岡山医学会雑誌
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ヒトの翼口蓋神経節と神経節内の有髄神経束網およびその枝について
藤本 泰道
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1981 年 93 巻 7-8 号 p. 755-834

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抄録

ヒトの翼口蓋神経節とその枝および神経節内の有髄神経束網の構造を,岐阜歯科大学解剖学第一講座所蔵の日本人成人頭部標本32例64側について,微解剖,血管注入法(レジン,朱,墨汁),顕微再構築法によって追求した.そのほかに骨部との関係をインド人頭蓋骨17例34側について調べた.その所見と考察は次のように要約される.
1) 翼口蓋神経節は,翼口蓋窩の後上部で翼突管前口(翼口蓋神経節小窩)の直前に密接して位置する.局所解剖学的指標をいくつか述べた.
2) 翼口蓋窩には.その後壁に内側稜と外側稜とがあり,翼突管前口をはさんで上下に縦走する.
3) 翼口蓋窩付近の靱帯には,翼口蓋靱帯(仮称),前翼突靱帯,ヒルトル靱帯,チビニーニ靱帯があり,第1鰓弓を誘導したメッケル軟骨の遺残であると考えられる.翼口蓋靱帯は翼口蓋窩の上内側部にあり,神経節の内側下部を横切っている. vomerovaginal canalとpalato-vaginal canalとにかけて起り,前上方へ走り上顎結節最上部後面(=下眼窩裂最内側部)につくもので,翼口蓋神経節の補強となると考えられる.
4) 神経節の枝を,立体的模型図で示した.外側への枝がほとんどないことが注目される.
5) 翼口蓋神経は,上顎神経の内側下縁から1~5本(通常3本)で出て,内側下方へ走りすぐに神経節に入る.神経節の前方を通過して直接口蓋神経に移行することがある.眼窩枝を出したり,これと吻合する場合がある.
6) 大錐体神経は,膝神経節から出て大錐体神経溝上を走り破裂孔に至る.そこで耳管上前枝が出て破裂孔前面を下行し,耳管軟骨中央部から内側1/3にかけて分布する.
7) 深錐体神経は,内頸動脈神経叢の外側枝lateral branchから起り, 1.25~5.32 mmの長さで非常に短い.
8) 翼突管神経は,大錐体・深錐体神経が破裂孔軟骨内で内頸動脈の外側で合してできる.同名動脈を伴い蝶形骨洞の直下を走り骨枝,洞粘膜枝,咽頭枝(後述)を出す.耳管上前枝が出て前述のものと吻合する.耳管上後枝が出て後走し破裂孔に入り,頸動脈管内口の上外側縁から骨中に入り耳管軟骨中央部に分布するが,これはN. sphenoidalis internusの未発達のものと考えられる.
9) 蝶形骨洞は,その下外側部には上顎神経,下壁中央部には翼突管神経による隆起があり,両神経からの洞粘膜枝が分布する.
10) 眼窩枝は,神経節の上部の発達した円錐起始部から6~17本(平均9.3本)で束状をなして起り,前束と後束とに分かれる.ともに上顎神経の内側を上行し,眼窩内と眼窩後部に至る.翼口蓋窩内で神経節の多くの枝に吻合する.
前束は,分布域が主に壁である.下眼窩裂下縁に向って前上方へ走り翼口蓋窩の上・前部の骨膜,翼口蓋靱帯の前部,下眼窩裂を閉じる結合組織や眼窩筋やその付近の眼窩骨膜に分布する.一枝は後篩骨孔を通って後篩骨洞に分布する.
後束は,眼窩後部へ行くもので分布域はおもに神経である.上後方へ走り総腱輪へ向い下眼静脈と交叉し眼窩後神経叢をつくる.そして総腱輪下部で外転神経や眼神経と吻合し,下直筋と視神経鞘に分布する.
11) 口蓋神経は,神経節下端から起り下行して大・小両口蓋神経に分岐する.咽頭枝や後上歯槽枝との吻合枝,外側下後鼻枝(後述)を出す.
12) 後鼻神経は,神経節の内側面下部から2~6本で起り,内側上後鼻枝(ms),外側上後鼻枝(ls),外側下後鼻枝(li)に分かれる.蝶口蓋孔に対しmsはその上縁を, lsは前上縁を, liは後下縁を通る. lsは上鼻甲介枝に, liは中・下鼻甲介枝になる.大口蓋神経からのliは大口蓋管の後外側壁の孔から鼻腔へ出て神経節からのliの補助となる.
13) 鼻口蓋神経は,神経節の内側面中央部から起り翼口蓋靱帯の上を越え蝶口蓋孔の後上縁に接して鼻腔に入る.同名動脈を伴い後鼻孔上縁(=蝶形骨体下面)をつたって鼻中隔に達し,鼻中隔を前下方に走り切歯管に入る.まれに(1.7%)鼻中隔のほぼ全長にわたるワナ形成がみられる.本神経と後鼻神経がとる垂れ下がった経過について発生学考察を加えた.
14) 蝶口蓋孔と上顎骨胞Bulla maxillaris前者は前後の孔内突起により8の字形をしており, 12, 13) 以外に鼻口蓋動・静脈が上縁を,外側後鼻動・静脈が下縁を通る.後者は上顎洞内面の最後部の部分的突出で,顎動脈翼口蓋窩部の彎曲部の突出によることがある.
15) 咽頭枝は,神経節の内側面下部または翼突管神経から起り咽頭に分布する神経で,翼口蓋靱帯中に入りpalatovaginal branch (pv枝)とvomerovaginal branch (vv枝)とに分岐する. pv枝とvv枝が神経節から独立起始する型と共通幹(=咽頭枝)をなす型とがある.
pv枝は,内側枝と外側枝とに分かれ,間に同名動脈をはさんで同名管内を後走し,咽頭に出て咽頭円蓋枝と耳管咽頭口枝とになる.
vv枝は,内側枝と外側枝とに分かれ,間に同名動脈をはさんで同名管内を後走する.外側枝は内側枝と吻合しおわる.内側枝はvv管下壁をつらぬきliと吻合し,またはまれに耳管咽頭口枝をなす.

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