気象集誌. 第2輯
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アンサンブル気候実験で再現される東アジアの冷夏・暑夏
川村 隆一杉 正人栢原 孝浩佐藤 信夫
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1998 年 76 巻 4 号 p. 597-617

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抄録

東アジア、特に日本と韓国では、1970年代後半から最近の1990年代前半にかけて極端な冷夏・暑夏が頻繁に起こっている。その原因を解明するために、気象庁全球大気モデル(T42 GCMバージョン)を用いて、過去40年間の気候を再現するアンサンブル気候実験を行った。1955年1月から1994年12月までの全球規模で観測された海面水温(SST)を境界条件として、境界条件は同一であるが、初期条件が少しずつ異なる三つのパラレルランの結果を解析した。
SST強制によるモデル大気の応答から、日本周辺における夏季平均気温の年々変動の振幅変調をもたらしている大規模スケールの大気循環場が非常に良く再現されていることが確認された。1980年代初頭から1990年代前半にかけて、南シナ海とフィリピン東方の西部熱帯太平洋との間の夏季SST偏差の東西傾度がかなり大きく変化する傾向を示しており、フィリピン付近の積雲対流活動と関連して、その変動はモデルで再現された日本付近における対流圏下層の高度偏差の位相とよく一致している。対流加熱の変化はPJパターン(Nitta,1987)の励起という力学過程を通して、東アジアの対流圏下層の循環場に大きな影響を与える。1970年代後半から最近にかけて極端な冷夏・暑夏が起こりやすくなっている現象は主として熱帯からのSST forcingに起因している。
フィリピン付近の夏季SST偏差の東西傾度が強くなるためには、弱い(強い)夏季アジアモンスーンとエルニーニヨ(ラニーニヤ)フェーズのENSOとのカップリングが必要である。1970年代後半から1990年代前半までの間に発生したエルニーニョ現象は、Rasmusson and Carpenter(1982)によって示された典型的なモデルとは季節進行の観点でかなり異なっている。2シーズン前の冬から夏にかけて異常に持続したENSOのシグナルと、それと関連するアジアモンスーン活動の両方が、夏季のフィリピン付近に形成されるSST偏差の東西傾度を強く規制している。

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© 社団法人 日本気象学会
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