2021 年 99 巻 6 号 p. 1501-1524
東アジアの夏季降水量および関連する大気循環場の将来変化について、60km格子の気象研究所大気大循環モデル(MRI-AGCM)によるアンサンブル予測実験(21世紀末、RCP8.5シナリオ)に基づいて調べた。東アジアの夏季降水量は、概して増加傾向だが季節内かつ地域的な変動が大きい。具体的には、6月は梅雨・メイユ降水帯が強化して東側部分(梅雨降水帯)がやや南下、7月と8月は東アジアの大陸北部とその近海で降水量が増加する傾向はメンバー間で一致していた。一方で、7月は梅雨・メイユ降水帯の予測ばらつきが大きく、8月は太平洋で降水量変化が小さい。
MRI-AGCMを用いて将来変化の要因分析実験を行った。初夏の降水量変化では、海面水温(SST)一様昇温および熱帯SSTパターン変化の影響が支配的で、これに伴う水蒸気増加および上層偏西風の強化・南下が重要な役割を果たす。一方で晩夏になると、陸面昇温および中高緯度SSTの大きな昇温の影響も重要になる。これらの要因は、上層偏西風や下層モンスーンを変化させ、初夏の要因影響を打ち消して上回る。これら相反する要因の結果として、7月の梅雨・メイユ降水帯の温暖化応答は6月よりも小さく、7月の変化傾向はシミュレーション間でばらつきやすいと考えられる。