抄録
数値モデルの格子サイズを20km以下にした場合の非静水圧モデルと静水圧モデルでの雨の降り方にどのような違いが生じるかについて調べてみた。降水生成過程として雲水、雨水を直接予想変数とする雲物理過程を用いた。静水圧近似による影響を詳しく調べるためにwater loadingの有無による影響と定量的に比較して考えてみた。また、対流調節を雲物理過程に組み込んでの比較実験も行い、降水生成過程による影響についても考察した。
雲物理過程を用いた実験の結果として、モデルの格子サイズが小さくなるほど静水圧モデルの方が擾乱の発達率が大きくなり、総降水量が多くなり、降水領域も広くなった。さらに、擾乱の発達率の差が対流自体の構造を変え、特に降水後期では非静水圧モデルと静水圧モデルでの雨の降り方にも違いが生じた。water loadingの有無によって生じる差は非静水圧モデルと静水圧モデルの差よりかなり大きく、water loadingの効果は非静水圧の効果より重要であった。しかしながら、モデルの格子サイズが20kmまでの静水圧モデルの結果はwater loadingを与えていれば降水量、降水パターンとも非静水圧モデルの結果とほぼ一致することが分かった。
非静水圧モデルと静水圧モデルでの総降水量に擾乱の発達率ほどの違いが生じなかったが、その原因については降水を含む水収支を考えることで説明がついた。すなわち、側面境界を通る水蒸気フラックスが両モデル間で一致することによるためである。
対流調節を組み込んだ場合、条件不安定が取り除かれ強い上昇流が生じなくなるにもかかわらず、非静水圧モデルと静水圧モデルとの比較においては雲物理過程を用いた実験の結果の特徴と同様であった。ただし、water loadingの影響は雲物理過程を用いた実験に比べかなり大きくなった。以上を踏まえると、10-20km格子の数値予報モデルを開発するためには、非静力学モデルを採用するより優先してwater loadingの効果をモデルに組み込むべきである。