気象集誌. 第2輯
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平成27年9月関東・東北豪雨における平成27年台風第17号(Kilo)の役割
中村 雄飛宮川 知己佐藤 正樹
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2020 年 98 巻 5 号 p. 915-926

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抄録

 平成27年9月9日から11日にかけて、関東及び東北地方で非常に激しい降水が発生した。この豪雨においては、日本付近の二つの台風、第17号(Kilo)と第18号(Etau)の接近が総観場の大きな特徴であった。Etauが東海地方に上陸し温帯低気圧に変わった後、南北に延びた線状降水帯が関東地方に発生、12時間にわたって停滞し、特に栃木県で激しい降水となった。また、この時Kiloは関東地方の東方の洋上に接近していた。本研究では、本事例におけるKiloの役割について、Stretch-NICAM(最小解像度約5.6km)による数値シミュレーションによって調べた。コントロール実験では、観測とほぼ同じ位置、時刻に強い降水帯を再現することができたが、より早い時刻を初期値とした実験においては再現されなかった。Kilo中心部の水蒸気を除去することでKiloを弱化させる感度実験を早い初期時刻の下で行った。一般に水蒸気を除去すると台風が弱化し降水も弱まると考えられるが、この感度実験では、関東域の降水は5%少ないものの降水帯を再現した。さらに関東地方を含む台風第18号のアウターバンド域における降水はコントロール実験と比較して約10%増加した。この実験によって、Kiloと関東地方の間に位置していた高圧部(リッジ)に伴う南東風が、Kiloとオホーツク高気圧との間で形成された東風よりも、関東地方への水蒸気供給に重要な役割を持つことが見いだされた。本事例においては、弱化したKiloがリッジに関する北西向きの水蒸気フラックスを強め、それによってより強い降水がもたらされた。

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© The Author(s) 2020. This is an open access article published by the Meteorological Society of Japan under a Creative Commons Attribution 4.0 International (CC BY 4.0) license.
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/
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