Journal of Information Processing and Management
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Meeting
2nd Altmetrics Conference
Keita BANDO
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2016 Volume 58 Issue 11 Pages 858-861

Details

  • 日程   2015年10月7日(水)~8日(木)
  • 場所   Amsterdam Science Park(アムステルダム,オランダ)
  • 主催   Wellcome Trust,Altmetric,Springer Nature,Crossref,eLife,Elsevier
  • 後援   frontiers,Amsterdam Science Park,ARMA,Nature Publishing Group,Plum Analytics,Public Library of Science, Netherlands Organisation for Scientific Research

1. はじめに

Altmetricsとは,論文やデータセットなどさまざまな研究成果物の影響を,ソーシャルメディアの反応を中心に定量的に測定する手法と,その手法を用いて新しい研究の影響度を測定する活動を指し1),2010年に「altmetrics: a manifesto」2)(以下,altmetrics manifesto)として創案された。altmetrics manifestoが発表されて5年が経過した現在,欧米を中心にaltmetricsに関する研究・開発が積極的に進んでおり,研究機関や学術出版社ではaltmetricsを取り入れたサービスが展開されている。

筆者は,Altmetrics Conferenceが公募したTravel grants(カンファレンスへの渡航費を助成する制度)に応募した結果,これまでのaltmetrics普及活動など3)が認められ,この助成を受けたことで本カンファレンスに参加する機会を得た。

本稿では,筆者が関心をもったテーマに絞り,本カンファレンスについて報告する。

2. カンファレンス概要

前年に英国ロンドンで初めて開催されたAltmetrics Conferenceに続き今回が2度目の開催で,Wellcome Trust,Altmetric,Springer Nature,Crossref,eLife,Elsevierといった研究助成財団,学術出版社などがカンファレンス運営組織となり,欧米,アジアなど世界各国・地域から,altmetricsにかかわる研究者,図書館員など約170名が参加した(12)。

図1 Altmetrics Conferenceの会場,Amsterdam Science Park
図2 参加者約170名が集まったAltmetrics Conference会場内の様子

3. 注目の3セッション「標準化」「図書館の役割」「これまでの5年,これからの5年」

本カンファレンスでは,「Standards in altmetrics」「Altmetrics in the library」「Altmetrics and open science」「Altmetrics & Research Evaluation」「Beyond the article: tracking other research outputs」など,多様なトピックに関してセッションが開かれた。中でも筆者の印象に強く残った3セッションを紹介する。

(1) 「Standards in altmetrics」セッション

altmetricsの標準化について4つの発表があった。中でも注目したのが,NISO(National Information Standards Organization:米国情報標準化機構)が進めている「NISO Alternative Assessment Metrics Project」(altmetricsに関する標準・推奨実践を定めることを目的とする研究開発プロジェクト)の進捗報告である。Alfred P. Sloan Foundation(アルフレッド・P・スローン財団)の助成を受けて2013年7月に立ち上がった本プロジェクトは,フェーズ1の活動成果として2014年6月にホワイトペーパーをまとめ,現在はフェーズ2として,5つのワーキンググループが報告書をまとめる最終段階にあるという。発表者のMartin Fenner氏(DataCite)によると,それらは2016年2月に公開され,プロジェクトは2016年春に終了する予定で,次回のAltmetrics Conferenceではプロジェクトの成果が議論の中心になるのでは,と締めくくり,期待を膨らませてくれた。

(2) 「Altmetrics in the library」セッション

Wouter Gerritsma氏(オランダ・アムステルダム自由大学)による講演「Altmetric opportunities for libraries」が印象的だった。セッションの冒頭で,別の講演者であるStacy Konkiel氏(Altmetric)より「会場には図書館員がどれだけいるか」と問い掛けがあり,約半数の挙手が確認された。Gerritsma氏は会場内の図書館員に対して「ディスカバリーサービスPrimoや,DSpace(世界の機関リポジトリシステムとして圧倒的なシェアをもつ)など,altmetricsを実装する図書館サービスが増えてきており,図書館員にとってaltmetricsは身近な存在である」と主張。「最初にやるべき図書館員の役割は,(機関内における)アウトリーチ活動ではないか」と自身の経験を踏まえて呼び掛けた。また,「altmetricsは,記事単位(Article Level)だけでなく,研究者・部門・機関単位(University Level)でとらえることも可能」としたうえで,「それを実現するためにはDOIやORCIDが重要である」という認識が示された。

(3) Altmetrics Manifesto: Five years on

カンファレンス最終セッションは,altmetrics manifesto創案者4人が初めて一堂に会し,過去5年間を振り返る「Altmetrics Manifesto: Five years on」であった(3)。2010年にaltmetrics manifestoを公開する前から現在に至るこれまで,1度も全員が同じ時に同じ空間に会したことがないというから驚きである。セッションは,そんな彼らがaltmetrics manifestoをまとめる経緯を振り返り,当時のメールをスライドで紹介するなど和やかな雰囲気で進行した。

「5年間でどこまで来たか」の振り返りに対しては,「研究評価としてインパクト・ファクターをうたっていた主要な学術出版社が,今やaltmetricsの重要性を理解し,サービスに導入するに至っている」(Cameron Neylon氏,カーティン大学(オーストラリア)),「altmetricsは当初,既存の研究評価指数を代替・補完するものととらえられていたが,研究プロセスを改善するためのものとして利用目的が変わってきた」(Paul Groth氏,Elsevier Labs)などが挙げられた。ImpactStoryなどaltmetricsアプリケーション開発に助成金が与えられ,AltmetricやPlum Analyticsなど幾つかのスタートアップ企業が立ち上がり,大手企業がaltmetrics製品を擁するようになった。また,altmetricsに関する研究も数多く発表された。これらは,小さいながらも活気あるaltmetricsコミュニティーがやり遂げたことである,と創案者たちから会場に向けての賛辞が発せられ,カンファレンスの盛り上がりは最高潮となった。

最後に,次の5年に向けて何が必要かというディスカッションでは,「透明性」「標準化」といったキーワードを軸に議論が進み,altmetricsをより発展させていくうえで「より多くのさまざまなデータが必要である」「研究評価という枠組みを超えた概念を形成していくべき」「altmetricsは研究評価指数というより,フィルタリングやレコメンドといった機能に価値が見いだされるのではないか」などの意見が挙げられた。

本カンファレンスではこれらのセッションに加え,キーノート,パネルディスカッション,ポスター発表,ワークショップなどが開かれたほか,カンファレンス前日にはhack dayが開催され,altmetricsをめぐる最新の成果を知るのに有益な機会であった。ほとんどの講演の様子は録画され,カンファレンスのWebサイト注1)で公開されているので参考にされたい。

図3 altmetrics manifesto創案者4人が過去5年間を振り返るセッション

4. ポスター発表

Travel grantsの応募結果が発表されたのはカンファレンス1か月前。慌ただしくポスター発表を申し込み,研究者識別子ORCIDのページ上にaltmetrics~Altmetric scoreを表示させるブックマークレット「Altmetric for ORCID」4)について発表した(4)。ポスター発表を通じてカンファレンス参加者と交流することができ,発表内容に対して多数のフィードバックをいただけたのは貴重な機会であった。この場をお借りして運営組織に感謝を申しあげたい。

図4 筆者が発表したポスターには,参加者のメッセージが多数書き込まれた

5. おわりに

altmetricsは,まだ普及の途にある。しかし今回のAltmetrics Conferenceで,欧米を中心に世界中の研究者,研究機関,助成財団,学術出版社などが,試行錯誤を重ねつつaltmetricsの概念をさまざまな立場・視点で導入・分析・評価し,オープンアクセス時代に適した研究評価指数を信じ,普及させようという想いが強く伝わった。

altmetricsは,TwitterやMendeleyなどからのシグナルを可視化したものであり,引用よりもはるかに広い視点で学術情報の社会的な影響度を示してくれるものである。こうした指標から新たな知見・知識が創り出され,研究にかかわる人々をつなぎ,全体として科学そのものを推進する潜在的な力を感じた,大変実りあるカンファレンスであった。誕生していまだ5年のaltmetricsが,次の5年間でどのように学術コミュニティーに受け入れられるのか,今後の展開が楽しみである。

(Coordinator for the Online Platform for Scientific Communication 坂東慶太 http://orcid.org/0000-0003-0485-8891

本文の注
注1)  2nd Altmetrics Conference: Amsterdam:http://www.altmetricsconference.com/

参考文献
 
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