抄録
本論文では, GLR法に基づく痕跡処理の手法を示す. 痕跡という考え方は, チョムスキーの痕跡理論で導入されたものである. 痕跡とは, 文の構成素がその文中の別の位置に移動することによって生じた欠落部分に残されると考えられるものである. 構文解析において, 解析系が文に含まれる痕跡を検出し, その部分に対応する構成素を補完することができると, 痕跡のための特別な文法規則を用意する必要がなくなり, 文法規則の数が抑えられる. これによって, 文法全体の見通しが良くなり, 文法記述者の負担が軽減する. GLR法は効率の良い構文解析法として知られるが, 痕跡処理については考慮されていない. 本論文では, GLR法に基づいて痕跡処理を実現しようとするときに問題となる点を明らかにし, それに対する解決方法を示す. 主たる問題は, ある文法規則中の痕跡の記述が, その痕跡とは関係のない文法規則に基づく解析に影響を与え, 誤った痕跡検出を引き起す, というものである. 本論文で示す手法では, この問題を状態の構成を工夫することで解決する.