日本オペレーションズ・リサーチ学会論文誌
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容量制約のある離散-連続系における最大流問題とその数値解法
田口 東
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1978 年 21 巻 2 号 p. 245-273

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抄録
連続的な流れの場を対象として、回路網の点や枝の容量、流れのコストといった特性と類似の概念を定義し、その流れの性質を論ずることは従来より行なわれている。このような問題は非線形で異方性のある流れ場の問題となり、他の分野では塑性論において類似の問題が見られる。本論文ではこのような連続体と回路網の2つの部分系からなる系の最大流問題を定式化し、数値解法を導く。そして計算例によって、枝が密に分布した回路網を近似するモデルとして有効であることを示す。考える複合系は次のような構成である。回路網は普通の最大流問題で用いられるものを考え、連続体では各点において通過し得る流れの集合(容量)が与えられており、容量は0を含む凸集合であるとする。回路網と連続体との流れのやりとりは、前者のいくつかの特定の点と対応する後者の小領域の間の流量収支が0となるようにする。このような複合系において、連続体の境界上および回路網の点で流入口と流出口が与えられると、最大流問題は流入量を目的関数とし流れの連続性の条件と容量条件を制約条件とする変分問題に定式化される。また、この問題に対してポテンシャルを変数とする双対問題を導くことができる。数値解法を導くために双対問題の連続体の部分に有限要素近似を用いて離散化を行う。領域を三角形の要素に分割し、各要素内で、流れベクトルは一定値となる関数、ポテンシャルは一次式で要素の境界で連続である関数を近似関数とする。容量は要素内で一様であると仮定する。これらの仮定をもとの問題に適用すると有限個の変数の凸計画問題が得られる。与えられた回路網を近似する場合は、要素境界を横切る回路網の枝の方向と容量を用いて要素内の容量を決定する。東京23区内の道路網をモデルとした枚数約850本の回路網における最大流問題を例題として、回路網流れの解と本論文のモデルの形との比較を行った。その結果、最大流量の差は約10%で、流れのネックとなる領域は良く一致しており、本モデルがもとの回路網の特性を良く表現していることが確かめられた。回路網モデルに対して本論文のモデルが特に有効になるのは細く密に分布した枝を非常に多く含む回路網を扱う場合である。すなわち前者では計算に必要な記憶容量、計算時間が少くとも点や枝の数に比例して増加するのに対して、後者では同一の分割を用いれば要素の容量の計算以外に必要な計算の手間は増加せず、しかも回路網が連続体近似の仮定により良く適合することから解の精度の向上が期待できる。また、モデル幸構成する手間の面では、本モデルでは容量の計算に要素境界を横切る枝の情報のみが必要であり、回路網モデルを構成するよりはるかに少ない手間ですむと言える。
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© 1978 日本オペレーションズ・リサーチ学会
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