2013 Volume 56 Issue 7 Pages 425-439
WIPO(世界知的所有権機関)がインターネット上,無料で提供する特許情報データベースであるPATENTSCOPEは,220万件を超えるPCTデータに加えて,30以上の国・地域の特許文献データを擁しており,総データは3,000万件に及び,データの数は日々増加している。検索は,論理演算子,ワイルドカード,近接演算子を用い,柔軟な検索式を立てて行うことが可能である。検索結果を表,グラフ形式で視覚的に表示することもできる。各国語の特許文献を効率的に検索するために,PATENTSCOPEでは,検索語を12か国語に自動的に展開するユニークな機能である多言語検索機能を提供する。本稿では,このPATENTSCOPEデータベースについて,その特徴を概説する。
世界知的所有権機関(World Intellectual Property Organization: WIPO)の統計によれば2011年の全世界の特許出願は214万件に上り,1995年の105万件から倍増している。また,WIPOが提供する特許協力条約(Patent Cooperation Treaty: PCT)を利用した国際出願は2012年には19万件を超え,1995年の4万件から5倍近くに成長している。このように増加の一途をたどっている特許情報は,各国の知的財産当局などによって公開され,アクセス可能である。日本においても,独立行政法人工業所有権情報・研修館が提供する特許電子図書館(IPDL)を始めとして各種サービスが提供されている。
WIPOは186の加盟国を有するが,加盟各国の知的財産庁からデータの提供を受け,WIPO自身が持つPCTデータに加えて各国国内特許情報も含むデータベースを公開している。今回はそのPATENTSCOPEデータベースについて紹介する。
国連の専門機関であるWIPOは,知的財産権の保護促進と加盟国間の協力を大きな目的とするが,この目的達成のための任務としてWIPO設立条約注1)に明記されているものには「知的所有権の保護に関して情報を収集し及び広報活動を行う」ことも含まれている注2)。増大する知的財産に関する情報を収集し,これを広く提供することはWIPOとしての任務である。WIPOのカバーする知的財産は特許に留まらず,商標,意匠,著作権など多岐にわたるが,特許に関する情報を提供するプラットフォームがPATENTSCOPEである。
特許情報を提供するデータベースは世の中に無料,有料のものを含めて各種存在するが,WIPOの場合は,日本のような先進国だけではなく途上国なども含めたすべての加盟国が対象である。したがって,公的な国際機関としても,このようなデータベースの提供は広く無料で行っている。
PATENTSCOPEには,PCTデータや各国知財庁から提供を受けた国内/域内特許データが3,000万件近く格納されている。各国の国内特許情報は国によって異なる言語なので,複数の言語の特許情報を効率よく検索できるインターフェースをいかに提供するか,という点は国際機関としての挑戦である。この課題については,後述する多言語検索ツールなどでユーザーの利便性向上に努めている。
なお,「PATENTSCOPE」はマドリッド制度などを通じて商標登録している注3)。
PATENTSCOPEは,WIPOのWebサイトから無料でアクセスできる(http://patentscope.wipo.int/search/en)。PATENTSCOPEは日本語を含めた9か国語のユーザーインターフェースを用意しており,トップページの上に示されている言語リストから日本語を選ぶことによって,日本語メニューで検索することができる(図1)。一番左にMobileとあるが,これはモバイルデバイスを念頭に置いたシンプルなインターフェースであり,現時点では英語のみである。
PATENTSCOPEに収録されているデータは日々増え続けているが,2013年7月時点で,PCTデータ226万件を始めとして,各国特許データを含めると約3,000万件のデータを収録し,フルテキストデータも1,800万件以上収録している。データの収録範囲は,「ヘルプ」をクリックし,プルダウンメニューの中から「データ収録範囲」を選択,その下層のメニュー(この場合は,「PCT出願」,「PCT国内段階移行」と「国内特許コレクション」が選択可能)から必要な情報を選択することで最新の状況を確認できる(図2)。2012年には日本の特許文献を,2013年には米国の特許文献を追加し,データの拡充に努めている。今後も中国など未収録国のデータを収録し,さらに充実させる予定である。
PATENTSCOPEのマニュアルは,プルダウンメニューから「ヘルプ」-「検索方法」-「ユーザーガイド PATENTSCOPE」と順にたどることによりアクセスできる(図3)注4)。本稿で紹介しきれない部分もあるので,必要に応じてマニュアルもご参照いただきたい。
PATENTSCOPEの検索は,(1)簡易検索(Simple Search)(2)詳細検索(Advanced Search)(3)構造化検索(Field Combination)(4)多言語検索の4つの方法で行うことができる。
4.1 簡易検索簡易検索は,PATENTSCOPEがデフォルトで提供するシンプルな検索インターフェースであり,あらかじめ用意された検索フィールドから1つを選んで,検索語を入力する。検索フィールドは,「フロントページ」,「すべてのフィールド」,「フルテキスト」,「日本語フルテキスト」,「ID番号」(公開番号,出願番号など),「国際特許分類」,「氏名(名称)」(発明者名,出願人名など),「公開日」が用意されている。
例えば「iPS細胞」のキーワードを入れると,システムが入力語を単語に分けてAND検索(iPS AND 細胞)を実行するので「iPS細胞」という用語のみならず「iPS」及び「細胞」という語が離れて含まれるものまでヒットしてしまう。これを避けるためにはキーワード全体を二重引用符「”」で囲み「“iPS細胞”」とすることで,当該文字列を1つの語として検索することができる。これは簡易検索に限らず,他の検索においても同様である。
検索語を入れるボックスの右にある「?」マークをクリックすると,選択したフィールドでの検索語の例が示されるので参考にできる(図4)。
詳細検索においては,複数の検索語を組み合わせて検索することができる。検索は,フィールドコードを用いて検索対象となるフィールド(発明の名称,出願人名,請求の範囲,明細書など)を特定し,各種演算子(ブール演算子,近接演算子など)を用いて検索語を組み合わせて検索式を立てることによって行う(フィールドコード及び演算子の一覧を後掲する)。検索式に用いる検索語の数に制限はないが,検索語があまりに多く検索が複雑になると検索に要する時間が長くなり,サーバーによってはタイムアウトとなり検索が中断される場合がある。
デフォルトでは,検索対象国はすべての国であるが,「特許庁/PCT」という表示の右にある「Specify」をクリックすることにより,検索対象国を指定することができる。図5の詳細検索画面は,PCTと日本,ブラジル,米国,南アフリカにチェックを入れて検索対象国にした例である。また,左下にある「ツールチップ(ヘルプ)」のチェックボックスにチェックを入れると,マウスカーソルの動きに合わせて,適宜,説明が表示される。画面は,「語幹処理」についての説明がポップアップ表示されている例である。
フィールドは「ヘルプ」-「検索方法」-「フィールド定義」で参照可能である注5)。また,演算子を含めて検索式を立てる際の構文については,「ヘルプ」-「検索方法」-「検索構文」で参照可能である注6)。
AND,OR,NOT,ANDNOTのブール演算子,ワイルドカード,近接演算子などが使用可能である。これらとフィールドコードを組み合わせて,例えば,発明者に「Jobs」を含み,2000年から2010年までに公開され,英語の明細書にキーワードとして「phone」が含まれている発明を検索する場合は,
「IN: (Jobs) AND DP: [01.01.2000 TO 31.12.2010] AND EN_DE: (phone)」
という検索式を立てればよい。
PATENTSCOPEの特徴として近接演算子が利用できることが挙げられよう。
「solar AND car」という検索式では1万件以上の文献がヒットする。ここで近接演算子を用いて「solar NEAR5 car」とすることにより,数百件程度まで絞り込むことができる。「NEAR5」とすることで「solar」と「car」が5単語以内の近傍にあるものを検索する。「NEAR」の後ろにつける数で近傍の単語数を指定する(例:NEAR100)。
また,次のように近接演算子,ブール演算子等を複数用いて,入れ子構造にすることも可能である。「(((“音”OR“音響”OR“ノイズ”OR“声”)NEAR4(“遮断”OR“防止”OR“障壁”OR“耐性”))OR(“防音”OR“無音”))NEAR3(“壁”OR“パネル”OR“隔離”)」
PATENTSCOPEで使用可能なフィールドコード及び演算子の一覧を以下に示す(表1~表12)。
フィールド | コード | 例 |
---|---|---|
出願人情報 | PAA | PAA: John US California |
出願人あて名 | AAD | AAD: Paix |
出願人あて名(国名) | AADC | AADC: IT |
筆頭の出願人名 | PAF | PAF: "smith, john" |
出願人氏名(名称) | PA | PA: smith |
出願人国籍 | ANA | ANA: CN |
出願人住所 | ARE | ARE: KR |
フィールド | コード | 例 |
---|---|---|
出願日 | AD | AD: [01. 01. 2001 TO 01. 01. 2005] |
国内段階への移行 | NPED | NPED: JP2005 |
優先日 | PD | PD: [01. 04. 2033 TO 11. 11. 2007] |
公開日 | DP | DP: [15. 05. 2005 TO 15. 15. 2008] |
フィールド | コード | 例 |
---|---|---|
国際特許分類 | IC | IC: A07 or "G01N 33" |
国際特許分類 発明情報 | ICI | ICI: G08 |
国際特許分類 付加情報 | ICN | ICN: "G06K 21/00" |
主な国際特許分類 | ICF | ICF: "G06K 21/00" " |
フィールド | コード | 例 |
---|---|---|
発明者情報 | INA | INA: paul, london UK |
発明者あて名 | IAD | IAD: Seattle |
発明者あて名(国名) | IADC | IADC: DE |
筆頭の発明者氏名 | INF | INF: "hamilton, Janice" |
発明者氏名 | IN | IN: john |
フィールド | コード | 例 |
---|---|---|
すべてのフィールド | EN_ALL | EN_ALL: pot |
要約 | EN_AB | EN_AB: "electric car" |
請求の範囲 | EN_CL | EN_CL: needle |
明細書 | EN_DE | EN_DE: syyringe |
テキスト | EN_ALLTXT | EN_ALLTXT: "waterproof cannula" |
発明の名称 | EN_TI | EN_TI: "flexible tube" |
出願言語 | LGF | LGF: JA |
公開言語 | LGP | LGP: EN |
*この表は,英語の場合の例を示している。他の言語の場合は,ENを次の文字に置き換えることにより言語を指定可能である。
FR:フランス語,DE:ドイツ語,ES:スペイン語,JA:日本語,RU:ロシア語,VN:ベトナム語
フィールド | コード | 例 |
---|---|---|
法定代理人情報 | RPA | RPA: (gearge, new port) |
法定代理人あて名 | RAD | RAD: (colombettes) |
法定代理人住所 | RCN | RCN: KR |
筆頭の法定代理人氏名 | RPF | RPF: (Jons) |
フィールド | コード | 例 |
---|---|---|
すべての氏名(名称) | ALLNAMES | ALLNAMES: smith |
出願人氏名(名称) | PA | PA: smith |
発明者氏名 | IN | IN: smith |
筆頭の出願人氏名 | PAF | PAF: "smith, john" |
筆頭の発明者氏名 | INF | INF: "hamilton, janice" |
筆頭の法定代理人氏名 | RPF | RPF: jones |
フィールド | コード | 例 |
---|---|---|
すべての番号及びID | ALLNUM | ALLNUM: |
出願番号 | AN | AN: |
国内段階 | OFNUM | OFNUM: 123*US |
国内公開番号 | PN | PN: |
先のPCT出願番号 | PRIORPCTAN | PRIORPCTAN: US2003 |
先のPCT公開番号 | PRIORPCTWO | PRIORPCTWO: 2003 |
優先権主張番号 | NP | NP: 2003* |
WIPO公開番号 | WO | WO: YY/NN*; YY/NN; YYYY/NN*; YYYY/NNNN |
フィールド | コード | 例 |
---|---|---|
国内段階情報 | NPA | NPA: US2002 |
国内段階出願番号 | NPAN | NPAN: CA-2* |
国内段階移行日 | NPED | NPED: US-200012* |
国内段階移行種別 | NPET | NPET: (US-E*) |
国内段階特許庁コード | NPCC | NPCC: JP |
フィールド | コード | 例 |
---|---|---|
特許庁コード | OF | OF: JP |
特許庁コード | OF | OF: WO |
国 | CTR | CTR: CU |
フィールド | コード | 例 |
---|---|---|
優先権に関する情報 | PI | PI: 2005 KR |
優先権主張国 | PCN | PCN: ZA |
優先日 | PD | PD: [01. 04. 2003 TO 11. 11. 2007] |
優先権主張番号 | NP | NP: [01. 04. 2003 TO 11. 11. 2007] |
演算子 | 例 | 説明 |
---|---|---|
ブール 常に大文字で使用。 | ||
AND | train AND plane | 最初の単語と2番目の単語の両方を含むすべての文献を返す。 |
OR | train OR plane | 最初の単語又は2番目の単語を含むすべての文献を返す。 |
NOT | train NOT plane | 最初の単語を含み,NOTの後の単語を含まないすべての文献を返す。 単項演算子としても使用可。 |
AND NOT | train AND NOT plane | 最初の単語を含み,かつNOTの後の単語を含まないすべての文献を返す。 NOTと異なり,二項演算子として用いる。 |
ワイルドカード | ||
? | te?t | test又はtextを含むすべての文献を返す。ワイルドカード検索は,?を使用して,その1文字を置き換えた用語を検索する。 |
* | electr* elec*ty |
electric,electrics,electrical,electricityを含むすべての文献を返す。 electricityを含むすべての文献を返す。 ワイルドカード検索は,用語の中央又は最後に*を使用して,0文字以上を置き換えた用語を検索する(*を用語の最初の文字として使用することはサポートされていない)。 |
その他 | ||
^ | power^10 nuclear | “power”が“nuclear”よりも関連性が高いとみなされるすべての文献を返す。 ブースティングは,個々の検索用語に重要性の値を割り当てる。 |
+/- | +electric-power | electricを含み,かつpowerを含まないすべての文献を返す。 フィルター検索を使用すると,(+)検索用語を要求し,かつ(-)検索用語を禁止することができる。 |
~ | roo~ | あいまい検索は,room,roof,rootなどを含むすべての文献を返す。 |
( ) | (spaghetti OR plate) AND fork |
spaghetti又はplateのいずれかを含み,かつforkを含むすべての文献を返す。グループ分けは,サブ検索式を形成する句をグループ分けするために使用される。 |
~/NEAR | “heart monitoring”~10 Heart NEAR monitoring |
近傍検索を使用すると,単語間の近傍度を指定することができる。 この例では,チルダ(「~」波線符号)を使用して,“heart”と“monitoring”の間を10単語だけ離す。NEARは,デフォルトでは,複数の単語を5単語だけ離す。 |
[ ] | [01. 01. 2000 TO 01. 01. 2001] | 01. 01. 2000から01. 01. 2001までの範囲内にある日付を含むすべての文献を返す。範囲検索は,[ ]を使用して,境界を含める。 |
{ } | {Smith TO Townsend} | 氏名がSmithからTownsendまでの範囲内にあり,SmithとTownsendを含まないすべての文献を返す。範囲検索は,{ }を使用して境界を除外する。 |
詳細検索は,すべてのフィールド,演算子を駆使して自由に検索式を立てることができるという意味で強力な検索手法であるが,一方でフィールド,演算子をすべて使いこなすのは必ずしも簡便ではない,と感じるユーザーもいるかもしれない。
構造化検索においては,詳細検索で利用可能な各種の検索フィールドを選択可能なリストとしてドロップダウンメニューに用意し,これらをANDもしくはORで組み合わせることによって,詳細検索と完全に同じとまではいかないものの,簡易検索に比べてはるかに幅広い検索をすることができる。
図6は発明の名称に「幹細胞」を含み,かつ,明細書の中に「再生」という語を含む特許文献を検索する例である。
検索語を入れるボックスには,1つのキーワードのみならず,「幹細胞 OR 再生」といった検索式を入力することも可能である。なお,演算子を指定せず複数のキーワードを単純にスペースで区切って入力するとAND検索が実行される。
1つのボックスには全角で100文字まで入力が可能であるので(2013年8月時点),詳細検索で紹介したような「(((“音”OR“音響”OR“ノイズ”OR“声”)NEAR4(“遮断”OR“防止”OR“障壁”OR“耐性”))OR(“防音”OR“無音”))」といった検索式を1つのボックスに入力することも可能である。
PATENTSCOPEで検索式を入力し,検索ボタンを押して検索を実行すると,次のように検索結果が示される(図7)。
検索の結果ヒットした文献が,国・発明の名称・出願番号・出願人等の書誌的事項と要約をセットにして示される。デフォルトでは「関連性」の高いものから順に示しているが,「並べ替え」のプルダウンメニューから選ぶことにより,公開日・公知日について新しい順もしくは古い順に並べ替えることができる。
5.2 文献のスクリーニング文献番号をクリックすることにより各文献にアクセスすることができる(図8)。
上部のタブをクリックすることにより当該文献の各種情報(「PCT書誌情報」,「明細書」全文,「請求の範囲」等)にアクセスすることができる。「書類」からはPCT国際調査報告,見解書やその他の手続きのためにやり取りされた書類で公開されたものを参照することができる。
「明細書」や「特許請求の範囲」からは,明細書全文などにアクセスできるが,これらにおいてはGoogle,Microsoftの翻訳ツール(図8の「Machine translation」とある部分)を用いて,表示された内容を日本語を含む各国言語に機械翻訳することができる。これらの翻訳は法的手続きの根拠とできる位置づけではないが,どのような内容が開示されているのかを把握するという観点からは有用であると考えている。したがって,この機械翻訳で粗くふるいにかけて,その上で必要なものにはより精度の高い翻訳をするといった形で絞り込みをすることができる。
「明細書」タブから明細書の全文テキストにアクセスできるが,文献によっては,テキスト情報がOCR処理によって作製されているものがある。この場合も,法的な用途にはテキスト化のベースになっているPDF版(「書類」タブからアクセス可能)を利用することが求められるので留意が必要である。
5.3 国内移行情報PCT出願に関しては,国際出願した後,どの国に国内移行したのかという情報を,競合他社の動向を探る意味からも知りたい,という要望はあると思われる。「国内段階」のタブをクリックすることにより,どの国に移行したのか,その後各国での審査がどうなったのかについての情報を得ることができる。ただし,国内段階情報は各国知財庁から提供される情報に基づいているので,国によってはデータが提供されるまでに時間を要する場合があることに注意が必要である。どの国がいつまでの国内段階情報を提供しているのかということは,「ヘルプ」-「データ収録範囲」-「PCT国内段階移行」により確認できる。
5.4 検索結果の分析PATENTSCOPEで検索を行った場合,「検索結果の分析」の右側にある「>>」をクリックすると,検索結果を表・グラフで表示させることができる。検索結果を自分で加工して詳細に分析することも可能であるが,PATENTSCOPE上で検索結果をすぐに視覚化して表示することができるので,傾向をその場で把握したい場合には便利である。
図のように,どの国に出願されているのか,主要な国際特許分類は何か,主要な出願人・発明者・公開年別の件数が表形式で一覧できる。図9はキーワード「携帯電話」の多言語検索(CLIR)を用いて各国特許文献を検索した結果である。
この結果を円グラフ,棒グラフにして表示させることができる(図10)。
このように,例えば携帯電話分野でどの国に多く特許出願がなされているのかを視覚的に把握することができる。
棒グラフを選択すればグラフの形式を変えることができ,図11のように経年変化を把握することができる。
この例では,「携帯電話」というキーワードで検索したが,これを特定の企業の出願に絞ることにより,競合他社の出願動向を調べたりすることもできる。また,国際特許分類を検索キーとすることで特定の技術分野における動向を分析することも可能である。
PATENTSCOPEはPCTの国際公開公報のみならず世界各国の国内特許情報も収録しているが,これらの言語は国によって異なる。日本は日本語,米国は英語,EPOは英語,仏語または独語,ロシアはロシア語,といった具合である。これらの特許文献を検索するには,それぞれの言語で検索語を入力しなくては特許文献をヒットさせることはできない。1つのキーワードで検索するにしても,各国語で何度も検索するのは煩雑であり,より簡便に検索できることが望まれる。このような要請に対するWIPOの1つの回答が多言語検索である。Cross Lingual Information Retrievalの頭文字を取ってCLIR(クリア)注7)と呼んでいる。CLIRでは,1つの言語で検索語を入力することにより,検索語とその類義語が各国語(12か国語)に自動的に翻訳され,複数の言語の特許文献を一気に検索することができる。12か国語は具体的には次の言語である。中国語・オランダ語・英語・フランス語・ドイツ語・イタリア語・日本語・韓国語・ポルトガル語・ロシア語・スペイン語・スウェーデン語。したがって,これらの言語の1つ,例えば日本語で検索語を入力するだけで,この12か国語で公開されている特許文献をまとめて検索することができる。
以下に,CLIRの仕組みを紹介する。
6.1 CLIRによる検索語の入力まずは検索語の入力である。「検索言語」をプルダウンメニューから選択し(ここでは「日本語」を選択),ボックスに検索語を入力する(「太陽電池」と入力)(図12)。
次に検索式の展開の程度を選択する。スライダーを左右に動かすことにより,調整ができる。「正確性を高める」にスライダーを動かすと,入力された検索語を最も関連性の高い結果を取得するための検索式に展開する。したがって,ノイズが減ることが期待できるが,場合によってはヒットさせたい特許文献が漏れてしまう可能性がある。一方,「網羅性を高める」に動かすと,入力された検索語をより多くの結果を得るための検索式に展開する。精度が落ちノイズが増える可能性があるが,より網羅的に特許文献をヒットさせることができる。
ここで「拡張モード」を選択するが,「自動」を選択した場合は,検索をクリックすれば即座に検索結果が得られる。「拡張モード」を(手動での)「設定」とした場合,さらにいくつかの設定をすることができる。
6.2 技術分野の選択「拡張モード」が「設定」の場合,まず技術分野を選択する。PATENTSCOPEは入力された検索語から関連する技術分野のリストを自動的に表示する。ユーザーはこの自動表示されたリストに他の技術分野を加えたり,リストから不要なものを削除したりすることができる。この技術分野は,その後,検索語を類義語に展開する際に考慮される(図13)。
次に検索語を類義語に展開するのであるが,PATENTSCOPEが類義語の候補を示してくれる(図14)。ここでスライドバーを「より少なく」もしくは「より多く」の方に移動することにより,示される類義語の候補の数を調整することができる。
そして示された類義語の中から実際に検索に使いたいものにチェックマークを入れて類義語を決定する。この際,表示された類義語の上にカーソルを合わせると,当該類義語に該当する件数が示されるので,選択の際に参考にできる。その後「選択された検索用語を翻訳する」ボタンをクリックするとこれらの類義語が12か国語に翻訳される。
類義語の展開は,PCT出願の発明の名称及び要約から構成される特許コーパスをベースにした辞書を用いて行っている。この辞書は,国際特許分類(International Patent Classification: IPC)に基づいた技術分野における統計も踏まえている。
6.4 検索対象フィールドの指定12か国語に翻訳された類義語は12か国語それぞれのタブをクリックすることにより,確認することができる。各国語に明るいユーザーはそれぞれの言語で翻訳が適切かどうかを確認し,不要なものを削除したり,修正したりすることもできる。次に,検索対象とするフィールドを選択する(図15)。フィールドとしては「発明の名称」,「要約」,「発明の名称・要約」,「明細書」,「請求の範囲」,「発明の名称・要約・請求の範囲」そして「すべてのテキスト」から選択が可能である。最も網羅的に検索しようとするのであれば「すべてのテキスト」を選択すればよいし,クレーム(「請求の範囲」)に的を絞るのであれば「請求の範囲」を選択すればよい。
そして,該当する単語間の近傍度の範囲を指定する。「文」,「段落」,「ページ」,「制限なし」などを選ぶことができる。さらに語幹処理のオプションが選択可能である。このチェックボックスが選択された状態で,例えば「swim」が検索語にある場合には,「swimmer」,「swimmers」,「swimming」などの単語も含め検索される。逆にこれらを検索対象から除外して「swim」のみを検索対象としたい場合には語幹処理のチェックボックスを解除すればよい。
以上の設定をしたら,「検索」ボタンをクリックして検索結果を得る(図16)。
検索語が各国語に翻訳された検索式がシステムに入力され,検索結果が得られる。各文献をスクリーニングできるが,ヒットする文献は12か国語の文献が入り混じったものである。必要に応じてGoogle,Microsoftの自動翻訳を活用して内容を把握することができる。
PATENTSCOPEは特段のユーザー登録をしなくても無料で検索をすることができる。しかし,ユーザー登録をすることによりいくつかの追加機能が使えるようになる。ユーザー登録は無料で,電子メールアドレスとパスワードを自身で設定することにより簡単に利用できる。
ユーザー登録をすることによって,検索結果のダウンロードが可能になる。100件までの制限はあるが,公開番号・公開日・発明の名称・要約・出願人・発明者・代表図面をExcel形式で保存できる。
また,検索履歴を参照することができ,さらに検索式を登録し,後日呼び出して再利用することができる(図17)。
検索式を登録し,定期的に検索することにより,特定の企業の出願動向,技術分野の出願動向などを容易に定点観測することができる。
PATENTSCOPEでは,検索にとどまらず,翻訳機能,第三者情報提供などの機能も備わっている。紙幅の関係で今回は検索に的を絞って紹介させていただいた。各種の特許情報検索ツールが存在するが,多数の言語の特許文献を検索するための多言語検索などユニークな機能もある。「習うより慣れろ」とよく言うが,PATENTSCOPEのユーザーインターフェースは直感的に使えるようなものが多い。インフォプロの方々にもご活用いただければ幸いである。