日本オペレーションズ・リサーチ学会論文誌
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複占企業間の情報交換
Akira Okada
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1982 年 25 巻 1 号 p. 58-76

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抄録

本論文では、次のような非ゼロ和ゲームにおけるプレイヤー間のコミュニケーションの問題を考察する:競争状態にある2人のプレイヤーがそれぞれに固有の情報を所有するとき、プレイヤーは自発的に自己の情報を相手プレイヤーに伝達しようとするか。さらに、2人のプレイヤーは互いの情報の交換に合意するか。このような状況の典型的なモデルの1つとして、次のような複占市場を考える。企業1、2は同一の財を市場に供給し、それぞれの供給量をx_i(i=1、2)とするとき、財の価格pは市場需要関数P=α-b(x_1+x_2)によって定まる。また、企業iは線形な費用関数c_i(x_i)=c_ix_iをもち、その利潤関数はj_i(x_i;c_i)=(P-c_i)x_i(i≠j)となる。ここで、両企業の限界費用c_1、c_2は天候などの外的要因によって変動を受ける確率変数とし、その結合確率分布F(c_1、c_2)は両企業に既知とする。また、モデルの情報構造として、各企業iは自己の限界費用c_iの実現値を知ることができるが、ライバル企業jの限界費用c_jの実現値を知ることはできないとする。一般に、費用関数は企業の重要な特性の一つであり、直感的には、企業は自己の費用関数をライバル企業には秘密にすると予想される。しかし、互いに費用関数を秘密にした場合、各企業はライバル企業の費用関数を推定しなければならず、もしその推定が誤った場合、企業は過度に財を市場に供給してしまう危険がある。このとき、財の価格は低下し、その結果、両企業とも損害を受けることになる。かかる事態を回避するため、企業は限界費用が定まる前に、互いの費用関数に関する情報の交換について事前の交渉を行なうと考えられる。交渉の結果、(1)両企業間で情報の伝達や交換は行なわれない、(2)企業1はc_1の実現値を企業2に知らせる、(3)企業2はc_2の実現値を企業1に知らせる、(4)両企業は互いの限界費用の実現値を知らせ合う、の4つの状況(情報構造)のうちいずれかが決定される。各企業はこの決定された情報構造に基づいてライバル企業とは独立に自己の供給計画を決定し、分布Fによって定まる期待利潤を最大化する。本論文では、モデルの本質をそこなうことなくその分析を容易にするため、分布Fに関して線形回帰性を仮定することにより、次の結果を得る。企業はライバル企業に自己の限界費用の実現値を自発的に知らせることによって自己の均衡期待利潤を増加させることができ、さらに、互いの限界費用の実現値を知らせ合う場合、4つの情報構造のうちで最大の均衡期待利潤を獲得できる。これにより、最初の予想に反して、かかる複占市場では両企業は互いの費用関数に関する情報の交換に合意するという結論が導かれる。

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© 1982 日本オペレーションズ・リサーチ学会
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