Journal of Information Processing and Management
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Soichi TOKIZANE
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2013 Volume 56 Issue 7 Pages 480-483

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最近TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉がらみで著作権の問題がクローズアップされている。この交渉の中で(主として米国から)日本の知的財産制度を米国の制度にすりあわせるよう要求されているといわれている。その内容は多岐にわたると見られるが,福井健策弁護士によれば,著作権に関して要求されているのは,著作権保護期間の50年から70年への延長と,著作権侵害の非親告罪化,法定賠償金の導入,などが主なものである1)。秘密交渉のため交渉の詳細は明らかでないが,関税関係の交渉を有利に進めるため,著作権は譲ってしまえとの議論がささやかれているとも報道されている2)

著作権保護期間の延長については,2007年に文化庁の「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」において各方面の意見が述べられ,外部でも thinkCという団体が議論の場を提供した。延長賛成者の理由は,70年が世界標準である,創作者へのインセンティブや遺族への配慮が必要という点であった。これに対し反対意見は,延長により文化活動の停滞を招く,アーカイブなどデジタル保存活動の障害となる,延長による創作者への還元はほとんどない,などであった。活発な議論の結果,結局延長を見送ることで決着した。

今回は,TPPという秘密交渉の中で,このような利害関係者による議論もなく,関税交渉のしわ寄せの結果として,延長が押し付けられるのではないかと危惧する向きが多い。実は当の米国では,逆に,今年(2013年)3月20日,米国著作権局のマリア・パランテ局長が,著作権法の改正の検討を議会で提案している3)。そのポイントは,現在死後70年(映画は95年)とされている著作権保護期間が長すぎるので,見直そうというのである。長い保護期間は,著作権者が所在不明で権利処理のできない,いわゆる「孤児著作物」を増やすことにより,結果として多くの著作物の再利用や再創造を妨げ,新たなコンテンツ産業やネット産業の振興,あるいは文化資源のアーカイブ保存の障害となるとの論拠である。

非親告罪化とはどういうものだろうか。現行の著作権法では著作権侵害は親告罪であるので,著作権者が告訴しない限り検察が公訴を提起することはできない。しかし非親告罪化されると,著作権者の意思にかかわりなく,被疑者に対して検察が公訴を提起することが可能となる。著作権者が,この程度の侵害では事を荒立てたくないと思っても被疑者に対して懲役もしくは罰金などの刑事罰が科されることが起こりうる。こうしてこれまで大目に見られていたコミケやパロディなどの二次的創作に対しても,刑事罰が科されてしまうことになり得る。また,いわゆる「別件逮捕」の口実ともなり,大変危険だと思う。

3番目の法定賠償金についてであるが,現在,著作権侵害に対する損害賠償は実際の損害額に基づく(著作権法第114条)ので,たいした額とならない場合が多い。これに対して,法定賠償金は,損害額に関係なく一定額を賠償させるものである。これが導入されると,軽微な著作権侵害に対しても告訴が多発する可能性がある。

このように,TPPで交渉されていると思われる著作権制度の見直しについては,問題点が多い。情報関係者の方々にも関心を持っていただきたいと考えている。そのため以下の本をお薦めしたい。

『著作権とは何か-文化と創造のゆくえ』福井健策 集英社(集英社新書),2005年,714円(税込)
http://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/0294-a/index.html

『著作権の世紀-変わる「情報の独占制度」』福井健策 集英社(集英社新書),2010年,756円(税込)
http://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/0527-a/index.html

『「ネットの自由」vs. 著作権-TPPは、終わりの始まりなのか』福井健策 光文社(光文社新書),2012年,777円(税込)
http://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334037079

福井氏は,前述のthinkC,そしてこれを引き継いだthinkTPPIPで中心となって発言を行っている弁護士である。著作権にかかわる問題が起きるたびに,新聞などで福井氏のコメントを目にすることも多い。この著作権三部作においては,まず『著作権とは何か』で著作権の基本について述べるとともに,芸術・文化において,「模倣」と「盗作」や「パロディ」の関係を実例をあげて解説している。さらには法の範囲内で,どのように既存の著作物を「利用」できるかについても述べている。

次に『著作権の世紀』では著作権にかかわるさまざまな事件を解説するとともに,著作権保護期間の問題,アーカイブと著作権の関係など,情報担当者に関係の深い問題をとりあげている。

3冊目の『「ネットの自由」vs. 著作権』では,福井氏はまさに現在進行中のTPPと著作権について議論している。この問題を理解するには最適の案内書ということができる。なお序章では,2012年に欧米を中心として盛り上がった「オンライン海賊行為防止法(SOAP)」,および「偽造品取引防止協定(ACTA)」反対運動についても解説している。

『デジタル時代の著作権』野口祐子 筑摩書房(ちくま新書),2010年,903円(税込)
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480065735/

野口氏は,クリエイティブ・コモンズ・ジャパンの常任理事としての発言・講演などで有名な弁護士である。野口氏は,ベルヌ条約に始まる現代の著作権制度が,デジタル社会となって矛盾を抱えてきた経緯について説明し,クリエイティブ・コモンズが文化の発展のために何を解決しようとしているのかについて解説している。

『日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか』山田奨治 人文書院,2011年,2,520円(税込)
http://www.jimbunshoin.co.jp/book/b89117.html

山田氏は,最近の著作権法がらみの動きを分析し,特にいわゆる「海賊行為」について議論している。映画の盗撮の犯罪化,ダウンロードの違法化などが本当に必要なのかどうかについて,実証的な議論をおこなっている。また文化庁著作権分科会の議事録の分析は興味深い。

以上5冊の本を紹介させていただいた。著作権はついつい難しいものとして,自分に直接かかわること以外には関心を持たない向きもあるかと思う。しかし海賊版ダウンロードの刑罰化に見られるように,皆さんの家庭内の行為が,場合によっては刑事罰の対象となる時代になっている。少しの時間を割いてこれらの本を開くことをお薦めしたい。

執筆者略歴

時実 象一(ときざね そういち)

大学では化学を専攻したので,もともとCASなどの学術データベースや,電子ジャーナルを得意にしている。学術雑誌の電子化の調査は2005年から継続しておこなっている。2005年に大学に移ってから,電子書籍もいろいろ調べており,海外の公共図書館の電子書籍については詳しい。最近では田原市図書館と協力して地域紹介の電子書籍を作ったり,愛知大学キャンパス紹介の電子書籍を手がけたりしている。またインターネット・アーカイブなどデジタル・アーカイブ活動についても興味を持っている。

参考文献
 
© 2013 Japan Science and Technology Agency
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