2022 年 100 巻 3 号 p. 533-553
粒子フィルタの最近の発展により、これを高次元系の非線形もしくは非ガウスデータ同化に用いることが可能になった.しかし、アンサンブルカルマンフィルタ(EnKF)の精度を上回るためには,比較的大きなアンサンブルが依然として必要である。本研究ではこれに代わるものとして、ディープニューラルネットワークをEnKFに局所的に埋め込んだ,深層学習に基づくアンサンブルデータ同化法を示す。この方法を深層学習アンサンブルカルマンフィルタ(DL-EnKF)と呼ぶ。DL-EnKFの解析アンサンブルは、DL-EnKFの解析値とEnKFの解析偏差アンサンブルから作成される。DL-EnKFの振舞いを、3つのバージョンのLorenz 96モデルとアンサンブルサイズ10の決定論的EnKFを用いて、完全モデルと不完全モデルの両方のシナリオによるデータ同化実験によって調べた。データ同化における非線形性の強さは、観測データの時間間隔を変えることによって制御した。その結果、このような小さなアンサンブルサイズにもかかわらず、非線形性が強い場合にはDL-EnKFの精度はEnKFより上回り、かつ同化サイクルにおける正のフィードバックによって、深層学習の出力より精度が向上することが示された。また、DL-EnKFによる精度の改善は、学習のターゲットとして大アンサンブルEnKF解析値や不完全モデルによるシミュレーションを用いても、真値を用いた場合と大差ないことが示された。