抄録
脳主幹動脈閉塞による急性期虚血性脳卒中に対しては,最も高いエビデンスレベルを持つ組織プラスミノーゲンアクチベーター(recombinant tissue plasminogen activator:rtPA)の静脈投与(以下 iv rtPA)による血栓溶解療法が基本であることは変わりないが,その適応から外れた患者や,iv rtPA後早期に血流の回復が得られなかった患者に対し,血管内治療に期待が掛けられている.これまで行われてきた局所線溶療法(local fibrinolytic therapy)やバルーン血管形成術・ステント留置術を応用する治療に加え,新しい機器が開発され機械的血栓回収療法(mechanical thrombectomy)が治療戦略の中に組み入れられるようになった.米国ではMERCIリトリーバーが2004年に,Penumbraシステムが2008年に米国食品薬事局(Food and Drug Administration:FDA)の承認を取得したが,日本ではそれぞれ2010年,2011年に相次いで承認され,本格的なmechanical thrombectomyの時代の幕が開いた.
この総説では,1)閉塞病変の遠位にデバイスを留置して血栓塞栓を捕捉回収するデバイス(Merci®が代表),2)閉塞病変の近位に留置する吸引デバイス(Penumbra®が代表),3)閉塞病変内に留置するステント型リトリーバー(SolitaireTM,TREVOが代表),4)閉塞病変を機械的に開くdirect PTAとstenting(WingspanTM,冠動脈用のバルーン拡張型ステントなど),5)Local intraarterial fibrinolysis(LIF)を紹介し,5つの異なるデバイス/治療法の利点と欠点を紹介した.速やかに再開通を得ることができなかった脳主幹動脈閉塞患者の予後は不良であり,適切な適応判断に基づいて選択した症例では,再開通の成功の有無が良好な転帰を得る最大の要素になることがわかっている.急性脳動脈閉塞の病型は多様であり,単一の機器や治療法ですべての病変・病態に適切な対処はできず,最新のデバイスが最適なデバイスとは限らない.それぞれのデバイスの作用機序がその病変に適切かどうかが最も大切な判断基準となる.