2017 年 23 巻 1 号 p. 19-25
吉本伊信は浄土真宗を源流に持つ「身調べ」に変更を加えて「内観」を創り出した。その過程で「してもらったこと」「して返したこと」「迷惑をかけたこと」の3項目を問う手法が確立した。「身調べ」が「死んだらどこへ行くか」を問い、死をとりつめて無常感をもつことに置いていた重点を罪悪感に移したのが内観であり、そのために前述の3項目が採用され、4項目めの「迷惑をかけられたこと」は罪悪感をもつ妨げになるとして採用されなかった。
しかし、吉本伊信が「迷惑をかけられたこと」の例に挙げ、不問としているのは「殴る、土蔵に入れる、手を後ろにして柱へ縛る」といった子供への虐待行為であり、現在の医療、心理療法の治療者が見過ごしてよい内容ではない。虐待を受けたことを「ちゃんと覚えている」とする吉本伊信の認識にも問題がある。4項目めの調べを排除する姿勢は、迷惑をかけられる辛さに対する感受性を奪ってしまう危険があり、再考が必要である。