PTSDの一症例を通して, 内観療法における治療者・患者関係のあり方や場のセッティングの意味を考察した。内観では森田療法と同様, 一対一の治療者・患者関係は治療の場の背景に退くのが普通である。両者は精神分析と違って, 患者の病理を一対一の関係の中に凝縮させない治療戦略を取る。内観の治療者は患者の内面に直接的に侵入しないが, 彼らの防衛処理と治療の場の共感の醸成の双方をコーディネートする役割を担っている。村瀬が指摘する内観療法の三つの特性, すなわち治療者の非侵入性。遮断していて通じている二面性と両義性。治療者患者関係や場に見られる母性的退行的な要素と父性的で超自我的な厳しさの二面性。これらはいずれもバリントやウイニコットの理論にも共通して認められ, 母子分離や「一人でいる」現象に普遍的な特性である。こうした視点から村瀬の「素直」論を新たに整理し直す必要がある。村瀬の指摘する個人内面の態度としての「素直」と対人関係領域の「素直」の質的区別や両者の関係は特に重要で, そこから素直の普遍性を探る道も開けてくる。