気象集誌. 第2輯
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Articles : Special Edition on Extreme Rainfall Events in 2017 and 2018
非常に激しい降水のクラウジウス・クラペイロンスケーリング:日本における2017年7月と2018年7月の豪雨イベントの事例研究
Sridhara NAYAK竹見 哲也
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2020 年 98 巻 6 号 p. 1147-1162

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抄録

 極端降水の振る舞いを説明する上でのクラウジウス-クラペイロン(CC)スケーリングの有用性について、現在気候および疑似地球温暖化(PGW)条件で調べた。日本で発生した最近の2つの極端降水イベント、すなわち2017年7月5~6日の九州北部での豪雨および2018年7月5~8日の四国での豪雨を対象として、格子解像度1 kmでの領域気象シミュレーションにより解析した。数値シミュレーションにはWeather Research and Forecasting(WRF)モデルを用い、モデルデータは1時間間隔で格子点毎の値として出力し、解析に用いた。極端に強い降水の発生頻度とその強度は、時間雨量強度で評価すると、2つのイベントともに、PGW条件下で増大する。極端に強い降水(> 50 mm h-1)は、現在気候条件では気温22℃に上がるまでCCスケーリングにしたがい、PGW条件では24℃の気温に上がるまでCCスケーリングにしたがう。降水と気温の関係において、極端降水のピーク強度は、現在気候条件では25℃で約140 mm h-1であり、一方、PGW条件では 27℃で約160 mm h-1となる。極端降水の気温に対する増加率は、現在気候条件では約3% ℃-1であり、PGW条件では約3.5% ℃-1であることが分かった。将来の温暖化気候におけるピーク降水強度の増加と気温に対する降水量の増加率は、気温減率の減少にもかかわらず、大気中の水蒸気および不安定エネルギーが増加することに起因する。著者の知る限りでは、本研究の結果は、事例解析ではあるものの、極端降水に対するCCスケーリングについて定量的に調べた最初の取り組みであると言える。

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© The Author(s) 2020. This is an open access article published by the Meteorological Society of Japan under a Creative Commons Attribution 4.0 International (CC BY 4.0) license.
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/
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