2019 年 26 巻 3 号 p. 579-612
我々は,高齢者の Quality of Life (QOL) を家族に伝えることで,高齢者と離れて住む家族とのコミュニケーションを活性化することを目指している.高齢者の QOL 表出発話(高齢者の QOL を推定するのに有用な手がかりを含んだ発話)の生成を補助するシステム構築に向けて,本論文では (1) QOL ラベルつき対話コーパスを構築するための方法論を提案し,(2) QOL ラベルを用いた特定の QOL 情報を伝達する応答の生成について議論する.具体的には,模擬的なワーカを用いることの妥当性を予備実験により示した上で,クラウドソーシングを効果的に利用して高齢者が主体となる高齢者の QOL 表出発話を大規模に収集し,QOL ラベルつき対話コーパスを構築した.構築したコーパスを用いた応答生成実験により,「着くとすぐに本を読んでいるよ」のような家族の発話に対する高齢者の応答候補として,高齢者の QOL が《健康満足感 (positive)》の場合は「今度本を読んであげよう」,《健康満足感 (negative) 》の場合は「私は新聞を読むのも億劫だよ」など,QOL 情報の伝達に役立つ応答が生成されることを確認した.