気象集誌. 第2輯
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梅雨の多種スケール階層構造
二宮 洸三秋山 孝子
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1992 年 70 巻 1B 号 p. 467-495

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抄録

梅雨に関する著者の一連の研究をreviewし、その多種スケール階層構造を強調した。
東アジアの夏季モンスーン雨期の特徴の一つは、チベット高原南東から東に伸びる長大な準定常的な降水ゾーン(梅雨前線)の形成である。梅雨前線は熱帯気団の北縁にそって形成され、対流圏下層の∇θe極大ゾーンとして認められる。その西部分(100~130°E)では∇θは弱く、大きな∇qによって特徴づけられ、梅雨下層ジェットをともなう。その東部分(140~160°E)では、南下した極前線と接近し、∇θもかなり大きい。
梅雨前線に関する大規模循環系としては、中高緯度の極前線とそれにともなう上層ジェットおよび梅雨トラフ、低緯度では、インドモンスーン風系と太平洋亜熱帯高気圧が重要である。特に太平洋亜熱帯高気圧の西~北西縁の強い南西~西南西流による変形場におけるfrontogenesis、differential advectionによる対流不安定生成が注目される。このように梅雨前線は夏季北半球における特徴ある準定常的亜熱帯前線として位置づけられる。これに類似した前線系は、夏季北半球の他領域には見出されない。
梅雨前線にそってはmeso-α-scale低気圧がしばしば発生し、強い対流性降水をもたらす。梅雨最盛期の梅雨前線と非地衡風的梅雨下層ジェットの構造を示した。水蒸気収支については下層南西流による水蒸気流束収束の重要性が示された。
梅雨前線豪雨の典型例について、下層ジェット軸のまわりの鉛直循環を示し、対流不安定の分布、differential advectionによる対流不安定の生成を評価し、またθe収支解析によって、対流による対流不安定の解消を論じた。
梅雨前線のmeso-α-scale低気圧(渦度分布図上、ζ;maxとして検出される)の多くはmeso-α-scaleの雲システム(cloud cluster)をともなう。極前線低気圧が南下する場合には梅雨前線の低気圧と複雑に影響し合う。この様な場合、極前線低気圧を先頭とし、その西南西に連なる梅雨前線帯のmeso-α-scale低気圧familyが発達し、前線活動が活発になる。
梅雨期の擾乱の統計的特徴を調べるため、雲量、渦度、比湿のspectral解析を行った。極前線帯では傾圧波の構造を持つ総観規模低気圧が卓越する。梅雨前線帯では周期2~3日のmeso-α-scale擾乱が卓越する。位相の解析から、その鉛直軸は対流圏下層では東傾し、比湿極大軸の上空に負渦度を持つ構造が示された。チベット高原南東部では日変化が非常に強い。
静止衛星データー、レーダーデーターによってmeso-α-scale低気圧の微細構造としてのmeso-β-およびmeso-γ-scale降水システムを指摘した。
このように梅雨はplanetary scaleからmeso scaleにおよぶ多種スケールの相互作用のもとにあらわれる多種スケール階層構造をもつ現象として理解すべきことを強調した。

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