティに関わるテクノロジーに関して進化論的に分析してみる価値はあると思われる。

進化論的な枠組みの基本図式は、「変異⇒選択⇒保持」である。テクノロジーもいろいろ生み出される(変異)が、その中から有用なモノが選別され(選択)、そしてさらに絞られ、時代が求めるモノだけが大切に引き継がれる(保持)わけである。換言すれば、企業行動における創造プロセスでテクノロジーの変異が起こり、それがいろいろと試されるうちに、企業行動において影響を与えるモノが選別され、引き継がれていく。こうした進化プロセスは繰り返し起こり、企業にとってはテクノロジーの進化の影響を受けるとともにさらなる進化を引き出すことになる。

したがって、進化論的な枠組みは長期的な視野に立つという特徴から、テクノロジーの影響結果は直ぐに判明しない。この点は、4半期決算・報告が制度化された現代の企業社会においては馴染みのないところである。とはいえ、サステナビリティ自体が長期的な視野を前提としたアイディアであるため、それを目指す手段としてテクノロジーを捉えるなら、進化論的な枠組みで考えることが有用である。

テクノロジーが変化するというのは環境変化に応じるという意味で当然だが、それらがすべて残るわけではない。テクノロジーも陳腐化して使い物にならなくなるのは避けられないのだ。企業サステナビリティに有用なテクノロジーは、企業の発展(成長)度合い、事業内容などによって変化するのは当然である。これは、コンティンジェンシー理論の示唆するところであり、どのテクノロジーが有用かは取引コスト論やゲーム論を使って分析することは可能かもしれない。

4.3 企業サステナビリティの問題解決に必要なテクノロジー

企業サステナビリティの問題は、ますます範囲を広げている。それを意識する企業の数が増大していることと,企業行動に関するステークホルダーから要請が高まっているからである。そしてそれに伴い,その解決に至る道筋はますます不透明感を増して、サステナビリティ問題の深刻度も増している。デジタル化に伴う働き方の見直しやグローバル化に伴うグローバル・サプライチェーンがもたらすボトルネックの顕在化がそれを表している。しかし、サステナビリティ問題について関心が高まり、イノベーティブな発想で問題解決を図ろうとする動きも出だしている。たとえば,グーグルによるサステナブル/グリーンテック市場への関与である。それゆえ,企業サステナビリティ問題については、ネガティブに考えるかポジティブに考えるかが問われるようになってきたとはいえ,どちらに与するかはあなた次第という状況である。おそらく、活用できるテクノロジーが多いほどポジティブな考えをもつことになると思われるのである。

手段としてのテクノロジー観からすると、長期志向の投資家から要請されるESG経営に取り組むために必要なテクノロジーと従業員から要請される働き方を推進するために必要なテクノロジーは違うはずである。また、企業が存続するために必要なテクノロジーと組織形態を変更するために必要なテクノロジーも違うはずである。こうして見ると、企業サステナビリティに求められるテクノロジーは一律でなく、企業のあり方によって異なると想定される。また、活用できるテクノロジーは限定的であり、その進化的側面を勘案しながらその活用のタイミングを判断することが大事なのかもしれない。

企業サステナビリティを構成する要素として挙げられる、経営資源(人、モノ、カネ、情報)は比較的コントロールの可能性が高いとはいえ、ステークホルダー(株主、従業員、顧客、地域社会、取引先、競合相手)についてのコントロール可能性は低い。そしてテクノロジー(知識の集合体、活用と開発、能力、社会・文化と接点)はサステナビリティ実現の手段でありカギとなる。

テクノロジーについては、既に指摘したように、それ次第でサステナビリティのレベルが影響されるといった決定論的な見方がある一方、サステナビリティ状態との相互作用でテクノロジー自体がレベルアップしていくというプロセス論的な見方もできる。臨機応変にテクノロジーを駆使するといった現象を探ってみれば、こうしたプロセス論的な見方の方が有用であると思われる。そしてさらに、企業サステナビリティについて、問題が複雑ならそれに対応する多様性が必要だとする最小有効多様性(requisite variety)という発想も有用だと思われる。テクノロジーの進化を想定すると、企業サステナビリティとテクノロジーの関係について、複雑性と多様性の軸を使って以下のような仮説が提示できるかもしれない。

  1. H1:  テクノロジーが進化して複雑になればなるほど多様な人材・仕組みが必要になる
  2. H2:  企業サステナビリティ問題が複雑になればなるほど組織の多様性が必要になる

図1 複雑性と多様性

出所:著者作成

以上の議論から、企業サステナビリティに求められるテクノロジーとは、経営資源の有効活用に反映されるように、いろいろなテクノロジーを組み合わせたものといえる。したがって,それができるようにするにはどうすればいいかが問題として残る。問題が問題を呼ぶという事態である。それを解消するには、組織の階層性が続いているように、テクノロジーも目的と手段の連鎖を前提として考えることが必要であろう。

5.結び

企業にとってサステナビリティ問題は今に始まった訳でない。地球環境が持続可能(サステナブル)であるための開発目標(SDGs)という用語が市民権を得るに至ったのは最近のことである。その後サステナビリティという用語は領域を超えて、企業のサステナビリティなど、広く使われている。もっとも、企業活動を持続させるという企業の存続問題は、誘因・貢献理論、コンティンジェンシー理論、ステークホルダー理論などにおいて説明されている。ただしこれらは、組織の一般環境は考慮に入れられることなく、組織メンバーをはじめとした特定環境のみが想定され、広義にいえばステークホルダーを組み入れた議論に過ぎない。ところが昨今の企業サステナビリティ問題は、ESGやSDGsといった企業を取り巻く一般環境からの要請にどのように対応すべきかが問われている。したがって、本論で焦点とした企業サステナビリティ問題は、旧来の企業組織の存続メカニズムでは説明できない現象といえる。そして、そこで問われたのが、目的達成の手段としてのテクノロジーとコンピューター・プログラムをベースとする新テクノロジーである。

伝統的にテクノロジーは目的達成の手段として理解されている。そのため、その見直し・改変が可能であり、テクノロジーに変異はつきものといえる。この点かから、テクノロジーは時代の変化とともに、変異を繰り返し、淘汰され、保持されるといった進化論的特徴を有しているのは明らかである。コンピューター・プログラムを介したテクノロジーは、0-1のデジタル化された世界の産物であり、目的達成の手段とはいえ、ますますブラックボックス化するという特徴を有する。そのため、テクノロジーとはいえ、伝統的なものと新しいものでは、その扱い方が異なる。テクノロジーが組織行動を決定づけるという決定論的な見方はいまでも有効性があるが、その程度はテクノロジーの内容によって異なるはずだ。

今日、企業の持続可能な行動を説明するには、決定論的なテクノロジー論では不十分である。なぜなら、環境変化が激しいため、時間軸を組み入れると、そのタイミングが不透明だからである。そのため、試行錯誤的な行動を求めるプロセス論的なテクノロジー論の有用性が高まっている。

さらに、企業サステナビリティを構成する要素が絡み合い複雑性が増すなら、それに応じたより多くの多様性が必要だ、いわゆる最小有効多様性(requisite variety)見方が求められる。ただし、多様性といっても、見える化できる年齢やジェンダーといった形式的なものでなく、見えない実質的な認知的多様性である。これは、企業において重要な意思決定を行う際に反映されるものであり、経営陣にとっては経営のあり方や経営哲学が問われることだ。経営陣において一枚岩的な価値観の共有と、多様な価値観の分散のどちらが企業サステナビリティ問題に対して有効な策を見いださせるかは、今のところ有効な説明モデルはなく、経営哲学と企業サステナビリティの今後の重要課題であろう。

付記

本稿は科学研究費助成基盤研究(C)(課題番号:18K01771)による研究成果の一部である。

1)  テクノロジー(technology)は、科学的知識を目的達成のために応用するという意味を持つため、「科学技術」ないし「工学技術」として翻訳されてきた。だが、日本語の技術は広辞苑によると「物事をたくみに行う技」あるいは「科学を実地に応用して自然の事物を加工し、人間生活に役立てるわざ」だと説明されているが英語の単数形と複数形の場合でどのような違いがあるかを反映したものではない。本稿では、複数のテクノロジーが技術を構成するという立場から、テクノロジーという用語を一貫して用いている。

2)  1987年の「環境と開発に関する世界委員会」で「サステナブル(持続可能)な開発」が主要課題となって注目されて以来、1992年の「地球サミット」や「国連環境開発特別総会」でサステナビリティを軸に議論が展開されたことがきっかけとなった。その後企業もCSRとの絡みでサステナビリティを意識して行動するようになり今日に至っている。

参考文献
  • Arthur, W. B. (2009) The Nature of Technology: What It Is and How It Evolves. Brockman, Inc.(有賀裕二監修・日暮雅道訳『テクノロジーとイノベーション』みすず書房、2011年)
  • Barnard, C. I. (1938) The Functions of the Executive. Harvard University Press. (山本安次郎・田杉競・飯野春樹訳『新訳 経営者の役割』ダイヤモンド社、1968年)
  • Bijker, W. E. and Law, J. (1992) (eds.) Shaping Technology / Building Society: Studies in Sociotechnical Change. MIT Press.
  • Child, J. (1972) Organization Structure, Environment, and Performance: The Role of Strategic Choice. Sociology, 2: 409-443.
  • Freeman, R. E. (1984) Strategic Management.: A Stakeholder Approach. Cambridge University Press.
  • Galbraith, J.R. (1973) Designing Complex Organizations. Addison-Wesley. (梅津祐良訳『横断組織の設計』ダイヤモンド社、1980年)
  • Hatch, M. (2013) Organization Theory: Modern, Symbolic, and Postmodern Perspectives. 3rd ed. Oxford University Press. (大月博司・日野健太・山口善昭訳『Hatch組織論』同文舘出版、2017年)
  • Lawrence, P. R. and Lorsch J. W. (1967) Organization and Environment: Managing Differentiation and Integration. Harvard University. Division of Research. (吉田博訳『組織の条件適応理論』産業能率短期大学出版部、1977年)
  • Orlikowski, W. (1992) The duality of technology: Rethinking the Concept of Technology in Organizations. Organization Science, 13(3): 398-427.
  • Penrose, E. (1959) The Theory of the Growth of the Firm, 3rd ed. Oxford University Press. (日高千景訳『企業成長の理論(第3版)』ダイヤモンド社、2010年)
  • Perrow, C. (1984) Natural Accidents: Living with High-risk Technologies. Basic Books.
  • Pfeffer J. and Salancik, G. W. (1978) The external control of organizations: A resource dependence perspective. Harper and Row.
  • Pfeffer, J. and Sutton, R. (2000) The Knowing-Doing Gap: How Smart Companies Turn Knowledge into Action. Harvard Business Review Press. (長谷川喜一郎監訳『実行力不全』ランダムハウス講談社、2005年)
  • 下谷政弘・川本真哉編 (2020) 『日本の持株会社』有斐閣
  • Thompson, J. D. (1967) Organizations in Action. McGraw-Hill. (大月博司・廣田俊郎訳『行為する組織』同文舘出版、2012年)
  • Williamson, O. E. (1981) The Economics of Organization: The Transaction Cost Approach, American Journal of Sociology, 87(3): 548-77.
  • Woodward, J. (1965) Industrial Organization: Theory and Practice. Oxford University Press. (矢島鈞次・中村壽雄訳『新しい組織』日本能率協会、1970年)
 
© 経営哲学学会
feedback
Top