抄録
心および呼吸器疾患の既往のない, 代償期肝硬変症17例, 慢性肝炎8例を対象とし閉塞肝静脈圧, 全身血行動態, 呼吸機能を測定し臨床的意義につき検討し, 同時に両疾患について比較検討した.
閉塞肝静脈圧は, 右大腿静脈よりカテーテルを右肝静脈にwedgeさせ測定した. 全身血行動態 (CVP, PA, PCWP, CI, LVSWI, RVSWI, SVRI, PVRI, CPP, RPP, TI) は, swan-ganzカテーテルを用い測定した. 呼吸機能としては, スパイロメトリー, flow-volume曲線, closing-volume曲線, 肺拡散能力を測定し, 動脈血ガス分析を施行し以下の結果を得た.
1) WHVPはLC群では上昇を認めたがCH群では全例正常であり両群間に有意差を認めた. LC群ではvaricesの有無による有意差は認められなかった.
2) LC群ではCIの増大, SVRの減少, SWIの増大とhyperdynamicな血行動態を示し, CH群と比較しBPd, MBP, PAPs, MPAP, PCWP, CVP, CI, RVSWI, LVSWI, SVRI, CPP, TIに有意差を認めた. LC群はRVSWI-LVSWI間に正の相関々係を認めた. LC群はvaricesの有無でBPs, MBP, TIに有意差を認めた. CH群では全例正常であった.
3) 呼吸機能はLC群とCH群に有意差を認めなかったが健常群と比較し両群とも%VC, PaO2, 拡散能力に有意差を認め, またLC群はPaCO2にも有意差を認めた. 呼吸機能の各パラメーターの間にvaricesの有無での有意差は認めなかった.
4) LC群は, WHVPとCI, LVSWIおよびRVSWIとの間に各々正の相関を認め, WHVPとSVRおよびPVRIとの間に各々負の相関を認めた. また, WHVPと呼吸機能の各パラメーターとの間には相関関係を認めなかった.
以上の成績から, 肝硬変症では進展するとWHVPが上昇し, それが全身血行動態へ影響を与え, 臓器のが上昇し, それが全身血行動態へ影響を与え, 臓器の血流分布異常を生じ, 右室, 左室両系への負荷が増大し潜在的心機能低下が示唆された. また, varicesを形成すると心筋酸素消費量が増加した. 一方, 肺循環系は低抵抗系, 低圧系の特性を有するためWHVP上昇の影響が少ないと考えた. また, 呼吸機能障害は軽度ながら慢性肝炎の病態ですでに生じていると考える結論を得た.