抄録
手話は視覚言語としての側面を持つため, 手話単語の語構成 (造語法) における特徴の一つとして「写像性」が挙げられる. 例えば, 日本手話の日本語単語見出し「家」に対する手話表現は, 屋根の形を視覚的に写像している. すなわち, 手話表現が概念特徴の一部を視覚的に模倣している点である. 一般に, 概念特徴は定義的特徴と性格的特徴に分類される. ここで, 定義的特徴とは, ある概念の定義に不可欠な特徴素の集合であり, 性格的特徴とは概念を間接的に特徴付ける特徴素の集まりを指す. 例えば, 「家」に対する手話表現は, 定義的特徴としての特徴素からの写像と捉えることができる. 一方, 「破産」に対する手話表現は, 比喩的な表現「家が潰れる」という概念の間接的な記述, すなわち, 性格的特徴を視覚的に写像し「家」の手話表現を提示した後に, 両手を付け合わせる表現で定義されている. すなわち, 一義的には、双方の単語間に概念の類似性はみられないものの, 手指動作特徴の類似性という観点からみると「家」の派生語と捉えることができる. また, 日本語との言語接触により, 日本語の単語見出しの構成要素を借用した複合表現 (例えば, 「青森」は「青い」と「森」から成る.) で構成される単語が少なくない.この借用も広の写像性と捉えることができる. このように, 手指動作特徴の類似性により手話単語を分類することは, 手指動作特徴が担う概念特徴と造語法との関係を明らかにする重要な手がかりの一つを提供できると考える. また, 手話単語を対象とする電子化辞書システムなどにおいては, 手指動作特徴を検索キーとする類似検索機構を実現する上での有益な知識データと捉えることができる. 本論文では, 与えられた手話単語の有限集合を手指動作特徴問の類似性に基づき分類する方法として, 市販の手話辞典に記述されている手指動作記述文間の類似性に着目した手法を提案する. 本手法の特徴は, 手指動作記述文間の類似度を求め, 集合の要素間の同値関係により単語集合を同値類に分割する点にある. 実験により, 提案手法の妥当性を示す結果が得られた.