気象集誌. 第2輯
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日本海上で観測された対流性線状降雪雲の2次元数値実験
組織された多細胞型対流の構造と時間変化
猪川 元興榊原 均石原 正仁柳沢 善次
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1987 年 65 巻 4 号 p. 605-633

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抄録
1984年冬,対流性線状降雪雲が日本海上で観測された。 (榊原ら,1987)それらは,90分あまり持続し,その走行は一般流の方向とほぼ直交していた。この雲の2次元数値実験が,氷相(雲氷,雪,あられ)も考慮した非静水圧,非圧縮系モデルを用いて行われた。
数値実験では,初めは単一細胞の対流が再現され,その後,それは多細胞型対流に変った。本論文ではこの多細胞型対流が詳しく調べられ,単一細胞時の対流,観測およびスコールラインと比較される。
多細胞型対流の構造とそれを構成する個々の対流細胞の時間的振舞いの特徴は,次のとおりである。
1)多細胞型対流のストームスケール(個々の対流細胞スケール(5km)と比較して,およそ15km)での平均的場は,単一細胞時の対流と次のような点で類似している。a)上昇流がシヤーの上流側に傾むいている事,上昇流の系に相対的な流れのU一成分が前方から後方に向かっている事,下降流の系に相対的な流れの一成分が後方から前方に向かっている事,b)海面上のコールドドームと,対応する高圧域,c)コールドドームの上のストームスケールの温暖域と対応する低圧域。しかしその水平スケールと強度は単一細胞時のものより大きく強い。
2)個々の細胞による変動は,上昇流,雲水量,あられの場で大きく,また中高度域で大きい。一方,他の場でのそれは,比較的小さく,また,低高度域で小さい。
3)単一細胞型対流から多細胞型対流への変化は,ガストフロントの移動速度が,個々の細胞の移動速度よりも早いことと関連している。
4)新しい細胞はガストフロントの上で,平均的には,大きな変動はあるものの,25分おきに,また,古い細胞からの距離が,大きな変動はあるものの,平均的には4kmの所で生じる。
5)新しい細胞が生じると,下層からの暖かい空気の古い細胞への流入は遮断され,古い細胞は衰えはじめ,後方に動きはじめる。
6)新しい細胞では雲水(過冷却水滴)やあられが存在するが,古い細胞では雲水はほとんど存在せず雪が相対的に多い。
数値実験の結果は,観測と次の点で一致する。
1)多細胞型対流,
2)上昇流がシヤーの上流側に傾むいている事,上昇流の系に相対的な流れのU一成分が前方から後方に向かっている事,下降流の系に相対的な流れのU。成分が後方から前方に向かっている事,
3)海面上のコールドドームと対応する高圧域,
4)レーダーエコーの巾と高さ,
5)長時間持続した事。
数値実験で再現されたり観測された対流性線状降雪雲の特徴は,この線状降雪雲が,その強さやスケールや,成層状態が異なるにもかかわらず,スコールラインとよく似ている事を示している。
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© 社団法人 日本気象学会
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