抄録
過去85年間(1900-1985)の土地利用変化が海風と日中のヒートアイランドの変化に及ぼす影響について数値モデルを用いて検討した。解析対象領域は首都圏を含む関東平野(150000km2)である。首都圏はこの平野の南側に位置しており、東京とその近郊に広がる数多くの都市から形成されている。首都圏の水平規模は半径約40kmであり、過去85年間で約4倍に広がっている。解析対象日は一般風の弱い夏季晴天日であり、用いた数値モデルは静力学平衡を仮定した非弾性近似方程式系の三次元モデルである。1985年の土地利用データを用いたシミュレーション結果と観測値がおおむね一致していることを確認した後、1950年および1900年の土地利用データを用いたシミュレーションを行った。以下に主な二つの結果を記す。(1)土地利用変化に伴い、関東平野の風系は変化する。海風前線は首都圏の北側境界付近で強まり、平野の内陸部への進入時刻は1~2時間遅れる。(2)土地利用変化に伴う日最高気温の上昇傾向は首都圏と関東平野の北西部で見られる。とりわけ、このような昇温傾向は首都圏の北側境界付近において顕著であり、この地域では3~4℃/85年、2~3℃/35年の上昇が認められる。上記の昇温は顕熱フラックスの増加および、大気境界層の加熱と海風前線の相互作用の変化によって生じていると考えられる。