一般ドメインでの固有表現抽出が高い精度を実現するようになった今,研究の目標は化学や医療,金融などさまざまなドメインでの固有表現抽出技術の精緻化へとシフトしている.そこで本論文では,ドメイン依存の固有表現抽出技術応用に関する近年の国内研究動向を報告したい.技術に重点を置いた分析は他文献に譲り,具体的な問題を抱えるさまざまなドメインの読者を念頭に「どのようなドメインでどのような対象に対してどのように固有表現抽出が行われているか」を調査した.4 つの学会大会論文および3つの学会論文誌からドメイン依存の固有表現抽出技術に関する論文を調査したところ,該当する論文のうち約半数が,化学ドメインにおける新規商品開発等支援のための化学物質名・化学物質間関係抽出を主題としていた.その他のドメインは,医療,金融,機械加工,文学,食など多岐にわたり,多様な抽出目的・抽出対象を確認できた.技術的には機械学習を使った手法が主流となっており,とくに本論文の調査期間では BiLSTM-CRF および BERT を使う事例が大勢を占めているが,それらを補完する目的で辞書等の言語資源を組み合わせる手法も多く見られている.