抄録
典型的な東北地方夏季の異常低温期の2事例(1976年8月11~20日,1980年7月25日~8月4日)について東北日本へ流入する寒気の構造を解析する。
東北地方の冷夏は海洋性極気団からの西方への寒気吹出によってもたらされる。寒気層は北東または東風層でもあり,混合層の特徴(鉛直方向に一様な相当温位)を示すが,その厚さは薄く(~1km),その上に安定層がある。大きな水平気温傾度(|∇T|≈2K/100km)と水平寒気移流(∨•∇T~0.2K/hour)は混合層内においてのみ見られる。東北地方東方海域は低温で,海空温度差は小さく,海洋から大気への全熱エネルギー補給は~1001y/dayにとどまる。東方海域の冷水域のため,寒気は充分に温暖化することなく東北日本に到達し低温をもたらす。
AMeDAS データーの解析から,雲(日照時間)•気温分布におよぼす山脈の影響が見出された。山脈西側(風下)の地形性下降流は薄い寒気層の層雲を消矢させ,日照によって気温が上昇するものと推論される。また薄い寒気は高温な海上,日照による高温な陸上で急速に昇温する。これが,著しい冷夏が東北地方太平洋岸の狭い領域に発現する理由である。
なお,寒気は,冷い大陸沿岸の日本海上をへて,朝鮮半島東部にも到達する。夏季東アジアの天候は主として南西モンスーンによって支配されるが,日本列島北東海域の海洋性極気団からの北東風による寒気吹出しも,北~北東日本およびその近傍の天候に大きく関係している。