抄録
待遇表現の丁寧さの計算モデルとして, 待遇表現に語尾を付加した際の待遇値 (待遇表現の丁寧さの度合い) の変化に関する定量的なモデルを提案した. このモデルでは (1) それぞれの待遇表現に対し, その表現が用いられるべき状況が待遇値に関する正規分布として表される, (2) それぞれの語尾に対し, その語尾が付加される待遇表現が用いられるべき状況が待遇値に関する正規分布として表される, というふたつの仮定を立て, 待遇表現に語尾を付加した際に得られる情報量を定義した. そして更に, 語尾の付加による待遇値の変化量は, 付加の際得られる情報量に関する一次式で表すことができる, という仮定を立て, 語尾の付加による待遇値の変化量を, 語尾が付加される前の待遇表現に対する待遇値の関数として定義した. このモデルの妥当性を検証するため, ふたつの異なった発話状況において用いられる待遇表現のグループそれぞれに対し, 語尾の付加による待遇値変化を求める心理実験を行った. その結果, いずれのグループにおいても語尾の付加による待遇値変化は, 提案されたモデルによって予測された傾向に従い, モデルの妥当性が支持された.